知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

法113条6項の要件論

2010-04-06 06:15:29 | 著作権法
事件番号 平成21(ネ)10047
事件名 著作権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成22年03月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

当裁判所は,
①被告光源寺による本件観音像の仏頭部のすげ替え行為は,著作者であるRが生存しているとしたならばその著作者人格権(同一性保持権,法20条)の侵害となるべき行為であり,
②法113条6項所定の「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」に該当し,侵害とみなされるべき行為であり,
③法60条のただし書等により許される行為には当たらないと判断する


したがって,原告はRの遺族として,法116条1項に基づいて,法115条に規定するRの名誉声望を回復するための適当な措置等を求めることができると解される。
 そして,当裁判所は,すべての事情を総合考慮すると,法115条所定のRの名誉声望を回復するためには,被告らが,本件観音像の仏頭のすげ替えを行った事実経緯を説明するための広告措置を採ることをもって十分であり,法112条所定の予防等に必要な措置を命ずることは相当でないと判断するものである。

その理由は,以下のとおりである。以下,要件論(要件を充足性しているかの判断)と効果論(適切な回復措置に関する判断)と分けて,検討する。

(2) 要件論---要件充足性(法20条の同一性保持権侵害,法113条6項の著作者人格権のみなし侵害,及び法60条所定の要件該当性)について

ア 改変の有無について
・・・11体の化仏が付されたその仏頭部は,本件原観音像においてRの思想又は感情を表現した創作的部分であるといえる。
 そうすると,本件原観音像の仏頭部の眼差しを修正する目的で行われたものであるとしても,被告らによる本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為は,本件原観音像の創作的部分に改変を加えたものであると認められる

イ 法20条1項所定のRの「意に反する・・・改変」の該当性,及び法60条ただし書き所定のRの「意を害しないと認められる場合」の該当性について
・・・
すなわち,・・・,被告Y及び被告光源寺代表者の上記各供述部分からRが本件原観音像の完成後にその仏頭部を作り直す確定的な意図を有していたとまで認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない
 そうすると,Rが,本件原観音像について,どのような感想を抱いていたかはさておき,本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為は,法20条1項所定のRの「意に反する・・・改変」と推認するのが相当であり,また法60条所定の「意を害しないと認められる場合」に該当するとまでは認めることはできず,この点に関する被告らの上記主張は,いずれも採用することができない。

ウ 法20条2項4号所定の「やむを得ないと認められる改変」の該当性について
・・・
 しかし,たとえ,被告光源寺が,観音像の眼差しを半眼下向きとし,慈悲深い表情とすることが,信仰の対象としてふさわしいと判断したことが合理的であったとしても,そのような目的を実現するためには,観音像の仏頭をすげ替える方法のみならず,例えば,観音像全体を作り替える方法等も選択肢として考えられるところ,本件全証拠によっても,そのような代替方法と比較して,被告らが現実に選択した本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為が,唯一の方法であって,やむを得ない方法であったとの点が,具体的に立証されているとまではいえない
・・・

エ 法113条6項(著作者人格権のみなし侵害)所定の「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」の該当性につい
 Rは・・・Rが死亡した平成11年9月28日から10年以上が経過した本件口頭弁論終結日(平成21年12月21日)の時点においてもなお,光源寺の檀家,信者や仏師等仏像彫刻に携わる者の間において,Rは「駒込大観音」を制作した仏師として知られているものと推認することができること等の事実を総合すれば,被告らによる本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為は,Rが社会から受ける客観的な評価に影響を来す行為である。

 したがって,被告らによる本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為は,法113条6項所定の,「(著作者であるRが生存しているとしたならば,)著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」に該当するといえる。

著作権法32条1項の引用に該当するとした事例

2010-02-21 21:43:52 | 著作権法
事件番号 平成20(ワ)32148
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成22年01月27日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

(4) まとめ
以上のとおり,被告各図表は,いずれも,被告書籍の表現形式上,利用する側の著作物であるAの執筆部分と明確に区別して認識することができると認められ,また,偶数頁に掲載されたAの執筆部分の記載内容を,読者に視覚的に分かりやすく伝えるための補足資料として利用されたものにすぎず,Aの執筆部分が主,被告各図表が従という関係にあると認めることができる(・・・。)。

 そして,被告書籍における原告各図表の利用行為が上記のようなものでありまた原告各図表の利用に当たり,「出典:月刊ネット販売」と明記されていることからすれば,被告書籍に被告各図表を掲載した被告の行為は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,引用の目的上正当な範囲内で行われたものと認めることができる。

 したがって,仮に,原告各図表が編集著作物であるとしても,被告が被告書籍において原告各図表を利用した行為は,著作権法32条1項の引用に該当し,適法なものと認めることができる。

歴史的事実を素材として叙述されたノンフィクション作品の保護の対象

2010-02-07 11:07:16 | 著作権法
事件番号 平成20(ワ)1586
事件名 著作権侵害差止等請求反訴事件
裁判年月日 平成22年01月29日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎


1 争点1(被告らによる原告の複製権又は翻案権侵害の成否)について
 原告は,
 別紙対比表1の各原告書籍記述部分(下線部分)はそれぞれが表現上の創作性を有する著作物であり,同対比表の各被告書籍記述部分(下線部分)は上記各原告書籍記述部分と表現上の同一性又は類似性を有し,また,
 別紙対比表2,3,仙之助及び正造を主人公とした章全体の各原告書籍記述部分とこれらに対応する各被告書籍記述部分は,歴史的事実が共通するのみならず,表現方法,事実の取捨選択,配列等の創作的部分において同一性又は類似性を有し,
 しかも,被告書籍は原告書籍に依拠して執筆されたものであるから,上記各被告書籍記述部分は,上記各原告書籍記述部分を複製又は翻案したものである旨主張する。


 ところで,原告書籍のように,歴史的事実を素材として叙述されたノンフィクション作品においては,基礎資料からどのような歴史的事実を取捨選択し,その歴史的事実をどのように評価し,どのような視点から,どのような筋の運び,ストーリー展開,言い回し,語句等を用いて具体的に叙述したかといった点に筆者の個性が現れるものといえるが,著作権法は,思想又は感情の創作的表現を保護するものであり(同法2条1項1号参照),思想,感情又はアイデア,事実又は事件など表現それ自体でないものや,表現であっても,表現上の創作性がない部分は保護の対象とするものではないから,ノンフィクション作品においても,叙述された表現のうち,表現上の創作性を有する部分のみが著作権法の保護の対象となるものであり,素材である歴史的事実そのものや特定の歴史的事実を取捨選択したことそれ自体には著作権法の保護が及ぶものではないものと解される。

 そして,複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により著作物を有形的に再製することをいい(著作権法2条1項15号参照),また,言語の著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解されるから(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照),被告書籍記述部分がこれに対応する原告書籍記述部分の複製又は翻案に当たるか否かを判断するに当たっては,被告書籍記述部分において,原告書籍記述部分における創作的表現を再製したかどうか,あるいは,原告書籍記述部分の表現上の本質的特徴を直接感得することができるかどうかを検討する必要がある

