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知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

請求期間を徒過した出願取下げに基づく出願審査請求料の返還請求

2012-08-14 21:49:45 | 特許法その他
事件番号 平成23(行ウ)728
事件名 出願取下げを削除する手続補正書却下の処分に対する処分取消請求事件
裁判年月日 平成24年07月20日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 その他
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 東海林保、裁判官 田中孝一,足立拓人
特許法195条9項,10項,11項

第2 事案の概要
1 本件は,原告らが,自ら行った特許出願について出願取下書を提出した後,特許庁長官に対し,同特許出願の審査請求手数料に係る既納手数料返還請求書を提出し,また,同出願取下書の全文を削除する旨の手続補正書を提出したところ,いずれも特許庁長官から却下処分を受けたことから,これらの処分が違法であると主張して,被告に対し,同手続補正書に係る却下処分の取消し(第1事件)及び同既納手数料返還請求書に係る却下処分の取消し(第2事件)をそれぞれ求める事案である。
・・・

第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件補正書却下処分の適法性)について
(1) 前記第2,2(1)ウのとおり,本件特許出願は,原告らが平成21年9月24日付け本件取下書を提出したことにより取り下げられているから,それに伴って,特許庁における本件特許出願に係る手続は終了したものと解される。
 そうすると,その後に,原告らが本件取下書の全文を削除するとして提出した本件補正書は,特許庁に係属していない手続について補正をしようとするものであるから,特許法17条1項本文に反する不適法なものであり,かつ,その補正をすることができないものであった
と認められる。
 したがって,特許庁長官が特許法18条の2第1項に基づき本件補正書に係る手続を却下した処分(本件補正書却下処分)は,適法というべきであって,同処分の取消しを求める原告らの主張は理由がない。
・・・
2 争点(2)(本件返還請求書却下処分の適法性)について
・・・
(2) この点に関して,原告らは,被告が本件審査請求料を返還しないことが不当利得に該当する旨主張するが,前記(1)のとおり,原告らが納付した本件審査請求料の額は,法定どおりの適正額であったのであるから,その納付が法律上の原因を欠くものとはいえず,被告がこれを収受し,原告らに返還しないことが不当利得に当たるとは認められない。

 また,原告らは,原告らが出願取下げに基づく出願審査請求料の返還請求権を過失で行使しなかったことが過誤であるから,過誤納に関する特許法195条11項の規定に基づいて返還請求ができるとも主張するが,同条項の「過誤納」とは,過大な額の手数料が納付された場合や,手数料を納付すべき理由がないのに手数料が納付された場合など,その手数料の納付が当初から法律上の原因を欠き,納付した手数料を被告が収受することが不当利得となるような場合をいうものと解されるところ,前記(1)のとおり,原告らが納付した本件審査請求料は適正額であり,それが不当利得に該当することはないのであるから,これを同条項の「過誤納」に当たると解する余地はない

 このことは,特許法が,過誤納に係る規定(特許法195条11項)とは別に,出願取下げに基づく出願審査請求料の返還請求について,同条9項の規定を設けていることからも明らかである。

先使用による通常実施権が認められた事例

2012-08-10 22:16:41 | 特許法その他
事件番号 平成24(ネ)10016
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年07月18日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 部眞規子,齋藤巌
先使用による通常実施権(特許法79条)

