知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

技術分野と技術的課題の共通性

2013-02-09 09:37:30 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10174
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子,田邉実

 審決は,・・・,相違点3,4は更に甲第3ないし第5,・・・に記載の発明ないし技術的事項を適用しても,当業者が容易に解消することができず,結局,本件発明は当業者において容易に発明することができるものではないと判断した。
・・・
 そして,甲第4,第5号証は,コンピュータで画像(ファイル)を作成するグラフィックソフトウェアに関する文献であるから,水中で光源から光を照射して集魚する発明である甲1発明とは技術分野が異なる上,光源を避けて魚群がドーナツ状に遠巻きに集まるため,漁獲効率が悪かったという従来の集魚灯の欠点を回避すべく,魚をより多く,より長時間集合させて,漁獲効率の向上を図るという甲第1号証の技術的課題(甲1の1頁右下欄~2頁右上欄)は,甲第4,第5号証には記載も示唆もなく,技術的課題に共通性がない
・・・
 なお,本件優先日当時,甲第4,第5号証に記載されているような,・・・機構を用意することが,集魚灯,水中灯を含む照明器具の技術分野のみならず,色の調整,選択を行う各種の技術分野においてごくありふれたものであったとまで認めるに足りる証拠はないから,甲第4,第5号証に代表されるような当業者の技術常識,慣用技術を適用すれば,本件優先日当時,当業者において相違点3の解消が容易であったともいうことができない

 結局,甲1発明に甲第4,第5号証に記載の発明ないし技術的事項を適用することにより,当業者が本件発明にいう「発光波長ボリューム部の設定位置に対応する発光状態を直感的に図示する波長スケール部」の構成に想到することは容易でなく,したがって相違点3の解消が当業者に容易であるとはいえない。

引用例が動機づけを包含するとした事例

2012-12-28 22:58:38 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10413
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子,田邉実
特許法29条2項

 すなわち,有価証券情報の印字部外周に施された抜き型による加工はプリペイドカードを抜き取り可能とするためのものであるところ,これは,プリペイドカードが単に有価証券情報をカード購入者に通知するのみならず,利用者による携帯を予定しているため,有価証券情報が記載されているとともに有価証券情報を隠蔽してもいる折畳み対向紙片から分離させる必要があるために設けられたものと解される。
 すなわち,購入者に交付されるシートからプリペイドカードを分離して使用できるようにすることも,請求項1~8にその構成が包含されているのみならず,考案の詳細な説明の段落・・・にその構成が独立して説明されている事項であり,甲1発明において技術的課題の一つとされていたというべきである。
 そうすると,甲1発明は,折畳み対向紙片の内側面に印字された部分が有価証券情報のように隠蔽される必要のないものであっても,折畳み対向紙片の内側面の一部分を独立して抜き取る(折畳み対向紙片から分離させる)必要性があれば,プリペイドカードに代えてかかる分離させる必要があるものを採用するについての動機付けを包含するものというべきである。

 かかる見地から見るに,広告の一部に返信用葉書を切取り可能に設けることは,本件出願前に既に周知の技術であったと認められる(・・・)。そして,広告の一部に返信用葉書を設ける場合,返信のために葉書部分を分離させる必要があることは明らかである。したがって,消費者等が受領したシートや紙面から分離して使用するものとして,甲1発明の「プリぺイドカード」に代えて「葉書」を採用することは当業者にとって容易想到であるというべきである。
・・・
(5) なお,審決は,「プリペイドカード」を筆記性が要求され,さらに大きさや厚さの基準が定められている「葉書」に代える動機が甲1発明には見出せないとした。しかし,筆記性や大きさや厚さといった基準の差異については,「分離して使用されるもの」の単なる物品特性上の相違にすぎない。また,甲1発明が,プリペイドカード付きシートが購入者によって受領された後はプリペイドカードを分離させることに意義があり,そこに技術的課題を見出したことからしても,「葉書」に筆記性が要求され,大きさや,厚さといった基準があるからといって,「プリペイドカード」を「葉書」に代える動機がないということはできないというべきである。

<関連事件>
事件番号  平成24(行ケ)10414
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所  

複数の文献から周知技術を認定した事例

2012-12-25 23:13:52 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10038
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月11日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香,知野明
特許法29条2項 周知技術の認定事例

