金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

プロポーズ小作戦58 2020年8月

2009-04-30 22:03:41 | コードギアス
プロポーズ小作戦58
2020年8月

太陽は望まぬものにも光を与える。
月は望むものにしか顔を見せない。

その夜師弟は月を望んだのか。
無いはずの道場が魔法の時間を許したのか。

剣の伝授が済んだ後、師弟は汗だくの身で風呂に向かう。
いつもと一緒。こうして一緒に風呂に入って背中を流すのがここのやり方。
風呂場のドアを開いてそこが空っぽである事に気が付く。
師弟は改めて視線を交わす。
相手が幻でない事を確認するように。
よくよく見れば、道場はまったく違和感を感じなかったが風呂場のドアは違う。
「スザク君ここは?」
「すいません、勝手に入って」
スザクは藤堂が道場を再建したと思った。それでつい人の気配が無いので入ってしまった。
藤堂の方は帰郷すると、いきなり無いはずの道場があった。そこにスザクがいたのでスザクが造らせたのかと勘違いしかけた。
そこにもう一人隠していた気配をはっきり示す男がいる。
「良いものを見せていただいた。藤堂さん。枢木スザク。」
漆黒の髪と瞳、黒豹の名を持つ男。中華の支配者。ゼロの同盟者。
「スザク、ここでならゼロの共犯者であるお前と会えると信じていた。」
「あなたは誰です」
「ゼロの同盟者にして、今は契約者でもある」
契約という言葉にスザクの視線が鋭くなる。
ギアスなのか?
「生憎、君の判断力の及ぶ範囲ではない。これは私とゼロの契約だ。
受取人はスザクお前だ。」
おや、と藤堂は思った。星刻の声や口調が少し違う。まるでゼロが一部うつったかのような。
「契約内容は?」
「シュナイゼルにかけたギアスが解けている場合、必要なら対立する。
ギアスの効力に疑念がある場合、世界を取り押さえる方向に向ける。」
そこまではもともとの星刻の考えと同じである。
「俺との関係は」
「ゼロとしての演技指導と相互データ交流。同一目的である場合、共同作戦も可能」
星刻の言葉はよどみない。
だからこそ、スザクは疑問に思う。あのルルーシュがこの程度の内容で保険なんていうだろうか。
何か大きなことが隠されているのではないか。ルルーシュはたくさんの嘘をついた。でも彼の嘘は優しかった。今回も優しい嘘に守られている気がする。
星刻のほうはそれ以上口にする気はないようだ。
星刻は実は一番厄介な部分を口にしていない。それは「スザクはお前の弟だ」というルルーシュの伝えた事実。


もしルルーシュが弟だから助けろなどと甘い事を言うようなら、星刻はここには来ていない。ルルーシュは完全にビジネスと計算に徹し、スザクと手を組みあいつをうまく導く事が中華の安全に、天子の利益につながると証明した。無論それは、ルルーシュが生きている頃の未来予測であり、ずれている部分もある。その程度は、どうとでもなる。


こうして新しい道場で、藤堂の立会いのもとで、新しい同盟が結ばれた。

プロポーズ小作戦57 2020年8月

2009-04-30 12:03:45 | コードギアス
プロポーズ小作戦57
2020年8月

藤堂は今更驚くことも心が動く事も無いと思っていた。自分の心はもう4人が持っていった。後はただ、残されたからだが朽ちるまでとどまるだけだと。
ところが、その思いはあっという間にひっくり返された。



月の光。淡く光る池。人の足音に跳ぶ鯉。
そこには木っ端微塵に無くなったはずの道場があった。昔と変わらぬ姿で。


藤堂先生、お帰りなさい。
すぐ稽古だろ。オレ達待ってたんだ。

記憶の底から聞こえる声。子供達の声。それに混じって聞こえる朝比奈の声。
こらー、お前ら、藤堂先生は帰ったばかりだろ。稽古は俺がしてやる。

えー!
おれ、藤堂先生が好きだぞ。
大声で怒鳴り返すスザク。

それに対して、朝比奈も声が高くなって、
藤堂先生を一番好きなのはオレ達だ!

