事件番号 平成21(ネ)10047
事件名 著作権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成22年03月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明
当裁判所は,
①被告光源寺による本件観音像の仏頭部のすげ替え行為は,著作者であるRが生存しているとしたならばその著作者人格権(同一性保持権,法20条)の侵害となるべき行為であり,
②法113条6項所定の「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」に該当し,侵害とみなされるべき行為であり,
③法60条のただし書等により許される行為には当たらないと判断する。
したがって,原告はRの遺族として,法116条1項に基づいて,法115条に規定するRの名誉声望を回復するための適当な措置等を求めることができると解される。
そして,当裁判所は,すべての事情を総合考慮すると,法115条所定のRの名誉声望を回復するためには,被告らが,本件観音像の仏頭のすげ替えを行った事実経緯を説明するための広告措置を採ることをもって十分であり,法112条所定の予防等に必要な措置を命ずることは相当でないと判断するものである。
その理由は,以下のとおりである。以下,要件論(要件を充足性しているかの判断)と効果論(適切な回復措置に関する判断)と分けて,検討する。
(2) 要件論---要件充足性(法20条の同一性保持権侵害,法113条6項の著作者人格権のみなし侵害,及び法60条所定の要件該当性)について
ア 改変の有無について
・・・11体の化仏が付されたその仏頭部は,本件原観音像においてRの思想又は感情を表現した創作的部分であるといえる。
そうすると,本件原観音像の仏頭部の眼差しを修正する目的で行われたものであるとしても,被告らによる本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為は,本件原観音像の創作的部分に改変を加えたものであると認められる。
イ 法20条1項所定のRの「意に反する・・・改変」の該当性,及び法60条ただし書き所定のRの「意を害しないと認められる場合」の該当性について
・・・
すなわち,・・・,被告Y及び被告光源寺代表者の上記各供述部分からRが本件原観音像の完成後にその仏頭部を作り直す確定的な意図を有していたとまで認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,Rが,本件原観音像について,どのような感想を抱いていたかはさておき,本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為は,法20条1項所定のRの「意に反する・・・改変」と推認するのが相当であり,また法60条所定の「意を害しないと認められる場合」に該当するとまでは認めることはできず,この点に関する被告らの上記主張は,いずれも採用することができない。
ウ 法20条2項4号所定の「やむを得ないと認められる改変」の該当性について
・・・
しかし,たとえ,被告光源寺が,観音像の眼差しを半眼下向きとし,慈悲深い表情とすることが,信仰の対象としてふさわしいと判断したことが合理的であったとしても,そのような目的を実現するためには,観音像の仏頭をすげ替える方法のみならず,例えば,観音像全体を作り替える方法等も選択肢として考えられるところ,本件全証拠によっても,そのような代替方法と比較して,被告らが現実に選択した本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為が,唯一の方法であって,やむを得ない方法であったとの点が,具体的に立証されているとまではいえない。
・・・
エ 法113条6項(著作者人格権のみなし侵害)所定の「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」の該当性について
Rは・・・Rが死亡した平成11年9月28日から10年以上が経過した本件口頭弁論終結日(平成21年12月21日)の時点においてもなお,光源寺の檀家,信者や仏師等仏像彫刻に携わる者の間において,Rは「駒込大観音」を制作した仏師として知られているものと推認することができること等の事実を総合すれば,被告らによる本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為は,Rが社会から受ける客観的な評価に影響を来す行為である。
したがって,被告らによる本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為は,法113条6項所定の,「(著作者であるRが生存しているとしたならば,)著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」に該当するといえる。
事件名 著作権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成22年03月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明
当裁判所は,
①被告光源寺による本件観音像の仏頭部のすげ替え行為は,著作者であるRが生存しているとしたならばその著作者人格権(同一性保持権,法20条)の侵害となるべき行為であり,
②法113条6項所定の「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」に該当し,侵害とみなされるべき行為であり,
③法60条のただし書等により許される行為には当たらないと判断する。
したがって,原告はRの遺族として,法116条1項に基づいて,法115条に規定するRの名誉声望を回復するための適当な措置等を求めることができると解される。
そして,当裁判所は,すべての事情を総合考慮すると,法115条所定のRの名誉声望を回復するためには,被告らが,本件観音像の仏頭のすげ替えを行った事実経緯を説明するための広告措置を採ることをもって十分であり,法112条所定の予防等に必要な措置を命ずることは相当でないと判断するものである。
その理由は,以下のとおりである。以下,要件論(要件を充足性しているかの判断)と効果論(適切な回復措置に関する判断)と分けて,検討する。
(2) 要件論---要件充足性(法20条の同一性保持権侵害,法113条6項の著作者人格権のみなし侵害,及び法60条所定の要件該当性)について
ア 改変の有無について
・・・11体の化仏が付されたその仏頭部は,本件原観音像においてRの思想又は感情を表現した創作的部分であるといえる。
そうすると,本件原観音像の仏頭部の眼差しを修正する目的で行われたものであるとしても,被告らによる本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為は,本件原観音像の創作的部分に改変を加えたものであると認められる。
イ 法20条1項所定のRの「意に反する・・・改変」の該当性,及び法60条ただし書き所定のRの「意を害しないと認められる場合」の該当性について
・・・
すなわち,・・・,被告Y及び被告光源寺代表者の上記各供述部分からRが本件原観音像の完成後にその仏頭部を作り直す確定的な意図を有していたとまで認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,Rが,本件原観音像について,どのような感想を抱いていたかはさておき,本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為は,法20条1項所定のRの「意に反する・・・改変」と推認するのが相当であり,また法60条所定の「意を害しないと認められる場合」に該当するとまでは認めることはできず,この点に関する被告らの上記主張は,いずれも採用することができない。
ウ 法20条2項4号所定の「やむを得ないと認められる改変」の該当性について
・・・
しかし,たとえ,被告光源寺が,観音像の眼差しを半眼下向きとし,慈悲深い表情とすることが,信仰の対象としてふさわしいと判断したことが合理的であったとしても,そのような目的を実現するためには,観音像の仏頭をすげ替える方法のみならず,例えば,観音像全体を作り替える方法等も選択肢として考えられるところ,本件全証拠によっても,そのような代替方法と比較して,被告らが現実に選択した本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為が,唯一の方法であって,やむを得ない方法であったとの点が,具体的に立証されているとまではいえない。
・・・
エ 法113条6項(著作者人格権のみなし侵害)所定の「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」の該当性について
Rは・・・Rが死亡した平成11年9月28日から10年以上が経過した本件口頭弁論終結日(平成21年12月21日)の時点においてもなお,光源寺の檀家,信者や仏師等仏像彫刻に携わる者の間において,Rは「駒込大観音」を制作した仏師として知られているものと推認することができること等の事実を総合すれば,被告らによる本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為は,Rが社会から受ける客観的な評価に影響を来す行為である。
したがって,被告らによる本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為は,法113条6項所定の,「(著作者であるRが生存しているとしたならば,)著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」に該当するといえる。