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徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

隣りの琴は六段か

2025-07-30 19:57:35 | 文芸
 先日、所用で明午橋通りを産業道路との交差点の一つ手前、大井手を渡ったところで右折し、金剛寺の裏を通り大井手に沿って車を走らせた。しばらく走っていると左側に高層ビルが見えてきた。「あゝこれがサーパスシティか」と思った。新屋敷の高層マンションのところに、かつて夏目漱石の熊本3番目の「大江の家」があったということは知っていた。他の車が来そうもなかったので一旦停車し、ビルを見上げた。ふと、漱石がここに住んでいた時に詠んだという俳句
「大江の家」に住んでいた頃の漱石夫妻と書生、女中
  春雨の隣の琴は六段か(明治31年)

を思い出した。春雨そぼ降る中、お隣りから琴の「六段の調」が聞こえてくる何とも風情を感じさせる一句だ。しかし、その当時、漱石の家周辺には桑畑が広がっていたという。季語「春雨」を引き立てるため、妙なる琴の音、それも代表的な筝曲「六段の調」を使った「発想飛ばし」なのかもしれない。
 漱石先生、ビルが屹立するかつての住まいの跡を見て何とおっしゃるだろうか。

   ▼17世紀の音楽家・八橋検校作曲の「六段の調」を大衆好みの端唄にアレンジした「六段くずし」
踊り:中村くるみ・上村文乃