(1) 先使用に係る発明の成否について
 先使用による通常実施権が成立するには,まず,これを主張する者が特許出願に係る発明の内容を知らないで,当該特許出願に係る発明と同一の発明をしていること,あるいは,発明をした者から知得することが必要である(特許法79条)。
 そして,発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作であり(同法2条1項),一定の技術的課題(目的)の設定,その課題を解決するための技術的手段の採用及びその技術的手段により所期の目的を達成し得るという効果の確認という段階を経て完成されるものであるが,発明が完成したというためには,その技術的手段が,当該技術分野における通常の知識を有する者が反復継続して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていることを要し,またこれをもって足りるものと解するのが相当である(最高裁昭和49年(行ツ)第107号同52年10月13日第一小法廷判決民集31巻6号805頁参照)。
(2) そこで,以上の観点から,被控訴人製品に係る発明が完成していたか否かを検討すると,前記前提となる事実及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
 ・・・
(5) 通常実施権の成否について
 前記(2)イ(ア)のとおり,大阪ガスは,遅くとも,本件特許の優先権主張日の約8年前である平成11年3月頃から,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFを製造していることからすれば,大阪ガスは本件特許発明2の内容を知らないで自らその発明をしたものであることは明らかであるということができる。また,前記(2)ア(ウ)のとおり,被控訴人は,大阪ガスから被控訴人製品に係る発明の内容を知得したものであることについても優に認めることができる。
 したがって,被告は,本件特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得し,優先権主張に係る先の出願の際現に日本国内において本件特許発明2の実施である事業をしていたことが認められるから,本件特許発明2に係る本特許権について,先使用による通常実施権を有するものというべきである。

意識的除外の判断基準-均等論

2012-07-22 22:47:35 | 特許法その他
事件番号 平成24(ネ)10012
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年07月18日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平
意識的除外がされたと認定し均等侵害を否定

 特許発明の出願人が,特許出願手続において,被疑侵害方法,本件でいえば説明書記載方法が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認し,又は外形的にそのように解釈されるような対応に至った場合には,出願人は,説明書記載方法を特許請求の範囲から意識的に除外したものとして,説明書記載方法が均等なものと主張することはできないと解すべきである。この見地に立って,以下の事実関係からみれば,本件特許においては,出願手続において,第1のスリットの水平方向の幅が第2のスリットの水平方向の幅より小さいものを意識的に除外したものと解すべきであり,説明書記載方法が本件特許発明1の方法と均等な方法であると認めることはできない

原審 東京地方裁判所平成22年(ワ)第43749号 裁判長裁判官 岡本岳
「この減縮補正は,拒絶理由通知が指摘した引用文献1~3に記載された2つの空間(スリット部)は水平方向の幅が同一であり,本件特許発明の構成上の特徴を開示していないことを主張してされたものであるから,当該拒絶理由を回避するためにされた補正と認められる。・・・,上記(3)オの補正において,第1のスリットの水平方向の幅が第2のスリットの水平方向の幅より大きいものに限定されたことにより,外形的には,これとは逆の第1のスリットの水平方向の幅が第2のスリットの水平方向の幅より小さいものを本件特許発明1に係る特許請求の範囲から意識的に除外したものと解さざるを得ない。」

特許法153条2項の趣旨

2012-07-14 08:31:45 | 特許法その他
事件番号 平成23(行ケ)10313
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年07月04日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣
特許法153条2項

ウ 特許法153条2項は,審判において当事者が申し立てない理由について審理したときは,審判長は,その審理の結果を当事者に通知し,相当の期間を指定して,意見を申し立てる機会を与えなければならないと規定している。これは,当事者の知らない間に不利な資料が集められて,何ら弁明の機会を与えられないうちに心証が形成されるという不利益から当事者を救済するための手続を定めたものである。

 したがって,特許法153条2項にいう「当事者の申し立てない理由」とは,新たな無効理由の根拠法条の追加や主要事実又は引用例の追加等,不利な結論を受ける当事者にとって不意打ちとなりあらかじめ通知を受けて意見を述べる機会を与えなければ著しく不公平となるような重大な理由をいうものであって,特定の引用例に基づいて当該発明が容易に想到できるか否かの判断の過程における一致点や相違点の認定は,上記「当事者の申し立てない理由」には当たらないと解される。

 よって,審決における特定の引用例との一致点や相違点の認定が,審判手続における当事者の主張するそれと異なっていたとしても,そのことをもって直ちに同項に違反するものとはいえない。また,特許無効審判の判断の過程において,当事者の一致点や相違点に係る主張に拘束されるものではない。

特許法121条2項の「責めに帰することができない理由」

2012-06-18 22:38:12 | 特許法その他
事件番号 平成24(行ケ)10084
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年06月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文

