えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

・炎暑のもとで

2021年07月24日 | コラム
 風ばかりが涼しい朝、窓を開けてうたた寝をしていればあっというまに体温が上がり、夢から醒めると薄汗の滲んだ腕が熱く発熱している。空調がなければ読書も出来ない。本棚を眺めに出かけるのも一苦労ではなく命がけだ。かといって草木のほうは夜半に降る雨のおかげで人間よりは生き生きと葉の先端が切れ味良くぴんと伸びて青い。刈りたての草とまだ乾ききっていない土の匂いが混ざり合う朝にはランニングシャツやスポーツウェアの歴々が快適そうに走っている。走る人から遠ざかり、鋭さを増す日差しを避けて屋根の下に入る。どの店も朝は遅い。十二時から開く店も珍しくなくなった。どの店も暑さの頂点に差し掛かる頃ようやっと店を開ける。そこに出かけようと迷う頃には日光を吸いきったアスファルトや建物が熱を吐き出して、40度の中を歩く羽目になる。何事も「昔」と比べる年代に差し掛かってなお暑さは年々厳しさを増す。
 暑さにも情というものがあるのならば今年の暑さも薄情だ。人どころか身体の小さな鳥や動物すら日陰の外に出ようとしない。ゆるい薄着に団扇を扇いで暑い暑いと言葉にする余裕すらなく、何かから逃げ回るように冷房の効いた建物を縫って目的地に行く。日差しの鋭さだけは日が暮れるとともに鈍くなり、夕暮れになるとひぐらしの声が似合う明暗が生まれる。日陰は暗く、日向は突き刺さるような白から橙色がかったランプのようなまろやかな光へと優しくなる。それでも毎日少しずつ溜まって吐き出される場のない熱気の塊がそこここに溜まり明日そこを歩く人を待ち伏せている。
 秋の先駆けの風を夕暮れに感じてもなお、喉を詰まらせるような熱気があちこちの曲がり角に凝っている。閉め切った窓からは音ひとつこぼれず、靴音だけが朝と同じように歩道を決まったリズムで蹴っていた。

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