知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

周知技術の引用と反論の機会2

2006-12-22 22:57:22 | 特許法29条2項
事件番号 平成17(行ケ)10395
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年12月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

『 審決は,相違点について,上記周知慣用技術を適用して本願発明の構成とすることの容易想到性を肯定する判断をしたものであるが,拒絶理由通知においては,上記周知慣用技術の内容自体はおろか,その根拠となる特許公報にも,言及すらしていないのであるから,特許法159条2項で準用する同法50条に違背する違法があり,かつ,その違法は明らかに結論に影響がある場合に当たるものというべきである。したがって,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決判断1は取消しを免れない。
 
 確かに,審決は,その判断に当たり,拒絶査定(その引用する第2回拒絶理由通知)で示されなかった新たな公知文献を引用したわけではなく,また,用いたのは周知慣用技術であるというのではあるが,本件のような事案においては,出願に係る発明と引用された発明との構成上の相違点について,特定の技術を用いる場合には,その技術が周知技術であっても,いかなる周知技術であるかについては,特段の事情がない限り,拒絶理由として通知されていなければならないものと解すべきである。なお,当該周知技術が拒絶理由で通知されていれば,その裏付けとなる刊行物等の証拠については,これを追加的に変更をしたり,別なものに交換的に変更したりするのは許容されるが,本件は,周知技術自体が拒絶理由通知に開示されていないのであるから,そのような許容される場合に該当するものではない。』

『 原告は,審決が,審決判断2に係る本願発明と刊行物3(審決判断1では周知例2)の発明との一致点について,・・・本願発明と刊行物3の発明とが一致すると認定したことについて,刊行物3の発明における「木粉等の表面に樹脂が融着して木質と樹脂とが充分に馴染んでいる」ことと,本願発明の「ゲル化混練して・・・セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ることとが同一でないのであるから,審決がした上記一致点の認定は,誤りであると主張し,被告は,これを争うとともに,実質的な相違はないとも主張する。
 ・・・刊行物3は,破砕しても分離しない程度に強固に,木粉等の表面に樹脂が付着した状態であることを「木粉等と樹脂とが馴染む」と表現していることが窺われるが,いずれにしても,付着に関する質的なもの,すなわち,付着の強弱や分離の難易を問題にしたものと理解するのが自然である。これに対し,本件発明のいう「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ることは,付着の広がり,範囲を問題にしたものである。したがって,確かに,両者の上位概念で一致することがあるとしても,他に証拠資料がないまま,両者の付着状態が同一である,あるいは,実質的に相違がないものと認定することは相当ではない。』

(感想)
 前半部分については、新しい判断かもしれない。これまでの高裁判決の流れを変更する判決ではないか。
 周知技術といっても無数にあり、どの限度で周知技術が引用されるのか、特定は難しいこともある。そのような場合は、この判示のように考えるのが妥当であると考える。

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