1 特許法121条2項は,「拒絶査定不服審判を請求する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内にその請求をすることができないときは・・・その理由がなくなった日から14日・・・以内でその期間の経過後6月以内にその請求をすることができる。」と規定しており,「責めに帰することができない理由」とは,天災地変のような客観的な理由に基づいて手続をすることができないことのほか,通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由をいうものと解される。

指定期間が経過しても請求書の却下決定をせずに請求人に3回確認する運用にならわなかった却下処分の違法性

2012-06-10 22:49:17 | 特許法その他
事件番号 平成24(行ケ)10061
事件名 審判請求書却下決定取消請求事件
裁判年月日 平成24年06月06日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(1) 特許法133条3項に基づく請求書の却下決定に関する裁量について特許出願について拒絶をすべき旨の査定を受けた者は,その査定に不服があるときは,拒絶査定不服審判を請求することで特許査定又は拒絶査定の取消しを求めることができ(特許法121条1項,159条3項,51条,160条1項),その際,請求の理由等を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならない(同法131条1項3号)ところ,審判長は,請求書がこの規定に違反しているときは,請求人に対し,相当の期間を指定して,請求書について補正をすべきことを命じなければならず(同法133条1項),請求人が当該補正命令により指定した期間内に請求書の補正をしないときは,決定をもってその請求書を却下することができるとされている(同条3項)。
 そして,特許法は,審判長が上記決定をすべき時期については何ら規定していないところ,上記補正命令に基づく補正が上記相当の期間内にされない以上,あえて当該決定を遷延させることについて積極的な意義は見出し難い一方で,当該補正が当該相当の期間経過後にされた場合,当該補正を却下して請求書を却下する決定をしなければならない理由も見当たらない。したがって,審判長は,請求書を却下する決定の要件が充足したとしても,直ちに当該決定をしなければならないものではないというべきである
 以上によれば,審判長は,特許法131条1項に違反する請求書について,同法133条1項に基づく補正命令により指定した相当の期間内に補正がされなかった場合,いかなる時期に同条3項に基づく当該請求書を却下する決定をするかについての裁量権を有しており,当該決定は,具体的事情に照らしてその裁量権の逸脱又は濫用があった場合に限り,違法と評価されるというべきである。
 ・・・
イ 他方,特許庁内部では,前記1(5)に認定のとおり,「審判事務機械処理便覧」という文書により,特許法133条3項に基づく請求書の却下決定に先立って,請求人からの上申書等の有無や却下処分前通知書の発送を確認することとされているほか,請求人から,同条1項に基づく指定期間内に手続補正についての期間の猶予を求める上申書が提出された場合,審判長は,当該指定期間を経過しても直ちに請求書を却下する決定をするとは限らず,あるいはそのような上申書が提出されなくても,特許庁からの郵便はがきによる却下処分前通知又は電話による手続続行の意思の有無の確認を経てから,請求書を却下する決定をする運用が行われている。
 しかしながら,上記「審判事務機械処理便覧」という文書は,あくまでも事務担当者の便益のために特許庁内部における事務処理の運用を書面化したものであるにすぎず,特許法の委任を受けて請求人との関係を規律するものではないし,特許庁内部におけるその余の上記運用も,いずれも特許法に根拠を有する手続ではなく,実務上の運用として行われているにすぎないから,このような運用に従わない取扱いがされたからといって,そのことは,原則として当不当の問題を生ずるにとどまり,直ちに請求書の却下決定に関する時期についての裁量権の逸脱又は濫用となるものではない
 ・・・
ウ 以上によれば,原告は,本件拒絶査定により本件審判における争点を認識しており,当該争点についての立証について,本件審判の請求まで約4か月,本件指令書により指定された補正のための指定期間の満了まで約6か月にわたる準備期間を与えられていながら,その立証準備の状況等について何ら具体的に説明をせずに当該指定期間を徒過していたのであるから,原告が外国法人であって,本件事務所との間の意思疎通について内国人よりも時間と費用を要することや,本件決定に先立って,郵便はがきによる却下処分前通知又は電話による手続続行の意思の有無の確認といった特許庁内部で行われていた運用に従った取扱いがされていなかったこと,そして,そのことから,仮に,本件事務所において自ら補正の理由書を提出するまで本件請求書が却下されることはないと期待していたとすれば,本件審判長がその期待を与えたことを考慮しても,本件審判長は,本件請求書を却下した時点において,当該決定を遷延させ,もって原告のために更に補正のための猶予期間を与える必要はなかったものというほかなく,本件拒絶査定から約7か月後であって当該指定期間の満了から43日後にされた本件決定は,審判長が有する請求書の却下決定をする時期についての裁量権を逸脱又は濫用したものとはいえない。

