知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

複数の訂正事項の不可分処理の根拠と射程

2008-06-01 12:21:56 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10163
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年05月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『エ ところで,原告のなした本件特許の訂正の申立ては,訂正の拒否が異議事由の有無と一体として審理される特許異議申立ての手続中の訂正請求(平成15年法律第47号による改正前の特許法120条の4第2項)ではなく,特許法126条に基づく訂正審判請求である。

 そして上記訂正審判請求は,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正をすることについて訂正審判を請求することができる」(126条1項本文)・「訂正審判を請求するときは,請求書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面を添付しなければならない」(131条3項)・「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨の審決が確定したときは,その訂正後における明細書,特許請求の範囲又は図面により特許出願,出願公開,特許をすべき旨の査定又は審決及び特許権の設定登録がされたものとみなす」(128条)等とされていることから明らかなとおり,特許出願に準じた法的性質を有するうえ,特許法には請求項ごとに訂正の可否を決すべき旨の規定もないから,訂正審判において一部の訂正を許す審決をすることの可否を論じた最高裁昭和55年5月1日第一小法廷判決(民集34巻3号431頁。前述した昭和55年最高裁判決)は,いわゆる改善多項制を導入した昭和62年の特許法改正後においてもそのまま妥当すると解される

 したがって,本件訂正審判請求のように,原明細書等の記載を複数個所にわたって訂正するものであるときは,原則として,これを一体不可分の一個の訂正事項として訂正審判の請求をしているものと解すべきであり,これを請求人において複数箇所の訂正を各訂正箇所ごとの独立した複数の訂正事項として訂正審判の請求をしているものと解するのは妥当でない

 上記のような不可分処理は客観的・画一的審理判断をむねとする特許庁における訂正審判制度の要請から導かれる結論であるから,客観的・画一的処理の要請に反しない場合,例えば上記昭和55年最高裁判決も明言するように,①訂正が誤記の訂正のような形式的なものであるとき,②請求人において複数の訂正箇所のうちの一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したときは,それぞれ可分的内容の訂正審判請求があるとして審理判断をする必要があると解される

オ そこで,以上の見地に立って本件事案について検討する。

・・・

(3) 上記(1)及び(2)によれば,原告からなされた平成18年9月13日付けの本件訂正審判請求(甲4)は,旧請求項1~7を新請求項1~7等に訂正しようとしたものであるところ,その後原告から平成19年1月15日付けでなされた上記訂正審判請求書の補正(甲7)の内容は新請求項3・5・7を削除しようとするものであり,同じく原告の平成19年1月15日付け意見書(甲6)にも新請求項1・2・4・6の訂正は認容し新請求項3・5・7の訂正は棄却するとの判断を示すべきであるとの記載もあることから,審判請求書の補正として適法かどうかはともかく,原告は,残部である新請求項1・2・4・6についての訂正を求める趣旨を特に明示したときに該当すると認めるのが相当である。
 本件における上記のような扱いは,原告が削除を求めた新請求項3・5・7は,その他の請求項とは異なる実施例(「本発明の異なる形態」,「実施例2」)に基づく一群の発明であり,発明の詳細な説明も他の請求項に関する記載とは截然と区別されており,仮に原告が上記手続補正書で削除を求めた部分を削除したとしても,残余の部分は訂正後の請求項1・2・4・6とその説明,実施例の記載として欠けるところがないことからも裏付けられる
というべきである。

 そうすると,本件訂正に関しては,請求人(原告)が先願との関係でこれを除く意思を明示しかつ発明の内容として一体として把握でき判断することが可能な新請求項3・5・7に関する訂正事項と,新請求項1・2・4・6に係わるものとでは,少なくともこれを分けて判断すべきであったものであり,これをせず,原告が削除しようとした新請求項3・5・7についてだけ独立特許要件の有無を判断して,新請求項1・2・4・6について何らの判断を示さなかった審決の手続は誤りで,その誤りは審決の結論に影響を及ぼす違法なものというほかない。』

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