オークションの出品カタログへの美術品の画像掲載の判断事例

2009-12-13 18:21:57 | 著作権法
事件番号 平成21(ワ)31480
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成21年11月26日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸


第2 事案の概要
 本件は,絵画等の美術品の著作権者である原告らが,被告においてオークションの出品カタログ等に原告らが著作権を有する美術品の画像を掲載し,また,その一部をインターネットで公開したことにより,原告らの複製権及び原告Aの公衆送信権を侵害したとして,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償の一部として・・・の支払を求めた事案である。

第3 当裁判所の判断
・・・
3 争点1(引用(著作権法32条1項)として適法か)について
 被告は,本件フリーペーパーの綴じ込みカタログ,本件パンフレット及び本件冊子カタログに本件著作物の画像を掲載したことは,いずれも著作権法32条1項の「引用」として適法な行為であると主張する。

 著作権法32条1項は「公表, された著作物は,引用して利用することができる。この場合において,その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」と定める。ここにいう引用とは,報道,批評,研究その他の目的で,自己の著作物の中に他人の著作物の全部又は一部を採録することをいうと解され,この引用に当たるというためには,引用を含む著作物の表現形式上,引用して利用する側の著作物と,引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ,かつ,両著作物の間に前者が主,後者が従の関係があると認められる場合でなければならないというべきである(最高裁判所第三小法廷昭和55年3月28日判決参照)。

 前記認定事実のとおり,本件フリーペーパーの綴じ込みカタログ,本件パンフレット及び本件冊子カタログの作品紹介部分は,作者名,作品名,画材及び原寸等の箇条書きがされた文字記載とともに,本件著作物を含む本件オークション出品作品を複製した画像が掲載されたものであったことが認められるものの,この文字記載部分は,資料的事項を箇条書きしたものであるから,著作物と評価できるものとはいえない。
 また,このような上記カタログ等の体裁からすれば,これらのカタログ等が出品作品の絵柄がどのようなものであるかを画像により見る者に伝えるためのものであり,作品の画像のほかに記載されている文字記載部分は作品の資料的な事項にすぎず,その表現も単に事実のみを箇条書きにしたものであることからすれば,これらカタログ等の主たる部分は作品の画像であることは明らかである。本件冊子カタログの作者紹介部分についても,文字記載部分は,単に作者の略歴を記載したものであるから,著作物とはいえず,また,作品の画像が主たる部分であると認められる。

 したがって,本件フリーペーパーの綴じ込みカタログ,本件パンフレット及び本件冊子カタログのいずれについても,本件著作物の掲載が「引用」に該当すると認めることができず,被告の主張は採用することができない。


4 争点2(展示に伴う複製(著作権法47条)として適法か(本件フリーペーパー及び本件パンフレットへの掲載に関して))について
 被告は,本件フリーペーパーの綴じ込みカタログ及び本件パンフレットは,本件オークション又はその下見会で本件著作物を展示するに当たって観覧者に本件著作物を紹介するために作成されたものであって著作権法47条の「小冊子」に該当するので,これに本件著作物の画像を掲載したことは適法な行為であると主張する。

 著作権法47条は,「美術の著作物又は写真の著作物の原作品により,第25条に規定する権利を害することなく,これらの著作物を公に展示する者は,観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小冊子にこれらの著作物を掲載することができる。」と定める。このように「小冊子」は「観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする」ものであるとされていることからすれば,観覧する者であるか否かにかかわらず多数人に配布するものは,「小冊子」に当たらないと解するのが相当である。

ソフトウェアの複製権の侵害の判断事例

2009-12-05 21:23:43 | 著作権法
事件番号 平成20(ワ)21090
事件名 著作権侵害差止等請求
裁判年月日 平成21年11月09日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

(2) 著作権(複製権)の侵害について
ア(ア) 被告は,被告ソフトウェアについて,原告ソフトウェアとは異なる機能を追加,変更し,そのためのプログラム・ソースを作成していることをもって,原告ソフトウェアのプログラムとは異なる新規性があると主張し,具体的にも,例えば,・・・などと主張する。そして,原告ソフトウェアと被告ソフトウェアのソースコードが同一である部分については,被告システムの思想を実現するための基礎知識として利用したにすぎないとも主張する
 しかしながら,このような被告の主張自体,原告ソフトウェアに依拠して,被告ソフトウェアを作成したことを自認したものということができる。

 また,証拠(・・・)及び弁論の全趣旨によれば,原告ソフトウェアの45個のファイル中,43個のファイル名につき,被告ソフトウェアに同一のファイル名のものが存在すること,被告ソフトウェアのソースコードには,原告ソフトウェアの機能を変更し,又は新たな機能を付加したもの等に関し,原告ソフトウェアのソースコードに新たに付加した部分又はこれを変更した部分があるものの,その余の部分については,原告ソフトウェアのソースコードと同一又は類似していることが,それぞれ認められる(・・・。)。

(イ) したがって,被告ソフトウェアのプログラムは,原告ソフトウェアのプログラムに依拠して作成されたものであり,かつ,実質的にこれと同一のものであると認められるから,原告の原告ソフトウェアのプログラムについての著作権(複製権)を侵害するものであると認められる。

イ 被告の主張について
(ア) 被告は,仮にソースコードに似ている点があったとしても,・・・という思想に基づき創作されたものであって,その背景にある思想は,原告ソフトウェアとは全く異なることをもって,著作権侵害はないと主張する
 しかしながら,被告ソフトウェアのプログラムが,原告ソフトウェアのプログラムに変更を加え,独自の機能を付加し,又はその性能を向上させたものであって,その点に独自性を有するとしても,原告ソフトウェアのプログラムに依拠し,その内容及び形式を覚知することができるものを再製した場合(最高裁昭和50年(オ)第324号同53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照),又は,原告ソフトウェアのプログラムに依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が原告ソフトウェアのプログラムの表現上の本質的特徴を直接感得することができる別の著作物を創作した場合(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)には,原告ソフトウェアの著作権(複製権又は翻案権)の侵害となることが明らかであるから,このような被告の主張は,それ自体失当であるといわざるを得ない。

(イ) また,被告は,原告ソフトウェアのソースコードは被告が作成したものであって,それを基礎知識として利用して被告ソフトウェアが作成されたにすぎないから,被告ソフトウェアは,原告ソフトウェアの著作権を侵害しないとも主張する。
 しかしながら,たとえ被告が原告ソフトウェアのソースコードを作成したとしても,前記.イのとおり,その著作者は,原告となり,その著作権も原告に帰属するから,このような被告の主張も,失当であるといえる。


最高裁昭和50年(オ)第324号同53年9月7日第一小法廷判決

最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決


著作権の行使を権利の濫用に当たり許されないとした事例

2009-11-08 18:00:51 | 著作権法
事件番号 平成19(ワ)16747
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成21年10月15日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三