特許出願の請求項の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定することの適法性

2012-05-27 18:02:05 | 特許法その他
事件番号 平成23(行ケ)10296
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月23日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 原告は,審決は請求項1の発明の進歩性についてのみ判断し,請求項2ないし4の発明の進歩性について判断しておらず,不当,違法であると主張する。

 しかしながら,特許法は,一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて一つの特許が付与され,一つの特許権が発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは予定されていない。このことは,特許法49条,51条の文言や,特許出願分割制度の存在自体に照らしても明らかである(最高裁平成20年7月10日第一小法廷判決民集62巻7号1905頁参照)。
 なお,拒絶査定を受けた出願人が不服審判請求をするために請求項の数に応じた手数料を納付しなければならないのは,審判においてすべての請求項につき審理・判断の可能性があることに対応するものであって,出願拒絶についての可分的な取扱いと結び付くものではない

 したがって,審決が請求項2ないし4の発明の進歩性について判断をしなかったとしても違法ではなく,原告が主張する取消事由3は理由がない。

補償金請求権-市場の独占と超過利益、売上総利益の赤字と超過売上高

2012-05-04 23:11:30 | 特許法その他
事件番号 平成22(ワ)10176
事件名 職務発明対価請求事件
裁判年月日 平成24年04月25日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋

イ 以上を前提として,本件ジャイロが本件発明1及び5の実施品であること・・・を踏まえ,更に検討する。
 本件発明1は,その効果として,・・・,接着剤が不要で,接着位置や接着層のばらつきなどによる特性のばらつきを回避することができる効果があったと認められ・・・,小型化でも有利であったと解される。また,本件発明5は,その効果として,共振周波数の調整を容易にする効果があったと認められ・・・,共振周波数の調整工程を簡略化できる効果があったと解される。そして,本件ジャイロは,・・・%の市場占有率を維持していた(前記1(3)ア)のであるから,本件発明1及び5の代替技術の存在が否定できないとしても,本件発明1及び5の実施による超過売上高が存在すると認めるのが相当である。また,本件発明1及び5の技術的範囲及び効果に加え,本件ジャイロの市場占有率を考慮すると,超過売上高の割合は40%と認めるのが相当である(・・・。)。

 (4) これに対し,被告は,独占の利益(超過利益)がない旨を主張するので検討する。
被告は,・・・,本件各特許権によって市場を独占できていないから,無償の通常実施権に基づく実施によるものを超えた利益は存在していない旨主張する。しかしながら,超過利益は発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益であって,市場の独占がある場合に限って超過利益の存在が認められるわけではないから,市場の独占ができていないからといって,超過利益の存在を否定することはできない。・・・
 ・・・
 ウ さらに,被告は,被告ジャイロ事業は,ほぼ毎年度赤字続きで,累積では売上高から売上原価を控除した売上総利益でみても赤字となっており,本件各発明を実施したことにより被告が受けた利益は全く認められない旨主張する
 確かに,甲11,乙23,原告本人尋問の結果によると,被告ジャイロ事業が赤字であったことがうかがえる。しかしながら,改正前特許法35条4項の「使用者等が受けるべき利益」とは,権利承継時において客観的に見込まれる利益をいうのである。被告の提出する損益計算表(乙23)をみても,損失のある年度ばかりではなく,利益の認められる年度も存在する。そのことからは,本件発明1及び5の実施による事業はおよそ利益の上がらない事業ではなく,市場環境,被告の事業方針等によっては利益を生み出すことのできる事業であることが認められる。
 そして,別紙「CGシリーズ型式別売上金額」のとおり,被告には,本件発明1及び5の実施品の製造・販売により1億円以上の売上が十数年にわたって継続して認められるのである(そのうちの5年は,30億円を超える売上高である。)。そうすると,当該職務発明の実施に係る事業において最終的に損失があったとしても,上記のとおり,超過売上高が存在する本件においては,独占の利益を否定することはできないというべきである。

