虫干し映画MEMO

映画と本の備忘録みたいなものです
映画も本もクラシックが多いです

春にして君を想う

2004年05月25日 | 映画感想は行
(1991/アイスランド/ドイツ/ノルウェー)
CHILDREN OF NATURE
BORN NATTURUNNAR
監督;フリドリック・トール・フリドリクソン
出演:ギスリ・ハルドルソン シグリドゥル・ハーガリン ブルーノ・ガンツ

 妻にも先立たれ、長年暮らした農場を棄て、都会の娘の家へやってきたゲイリ。しかしそこでは歓迎されざるものであり、彼は老人ホームへ。そこで再開したふるさとの幼馴染ステラ。ふるさとで眠りたいという彼女と、ゲイリはジープを盗んで旅立つ…

 最近見た「ビッグ・フィッシュ」も「みなさん、さようなら」も老いて死を迎えるものと送るものの映画だった。両方ともある意味でとても恵まれた死であり、次の世代と和解し、自分の人生を祝福して旅立てたのである。
 この映画はそのあとだけにかなりつらかった。前半はもろに「東京物語」 子どもは、親を傷つけようとするつもりはない。でも、自分の生活に親が入ってくるのは予想外。その生活の組み直しに自分の時間を向ける余裕はない。…それに必死にはなれない…

 老いていく方もさまざま。孤独から必死に目をそむけようとするもの。疲れてあきらめようとするもの。その中でステラは厳しいプライドを選び、平穏と屈辱的な安逸に背を向ける。

 旅立ちから以後は、アイスランドの冷涼な背景に、幻想的な不思議なムードの二人の旅が続く。ステラの表情も和やかになる。ラスト近くで「ベルリン天使の詩」のブルーノ・ガンツが登場する。これは意味付けにはなるが、ただ「見届けるもの」として捉えても良いのだと思う。

 ラストシーンは、あたかもこの世と別の世界を隔てる門のようだ。静かな音楽、美しい自然、ゲイリの歌、儀式のように裸足で歩を進めるゲイリ…思い出すと静かに胸に込み上げてくる映画。