(イ) 上記記載によれば,甲第21号証には,自動倉庫の分野で幅が異なる棚領域を設けることが記載されていると認められる。
・・・
(イ) 上記記載によれば,甲第22号証には,自動倉庫の分野で幅が異なる棚領域を設けることが記載されていると認められる。
・・・
(イ) 上記記載によれば,甲第28号証には,自動倉庫の分野で幅及び高さがそれぞれ異なる棚領域を設けることが記載されていると認められる。
・・・
(イ) 上記記載によれば,甲第29号証には,自動倉庫の分野で幅が異なる棚領域を設けることが記載されていると認められる。

カ 甲第21号証等に記載されている周知技術の内容
 上記イないしオによれば,甲第21号証,同第22号証,同第28号証及び同第29号証には,自動倉庫の分野で幅が異なる棚領域を設けること,又は,自動倉庫の分野で幅及び高さがそれぞれ異なる棚領域を設けることが記載されており,これらのことが従来周知の技術的事項であるといえる。
 また,甲第22号証及び同第29号証に記載されているように,自動倉庫に格納される収容物がコンテナ又は容器に収納した状態で格納されることは,周知の事項であり,例えば甲第29号証に記載されているように,収容物の寸法に応じて大きさの異なる容器を使い分けることも,従来から一般的に行われていることである。

 以上によれば,甲第21号証,同第22号証,同第28号証及び同第29号証の記載から,次の事項が周知技術であることが認められる。
「収容物の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する倉庫とそれぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の収容物を収容する複数のコンテナを備えた自動倉庫。」

引用発明への組み合わせの検討事例-組み合わせ可否、動機づけ

2012-12-25 22:49:16 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10443
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月11日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳,武宮英子
特許法29条2項 引用発明への組み合わせ、動機づけ

 ところで,甲2の解決課題は,電線が挿通される電線挿通孔dと,テーパー面e及び嵌合壁bの間のシール部位とが,径方向の内外において対向していることから生じるものであって,両者が径方向に対向していない場合には,・・・,同様の問題が生じないものである。そうすると,甲2から,「A」が周知の事項と認められるとしても,・・・,両者が径方向に対向していない構造においては当てはまらないものである。

エ そこで,引用発明におけるパッキン及び電線の密着部位とパッキン及びハウジングの密着部位についてみると,審決が引用発明認定の根拠とした甲1の実施例の構造(甲1の図面参照)では,両者が径方向において対向しておらず,軸方向にずれていることが分かる。したがって,引用発明においては,電線の挿通による防水栓本体の外径変化の影響がシール部位に及ばない構造となっており,審決が認定した「A」との周知の事項が当てはまらないものである。

 また,引用発明において,第2のシール部の配設位置を後側に変更すると,・・・。そうすると,・・・,径方向の歪み(変形)の伝達を抑制するという点で,実質的に甲2と同様の構成を備えることとなる。この場合,第1のシール部の外径に変化が生じても,環状のコネクタハウジングによってその変形が第2のシール部には伝達されず,リブ部の防水シール効果の低下が生じないことは明らかである。すなわち,仮想構成1を採用した段階で,甲2の解決手段のみならず,甲2の作用効果も同時に達成されることになる。そうすると,更にそこから仮想構成2のように変更すること,すなわち,リブ部の突出方向を前方から後方に敢えて変更することについては,もはや動機づけが存在しないというべきである。

動機付けを認めた事例

2012-12-22 18:13:57 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10445
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月05日
裁判所名 的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 井上泰人,荒井章光
特許法29条2項

(オ) 以上によると,本件優先日当時,一般に,医薬化合物については,安定性,純度,扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから,非結晶性の物質を結晶化することについては強い動機付けがあり,結晶化条件を検討したり,結晶多形を調べることは,当業者がごく普通に行うことであるものと認められる。そして,前記(1)のとおり,引用例には,アトルバスタチンを結晶化したことが記載されているから,引用例に開示されたアトルバスタチンの結晶について,当業者が結晶化条件を検討したり,得られた結晶について分析することには,十分な動機付けを認めることができる