補償金請求権-特許登録前の独占の利益(超過売上高)の有無とその割合

2012-05-04 22:55:06 | 特許法その他
事件番号 平成22(ワ)10176
事件名 職務発明対価請求事件
裁判年月日 平成24年04月25日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋

(5) 最後に,特許登録前の独占の利益について検討するに,被告は,登録前に独占の利益は存在しない旨主張し,登録後の2分の1の独占力を認める考えがあり得てもそれは公開後に限られる旨主張する
 しかしながら,特許登録前であっても,出願公開後は一定の要件を満たせば補償金を請求することができるから(特許法65条),少なくとも出願公開後においては,事実上の独占力があると認められる。もっとも,差止請求権や損害賠償請求権は認められないから,その独占力が登録後と比較して小さいといえるのであって,本件発明1及び5の内容,効果等を考慮すると,その登録前の超過売上高の割合は登録後のものの2分の1と認めるのが相当である(なお,本件特許権1に係る出願公開は平成5年3月30日,本件特許権2に係る出願公開は平成7年1月10日であるから〔甲1及び5の各1〕,本件発明1及び5の実施品の販売はいずれも出願公開以降である〔前記1(2)〕。)。

特許発明の本質的部分とは

2012-05-01 22:41:04 | 特許法その他
事件番号 平成23(ワ)4131
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年04月12日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三

ア 特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分,言い換えれば,上記部分が他の構成に置き換えられるならば,全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解される。
 そして,本質的部分に当たるかどうかを判断するに当たっては,特許発明を特許出願時における先行技術と対比して課題の解決手段における特徴的原理を確定した上で,対象製品の備える解決手段が特許発明における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものか,それともこれとは異なる原理に属するものかという点から判断すべきものである。

イ 本件明細書の【発明の詳細な説明】欄には以下の記載がある。
 ・・・
 そうすると,構成要件Eの「導入面取り部」は,本件特許発明1の課題解決手段である上記②における基本的構成であり,特徴的原理を成すものであることが認められる。換言すれば,本件特許発明1において,全自動デバイスとして,上下のコンテナを連結する作用効果を奏させるには,構成要件Eの「導入面取り部」によりロック用留め具をロック位置まで案内することが必要不可欠の構成であり,課題解決の原理そのものであるというべきである。
 これに対し,被告製品では,全自動デバイスとして,上下のコンテナを連結する作用効果を奏させるため,構成要件Eの「導入面取り部」の構成によりロック用留め具を係合位置まで移動させる構成ではなく,ロック用留め具そのものを可動突部とすることにより下段コンテナの溝穴と係合させる構成が採用されている。

 したがって,被告製品の課題解決手段は,本件特許発明1の解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものとはいえず,むしろ,異なる原理に属するものというべきである。

 以上によれば,構成要件Eは,特許請求の範囲に記載された本件特許発明1の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分であり,特許発明の本質的部分に当たる。

「・・・inside」という商標の構成

2012-04-07 23:30:40 | 特許法その他
事件番号 平成23(行ケ)10323
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年03月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

1 取消事由1(本件商標が商標法4条1項15号に該当しないとした判断の誤り)について
・・・
 原告は,引用各商標における自他商品の識別性を有する商標の要部の一つは,「・・・inside」及び「・・・INSIDE」との表示形式であり,本件商標の「KDDI」「Module」「Inside」の文字を順に上から下へ積み重ねた態様は,「・・・INSIDE」との表示形式と共通しているから,「・・・インサイド」という共通の称呼が生じ,商品の出所に混同を生じるものであると主張する。

