だが肝心の被害国の政府はその判決をなかったことにするために力を尽くした。果ては90歳、100歳の被害者たちと再び法廷で争うという。国民のひとりとして見守るのは情けない限りだ」

2023-07-10 10:17:57 | 朝鮮を知ろう。
 

100歳の被害者と争うという「被害国」の尹錫悦政権

登録:2023-07-10 01:20 修正:2023-07-10 08:41
[ハンギョレ21]
 
 
2023年7月4日、ソウルの外交部庁舎前で記者会見を行った韓日歴史正義平和行動の会員たちが、第三者弁済に反対してきた日帝強制動員被害者と遺族たちについて外交部が供託手続きを開始したことに抗議する書簡を渡すため、民願室に移動している=シン・ソヨン記者//ハンギョレ新聞社

 被害国の政府が突如として加害国と加害戦犯企業の法的責任を免ずると言い出した。自国の最高裁判所の決定を覆すものだった。加害国も加害戦犯企業も謝罪していない。それでも被害国の政府は、高齢の自国民の被害者に一方的に金を突きつけた。拒否すれば「ストーキング」するように連絡したり訪ねて行ったりして圧力をかけた。それでも思い通りにならないことから、金を裁判所に預けると言い出した。裁判所は受け取りを拒否した。すると、自国の裁判所に対して訴訟も辞さないという。被害国の政府が自国民の被害者と自国裁判所を相手に繰り広げるこの奇異な「歴史闘争」は、どう理解すべきなのだろうか。

■「いつでも判決金は受領できます」

 「せめて供託によって、いつでも判決金を受領できるようにすることが被害者の意思決定に役立つだろう、との判断があった。政府は財団と共に、供託以降も被害者と遺族お一方お一方に政府の解決策に対する理解を求める誠意ある努力を続けていく予定だ」

 外交部の当局者は2023年7月3日午後、記者団に対してこのように述べた。政府は日帝強占期の強制動員被害者に対する賠償責任が日本の加害戦犯企業にあることを認めた2018年の最高裁判決を覆し、日帝強制動員被害者支援財団(シム・ギュソン理事長、以下財団)が賠償を肩代わりするとの内容を骨子とする「解決策(第三者弁済案)」を2023年3月6日に発表した。10日後、東京を訪問した尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領と共同記者会見を行った日本の岸田文雄首相は、強制動員被害者を「旧朝鮮半島出身労働者」と呼び、強制動員に対しての謝罪は行わなかった。

 外交部の当局者は「約4カ月間にわたって被害者遺族に対して政府の解決策とこれまでの経過について詳しく説明もうし上げ、理解を求める努力を積極的に傾けてきた」、「その結果、15人の被害者のうち1人の生存被害者を含む11人が政府の解決策を受け入れ、判決金を受け入れた」と語った。そして「生存被害者2人を含む判決金を受け取っていない被害者(遺族ら)4人について、供託手続きを開始した」、「いつでも判決金を受領できる」と付け加えた。

 民法第487条は「債権者が弁済を受けない、又は受けることができない時は、弁済者は債権者のために弁済の目的物を供託し、その債務を免れることができる」と規定している。外交部は2023年5月末までは、被害者の意思に反する供託は検討していないと述べていた。これについて外交部の当局者は「政府が解決策を履行していく過程で市民募金運動が展開されるのは別の局面だと考えており、このような状況では供託を先送りするのではなく、ひとまず供託金を納入し、時間の余裕を持って被害者の意思決定に役立つよう努力するのが望ましいと判断した」と語った。2023年6月29日に全国の600あまりの市民社会団体の連帯組織「韓日歴史正義平和行動」が強制動員被害者を支援するために始めた「歴史正義のための市民募金」運動が、供託を行った決定的な理由だというのだ。最高裁の確定判決の履行遅延によって増える、年20%に達する遅延利子も、供託を急いだ理由のひとつとされる。

■綿密な法律的検討? 当事者が反対すれば第三者は弁済不可能

 「政府の解決策に反対する生存被害者と遺族は、政府案の発表後、財団と被告(加害戦犯企業)に対して第三者弁済は認めないとの意思を示した内容証明を送っている。したがって財団は被害者の意思に反して債務を弁済することはできず、法的効力もない。」

 同日に行われた緊急記者会見で被害者の訴訟代理人を務めるキム・セウン弁護士は、政府の主張に一つひとつ反論した。実際に民法第469条は1項で「債務の弁済は第三者も行える。ただし、債務の性質または当事者の意思表示により第三者の弁済が認められない場合は、その限りでない」と規定する。同条2項は「利害関係のない第三者は債務者の意思に反しての弁済はできない」と釘を刺している。

 裁判所の判断も同じだった。光州(クァンジュ)や水原(スウォン)の地方裁判所などに政府と財団が申請した供託は、受理されなかった。「第三者弁済案」発表の際にも供託申請の際にも「綿密な法律的検討を経た」と述べていた政府は、不快感をはばかることなく表した。外交部は発表した資料で、「強い遺憾を表する。『不受理決定』は法理上承服しがたいため直ちに異議申し立て手続きに着手し、裁判所の正しい判断をあおぐ考え」だと語った。

 「加害戦犯企業の責任を改めて考えるべきだ。2018年に最高裁は、日本による朝鮮半島の植民地支配は違法であり、強制動員は違法行為であるから、加害戦犯企業は賠償せよと判決した。日本政府の圧力の中で加害戦犯企業は最高裁判決の履行を拒否した。それを尹錫悦政権が代わって解決すると乗り出してきた」

 歴史問題の法的争点を研究してきた慶北大学法学専門大学院のキム・チャンノク教授は「法的根拠も明確でない中で財団は、日本の加害戦犯企業の責任を免じてやるために、被害者に金を受け取れと迫っている。結局、被害国の政府が自国民である被害者を金で圧迫しているわけだ」と述べた。キム教授は次のように続けた。

■30年を超える闘いで引き出した判決を

 「それさえも失敗したものだから供託に打って出たのだ。ところが要件が満たされておらず不受理決定が下されたものだから、今度は裁判所を相手取って訴訟を起こすことをもくろんでいる。被害者たちは30年以上にわたって日本と韓国を行き来しながら、長い闘いの末に賠償判決を引き出した。だが肝心の被害国の政府はその判決をなかったことにするために力を尽くした。果ては90歳、100歳の被害者たちと再び法廷で争うという。国民のひとりとして見守るのは情けない限りだ」

 「供託騒動」は意外な結果を招いた。「歴史正義のための市民募金」(justicekeeper.kr)に火がついた。累計募金額の初集計が行われた7月3日午後6時には5420万9096ウォン(208件)にとどまっていた募金額は、政府の供託開始のニュースとともに、4日正午には1億306万2062ウォン(1401件)へと急増したのだ。7月6日正午現在、募金額は2億354万7099ウォン(2781件)で、再び2倍ほどになっている。政府の「奇異な闘争」に対する無言の回答だと読み取れる。

チョン・インファン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
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