(3) 被告プログラム作成を理由とする損害賠償請求の可否
 上記のとおり,
 被告プログラムは適切なパラメータ設定を探るためにのみ作成されたものであり,適切なパラメータ設定のためには実際に幾つかのパラメータを設定してプログラムを動作させる必要があることに加え,

 被告プログラムの基となった本件プログラム2は,もともと原告が被告P3のアイデア(乙6プログラム)を本件プログラム1に移植する形で作成したものであること,

 原告が本件プログラム2を作成した時点では,既に本件プログラム1のソースコードは被告P2に開示されており,本件プログラム2のソースコードも開示されていたと考えられること,

 被告P3は被告P2の指示の下で被告プログラムを作成したこと,

 被告プログラムは第三者に開示も頒布もされておらず,他方で第三者に頒布された乙5プログラム及び乙50プログラムは本件各プログラムとは異なるものであること

が認められ(・・・),これらの事情を総合すれば,被告P3が被告プログラム作成に当たって本件プログラム2を複製又は翻案したことがあったとしても,かかる行為のみを理由として著作権侵害を主張し,損害賠償を請求することは,権利の濫用(民法1条3項)に当たり許されないものというべきである

 よって,仮に本件プログラム2が著作権法上の著作物と認められ,原告がその著作者であるとしても,これに基づいて被告P3の複製又は翻案行為について著作権の行使をすることは,権利の濫用に当たり許されないから,その余の争点について判断するまでもなく,原告の被告P3に対する請求には理由がない。

著作権法114条3項にいう「受けるべき金銭の額」

2009-10-13 06:52:29 | 著作権法
事件番号 平成21(ネ)10042
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成21年09月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 その他
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(1) 著作権法114条3項にいう「受けるべき金銭の額」
 著作権法114条3項は,著作権者は故意又は過失によりその著作権を侵害した者に対し,その著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として,その賠償を請求することができることを定めるところ,同項は,著作権者が受ける通常の使用料相当額を最低限の損害賠償額として保証する趣旨の規定である。
 そして,同項の著作権の行使につき「受けるべき金銭の額」との文言は,平成12年法律第56号による改正前の同法114条3項における「通常受けるべき金銭の額」との文言が改正されたものであり,同改正の趣旨は,同項の使用料相当額の認定に当たっては,一般的相場にとらわれることなく,当事者間の具体的事情を考慮して妥当な使用料額を認定することができるようにする,というものであると解される

(2) 本件における事情
・・・

(3) 本件各映画の著作権の使用料相当額
 上記(2)イのとおり,使用料率の一般的な相場として,現実の販売価格の20%又は25%とされていることからすると,一般に現実の販売価格よりも高額であると考えられる表示小売価格を基準とする場合には,使用料は使用料率についての相場を適用する場合よりも実質的に高額となる。
 しかしながら,本件各映画については,上記(2)ア(エ)のとおり,控訴人とジェネオンとの間の本件基本契約及び本件個別契約によって,・・・,DVD1本当たり●円を使用料とすることが合意されていたのであり,しかも,この合意が独占的,かつ,排他的な許諾を前提とするものであったのであるから,少なくとも本件各映画については,著作権者である控訴人が,同条件を下回る条件において,第三者に対して使用を許諾することは想定できないというべきである。

 そうすると,本件各映画の著作権の使用料相当額について,表示小売価格よりも廉価で販売されることを想定して,使用料相当額の算定の基準を変動させるべき理由はないというべきであるから,・・・と算定すべきである。

(4) 被控訴人の主張について
 被控訴人は,本件DVDの現実の販売価格が1000円であったと主張して,したがって,著作権法114条3項の規定を適用して被控訴人が控訴人に対して賠償すべき損害金の額を算定する場合にも,当該販売価格を基準に損害金の額が算定されるべきものであるかのようにいうが,控訴人において,正規の取引において,前記認定の使用料を得べかりしものであった以上,その使用料を基準に著作権法114条3項の規定を適用することに問題はなく,仮に正規の取引においては,その実施料を当該取引の実情に応じて減額するようなことがあったとしても,著作権侵害に係る輸入・販売行為が行われた本件において,前記認定の実施料を下回る損害金の額しか賠償を求め得ないというべき事情はなく,被控訴人の主張は失当というほかない。

 さらに,被控訴人は,本件DVDを購入するのは,高額な前記表示価格が設定されたままでは本件DVDを購入し得ない消費者であるから,結局のところ,控訴人に損害は生じていないようにも主張するが,仮にそのような事情が認められるとしても,被控訴人による本件DVDの輸入・販売行為が著作権侵害に当たるものである以上,控訴人が受けるべき金銭の額に相当する額を損害金として賠償すべきは当然であって,この点の被控訴人の主張も失当といわざるを得ない。

意匠の類否判断において考慮すべきでない特徴

2009-09-13 10:22:29 | 著作権法
事件番号 平成21(行ケ)10051
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年08月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


3 審決の理由及び本訴における被告の主張について
(1)・・・

(2) 被告は,成形ロールの分野においては,凹部の形状が,円形状でないものも存在するから,本願意匠と引用意匠とは,凹部の円形状を選択した点に共通の特徴があり,その点を重視すべきであると主張する

 しかし,被告の主張は,以下のとおり失当である。仮に,凹部の円形形状を選択した点に,本願意匠と引用意匠の共通点があることを前提としたとしても,そのことが,本願意匠と引用意匠との類否の判断に当たって,凹部の配列などその他の特徴点を考慮に入れるべきでないことの根拠にはならない

 また,被告は,成形ロールにおける意匠の類否は,成形ロールそのものが起こさせる全体的な美感の観点から判断すべきであり,そのような観点に照らすならば,凹部間の平坦部の差異に着目すべきではなく,凹部の集合体として観察するのが相当であると主張する

 しかし,被告のこの点の主張も失当である。
 すなわち,専ら機能的な理由により,凹部の配置が制約を受け,特定の配置,間隔しか選択できないような事情が存在するような場合には,凹部の特定の配置等に特徴があったとしても,その特徴を考慮すべきでないということができるが,本願意匠及び引用意匠において,そのような特段の事情は,主張,立証がされていないから,被告の主張は採用の限りでない。
 確かに,成型ロール等の機械の分野において,その需要者が,凹部の配置等によって惹起される美感等を重視して,当該製品を購入するか否かを決定する例は,少ないであろうことは容易に推認されるが,そのような実情があったとしても,類否の判断に当たり,成形ロールの全体の形状のみを考慮に入れるべきであって,凹部の配置,間隔,パターン等の特徴を考慮に入れるべきではないとする根拠にはならない。

手あそび歌の著作物性の判断事例

2009-09-13 10:05:23 | 著作権法
事件番号 平成20(ワ)4692
事件名 出版差止等請求事件
裁判年月日 平成21年08月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