 確かに,引用各商標を構成する「intel inside」との文字が原告又は原告製造に係る製品の表示として広く認識されていることや,テレビ媒体等で使用された「インテル,入っている」というサウンドロゴに接した者は,「intel」の語と「inside」の語との結び付きを強く印象に残すものであることなどからすると,「intel」以外の文字と「inside」の文字を結合した「・・・inside」との表示形式を有する商標に接した者は,当該商標と引用各商標との構成それ自体の共通性を想起し得ることは否定することができない

 しかし,原告は,本件商標の登録出願前では,平成12年3月15日にコンピュータとコンピュータソフトウエアの使用等を指定役務とする「THE JORNEY INSIDE」との商標を出願しているものの(甲50),他に「intel」の文字に代えて,他の文字と「inside」の文字を結合した表示を使用した事実は認められないこと,また,「inside」の文字は,「内側の,内部の」等の意味合いを持つ,一般的な語であり,「intel」以外の文字と結合させることも含め,多様な用法が想定できることからすると,「intel」以外の文字と「inside」の文字を結合した「・・・inside」という商標の構成が,当該商標が使用された商品又は役務が直ちに原告の製造に係る商品又は役務であると誤信するおそれを生じさせるほどの強い出所識別機能を有しているとまでは認められない
・・・

国際特許出願についての明細書等の翻訳文の提出期間の経過と国際特許出願の取り下げ

2012-03-25 11:12:33 | 特許法その他
事件番号 平成23(行ウ)542
事件名 決定処分取消請求事件
裁判年月日 平成24年03月16日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 その他
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

第3 当裁判所の判断
原告は,
○1 平成22年1月22日に原告が特許庁長官に対し本件国際特許出願に関して本件取下書を提出したことにより,本件国際特許出願における2007年(平成19年)1月23日を優先日とするパリ条約による優先権主張は取り下げられた,
○2 その結果,本件国際特許出願に係る特許協力条約2条(xi)の優先日は,本件国際出願の国際出願日である2008年(平成20年)1月23日に繰り下がる,
○3 その結果,本件国際特許出願についての国内書面提出期間(特許法184条の4第1項)の満了日も,上記国際出願日である平成20年1月23日から2年6月が経過する平成22年7月23日に繰り下がることになる
旨主張する。

 しかしながら,原告の主張は採用することができない。
 すなわち,原告は,2008年(平成20年)1月23日,特許協力条約に基づいてパリ条約による優先権主張を伴う本件国際出願をし,本件国際出願は,日本において,特許法184条の3第1項の規定により,その国際出願日にされた特許出願とみなされ(本件国際特許出願),本件国際特許出願についての明細書等の翻訳文の提出期間は,同法184条の4第1項ただし書の適用により,原告が本件国内書面を提出した日である平成21年7月14日から2月が経過する同年9月14日までであったにもかかわらず,原告は当該提出期間の満了日までに上記翻訳文を提出しなかった(前記第2の2(1),(2)ア,イ)のであるから,同法184条の4第3項の規定により,当該満了日が経過した時点で,本件国際特許出願は取り下げられたものとみなされる。

 そうすると,原告が本件取下書を特許庁長官に提出した平成22年1月22日の時点においては,本件国際特許出願は既に取り下げられたものとされ,そもそも特許出願として特許庁に係属していなかったことになるから,当該出願に関して,優先権主張の取下げを含む特許庁における法律上の手続を観念することはできないというべきである。

<同様の事件(同一原告)>
 平成23(行ウ)535 平成24年02月16日 東京地方裁判所  裁判長裁判官 大鷹一郎
 平成23(行ウ)514 平成24年02月16日 東京地方裁判所  裁判長裁判官 阿部正幸

<関連事件>
 平成23(行ウ)542、ブログ紹介はここ

優先権主張(法41条1項)が認められなかった事例

2012-03-11 20:59:36 | 特許法その他
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120301084713.pdf
事件番号 平成23(行ケ)10127
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年02月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