 この点について,被告は,結晶を取得しようとする一般的な意味での動機付けは,具体的な結晶多形に係る発明に想到するための動機付けとは異なるのであって,およそ医薬において結晶の使用が好ましいことに基づいて動機付けを判断すると,結晶多形に係る特許は成立する余地はないと主張する

 しかしながら,結晶を取得しようとする動機付けに基づいて結晶化条件を検討し,結晶多形を調査することにより,具体的な結晶多形に想到し得るものであるから,具体的な結晶多形を想定した動機付けまでもが常に必要となるものではない

相違点と作用効果の違い

2012-12-22 17:41:59 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10057
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月03日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子,田邉実

(2) 審決は,本件発明につき,請求項の記載に基づいて,「クエン酸,酒石酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸味剤を含有し,経口摂取又は口内利用時に酸味を呈する製品に,スクラロースを,該製品の重量に対して0.012~0.015重量%で用いることを特徴とする酸味のマスキング方法」と認し,かかる本件発明と甲3発明を対比して,一致点・相違点を認定しており,そこに誤りはない。原告の主張は,本件発明と引用発明の相違点を抽出する場合における本件発明の認定について,本件発明の効果も含めて認定することを前提とするものであるが,本件発明の要旨は,その特許請求の範囲の記載に基づいて認定すべきものであるから,原告の上記主張は採用することができない。すなわち,原告の主張は,顕著な効果の看過を相違点の認定誤りというものであり,この主張をもって相違点認定の誤りとすることはできない。作用効果に関しては,後記2(6)で判断するとおりである
・・・
(6) 原告は・・・顕著な作用効果を看過していると主張する。
 しかし,前記のとおり,・・・程度の効果は,これを予測できない顕著な作用効果ということはできない。
 ・・・このように,・・・長期安定性及び熱安定性という効果は,スクラロース自体の公知の特性であり,この特性は,酸味を有する製品の酸味マスキングにスクラロースを用いた場合にのみ生ずる特有の作用効果ではないことからすれば,この効果を酸味のマスキング方法についての発明における顕著な効果とすることはできない

阻害要因を認めた事例

2012-12-17 23:28:51 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10425
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年11月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳,武宮英子
特許法29条2項

 上記のとおり,引用発明の「円筒」は仮想的なものであって,本願補正発明の「仮想的な環」に相当すると認められるが,本願補正発明においては,「前記仮想的な環を,前記スクリーンを含む平面内で回転させるように構成され」ているから,スクリーンに表示されるアイコンがスクリーンを含む平面内で回転移動する様子から,環の大きさの直感的な把握が可能となる(効果2)。これに対し,引用発明においては,スクリーンに表示されるメニューアイテムは,平面内で回転移動するものではなく,円筒形に配置されて,円周方向に回転移動するものであるから,円筒の大きさの直感的な把握が可能(効果2)となるものではない。

 そして,仮に,「複数の図形の一部を表示するために,複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示する」との先行技術が存在するとしても(ただし,本件においては認定できない。),引用発明は,「2次元的なユーザインタフェースには,表現力に限界がある」という認識に基づき,「複数のメニューを3次元的に表示」するものであるから,引用発明に上記先行技術を適用する動機づけはなく,引用刊行物の「2次元的なユーザインタフェースには,表現力に限界がある」との記載は,引用発明に「2次元的なユーザインタフェース」に係る上記先行技術を適用するに当たって,阻害要因になるものと認められる。

引用例の組み合わせる際の「機序」の一致

2012-12-02 17:16:40 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10408
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年11月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文,裁判官 岡本岳,武宮英子
特許法29条2項

(2)ア 原告は,引用刊行物2記載事項の搬送用ロボットの駆動軸の態様及び制御手段,回転出力軸の配置構成等を理由に,引用発明における駆動部27及び可動アームアセンブリ25を引用刊行物2記載事項,すなわち,その搬送用ロボットの駆動部及びアーム伸縮機構に置き換えることは,事実としてできないから,その容易想到性を肯定した本件審決の判断は誤りであると主張するので,以下検討する。
 ・・・
 そこで,引用発明と引用刊行物2記載事項を対比すると・・・。
 この点,一見すると両者の構成には差異があるようにみえるが,その機序を検討すると,・・・,単に回動のための動力を伝達する径路が相違するだけのものであって,前方アーム部32(第2アーム部62)の回動の方向は,両者を相対的にみれば,上部アーム31(第1アーム)の回動方向と逆になるという点で差異はない。

