犀川の河川整備を考える会

犀川の辰巳ダム建設を契機に河川整備を考え、公共土木事業のあり方について問題提起をするブログ。

辰巳ダム裁判>リスクマネジメントということ(地すべり4)

2013年06月26日 | 辰巳ダム裁判
 県が依拠するマニュアル「貯水池周辺の地すべり調査と対策」には、リスクマネジメントの考えはない。ところが、被告証人は、リスクマネジメントの考え方を持ち出して、これを根拠に国と県の主張に同意したものだ。

 なぜ持ち出したかというと、原告がマニュアルの記載について批判したことに対して反論するためである。マニュアルには、地すべり土塊の安定計算において、現状のR/D比(抵抗力と滑動力の比)を1.0と置いて、湛水の影響を入れて計算した結果が0.95以上、つまり、安全率低下が5%未満であれば、地すべり土塊が動く心配はなく、「対策工は要らない」と記載されている。この考えは、多くの実例から求めた経験則によるものである。

 原告の主張は、動く可能性は残っている、特に大規模で深いすべり面をもつものは、滑り出してから対策できないので少なくとも1.0を回復させる対策は不可欠だというものである。

 ところで、「リスクマネジメント」とは、リスク(不確実性、先が分からないこと)をマネジメント(管理)すること、あるいはリスクの調査・評価を行い、適切な措置を講じる一連の流れのことである。

 リスクは、不確実性の中で統計的に考えられることが出来る、交通事故、台風の直撃など、ここでは地すべりの発生を対象として求めた「発生確率」と、その事象発生による「影響の大きさ」を掛け合わせたものと定義される。

 地すべりに関して、大リスクは回避する(構造物を造らない、立地場所を変更するなど)、中リスクは対策して対応する(地すべり対策を講じるなど)、小リスクは許容する(何も対策しない)ということになる。

 被告証人は、R/D比の計算から0.95以上だから、L3ブロックが動き出す可能性はごく小さい、つまり「発生確率」はごく小さいのだから、「影響の大きさ」を掛けた「リスク」は小さいので「何も対策しない」という結論になる、といいたいようだ。

 ところが、発生確率がごく小さいといってもゼロではない、そして計算もされていない(難しい)、影響の大きさも計算されていない。湛水時の地すべり発生災害の「影響の大きさ」、「発生確率」も評価されておらず、小リスクであることが立証されていないのである。リスクマネジメントの観点から、対策工なしと評価することはできない。

 マニュアルを作成にかかわった国は、マニュアルに沿って計画されたダム153例ですべった例はないと主張している。これも、あまり説得力はない。「最近の限られたデータであるということだ。ダムは半永久的な存在である。十分な時間の長さで安全性を確認するべきだ。」(原告証人の弁)

 結論。鴛原(おしはら)超大規模地すべり地は、安定計算でR/D比低下が5%未満であり、マニュアルによれば「対策工は要らない」と被告は主張している。しかし、リスクマネジメントの観点からは、リスクがあるにもかかわらず、リスクを無視(対策工なし)しているのは、住民の安全を軽視して、防災手段の経費節減で経済性を優先していると言うことになるのか。
コメント
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