芸術は商品ではない
ひところ、平壌サーカス劇場では公演の収入問題をめぐりいろいろと論議があった。公休日を除き、しかも一日二度の上演では採算制運営の収支が合わないのだった。
サーカスの種目と内容が従来になく充実するにつれて、高価な設備や器材が導入され、その費用はふくれあがるばかりだった。収益をあげなければ国の負担を減ずることはできないが、だからといって国家規定の観覧料をあげることはできなかった。そこで一日の公演回数を増やそうとか、一部の公休日にも公演してはなどという意見が出された。そんな論議の末、劇場では地方巡演を一時中止して、劇場の公演回数を増やすことにした。
そのことを知った金正日総書記は、担当幹部を執務室に呼んだ。
「サーカス劇場では一グループが日に一回上演するようにするのがよいようです」
担当幹部は驚いた。一グループの二回上演でも足りず回数を増やそうという意見が出されていたとき、逆に半分に減らそうというのである。
「上演回数を減らせば、それだけ国に損失が…」
総書記はほほえんだ。
「一日の上演を一回きりにすれば収入が落ち、帳尻の合わないことはわたしも分かっています。
しかし、そうした一面だけを考えるのは間違いです。
われわれは芸術機関を指導、管理する際、資本家の企業経営のように金銭関係や収支の打算を先立たせるべきでありません。
主席がたびたび指摘し、わたしもおりにふれて強調しているように、どんな場合も人間を先に考えるべきです。
人間優先。これはあらゆる活動で、わが党が終始堅持している原則です」
総書記は立ちあがって言葉をつづけた。
「いくら考えてみても、俳優たちが毎日二回上演するのは無理です。
倍、いやそれ以上に疲れるでしょう。
それで上演は日に一回に限ろうと言うのです」
総書記は、公演の赤字は国家予算で埋めるよう関係者と討議してみると言った。
「そうするのがチュチェのわが国社会主義制度の本性にも適うのです。人間が主ではありませんか」
「分かりました。その通りにします」
担当幹部は、粛然として答えた。