 そうすると,R移動をさせる際に,引用発明では,駆動軸46と駆動軸48が逆転することとなる一方,引用刊行物2記載事項では,第2回転出力軸4のみが回転するのは,単に動力を伝達する径路の相違に基づくものであるといえる。そして,伝動装置において,回転動作や回転力を伝達するに当り,入力される回転動作等と,出力される回転動作等を決定すれば,その間の動力伝達機構に任意の機構を選択して設計することは,当業者の技術常識であるから,機序に実質的な差異のない引用発明と引用刊行物2記載事項との間で,動力伝達機構の構造を転用することには,何ら技術上の妨げはない

顕著な効果を認めた事例

2012-11-24 21:49:46 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10004
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年11月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香,知野明
特許法29条2項

 これに対し,本件発明1は・・・クラックが発生することを防止できるという効果を奏するものであり,特に,以下のとおり,本件特許出願時の技術水準から,当業者といえども予測することができない顕著な効果を奏するものと認められる。

 すなわち,本件明細書(甲10)によると,実施例において,・・・クラックが発生するまでの往復回数(耐久回数)を測定したことが記載されており(【0089】)・・・同試験の結果は,硬化剤として,DMTA(ジメチルチオトルエンジアミン(ETHACURE300))を用いたサンプル1~3と,MOCAを用いたサンプル4~6とを比較すると,耐久回数について,後者が10万回~90万回であるのに対して,前者は250万回~2250万回であったことが記載されており(【表1】),その差は顕著である
 上記記載によれば,硬化剤として,ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤を用いることにより,クラックの発生が顕著に抑制されることが認められる。
 そして,このような効果について,甲第1号証及び同第2号証には何らの記載も示唆もなく,ほかに,このような効果について,本件特許出願当時の当業者が予測し得たものであることをうかがわせる証拠はない。そうすると,硬化剤として,ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤を用いることにより,クラックの発生が顕著に抑制されるという効果は,甲第1号証及び同第2号証からも,また,本件特許出願時の技術水準からも,当業者といえども予測することができない顕著なものというべきである。

ウ(ア) この点に関し,審決は,「甲第2号証は,熱硬化性ポリウレタンの硬化剤としてMOCAに代えて引用発明2を用いることを強く動機づける刊行物といえ」るとした上,「仮に被請求人(判決注・原告)主張の効果が認められるとしても,引用発明1において,その硬化剤であるMOCAに代えて引用発明2を用いることは,格別な創作力を発揮することなく,なし得るのであるから,前記効果は,単に,確認したに過ぎないものといわざるを得」ないとの見解を示している。また,被告は,容易想到性の判断における「動機付け」について詳細な主張を展開しているので,以下,この点について検討する。
・・・
(オ) 以上によれば,甲第2号証に接した当業者が安全性の点からMOCAに代えてETHACURE300を用いることを動機付けられることがあるとしても,ETHACURE300をシュープレス用ベルトの硬化剤として使用した場合に,安全性以外の点(例えば耐久性)についてどのような効果を奏するかは不明である上,安全性の点からみても他にも選択肢は多数あり,その中から特にETHACURE300を選択する理由はなく,かえって,他の代替品を選択する可能性が高いといえるため,ETHACURE300の使用を強く動機付けられるとまでいうことはできない。

引用文献に開示はないが、すでに解決されている課題

2012-11-11 22:18:32 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(ワ)6980
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年11月01日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 松川充康,西田昌吾

(5) 原告の主張について
 この点,原告は,通電,非通電を繰り返すことで接触体が磁化することに伴う測定誤差発生の防止という本件特許発明の掲げる課題が,乙12文献ほか,本件特許出願前のどの文献にも開示されておらず,本件特許発明に至る動機付けに欠ける旨主張する。

 しかし,この課題は,乙12文献の開示する乙12発明の構成,つまり,「接触体の接触部を非磁性部材とする」ことで既に解決されているのであるから,当該課題にかかる動機付けがなければ本件特許発明の構成に至ることができないなどというものではない言い換えれば,通電方式の位置検出器において,「接触体の接触部を非磁性部材とする」構成は,主引例である乙12文献に開示されているのであるから,かかる構成へ至るための課題の開示,動機付けの有無を問題とする必要はないといえる。