まぁ、いいではないか。朝比奈。大体お前こそ子供と張り合ってどうする。
千葉さん、だってあいつかわいくないし

私から見ればお前もかわいくない。
千葉がぼそりとつぶやく。


そう言えばスザク、おまえ昇段試験だろ。
他の少年より少し年上の少年がとりなすように口を挟む。

藤堂の道場は軍務と兼務なので昇段試験は他の道場に出向かねばならない。
昇段できる人数は決まっていて、どこの道場主も自分の弟子を優先したい。
だから昇段試験の前には、藤堂は時間の許す限りその子供の稽古を見た。

そうかそれならスザク君は奥で私が見よう。千葉、朝比奈と一緒に道場を頼む。

はい、中佐。


千葉はときどき軍の外でも階級で呼ぶ。


少し早いかもしれないが、そう思いながらも藤堂はこの才能あふれる弟子に自分の必殺剣三段突きを教えるつもりだった。
しかし、結局それは教える事ができなかった。奥に入って剣を構えたとたんに、軍から緊急呼び出しがあった。

その後いろいろあり、次にスザクに会えたのは、父殺しの現場だった。



藤堂の足は奥へと向かう。
スザクを純粋に弟子として見れた最後の場所。

そこに人がいるとは思えなかった。
気配は感じられない。
だが、いた。
スザクが。
いつもの袴姿で。
背はすっきり伸びて。

「スザク君」
「藤堂先生」
あるはずの無い道場が、時間をさかのぼらせてくれたかのように、呼び合う声は昔のままだった。
「三段突きを伝授する」
あのときの言葉の続きが自然に出てくる。

その夜、道場には師弟がいた。


プロポーズ小作戦56

2009-04-29 15:25:56 | コードギアス
プロポーズ小作戦56

不安なとき、落ち込んだときには信頼している人の元で、気持ちを休めたい。これは誰にでもあることだ。

ただ、スザクの場合うかつな所には行けない。なにしろスザクは悪逆皇帝の騎士で、さらに最初にフレイアを撃った大罪人だ。
ゼロの中身が罪人だと知れたら、今はまだかろうじて大きな戦争は起きていないのに、また世界中が混乱する。
スザクはゼロの仮面を被った日から、ずっとそう思っている。だからゼロの正体を含めゼロ・レクイエムの真実に気が付いているらしい人たちにもゼロとしてしか接していない。
とは言っても、実はこの時期ゼロ・レクイエムの真実をある程度察している人は結構多かった。ただし気が付いた人はむしろそれゆえに、より強く悪逆皇帝を非難した。例えばEU連合北部ルーマニア地区代表もその一人。彼は日記に書いていた。
《私たち、超合衆国に参加した国の代表は2ヶ月の間捕虜として捕まっていた。その間、拷問も尋問も無く、むしろ保護されているようであった。
私たちは捕虜という立場に立って初めて腹を割った話し合いをできた。この2ヶ月間はもし生きていられたら世界がどちらをむいて歩き出すべきかの話し合いの場所であった。もし、かの悪逆皇帝がそれを意図していたなら、   破れがあり、読めない。   
この2ヶ月で特に中華の天子の変化が一番大きかった。今までまともな教育を受けていなかった天子には、世界のトップの本音は大きな刺激になったのだろう。
付け加えれば天子の存在が話し合いを支えた。対立を続け口も聞かない代表達もこの幼い天子の「どうしてそうなるの?」の言葉には返答したくなる。
美しさは暴力というが、この愛らしさも十分に破壊的だろう。今はまだ無自覚だが、10年もすればこの幼い君主は世界を手玉に取るかもしれない。》
日記は彼の死後100年後に公表され、悪逆皇帝にたいして、同時代人の視点から新たな評価が加わった。



