えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

・雪のある窓

2022年01月08日 | コラム
 町が雪に包まれてゆく過程を窓辺から眺め続けられるのは贅沢な楽しみだと思う。開いては溶けていくぼたん雪よりも小粒ながら、しぶとく道路や植木にまとわりつく雪が温度を下げたその上に雪が積もっていく。コンビニで用を済ませようか逡巡している一時間のうちに丸いつつじの植え込みがすっかり白く染まっていたため慌ててコートを着た。歩いてすぐの距離なので傘は差さなかったが二十メートルほどで後悔した。被ったフードから余る髪へしがみつくように白い結晶が次々と絡み、コートの袖から覗くフリースの袖口にも雪の結晶が溶けないまま残っていた。風はなく重さで舞いながら雪が落ちてくる。雨雲よりも空へ深く沈み込むような雲から雪は降り続けて、道中の植え込みには既に土まで薄っすら雪が被っていた。
 コンビニで用を済ませた帰路も変わらない調子で雪は穏やかに降っている。車列がワイパーを動かしながら遠ざかる。私は早足で帰宅する。歩いている人の赤い傘へ小紋のような雪の白が散っていた。雨とは違って空気は乾きながら、雪がそれぞれにまとう湿気の間をかいくぐって泳ぐようだ。油で艶めく常緑樹の葉先から水滴が滴っている。
 玄関の前で雪を払い落とし部屋へ戻る。短い距離ながら動いたおかげで温まった体の血流が一気に指先へ暖かい血液を送りコートが暑くなった。一通り片付けて庭を見ると、つつじの植え込みの三分の一ほどが雪を被っている。そのまま一時間ごとに雪は積もり、二時間後には三センチほどに積もっていた。木々の間に雪を逃れたヒヨドリとオナガが交代で雪をふるい落としている。窓辺からは冷気が滲み、床がゆるゆると冷え始めていた。
 明日のことも今日のことも気にせずに暖かく雪を眺めていられる余裕があるのはリモートワークのおかげだが、おかしなことにリモートワークが始まったのはつい昨年のように思える。始まったのは一昨年のはずなのに、積もった雪を見ていると二〇二〇年三月の突発的な豪雪とその後を思い出していた。それでも今年はその二年後であることを噛み締めながら、夕方に向かう雨戸を下ろした。

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