えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

いまさらながら

2010年07月12日 | 読書
:「屍鬼」 集英社 小野不由美原作 藤崎竜漫画 2008年
:「屍鬼」 新潮社 小野不由美作 1998年

派手なわりに鋭い線の持つ刃物のような冷たさに気づいてから久しく手に取らなかった
藤崎竜の漫画をもういちど読んでみようかな、と思い至ったのは、アニメ化を宣伝する
電車の液晶広告を見てからでした。ぽっかりと埋められた黒い瞳の少女たちではなく、
厳しい表情の顎の尖った少年でもなく、目を惹かれたのは棺を運ぶ黒い葬送の群でした。
トーンの無い白と黒の影、人とその手に持った幡が平等にまっすぐで、棺の陰が土手の
線と平行に重なるようにすっきりと塗られ、きつい日射しと葬儀の極端な白黒が、真夏の
焦れた沈黙を一コマに閉じ込めている。藤崎竜は止める絵が上手いのだなと腑に落ちました。書き文字で「カオーン」と称された葬儀の鐘か何かの音が、夏の沈黙をいや増しています。

人口1300人程度の外場村にて、夏から晩秋にかけての4ヶ月に起こった奇妙な惨劇を描いた
「屍鬼(しき)」は、1000ページを越える小説をもとにジャンプスクエアにて連載されている
漫画です。小説では一人の主人公を追う形ではなく、複数の中核となる違った立場の人物
達をおいた上で多くの人々を彼らの周りに配置し、事件は村全体のものとして受け止めら
れるのですが、漫画ではもう少しスポットを中核となる登場人物たちに絞って、小説の
前半の大半を占める村内の関係性の説明はすぱっと省いています。

漫画家の「封神演義」を初めて手に取ったときは、奇抜なデザインにもかかわらず洗練さ
れた絵に釘付けになっているだけでしたが、徐々に話が佳境にかかるにつれ強くなる主人
公たちの真顔が、妙に重々しくて、笑顔もかんたんに受け取れきれない複雑さが現れてからは、
手に取り読みはするけれど、話に拒絶されている間隔は最後まで抜けませんでした。
その複雑さが、「屍鬼」の世界にはよくあっていると思います。追い詰められてゆく人々
の緊張感の昂ぶり方、それぞれの登場人物が抱える背景と関係性、恐怖の忍び寄り方を、
ほどよく按配する複雑な計算が、すっきりと漫画の流れで整理されているのは壮観です。
老婆やおっさんの死骸がやけにぬめっとしていてリアリティがあるのはご愛嬌。

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