知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

顕著な効果を認めた事例

2012-11-24 21:49:46 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10004
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年11月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香,知野明
特許法29条2項

 これに対し,本件発明1は・・・クラックが発生することを防止できるという効果を奏するものであり,特に,以下のとおり,本件特許出願時の技術水準から,当業者といえども予測することができない顕著な効果を奏するものと認められる。

 すなわち,本件明細書(甲10)によると,実施例において,・・・クラックが発生するまでの往復回数(耐久回数)を測定したことが記載されており(【0089】)・・・同試験の結果は,硬化剤として,DMTA(ジメチルチオトルエンジアミン(ETHACURE300))を用いたサンプル1~3と,MOCAを用いたサンプル4~6とを比較すると,耐久回数について,後者が10万回~90万回であるのに対して,前者は250万回~2250万回であったことが記載されており(【表1】),その差は顕著である
 上記記載によれば,硬化剤として,ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤を用いることにより,クラックの発生が顕著に抑制されることが認められる。
 そして,このような効果について,甲第1号証及び同第2号証には何らの記載も示唆もなく,ほかに,このような効果について,本件特許出願当時の当業者が予測し得たものであることをうかがわせる証拠はない。そうすると,硬化剤として,ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤を用いることにより,クラックの発生が顕著に抑制されるという効果は,甲第1号証及び同第2号証からも,また,本件特許出願時の技術水準からも,当業者といえども予測することができない顕著なものというべきである。

ウ(ア) この点に関し,審決は,「甲第2号証は,熱硬化性ポリウレタンの硬化剤としてMOCAに代えて引用発明2を用いることを強く動機づける刊行物といえ」るとした上,「仮に被請求人(判決注・原告)主張の効果が認められるとしても,引用発明1において,その硬化剤であるMOCAに代えて引用発明2を用いることは,格別な創作力を発揮することなく,なし得るのであるから,前記効果は,単に,確認したに過ぎないものといわざるを得」ないとの見解を示している。また,被告は,容易想到性の判断における「動機付け」について詳細な主張を展開しているので,以下,この点について検討する。
・・・
(オ) 以上によれば,甲第2号証に接した当業者が安全性の点からMOCAに代えてETHACURE300を用いることを動機付けられることがあるとしても,ETHACURE300をシュープレス用ベルトの硬化剤として使用した場合に,安全性以外の点(例えば耐久性)についてどのような効果を奏するかは不明である上,安全性の点からみても他にも選択肢は多数あり,その中から特にETHACURE300を選択する理由はなく,かえって,他の代替品を選択する可能性が高いといえるため,ETHACURE300の使用を強く動機付けられるとまでいうことはできない。

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