えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

・ちらつく曇り

2017年01月14日 | コラム
 カウンターのみの狭い店内の奥から往来を眺めると白いものが散っていた。「雪ですね」と喫茶店の女主人に声をかけると座っていた他の客も揃って顔を窓のほうに向けた。「ぼたん雪のようですね」と女主人が言った。雪は真向いの店の赤いシャッターへ降りるようにほろほろと右から左に吹き流されている。窓の外で通りを過ぎる人はそれぞれに、お喋りに興じたまま気づかない一団もいれば連れの肩を叩いて空を見上げている小母さんの二人連れもいた。

「電車が止まったら明日は休もうかな」
「店に泊まればいいじゃないか、寝袋敷いて」
「嫌ですよ、狭いし」
「じゃあそこにハンモック吊るしてさ」
「そんなことできませんよ」

 常連らしい毛糸の帽子を被った老人の楽し気な提案を荷物のように片付けて女主人は流しの洗い物を片付けはじめた。
 二日前ほどから天気予報は盛んに週末の荒天を語っていた。予報通り朝は陽が射していた今日は昼頃から雪を運ぶ雲特有の浅い灰色をした雲が空に重く覆いかぶさっている。降りそうだという気配は雨雲と似ているが雪雲は雲の下に底冷えする空気を伴ってやってくる。昼を過ぎたばかりの午後にも関わらず雪雲が来た途端辺りの空気がストンと入れ替わった。お定まりの「冷えそうですね」「寒そうですね」と客同士は言葉を交わす。雪は変わらない調子で風に乗って降り続けていた。私がコーヒーのお代わりを頼むと、老人は「ソフトクリーム」と空になったアイスコーヒーのグラスをストローでかき回しながら言った。

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