3 個々の歌詞及び振付けの著作物性(争点3-1)について
(1) 原告は,別紙歌詞・振付け目録記載のとおり,原告書籍に掲載・収録された「いっぽんといっぽんで」,「ピクニック」,「グーチョキパーでなにつくろう」及び「さかながはねて」の各歌詞及び振付け,「キラキラぼし」の振付けは,原告の従業員が独自に創作したものであり,上記各歌詞及び振付けにおける表現は創作性を有するから,いずれも著作物に当たる旨主張するので,順次検討する。

・・・

ウ「グーチョキパーでなにつくろう」の歌詞及び振付け
(ア) まず,原告主張の「グーチョキパーでなにつくろう」の歌詞の著作物性について判断する。
 ・・・
 原告が独自に創作したと主張する歌詞は,「みぎてがグーでひだりてがパーでめだまやきめだまやき」,「みぎてがパーでひだりてもパーでおすもうさんおすもうさん」,「みぎてがグーでひだりてもグーでゴリラゴリラ」というものであり(別紙歌詞・振付け目録記載の3.),右手のグーと左手のパーを組み合わせて「めだまやきめだまやき」とした部分,既存の歌詞から左右のパーを組み合わせて表現するものを「おすもうさんおすもうさん」に置き換えた部分,左右のグーを組み合わせて「ゴリラゴリラ」とした部分に創作性があるというものである。

 そこで検討するに,原告主張の上記歌詞は,左右の手でグー・チョキ・パーの形を作り,これを組み合わせて動物等の動作を一節で表現する手あそび歌である「グーチョキパーでなにつくろう」の趣旨に沿った歌詞の一部であり,グーとパーを組み合わせて「目玉焼き」,左右のパーを組み合わせて「相撲取り」,左右のグーを組み合わせて「ゴリラ」というアイデアが決まれば,上記の歌詞のようにそれぞれ表現することは,ありふれたものであると認められる。
 また,手あそびは,元の歌詞の一部の言葉等を替えるのもあそび方の一つであり,「グーチョキパーでなにつくろう」においても,原告書籍本体の上記記載部分に「子どもたちの好きなどうぶつやたべものでうたったり,ずかんや写真を見せて自由に考えさせたりしてもよいでしょう。」との記載があるように,原告が創作性があると主張する上記部分は,表現する対象を自由に替えて遊ぶことが想定されている箇所であるといえるから,このような歌詞の一部の表現を著作物として保護するのは相当ではないものと解される。

b したがって,原告主張の上記歌詞は,創作性を有する著作物であるものと認めることはできない。

(イ) 次に,原告主張の前記(ア)の歌詞に対応する振付けの著作物性について判断する。
a そこで検討するに,原告が独自に創作したと主張する振付けは,別紙歌詞・振付け目録記載の3.(画像部分を含む。)のとおりであるが,以下のとおり,上記振付けは,いずれも誰もが思いつく,ありふれたものであると認められる。

① 原告主張の上記振付けのうち「みぎてがグーでひだりてがパーでめだまやきめだまやき」の部分は,・・・左手の甲(パー)の上に右手の拳(グー)を載せるというものであり,上記歌詞に合わせて右手のグーと左手のパーを組み合わせて「目玉焼き」を表現しようとする場合に,上記のような動作で表現することは,ありふれたものであると認められる。

② 原告主張の上記振付けのうち「みぎてがパーでひだりてもパーでおすもうさんおすもうさん」の部分は,・・・左右の手のひら(パー)を交互に突き出すというものであり,上記歌詞に合わせて左右のパーを組み合わせて「相撲取り」を表現しようとする場合に,上記のように相撲取りが突っ張りをする動作で表現することは,ありふれたものであると認められる。

③ 原告主張の上記振付けのうち「みぎてがグーでひだりてもグーでゴリラゴリラ」の部分は,・・・左右の拳(グー)で交互に胸をたたくというものであり,上記歌詞に合わせて左右のグーを組み合わせて「ゴリラ」を表現しようとする場合に,上記のようにゴリラが胸をたたく動作で表現することは,ありふれたものであると認められる。

b したがって,原告主張の上記振付けは,創作性を有する著作物であるものと認めることはできない。

(ウ) 以上によれば,原告主張の「グーチョキパーでなにつくろう」の歌詞及び振付けは,著作物には当たらない。

編集著作物の複製権侵害の有無の判断事例

2009-09-13 10:04:06 | 著作権法
事件番号 平成20(ワ)4692
事件名 出版差止等請求事件
裁判年月日 平成21年08月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

2 編集著作物の複製権侵害の有無(争点2)について
(1) 原告は,被告書籍本体には原告書籍本体の手あそび歌の掲載曲63曲中35曲と同一曲名の曲が掲載され,被告DVDには原告DVDの収録曲29曲中22曲(・・・)と同一曲名の曲が収録され,また,上記掲載又は収録された曲に係る振付けもそっくりそのままのものであるから,被告書籍本体及び被告DVDには,編集著作物である原告書籍本体及び原告DVDにおける素材(手あそび歌の曲名及び振付け)の選択の創作的表現がそれぞれ有形的に再製され,かつ,被告書籍本体及び被告DVDは原告書籍本体及び原告DVDに依拠して作成されたものであるから,被告による被告書籍の発行は,編集著作物である原告書籍本体及び原告DVDの原告の複製権の侵害に当たる旨主張する

 しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。

ア 前記前提事実(3)ウのとおり,原告書籍本体の掲載曲(全63曲)と被告書籍本体の掲載曲(全63曲)との重複曲(曲名が同一のもの)は35曲,原告DVDの収録曲(全29曲)及び被告DVDの収録曲(全44曲)との重複曲(曲名が同一のもの)は21曲である(別紙曲名一覧の着色部分参照)。
 ・・・

イ 原告書籍本体及び原告DVDは,それぞれ掲載曲(全63曲)及び収録曲(全29曲)の曲名及び振付けの選択において創作性を有する編集著作物に当たることは,前記1(1)イ認定のとおりである。

 このことは,上記曲名及び振付けの選択の創作的表現は,前記1(1)イ認定の編集方針に基づいて選択された結果としての原告書籍本体における掲載曲全曲の曲名及び振付けの選択,原告DVDにおける収録曲全曲の曲名及び振付けの選択において顕れていることを意味するものである。

 そうすると,原告書籍本体の掲載曲(全63曲)の一部である35曲と同一の曲名の曲が被告書籍本体に掲載され,原告DVDの収録曲(全29曲)の一部である21曲と同一の曲名の曲が被告DVDに収録されているからといって,原告書籍本体及び原告DVDにおける上記曲名の選択の創作的表現が被告書籍本体及び被告DVDに再製されていると直ちに認めることはできない

