好きな映画の中には、多くの人に共感を持ってもらえる作品と、そうでない作品とがある。後者の代表的な1本が、この「脱獄」というアメリカ映画だ。そもそもこの映画を観たという人をほとんど知らない。観たのが高校時代だから、もう48年ほど前になるが、当時、話題にもならなかったし、映画誌などで紹介されているのを見たこともない。ところが4、5年前、この作品がアメリカでは高い評価を受けているということを知って驚いた。時代遅れの孤高のカウボーイの話なのだが、とにかく寂寥感あふれる話なのだ。このカウボーイを演じるカーク・ダグラスは、言わずと知れたハリウッドの大スターで、数々の大作や名作に出演し、僕もその大半を観ているが、彼の名を聞いて、まず思い出すのは、この小品とも言える「脱獄」なのである。また、この作品は60年代のアメリカン・ニューシネマの先鞭をつけたとも言われているらしい。それから、親友の奥さん役、ジーナ・ローランズがなんともいい。この人は実生活ではジョン・カサベテス監督の奥さんであり、最近活躍しているニック・カサベテス監督の母親でもある。デヴィッド・ミラー監督、渾身の一作となったこの作品、機会があればぜひもう一度観たいものだ。