2020年7月20日、千葉凪佐は逝去した。
藤堂と結婚してたった数ヶ月。軍時代から悩みの種だった生理不順が何とかならないかと、医師を訪ねたのがきっかけ。子宮が変形していると言われ、さらにかなり進行した卵巣がんが発見された。
子宮と卵巣を全て取らなければ命に関わると言われた千葉は、藤堂にはただおできのようなものを取るとしか言わずオペ室に入った。千葉のオペ中に世界的な停電が起きた。
停電から3分後、総理官邸から「他のことは後でいいから病院や医療機関の電気を回復しろ」との緊急命令が出たが、扇の想定よりも事態ははるかに深刻だった。
軍事総官の藤堂も軍の施設を開放して、ゲットーの難民を収容させ熱死の被害を最小限に抑えた。命令と復唱が飛び交う中、妻の死亡を藤堂が聞いたのは2日後だった。

記録的な暑さの中、死体はたちどころに腐敗する。多くの死者が家族の到着を待たずに火葬された。伝染病を防ぐための、やむをえない処置である。そんな中、藤堂の妻であり、英雄の一人でもある千葉の遺体は特別扱いされドライアイスにおおわれ原型を保っていた。



千葉の死亡後、藤堂は総監職を辞した。総理としての扇は藤堂を辞めさせたくは無い。だが、個人としてはこれ以上藤堂を縛る事はしたくない。もう彼は失いたくないものを全て亡くしたのだから。
「これからどうされるおつもりですか」
考えに考えて扇が口にしたのはそれだけ。
藤堂は後任人事が決まるまでの代行として、三木光洋を指名していた。すでに副総監の地位にある三木を指名するのは理にかなっている。
次の総理が新しい人事をするまでこの体制でいいと扇も思った。



藤堂が昔の道場の跡地に帰ったのは2020年8月である。

プロポーズ小作戦55

2009-04-28 21:46:05 | コードギアス
プロポーズ小作戦55

星刻が自分からちょっかいを出しながら、スザクを放置したのはスザクが思ったような理由ではなかった。ごく単純な問題。血が高揚する感覚と同時に胃が痛んだためだ。
スザクは誤解したが、ラクシャータは3時間も星刻に説教していたわけではない。
防音装置を作動させた後は、神虎の操縦補助プログラムの修正にかかる。これは今テスト機体生産中の白虎に使われる。補助プログラムが完成すれば、バイクに乗れるレベルの兵士でナイトメアが動かせる。エリートのものだったナイトメアの世界に革命を起こすだろう。そのためにはプログラムの原型である星刻の細密なデータが必要だ。
ラクシャータはゼロ革命の直後から気が付いていた。星刻の身体に残るレーザーメスの痕跡。そして、肝臓系の数値をはじめ、全身に現れた変化。
(移植を受けている)

星刻本人が移植を認識していないようなので、ラクシャータは口を閉ざした。
神虎の整備のたびに星刻を綿密に調べたが、今のところ拒絶反応は無い。
星刻は天涯孤独な身である。他人からの移植だとすれば奇跡的な適合率である。
誰がドナーだったのか?それについてラクシャータには仮定説がある。公開することはできない説であるが。

今回の調整でラクシャータは星刻に告げた。消化器官が萎縮し始めていると。
「今は慢性胃炎だけで大きな問題はないんだから、まともな食事を食べるんだね」
「のどが痛むので」
星刻の歯切れは悪い。
歯医者を嫌がる子供みたいだねぇとラクシャータは見る。
「のどの傷は完全に治っている。多少血管と気道が細くなっているけど」問題がおきるほどではないとラクシャータははっきり告げる。
星刻もわかっている。今感じている痛みは、結局精神的なものだと。生きているという事に精神が付いていかない。だから体の一部に苦痛を負担させる。
今の所、精神安定剤と鎮痛剤のあわせ技で痛みをコントロールできている。