3 取消事由3(本件発明3,4に係る新規事項の追加の有無の判断の誤り,無効理由6関係)について
 ・・・特許出願(第1基礎出願)に係る明細書(図面を含む。優先1,甲16)にも,・・・特許出願(第2基礎出願)に係る明細書(図面を含む。優先2,甲17)にも,・・・特許出願(第3基礎出願)に係る明細書3(図面を含む。優先3,甲18)にも,・・・螺旋溝27(旋回溝)に傾斜角度を付けることは開示されているものの(例えば甲16の段落【0016】,図2),傾斜角度の具体的範囲については記載も示唆もされていない
 本件発明3の構成のうち,「その旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定した,」との構成すなわち第2摺動部分(12)の外周面を展開した状態における上記の旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定したとの構成(発明特定事項)については,平成14年法律第24号特許法等の一部を改正する法律附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載された発明に基づ」いて特許出願されたものでないから,本件発明3についての特許法29条の規定の適用については,優先権主張の利益を享受できず,現実の出願日である平成14年10月10日を基準として発明の新規性を判断すべきである。

 原告は,基礎出願に係る明細書及び図面のすべての記載を総合すれば,「旋回溝の傾斜角度を通常の角度よりも小さいものとすることで,クランプロッドの旋回用ストロークを小さくしたクランプ」との技術的事項が開示されているものということができるし,本件発明3にいう「傾斜角度を10度から30度の範囲にした」との限定は,上記「通常の角度よりも小さい」との技術的事項を明確にするものであるなどと主張する。
 しかしながら,本件発明3にいう「傾斜角度を10度から30度の範囲にした」との限定(発明特定事項)は,具体的な数値範囲を限定するものであるところ,基礎出願に係る各明細書添付の図2は,寸法や角度等の数値が一切記載されておらず,左右の端を合わせても一つの円筒としてきれいに繋がるものではないことからも明らかなとおり,ガイド溝の構造を示すために用いられる模式図にすぎず,これから傾斜角度の具体的な数値範囲を読み取ることはできない。また,本件発明3のクランプ装置のようなクランプ装置において,クランプロッドの旋回動作をガイドするガイド溝の傾斜角度を従来のクランプ装置におけるそれより小さくすると「10度から30度の範囲に」なるとの当業者の一般的技術常識を認めるに足りる証拠はない。そうすると,原告の上記主張を採用することはできない。

課題と解決手段を検討し動機付けを否定した事例

2012-02-19 19:53:40 | 特許法その他
事件番号  平成23(行ケ)10142
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 すなわち,引用発明は,素材を内外から加熱することに発明の特徴があるのに対して,引用刊行物2記載の技術は,マイクロ波の素材への直接照射を遮断することに発明の特徴があり,両発明は,解決課題及び解決手段において,大きく異なる。
 引用発明においては,外部加熱のみによって加熱を行わなければならない必然性も動機付けもないから,引用発明を出発点として,引用刊行物2記載の技術事項を適用することによって,本願発明に至ることが容易であるとする理由は存在しない

 したがって,審決が,引用刊行物2記載の示唆に基づいて,引用発明の内部加熱のための被調理物加熱層14を透過するマイクロ波の一部が透過しないように被調理物加熱層14のセラミック材をなくし,フェライト粉によってマイクロ波を遮蔽するようなすことは当業者が格別の困難性を要することなくなし得たことを前提に,本願発明の相違点Aに係る構成に至ることが容易であるとした判断は,前提を欠くものであり,誤りというべきである。

希望された面接なしに審決した手続

2012-02-19 19:37:47 | 特許法その他
事件番号  平成23(行ケ)10245
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 原告は,本願に係る不服審判請求時,審判官との面接を希望したにもかかわらず,面接がされないまま,審決がされた手続には違法がある旨主張する。

 しかし,原告の上記主張は失当である。すなわち,特許法145条2項には,拒絶査定不服審判は,書面審理による旨が規定されている。したがって,当事者に面接の機会を与えなかったことは,特段の事情のない限り違法を来すことはない。また,本件において,審判合議体が原告に対し面接の機会を付与しなかった点に,審決の違法を来す特段の事情はうかがえない。したがって,原告主張に係る手続の瑕疵を認めることはできない。