えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

クリント・イーストウッド監督「グラン・トリノ」

2009年04月25日 | コラム
いい映画でした。

そういえば「コラム」のルールをちゃんと書かなかったのでかきます。

・800字以内。

どっとはらい、です。

:「グラン・トリノ」 2008年 クリント・イーストウッド監督

 はじめて、映画を観た、と思った。これは映画だ。ほんとに映画だ。クリント・イーストウッドがいい。ビー・バンがいい。庭がいい。名車グラン・トリノがいい。つややかに走るグラン・トリノのボディが目の前を過ぎ去って行く、エンジン音の代わりにジャズを乗せてカーブを曲がる一連になんともいえず清涼感がある。

 昨年、アンジェリーナ・ジョリー主演の『チェンジリング』で多くの賞を獲得した矢先の公開である。だが本作『グラン・トリノ』も、興行収入がイーストウッド監督の自己ベストを更新するほど、堂々と話題をさらっている。たかぶった時の左頬のひきつりが、張り詰めた肌のシワとあいまって頑なな顔の、監督であり、主人公の元軍人・ブルーカラーのウォルト・コワルスキーを演じるイーストウッドは当年とって79歳。いい男だなあと思う。傷ついた両手で座るソファが似合う老人そのままだ。

 妻を亡くし、息子夫婦ともどうもぎくしゃくする独居老人のウォルトは、気づくと街ごとベトナム戦争時代にアメリカへ移住してきたアジア系のモン族たちに囲まれていた。お隣さんも、お医者さんも、チンピラもモン族。ウォルトが子供よりも愛するグラン・トリノは私より年上のくせに、椿の葉のようにつるっとしていた。そんな車を、ビー・バン演じる少年タオが盗みに入る。グラン・トリノは初めてウォルト以外の人を知ったわけだ。

 とにかく暖かい。画面に出てくるもの全部に血が通っている。作り手にいい意味で悪意がないから、物語で起きることに自然と整合性が出来ている。どこかふあっとした空気に見ている側はフィクションの楽しみを感じるのだ。登場するモン族の大半が、演技経験のない市井の人々ということもあるだろうが、イーストウッドという監督の行き届いた指揮がそれを作品にしているのだ。タイトルのくせに、まるでテレビの路上中継にたまたま映った通行人のような表情のグラン・トリノがひどく可愛い。
(796字)
コメント
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