「とにかくこれ以上成分栄養剤に頼っていたら萎縮した内臓が腐敗しかねないからね」。多少の誇張をくわえてラクシャータはきつく言う。
参考までに成分栄養剤は経腸栄養剤の1種で、窒素源が合成アミノ酸のみから組成されたものである。
人工的に製造され、すべての成分が明らかになっている。糖質はデキストリンとして配合されているため消化が不要である。

星刻の額に皺が寄る。仕方ないと本人もわかっている。ただ、怖いのだ。もう数年も普通の食事をほとんど摂っていない。


プロポーズ小作戦54 2020年7月20日太陽風の日

2009-04-28 14:47:17 | コードギアス
プロポーズ小作戦54

2020年7月。この年はひどく暑くて、脱水症の死者が万人単位で出た。公式数値は確認されていないがもともと大陸性気候の中華の被害は膨大だったはずだ。



その暑い夏のさなかの2020年7月20日。大学2年のリヴァルは21歳になった。
『暑い』
口を開けばまずそれが出てくる。
何が理由かはわからないが、大学全体が停電し、冷房も情報システムもダウンした。《後にわかることだが、被害は大学だけではなく、世界規模であった。原因は太陽風とされている》
玉のようにを通り越して滝のように落ちる汗。こういうときアッシュフォードは箱庭として造られたために自家発電があった。だが、ゼロ革命以降の突貫工事で造られた大学にはそういう設備は無い。

とんでもない誕生日だな。
思い出すのは数年前。憧れのミレイが会長だった頃。
当時、アッシュフォードの生徒会には7月生まれが多かった。
シャーリー 7月8日。
スザク 7月10日。
リヴァル 7月20日。
ミレイ 7月24日。
数日置きにホールケーキを食べるイベントは勘弁してくれという、胃弱な副会長の意見で誕生パーティはミレイの誕生日の翌日夏休みの始まる25日にまとめて行なわれた。
1メートルもあるケーキにみんなの年のろうそくを全部立てる。
結局胃を壊したルルーシュが翌日蒼い顔で寝込む。それなら食べなきゃいいのにと思うのだが、ルルーシュによれば誕生日のケーキは全部食べるのが決まりだという。
(あいつ皇子様のくせに所帯じみてて、ナナちゃんの誕生日にはエプロンドレスまで手作りしてなんだか世話焼きの母親みたいに。)

学友に名を呼ばれてリヴァルの回想は止まる。
寮にカードが届いているという。
メールが当然のこの時代にカードを送ってくるなど珍しい。
寮に着いてみると、ミレイ、ニーナ、カレン、ジノ、アーニャからのバースディカードである。
会長は以前より美人になった。ニーナは心境の変化か、めがねをやめた。カレンは医大生をしながらアルバイトでナイトメアの講師を務めている。ジノのカードは開くと誕生日の曲が延々50曲も流れた。しかも全てこのカードのためのオリジナル演奏だ。こういうところが貴族の坊ちゃんが抜けない部分である。アーニャのカードにはオレンジの大箱が付いていた。寮で分けて食べてもらったらあまりのうまさに購入希望が殺到したので、アーニャのブログを教えておいた。
直接会えなくてもこうして祝ってくれる。自分は幸せだとリヴァルは思う。
(スザクからは無いな)
幸せを感じる事ができる、今の優しい時代をつくってくれた嘘つき達からは来ない。