 また,手あそび歌の書籍に掲載する曲として定番の曲や人気の高い曲を選択することは普通に思い着く着想であり,そのような着想に基づいて曲を選択すれば,手あそび歌の類書間の掲載曲に定番の曲や人気の高い曲の重複が生じることは避けられない事態であるというべきところ,前記1(1)イ認定のとおり,原告書籍本体では,定番の曲を外さず,幼稚園で人気が高く,よく遊ばれているものを選択することを基本とし,また,原告DVDの収録曲については,原告書籍本体の掲載曲のうち,幼稚園の教諭の意見を取り入れて子供たちがより喜ぶ人気曲を選択する方針とされたことに照らすならば,原告書籍本体及び被告書籍本体の掲載曲の重複曲,原告DVD及び被告DVDの収録曲との重複曲の中にも,定番の曲や人気の高い曲が相当程度含まれているものとうかがわれる。
 この点からも原告書籍本体の掲載曲の一部及び原告DVDの収録曲の一部が重複するからといって原告書籍本体及び原告DVDにおける上記曲名の選択の創作的表現が被告書籍本体及び被告DVDに再製されているものと直ちに認めることはできない

 しかるに,本件において,原告は,原告書籍本体及び被告書籍本体の掲載曲の重複曲の選択,原告DVD及び被告DVDの収録曲との重複曲の選択において創作性を有することの主張立証を行うことなく,単に一部の重複の事実をもって原告書籍本体及び原告DVDにおける手あそび歌の曲名の選択の創作的表現が有形的に再製されていると主張するにとどまっている
 したがって,被告書籍本体及び被告DVDにおいて原告書籍本体及び原告DVDにおける手あそび歌の曲名の選択の創作的表現が有形的に再製されているものと認めることができないから,当該曲名に対応する各曲の振付けが同一であるかどうかを検討するまでもなく,被告書籍本体及び被告DVDにおいて原告書籍本体及び原告DVDにおける素材(手あそび歌の曲名及び振付け)の選択の創作的表現が有形的に再製されているものと認めることはできない。

CAD図面の著作物性の判断事例

2009-07-20 18:01:57 | 著作権法
事件番号 平成19(ワ)13494
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成21年07月09日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中俊次

1 争点1(本件CAD図面の著作物性)について
(1) はじめに
 著作権法は,「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定めており(2条1項1号),思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体でないもの又は表現上の創作性がないものについては,著作権法によって保護することはできず,これを著作物ということはできない。
 原告は,創作1ないし11eを具備することを根拠として本件CAD図面が著作権法上保護される著作物であると主張しているので,まず,上記観点に照らして創作1ないし11eが本件CAD図面の著作物性を根拠づけるものといえるかについて総括的に検討し,続いて,個別の本件CAD図面について,その著作物性を判断するために必要な検討を加えることとする。

・・・

(3) 本件CAD図面の著作物性の検討方法
ア 以上に検討したとおり,原告が主張する創作作1,5ないし10,11b,11c,11d,11eは,いずれもアイデアそのものであって表現に当たらないものであるか,表現であっても極めてありふれたものにすぎず,それ自体として創作性のある表現であることを基礎づけるものとはなり得ないものである。
 しかし,創作2ないし4及び11aに関しては,その表現内容いかんによっては,創作性を認める余地がある。そこで,以下,個別の本件CAD図面を確認して表現上の創作性の有無を判断することとする。

イ ところで,前記前提事実のとおり,P 1は,被告から交付された本件カタログ及び一部被告製品の現物に依拠して本件CAD図面を作成したものである。そうすると,本件カタログに描かれている被告製品の図面が図形の著作物に当たるか否かはともかく,本件CAD図面のうち上記図面を通常の作図方法に従って再現した部分には創作性を認める余地がなく,これに新たに付与された創作的部分のみについて著作権が生ずるものと解される。

 したがって,本件CAD図面が本件カタログに描かれている被告製品の図面の内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製したものにすぎないものであるか,又は何ら創作的な部分を付与したものでなければ,本件CAD図面が著作権による保護の対象とはならない。また,P 1は,一部被告製品にも依拠して本件CAD図面を作成したものである。したがって,本件CAD図面のうち被告製品の現物を通常の作図法に従って再現した部分にも創作性が認められず,これに新たに付与された創作的部分のみについて著作権が生じることは,上記同様である

 この点,原告は,本件CAD図面は,プリント出力される以前にコンピューター内で完成しているコンピューター創作物であり,本件カタログとは表現形式が全く異なるから,本件カタログは本件CAD図面の著作物性の有無を判断する対象とはならないと主張する。
 しかし,本件において創作性を認める余地のある創作2ないし4及び11aは,いずれもCAD図面に係るデータ構成上の創意工夫ではなく作図上の創意工夫であることが明らかであり,P 1は本件カタログの被告製品の図面に依拠して本件CAD図面を作成したのであるから,本件CAD図面と本件カタログの図面を対比するのは当然というべきである。

ウ また,本件CAD図面は,主として,CADによって設計業務を行う際にCAD化された被告製品の設計図への取込みを可能にすることを目的として作成されたものであるから,被告製品の形状,寸法等を把握できるよう,通常の作図法に従い正確に描かれている必要があるから,具体的な表現に当たってP 1が個性を発揮することができる範囲は広くないといえる。
 そうすると,本件CAD図面と本件カタログの図面に相違部分があったり,本件CAD図面に本件カタログにはない図が追加されていたとしても,当該相違部分や追加された図が通常の作図法とは異なる方法で表現されているなど,P 1の個性の現れを基礎付ける具体的な事実が立証されない限り,その部分に表現上の創作性を認めることはできないというべき
である。
エ 以下,個別の本件CAD図面について,上記イ,ウの観点に照らして創作2ないし4及び11aに関する原告の主張を検討し,著作物性を判断することとする。

新旧著作権法の著作者

2009-05-18 05:27:03 | 著作権法
事件番号 平成20(ワ)6848
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成21年04月27日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

(2)本件各映画の著作者について
ア 本件各映画は,いずれも新著作権法が施行される前に創作された映画の著作物であり,同法附則4条によれば,映画の著作物の著作者に関する規定である同法16条は適用されないから,本件各映画の著作者がだれかに関しては,旧著作権法によることになる。そして,旧著作権法においては,映画の著作物の著作者について直接定めた規定はないのみならず,そもそも著作物一般についての著作者の定義や著作物の定義を定める規定もない

 他方で,
 新著作権法では,著作物及び著作者の定義規定が設けられている(同法2条1項1号及び2号)が,その内容が旧著作権法における著作物及び著作者についての解釈と異なるのであれば(・・・),・・・,何らかの経過措置が設けられるのが通常と考えられるところ,これに関する経過規定は設けられていない
 また,
 旧著作権法の下で公表された著作物の著作権が,新著作権法の下でも存続することを前提とした規定(例えば,同法附則7条)もある
 これらのことからすれば,新著作権法における著作者及び著作物の定義は,旧著作権法における著作者及び著作物の定義を変更したものではないと解するのが相当である。

