知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

補償金請求権-市場の独占と超過利益、売上総利益の赤字と超過売上高

2012-05-04 23:11:30 | 特許法その他
事件番号 平成22(ワ)10176
事件名 職務発明対価請求事件
裁判年月日 平成24年04月25日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋

イ 以上を前提として,本件ジャイロが本件発明1及び5の実施品であること・・・を踏まえ,更に検討する。
 本件発明1は,その効果として,・・・,接着剤が不要で,接着位置や接着層のばらつきなどによる特性のばらつきを回避することができる効果があったと認められ・・・,小型化でも有利であったと解される。また,本件発明5は,その効果として,共振周波数の調整を容易にする効果があったと認められ・・・,共振周波数の調整工程を簡略化できる効果があったと解される。そして,本件ジャイロは,・・・%の市場占有率を維持していた(前記1(3)ア)のであるから,本件発明1及び5の代替技術の存在が否定できないとしても,本件発明1及び5の実施による超過売上高が存在すると認めるのが相当である。また,本件発明1及び5の技術的範囲及び効果に加え,本件ジャイロの市場占有率を考慮すると,超過売上高の割合は40%と認めるのが相当である(・・・。)。

 (4) これに対し,被告は,独占の利益(超過利益)がない旨を主張するので検討する。
被告は,・・・,本件各特許権によって市場を独占できていないから,無償の通常実施権に基づく実施によるものを超えた利益は存在していない旨主張する。しかしながら,超過利益は発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益であって,市場の独占がある場合に限って超過利益の存在が認められるわけではないから,市場の独占ができていないからといって,超過利益の存在を否定することはできない。・・・
 ・・・
 ウ さらに,被告は,被告ジャイロ事業は,ほぼ毎年度赤字続きで,累積では売上高から売上原価を控除した売上総利益でみても赤字となっており,本件各発明を実施したことにより被告が受けた利益は全く認められない旨主張する
 確かに,甲11,乙23,原告本人尋問の結果によると,被告ジャイロ事業が赤字であったことがうかがえる。しかしながら,改正前特許法35条4項の「使用者等が受けるべき利益」とは,権利承継時において客観的に見込まれる利益をいうのである。被告の提出する損益計算表(乙23)をみても,損失のある年度ばかりではなく,利益の認められる年度も存在する。そのことからは,本件発明1及び5の実施による事業はおよそ利益の上がらない事業ではなく,市場環境,被告の事業方針等によっては利益を生み出すことのできる事業であることが認められる。
 そして,別紙「CGシリーズ型式別売上金額」のとおり,被告には,本件発明1及び5の実施品の製造・販売により1億円以上の売上が十数年にわたって継続して認められるのである(そのうちの5年は,30億円を超える売上高である。)。そうすると,当該職務発明の実施に係る事業において最終的に損失があったとしても,上記のとおり,超過売上高が存在する本件においては,独占の利益を否定することはできないというべきである。

最新の画像もっと見る