えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

読書のたのしみ

2010年01月28日 | 読書
人にうずもれて手首で支え、親指と小指をつかってページを繰ります。
満員電車ではいかに手を自由にするかが肝要です。
黒いコートの背中と、ベージュのPコートの20センチ、細い首と太い腕の
差から生まれた隙間に本をさしのべて、読みます。

電車は揺れ、人は一向に減りません。
むくむくに着込んだ人々が押されあうたびに、じっとりと息で湿った
透明なスポンジのような空気が蛍光灯と人の頭の狭間で押し合いへし合い
しています。涼しい風が襟足をさすってくれるものの、そこから下は網目の
つまったタートルネックが隙間なく体温と空気をと閉じ込めていました。
暑いのです。
マフラーを外して鞄にくくりつけ、片手にぶらさげて本を読みました。
手が小さいので片手ではせいぜいが東洋文庫、新潮選書まででしょうか。
目は黙ってページを辿ります。飽きれば左手にすべる窓の底に目をやると
ビルの塊が黒の濃淡でつぎつぎと過ぎ去ってゆきます。駅に着きました。

また人と空気がぎっしりと詰め込まれて、肘の角度は徐々に胸の方へ胸の
方へと押されてゆきました。指をページに滑らせながら、紙が折れないように
抜いて本を閉じ、足を開けるだけ開いて踏ん張ると反対の手に隙間ができました。
首と本を右手に渡して褐色のページに目を落としました。

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