 なお,旧著作権法の下における裁判例においても,著作物とは,「著作者の精神的所産たる思想内容の独創的表現たることを要す」(大審院昭和11年(オ)第1234号同12年11月20日第三民事部判決・法律新聞4204号3頁参照),「精神的労作の所産である思想または感情の独創的表白であって,客観的存在を有し,しかも文芸,学術,美術の範囲に属するもの」(東京地裁昭和40年8月31日判決・下民集16巻8号1377頁参照)等と解されている。
 したがって,旧著作権法における著作物とは,新著作権法と同様,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいい,また,旧著作権法における著作者とは,このような意味での著作物を創作する者をいうと解される。そして,思想又は感情を創作的に表現できるのは自然人のみであることからすると,旧著作権法においても,著作者となり得るのは,原則として自然人であると解すべきである

イ このように,著作者となり得るのは,原則として自然人であることを前提として,制作,監督,演出,撮影,美術の担当者等多数の自然人の作業により製作されるという映画の著作物の製作実態を踏まえると,旧著作権法においても,新著作権法16条と同様,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当して映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者は,当該映画の著作物の著作者であると解するのが相当である。

 なお,新著作権法附則4条は,同法16条の規定は,同条の施行前に創作された著作物については,適用しない旨定めている
 しかしながら,旧著作権法において,映画の著作物の著作者につき,新著作権法16条と同様の解釈をすることを妨げるような事情があるとは認められないことからすれば,同法附則4条が同法16条を適用しないこととしたのは,同条が新設規定であることに照らして,旧著作権法の下で公表された映画の著作者については旧著作権法における解釈に委ねる趣旨の規定であって,旧著作権法において新著作権法16条と同様の解釈をすることを積極的に排除する趣旨まで含むものではないと解される。・・・

 これらのことからすれば,新著作権法附則4条は,旧著作権法の下で公表された映画の著作物の著作者について,新著作権法16条と同様の解釈をすることを妨げるものではないと解される。

ウ これを本件各映画についてみると,証拠(甲1,2,11)並びに前記第2の1(2)ア及びイによれば,Aは本件各映画の監督を務め,脚本の作成にも参加するなどしていることが認められるから,本件各映画の全体的形成に創作的に寄与している者と推認され,これに反する証拠もない。したがって,Aは,他に著作者が存在するか否かはさておき,少なくとも本件各映画の著作者の一人であると認められる。

(3)本件各映画の著作名義について
ア 前記第2の1(3)のとおり,旧著作権法は,3条から9条まで著作権の保護期間に関する規定を置いているところ,3条1項は,発行又は興行した著作物の著作権の存続期間を著作者の生存する間及びその死後30年間と定め,4条は,著作者の死後に発行又は興行した著作物の著作権の存続期間を発行又は興行の時から30年間と定め,5条本文は,無名又は変名の著作物の著作権の存続期間を発行又は興行の時から30年間と定め,ただし書で,その期間内に著作者の実名登録を受けたときは3条の規定に従うこととし,6条は,団体の名義をもって発行又は興行した著作物の著作権の存続期間を発行又は興行の時から30年間と定めていた。

 このような旧著作権法における著作権の保護期間に関する規定全体の構成に加え,前記(2)アのとおり,旧著作権法においては,著作者となり得る者は原則として自然人であると解されることにかんがみると,旧著作権法は,著作物の存続期間につき,原則として自然人である著作者の死亡の時を基準とすることを定めた上で,著作者又はその死亡時期が特定できないためこの基準によることができない無名又は変名の著作物及び創作行為を行った自然人を判別することができず,また,著作物の名義人の死亡時期を観念することができない団体名義の著作物については,5条又は6条で発行又は興行の時を基準とすることとしたものと解される
 そうすると,旧著作権法6条が定める団体名義の著作物とは,当該著作物の発行又は興行が団体名義でされたため,当該名義のみからは創作行為を行った者を判別できず,また,著作物の名義人の死亡時期を観念することができない著作物をいうと解するのが相当である。

イ これを本件についてみると,証拠(甲9,10),前記第2の1(2)の各事実及び弁論の全趣旨によれば,本件各映画は,旧大映が製作したものであるところ,その冒頭部分において,本件映画1では「大映株式曾社製作」,本件映画2では「大映株式會社製作」との表示がされるとともに,「監督A」との表示がされていることが認められる。
 そして,前記(2)のとおり,Aが本件各映画の著作者であると認められることからすれば,この「監督A」との表示は,著作者であるAの実名が表示されたものと認められる。

 そうすると,本件各映画は,著作者の実名が表示された著作物であって,創作行為を行った者を判別できず,また,著作物の名義人の死亡時期を観念することができない著作物であるとはいえないから,本件映画1に「大映株式曾社製作」との表示が,本件映画2に「大映株式會社製作」との表示があるからといって,旧著作権法6条が定める団体名義の著作物には当たらないというべきである

 そして,前記第2の1(2)の各事実からすれば,本件各映画は,Aの生存中に公開されたものと認められるから,その著作権の存続期間について適用される旧著作権法の規定は,同法3条,52条1項であると解される。


争訟の解決を願う付言

2009-04-19 12:17:00 | 著作権法
事件番号 平成19(ワ)7877
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成21年03月26日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中俊次

第5 結論
 以上によれば,原告の本件請求は,その余の争点について判断するまでもなく理由がない。
 なお,本件訴訟の審理の経緯にかんがみ,付言する。上記のとおり,被告らの行為は,原告各イラストの著作権又は著作者人格権を侵害するものではなく,被告らが原告に対しこれによる法的責任を負うものではない。しかし,被告らがイラスト作成を依頼したAにおいて原告各イラストに依拠し,これを参考にして被告各イラストを作成したことは前示のとおりであり,被告各イラストが,一見すると原告各イラストによく似ているところがあることは否定できない。
 原告において,被告各イラストを見て原告各イラストを模倣されたと感じたことは無理もないところであるし,被告らにおいてもこの点を問題視していたことは,原告からの指摘後直ちにマンション読本の配布を取りやめるとともに,全ての在庫を調査して回収し,廃棄していることからも明らかである。したがって,被告らは原告に対し,法的責任はともかく,道義上の責任を負うことは否定できない。当裁判所は,このような本件の特殊性にかんがみ,口頭弁論終結後を含め,本件を適切に解決するため当事者双方に和解を勧試してきたが,当審においては合意に至ることはできなかった。当裁判所としては,上記の事情にかんがみ,当事者双方において上訴審の審理の過程その他適当な機会をとらえて,本件を適切に解決するよう努力されることを期待するものである。

 よって,主文のとおり判決する。

(所感メモ)
 裁判所は、「一切の法律上の争訟を裁判する」(裁判所法第3条)のであり、このような付言は書くべきでないという意見もあるようである。
 しかし、法律を適用することにより裁判官が妥当であると考える結論を導けない場合もあろうし、妥当と考える結論を導いた場合にも裁判官の考えをさらに伝えたいたい場合もあろう。門外漢の感想に過ぎないが、よりよい終局的解決に向けて付言した方がよい場合には付言してよいではないかと思う。