 また,「接触体の接触部を非磁性部材とする」構成の具体的な材料選択をする前提として,そのような上位概念で表現された構成を維持することへの動機付けが求められると解したとしても,あくまで既に公知となっている構成を維持するだけの動機付けがあるか否かの問題であり,新規の構成へ至る動機付けがあったかが問われるわけではない
 通電方式の位置検出器において,「接触体の接触部を非磁性部材とする」ことでその磁性化を防止できることは,乙12文献でその構成に触れた当業者にとって明らかであるが,通電方式の位置検出器における測定対象は通電性のある物質であること,乙12文献中の上記構成は強磁性の環境下における位置検出器で採用されたものであることからして,接触体の接触部の磁性化を避けることができれば,切削加工等で生じた切粉の付着など磁性化に伴う不都合を回避する効果が得られることも,乙12文献に触れた当業者が予測し得る範囲内にある。そのため,「接触体の接触部を非磁性部材とする」構成を採る技術的意義は,その構成自体が示唆するものといえ,これを維持するだけの動機付けがあるといえる
 なお,同様の理由により,当業者の予測し得ない顕著な作用効果や用途を見出したともいえず,かかる観点から本件特許発明の進歩性を肯定することも困難である。
 したがって,課題の示唆がないことを理由として本件特許発明の容易想到性を否定する原告の主張は採用できない。

一の請求項にかかる発明を特許できない場合、特許出願全体を拒絶査定することの適法性

2012-11-11 21:52:49 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10248
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年10月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗,古谷健二郎

 原告は,請求項1に係る本願発明につき特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした審決の判断については争っておらず,審決が,その他の請求項に係る発明について検討することなく出願全体を拒絶した点について,請求項3~10に係る発明が進歩性を有することを理由として取り消されるべきであると主張する。

 しかしながら,特許法は,一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて一つの特許が付与されるという基本構造を前提としており,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,その特許出願全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかない。したがって,一部の請求項に係る発明について特許をすることができない事由がある場合には,他の請求項に係る発明についての判断いかんにかかわらず,特許出願全体について拒絶査定をすべきことになる。

* 類似事件はこの検索

機能的表現の特定事項の解釈と対比・判断事例

2012-11-04 10:12:38 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10063
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年10月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子,田邉実
特許法29条2項 

 審決が認定するとおり,本願発明と引用発明2とは,前者が「繰り返し使用するための,水様の鼻汁吸収用ナプキン」であるのに対して,後者は「吸収製品」である点で相違する(相違点A)
 ・・・
 ここで,多量の水様の鼻汁が間断なく分泌,流出する事態が生じている場合に,・・・,当業者がある程度の時間継続して使用できる器具の必要を感じるのはごく自然の事柄であるし,上記の先行技術文献にも,かかる必要をみたすべく,種々の構成が考案されているものである。そうすると,欧米では鼻汁を拭くのにハンカチを使用する習慣があること(慣用手段)にもかんがみれば,「体液吸収製品」の当業者であれば,ある程度の時間の継続使用にも堪えるべく,引用発明2の「体液吸収製品」を「水様の鼻汁吸収用」に「繰り返し使用するため」に用いる発想を当然に抱くといい得る。
 ・・・
 原告は,本願発明の「水様の鼻汁吸収用ナプキン」と引用発明2の「体液吸収製品」の構造上の違いや使用態様の違いについて主張する。しかしながら,審決が認定するとおり,本願発明と引用発明2とは,「液透過性の表面シート,高吸水性の中間シート,及び液不透過性の裏面シートからなる積層構造を有し,周縁端部が接合され,かつ長手方向中央部に折り曲げ案内部を有する,体液吸収製品」である点との構成で一致し,両発明は前記相違点Aで相違するにすぎない。また両発明の「体液吸収製品」としての用途の差異は,前記のとおり,本願発明の容易想到性を否定するものではない。したがって,原告の主張に係る点は容易想到性の判断を妨げない

