事件番号 平成22(行ケ)10109
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明
4 36条6項1号への適合性
以上を前提として,本願発明の36条6項1号への適合性について,検討する。
「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載とを対比し,「特許請求の範囲」に記載された本願発明が,「発明の詳細な説明」に記載・開示された技術的事項の範囲のものであるか否か,すなわち,・・・について,検討する。
・・・
(3) 「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載との対比
ア ・・・
本願明細書中には,DV2 がアミノシリコーンを含んでいるとの明示の説明はされていない。仮に,DV2 がアミノシリコーンを含まないものであると認識されるならば,実施例1における比較例は,アミノシリコーンを含む還元用組成物を用いて還元処理したもの(従来技術)でないから,「本願発明の実施例」と「従来技術に該当するもの」とを対比したことにはならず,本願発明により前処理を施したことによる効果を示したことにならない。
審決は,この点を理由として,実施例1の実験は,比較実験として適切なものでないと判断する。
しかし,審決の同判断は,妥当を欠く。すなわち,前記のとおり,本願発明の特徴は,先行技術と比較して,「・・・」を適用するという前処理工程を付加した点にある。
そして,
① 特許請求の範囲において,前処理工程を付加したとの構成が明確に記載されていること,
② 本願明細書においても,発明の詳細な説明の【0011】で,前処理工程を付加したとの構成に特徴がある点が説明されていること,
③ 本願明細書に記載された実施例1における実験は,前処理工程を付加した本願発明と前処理工程を付加しない従来技術との作用効果を示す目的で実施されたものであることが明らかであること等
を総合考慮するならば,本願明細書に接した当業者であれば,上記実施例の実験において,還元用組成物として用いられた DV2 が「アミノシリコーンを含有する還元用組成物」との明示的な記載がなくとも,当然に,「アミノシリコーンを含有する還元用組成物」の一例として DV2を用いたと認識するものというべきである。
確かに,前記3(3)記載のとおり,原告は,本願発明の還元用組成物について,アミノシリコーンを含有しない還元用組成物である旨の意見を述べている。しかし,原告が,このような意見を述べたのは,本願発明が,先行技術との関係で進歩性の要件を充足することを強調するためと推測され,手続過程でこのような意見を述べたことは,信義に悖るものというべきであるが,そのような経緯があったからといって,DV2 が「アミノシリコーンを含有しない還元用組成物」であることにはならない。なお,甲14ないし16によれば,DV2 は,アミノシリコーンを含有しているものと推認される。
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明
4 36条6項1号への適合性
以上を前提として,本願発明の36条6項1号への適合性について,検討する。
「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載とを対比し,「特許請求の範囲」に記載された本願発明が,「発明の詳細な説明」に記載・開示された技術的事項の範囲のものであるか否か,すなわち,・・・について,検討する。
・・・
(3) 「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載との対比
ア ・・・
本願明細書中には,DV2 がアミノシリコーンを含んでいるとの明示の説明はされていない。仮に,DV2 がアミノシリコーンを含まないものであると認識されるならば,実施例1における比較例は,アミノシリコーンを含む還元用組成物を用いて還元処理したもの(従来技術)でないから,「本願発明の実施例」と「従来技術に該当するもの」とを対比したことにはならず,本願発明により前処理を施したことによる効果を示したことにならない。
審決は,この点を理由として,実施例1の実験は,比較実験として適切なものでないと判断する。
しかし,審決の同判断は,妥当を欠く。すなわち,前記のとおり,本願発明の特徴は,先行技術と比較して,「・・・」を適用するという前処理工程を付加した点にある。
そして,
① 特許請求の範囲において,前処理工程を付加したとの構成が明確に記載されていること,
② 本願明細書においても,発明の詳細な説明の【0011】で,前処理工程を付加したとの構成に特徴がある点が説明されていること,
③ 本願明細書に記載された実施例1における実験は,前処理工程を付加した本願発明と前処理工程を付加しない従来技術との作用効果を示す目的で実施されたものであることが明らかであること等
を総合考慮するならば,本願明細書に接した当業者であれば,上記実施例の実験において,還元用組成物として用いられた DV2 が「アミノシリコーンを含有する還元用組成物」との明示的な記載がなくとも,当然に,「アミノシリコーンを含有する還元用組成物」の一例として DV2を用いたと認識するものというべきである。
確かに,前記3(3)記載のとおり,原告は,本願発明の還元用組成物について,アミノシリコーンを含有しない還元用組成物である旨の意見を述べている。しかし,原告が,このような意見を述べたのは,本願発明が,先行技術との関係で進歩性の要件を充足することを強調するためと推測され,手続過程でこのような意見を述べたことは,信義に悖るものというべきであるが,そのような経緯があったからといって,DV2 が「アミノシリコーンを含有しない還元用組成物」であることにはならない。なお,甲14ないし16によれば,DV2 は,アミノシリコーンを含有しているものと推認される。