一群のイラストが翻案物にあたるかの判断事例

2009-04-19 11:53:18 | 著作権法
事件番号 平成19(ワ)7877
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成21年03月26日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中俊次


第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告各イラストは原告各イラストを複製し又は翻案したものであるか)について
・・・
(3) 被告各イラストは原告各イラストについての原告の著作権を侵害するものか
 著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいい,著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,原著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作することをいう。
 したがって,被告各イラストが原告各イラストを複製又は翻案したものというためには,被告各イラストが原告各イラストの特定の画面に描かれた女性の絵と細部まで一致することを要するものではないが,少なくとも,被告各イラストに描かれた女性が原告各イラストに描かれた女性の表現上の本質的な特徴を直接感得することができることを要するものというべきであり(最高裁昭和53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁,同平成9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁参照),その結果,被告各イラストの女性が原告各イラストの女性を描いたものであることを想起させるに足りるものであることを要するものというべきである
 したがって,原告各イラストの著作権者である原告において,被告各イラストが原告各イラストを複製又は翻案したと主張している本件においては,被告各イラストが原告各イラストに依拠して作成されたことを前提として,それが原告各イラストを複製したものか又は翻案したものかを区別することに実益はなく,少なくとも,原告各イラストのうち本質的な表現上の特徴と認められる部分を被告各イラストが直接感得することができる程度に具備しているか否かを検討することをもって足りるというべきである。以下においては,そのような観点から検討することとする。

(4 ) 被告各イラストは原告各イラストに依拠したものであるか
ア そこで,まず,被告らが原告各イラストに依拠したものであるか否かについて検討する。ここでいう「依拠」とは,ある者が他人の著作物に現実にアクセスし,これを参考にして別の著作物を作成することをいう。

イ ところで,原告著書に描かれている原告各イラストは極めて多数にのぼり,被告各イラストがそれぞれ原告各イラストのうちどのイラストに依拠して作成されたものであるかを個別に特定して主張立証することは著しく困難である。他方,原告著書のように,同一のコンセプトに基づき,かつ同一の特徴を有する人物をひとつのキャラクターとして多様に表現する場合,後から描かれるイラストは,先に描かれたイラストに依拠しながら,その本質的な表現上の特徴を直接感得できるようなイラスト(すなわち,同一のキャラクターを表現していると認められるイラスト)を新たに創作するものと解される。したがって,後から描かれるイラストは,先に描かれたイラストを原著作物とする二次的著作物と見られる場合が多いと考えられる。

 二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じない(前掲最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決)から,第三者が二次的著作物に依拠してその内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製したとしても,その再製した部分が二次的著作物において新たに付与された創作的部分ではなく,原著作物と共通しその実質を同じくする部分にすぎない場合には二次的著作物の著作権を侵害したものとはいえない。
 しかし,二次的著作物に依拠したとしても,これにより原著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製したとすれば,二次的著作物を介して原著作物に依拠したものということができ,原著作物の著作権を侵害することになる。また,一話完結の連載漫画などとは異なり,原告著書のように1冊の著書に多数のキャラクターがイラストとして描かれている場合に,どのイラストをもって原著作物とし,どのイラストをもって二次的著作物とするかを判然と区別することは困難である

 以上の点を考慮すると,本件において,原告としては個々の被告各イラストについて,原告各イラストのうち被告らが実際に依拠したイラストを厳密に特定し,これを立証するまでの必要はなく,原告各イラストのうちのいずれかのイラストに依拠し,そのイラストの内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製し又はそのイラストの表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作したことを主張立証することをもって,原告各イラストの著作権侵害の主張立証としては足りるというべきである。

ウ 以上の点を前提に,被告各イラストが原告各イラストに依拠して作成されたものであるか否かについて判断するに,・・・,原告各イラストのうちのいずれかのイラストを参考にして個々の被告各イラストを描いたことが認められるから,被告各イラストが原告各イラストに依拠して描かれたものであることを優に認めることができる。

(5 ) 被告各イラストは原告各イラストを複製又は翻案したものか
ア 上記(4)のとおり,原告としては,個々の被告各イラストがそれぞれ原告各イラストのうちどのイラストに依拠して作成したものであるかを具体的に特定することは必ずしも必要でないが,個々の被告各イラストが個々の原告各イラストを複製又は翻案したか否かを判断するためには,最低限,個々の被告各イラストが依拠したと考えられる原告各イラストを選択し,特定した上で,個々の被告各イラストが,このように特定された個々の原告各イラストの本質的な表現上の特徴を直接感得することができるか否かを検討する必要がある。したがって,まず,個々の原告各イラストの本質的な表現上の特徴がどこにあるのかを検討する必要がある

 そして,この点を検討するに当たっては,個々のイラストを他のイラストとは切り離してそれ自体からその本質的な特徴は何かを検討するのではなく,原告各イラスト全体を観察し,原告各イラストを通じてそのキャラクターとして表現されているものを特徴付ける際だった共通の特徴を抽出し,これをもとに個々の原告各イラストの本質的な表現上の特徴がどこにあるかを認定すべきものと解される。なぜなら,原告各イラストは,原告が別紙原告イラスト目録で挙げるだけでも127点の多数に及ぶものであるところ,これらの各イラストは同一の女性(キャラクター)を表現するものとして同一のコンセプトの下に描かれたものであるから,そのキャラクターを特徴付ける共通の特徴を見いだすことができるのであり,その特徴は,まさに個々の原告各イラストの本質的な表現を特徴づけるものとみるのが相当だからである。もちろん,キャラクターなるものは,そのイラストの具体的表現から昇華した人物の人格ともいうべき抽象的概念であって,具体的表現そのものではなく,それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということはできない(前掲最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決参照)から,キャラクター自体に著作物性を認めることはできない。しかし,個々の原告各イラストの本質的な表現上の特徴が何かを検討する際に各イラストに共通する表現上の特徴を考慮することは,キャラクター自体に著作物性を認めることではないから,これを考慮することに何らの問題はないというべきである。

イ そして,そのような観点から原告各イラストに共通して現れている特徴を観察すると,原告各イラストの基本的なコンセプトは,前記のとおり,「独り暮らしをする若い女性」であり,上記(1)のアないしオを表現上の特徴として描かれたものであることが認められる。これに対し,被告各イラストは,マンション読本の表紙に,被告イラスト1を含む3人の人物が描かれており,被告イラスト1の女性とその夫,その子である男児が描かれている。・・・。このように,原告各イラストと被告各イラストとは,その性格・環境決定の上で異なるコンセプトをもって描かれたものということができる。

ウ そして,より具体的に原告各イラストの本質的な表現上の特徴は何かについて検討すると,・・・。

エ 以上によれば,結局のところ,原告各イラストを特徴づける本質的な表現上の特徴は,顔面を含む頭部に顕れた特徴ということにならざるを得ない。そこで,原告各イラスト(甲5,12)を総合した場合の際だった表現上の特徴を抽出すると,次のとおりと認められる(・・・。)。
・・・