 結局,「体液吸収製品」の当業者であれば,本件出願当時,引用発明2に基づいて本願発明に容易に想到することができたというべきであり,本願発明による作用効果も,引用発明2に当業者の技術常識を勘案すれば予測し得る範囲内のものにすぎない・・・。

二つの実施例に渡る引用発明の認定と引用発明の一般化

2012-11-04 10:06:03 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10063
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年10月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子,田邉実
特許法29条2項 

 審決は,・・・と引用発明2を認定したが,このうち前半部分・・・の部分は,引用例2の2つの実施例,すなわち生理用ナプキンと失禁処理パッドの実施例のうち後者の実施例に関する記載部分に概ね対応し,後半部分の・・・との部分は,・・・,上記後半部分は引用例2の実施例のうち生理用ナプキンの実施例に概ね対応する。そうすると,審決は,引用例2の2つの実施例にまたがって引用発明2を認定したものであり,原告はこの点を捉えて審決の引用発明の認定を非難する

 ところで,引用例2の生理用ナプキンの実施例も,失禁処理パッドの実施例も,・・・という引用例2記載の発明の目的を達成するために考案されたもので・・・,外皮材やフランジ等の形状,構造はかかる目的を達成するための手段であるところ,段落【0022】には,・・・との記載があるから,引用例2においては,吸収体5の皿状外皮材1への固定方法として,表面シート6で包まれた吸収体(吸収材)5を外皮材1の底部に接着するか(生理用ナプキンの実施例),外皮材1の前面に吸収体5を張り付けた上で,その上方からフランジ4で覆って,吸収体5を外皮材1とフランジ4の間の空間に閉じ込めるか(失禁処理パッドの実施例)は,任意に選択可能な事柄と位置付けられていることが明らかである。

 そうすると,両実施例の間で排泄物の漏れ出しの防止方法に差異があるとしても(・・・),引用例2に接した当業者であれば,吸収体5の皿状外皮材1への固定方法を置き換えた構成を読み取ることができるというべきであるから,審決が前記のとおりに引用発明2を認定した手法に誤りがあるとはいえない

 そして,鼻汁も人体が分泌する体液の一つであるから,引用発明2と本願発明とは「体液吸収製品」である点で一致するところ,両発明を「体液吸収製品」との技術概念で包括したとしても過度の一般化であるとはいえない
---------------
【請求項1(本願発明)】
 液透過性の表面シート,高吸水性の中間シート,及び液不透過性の裏面シートからなる積層構造を有し,周縁端部が接合され,かつ長手方向中央部に折り曲げ案内部を有する,繰り返し使用するための,水様の鼻汁吸収用ナプキン。

商業的成功の主張

2012-11-04 09:20:31 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10433
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年10月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳,武宮英子

6 取消事由6(商業的成功の看過)について
 原告は,本願発明と同様の構成を有する米国特許発明に係る製品は,商業的成功を収めており,本願発明の進歩性は肯定されるべきである旨主張する。
 しかし,上記のとおり,本願発明は,引用発明及び公知の技術から当業者が容易に想到することができたものであるから,仮に原告の製品が商業的成功を収めていたとしても,特許を受けることができない(特許法29条2項)

限定的減縮ではないとされた事例

2012-11-03 11:25:53 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10056
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年10月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 部眞規子、齋藤巌
特許法17条の2第4項

(2) 補正の目的要件について
 本件補正において,①「電源電圧・電流検出器」,②「第1の電圧・電流検出器」,③「第2の電圧・電流検出器」,④「前記作業機用交流電動機および前記旋回用交流電動機の回転数を検出する検出器」及び⑤「該検出器,前記電源電圧・電流検出器および前記第1,第2の電圧・電流検出器に接続され」た「コントローラ」については,本件補正前の請求項1に記載されておらず,また,上記検出器等との関連性を示す上位概念的な記載も存在しない。

 したがって,本件補正事項に係る上記①ないし⑤を追加することは,いわゆる外的付加に該当するというべきであり,限定的減縮を目的とするものとはいえない。また,本件補正事項は,請求項の削除,誤記の訂正あるいは明瞭でない記載の釈明を目的とするものではないことは明らかである。

 そうすると,本件補正は,法17条の2第4項に規定する目的要件を満たさない。