オ そこで,上記観点から,個々の被告各イラストが原告各イラストの本質的な表現上の特徴を直接感得し得るものであり,これを複製又は翻案したものといえるか否か順次検討する。
・・・

カ小括
 以上のとおり,個々の被告各イラストは,これが依拠したと原告が主張する個々の原告各イラストを複製又は翻案したものとは認められないから「マンション読本」の作成,発行,配布するなどした被告の行為が原告の複製権又は翻案権ないしは自動公衆送信権を侵害したということはできない。

本来適法な行為は技術の進歩により違法に転化しないとした事例

2009-02-01 19:41:47 | 著作権法
事件番号 平成20(ネ)10055
事件名 著作権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成21年01月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中信義

(3) 検討
 被控訴人らは,①本件サービスの目的,②機器の設置・管理,③親機ロクラクと子機ロクラクとの間の通信の管理,④複製可能なテレビ放送及びテレビ番組の範囲,⑤複製のための環境整備,⑥控訴人が得ている経済的利益を総合すれば,控訴人が本件複製を行っていることは明らかである旨主張するので,以下,上記(1)及び(2)の事実関係等を前提に,本件サービスにおいて控訴人が本件複製を行っているものと認めることができるか否かについて,被控訴人らの上記主張に即して検討する。

ア 本件サービスの目的について
 被控訴人らは,本件サービスの目的は,海外に居住する利用者を対象に日本国内で放送されるテレビ番組をその複製物により視聴させることのみにある旨主張する
 ・・・
しかしながら,海外にいる利用者が親機ロクラクを自己管理する場合(この場合に,控訴人が本件複製を行っていないことは明らかである。)であっても,その目的は,日本国内で利用者自身が管理する親機ロクラクで国内で放送されたテレビ番組を受信・複製・送信し,これを海外で視聴可能にすることにあるのであるから,上記認定の本件サービスの目的と何ら変わりはないのである。
 ・・・

イ 機器の設置・管理について
被控訴人らは,本件サービスにおいては,控訴人が,親機ロクラクとテレビアンテナ等の付属機器類とから成るシステムを一体として設置・管理している旨主張する

 ・・・
 すなわち,本件サービスの利用者は,・・・テレビ番組の複製情報を視聴することができるところ,そのためには,親機ロクラクが,地上波アナログ放送を正しく受信し,デジタル録画機能やインターネット機能を正しく発揮することが必要不可欠の技術的前提条件となるが,この技術的前提条件の具備を必要とする点は,親機ロクラクを利用者自身が自己管理する場合も全く同様である。そして,この技術的前提条件の具備の問題は,受信・録画・送信を可能ならしめるための当然の技術的前提に止まるものであり,この技術的前提を基に,受信・録画・送信を実現する行為それ自体とは異なる次元の問題であり,かかる技術的前提を整備し提供したからといって直ちにその者において受信・録画・送信を行ったものということはできない

 ・・・
 そうすると,控訴人が親機ロクラクとその付属機器類を一体として設置・管理することは,結局,控訴人が,本件サービスにより利用者に提供すべき親機ロクラクの機能を滞りなく発揮させるための技術的前提となる環境,条件等を,主として技術的・経済的理由により,利用者自身に代わって整備するものにすぎず,そのことをもって,控訴人が本件複製を実質的に管理・支配しているものとみることはできない
・・・

キ 小括
 以上のとおり,被控訴人らが主張する各事情は,いずれも,控訴人が本件複製を行っているものと認めるべき事情ということはできない。

 加えて,・・・,子機ロクラクを操作することにより,親機ロクラクをして,その受信に係るテレビ放送(テレビ番組)を録画させ,当該録画に係るデータの送信を受けてこれを視聴するという利用者の行為(直接利用行為)が,著作権法30条1項(・・・)に規定する私的使用のための複製として適法なものであることはいうまでもないところである。
 そして,利用者が親子ロクラクを設置・管理し,これを利用して我が国内のテレビ放送を受信・録画し,これを海外に送信してその放送を個人として視聴する行為が適法な私的利用行為であることは異論の余地のないところであり,かかる適法行為を基本的な視点としながら,被控訴人らの前記主張を検討してきた結果,前記認定判断のとおり,本件サービスにおける録画行為の実施主体は,利用者自身が親機ロクラクを自己管理する場合と何ら異ならず,控訴人が提供する本件サービスは,利用者の自由な意思に基づいて行われる適法な複製行為の実施を容易ならしめるための環境,条件等を提供しているにすぎないものというべきである。

 かつて,デジタル技術は今日のように発達しておらず,インターネットが普及していない環境下においては,テレビ放送をビデオ等の媒体に録画した後,これを海外にいる利用者が入手して初めて我が国で放送されたテレビ番組の視聴が可能になったものであるが,当然のことながら上記方法に由来する時間的遅延や媒体の授受に伴う相当額の経済的出費が避けられないものであった。しかしながら,我が国と海外との交流が飛躍的に拡大し,国内で放送されたテレビ番組の視聴に対する需要が急増する中,デジタル技術の飛躍的進展とインターネット環境の急速な整備により従来技術の上記のような制約を克服して,海外にいながら我が国で放送されるテレビ番組の視聴が時間的にも経済的にも著しく容易になったものである。そして,技術の飛躍的進展に伴い,新たな商品開発やサービスが創生され,より利便性の高い製品が需用者の間に普及し,家電製品としての地位を確立していく過程を辿ることは技術革新の歴史を振り返れば明らかなところである。本件サービスにおいても,利用者における適法な私的利用のための環境条件等の提供を図るものであるから,かかるサービスを利用する者が増大・累積したからといって本来適法な行為が違法に転化する余地はなく,もとよりこれにより被控訴人らの正当な利益が侵害されるものでもない

 したがって,本件サービスにおいて,著作権法上の規律の観点から,利用者による本件複製をもって,これを控訴人による複製と同視することはできず,その他,控訴人が本件複製を行っているものと認めるに足りる事実の立証はない。

 なお,クラブキャッツアイ事件最高裁判決は,スナック及びカフェを経営する者らが,当該スナック等において,カラオケ装置と音楽著作物たる楽曲が録音されたカラオケテープとを備え置き,ホステス等の従業員において,カラオケ装置を操作し,客に対して曲目の索引リストとマイクを渡して歌唱を勧め,客の選択した曲目のカラオケテープの再生による演奏を伴奏として他の客の面前で歌唱させ,また,しばしば,ホステス等にも,客とともに又は単独で歌唱させ,もって,店の雰囲気作りをし,客の来集を図って利益を上げることを意図していたとの事実関係を前提に,演奏(歌唱)の形態による音楽著作物の利用主体を当該スナック等を経営する者らと認めたものであり,本件サービスについてこれまで認定説示してきたところに照らすならば,上記判例は本件と事案を異にすることは明らかである