プロポーズ小作戦53

2009-04-27 23:07:12 | コードギアス
プロポーズ小作戦53
ようやく扉が開いた。
『星刻』と呼びかけようとしてスザクは彼らしくもなく止まる。ゼロとしては彼を黎大司馬と呼ぶべきじゃないか。
ナナリーにだって皇帝と呼びかけるのだから。
その隙を見逃す星刻ではない。瞬時、スザクが跳んだ。後方にではない。上へ。攻撃態勢で。
殺気に無意識に反応した。星刻が意図的に発した殺気。本気でない事はスザクにはわかる。星刻が本気なら、殺気を見せるようなことはしない。
それでもスザクの身体は反応した。軍人としての反射。戦場で生きている者の反射。
星刻の黒い瞳が輝く。
武器こそ手にしていないが、スザクほどのレベルではむしろ素手の方が危険だ。武器があれば一応はそれを使うと言う前提で対処できる。しかし丸腰では、拳か蹴りかの判断さえ付かない。
それは星刻も同じ事である。
星刻は薄く笑う。楽しいと単純に思う。強い相手と戦える。
自分が他人より強いと気が付いたときから、自分と同じほど強い相手と戦えるのは快楽だと知った。
知の面でのゼロ。そして武のスザク。
しかし、違う。
ここにいるのはスザクではない。
『ゼロ』だ。

すっと殺気が消えた。
「ゼロ、あなたもここに整備においででしたか」
完璧な礼儀。
世界を守る英雄に対する、大国の支配者の礼儀。
スザクが廊下に降りたとき、すでに星刻は儀礼的な言葉だけを残して立ち去っていた。

かわされた。スザクは思った。
抜き身の刀で切りかけながら、星刻は去った。まるで、今のスザクとは戦いたくないとでもいうように。

(俺はゼロだから。もうからっぽだから)
廊下にはいつまでも誰も来ない。自分の隣にはもう誰も来ない。

プロポーズ小作戦52

2009-04-27 10:22:50 | コードギアス
プロポーズ小作戦52

ドアが開く。星刻が出てくるのを、スザクは道を塞ぐ形で待っていた。
『ゼロ・レクイエムの保険』
その意味をスザクは知らない。

CCは星刻の名を告げたのみで、何も教えてくれない。まぁ、彼女の普段の言葉を引くならば『魔女は嘘をつく者』らしいから、聞いても本当のことは教えてくれないかもしれない。あるいはルルーシュの掛けた保険の意味をCCも知らないのか。
ともかく、星刻に直接聞けばはっきりする。そういう点、スザクは昔と変わらずまっすぐな子だった。

プロポーズ小作戦51

2009-04-26 16:09:07 | コードギアス
プロポーズ小作戦51
『ゼロに仕えよ』
宰相シュナイゼルはダモクレスの日(2019年7月)から、この言葉に支配されている。その支配がどういうものなのか確かめることはできない。それはシュナイゼルの内側にしかないのだから。
スザクは自分自身も今もルルーシュのギアスにかけられたままである。
スザクが強く望めばジェレミアは解除しただろう。だが、スザク自身がそれを望まなかった。
この思いはルルーシュの真実だから。
それに実質的にも『生きろ』ギアスは役立った。ゼロとして身をさらす生き方とは、常時命を脅かされる事。ギアスはスザクに、限界を超えての戦闘を可能にする。
常時戦場の只中に居て、普通ならもう何十回も死んでいるはずだった。それでもスザクはゼロとして生きて、戦闘を、虐殺を止めている。最小限の流血で。

自分の経験からスザクは『ゼロに仕えよ』のギアスは常時発動しているわけではないと考えていた。それは『仕える』という言葉が持つイメージの差であろう。
サムライは命の終わりまで主君に仕える。しかし、騎士はむしろ契約に近いのではとスザクは思う。まぁその辺りは個人差の方が大きいようだ。例えばギルフォードとジノを考えればわかる。
スザクの考えでは具体的に「ゼロが命ずる」と言って命じた事以外は、シュナイゼルの考えが出ていると思っている。また「命令」への従い方もシュナイゼルの考えが入るようだ。

例えば今回、スザクは「星刻に内密に会いたい」と命じた。実現した。しかし、目的は達成できなかった。
漆黒のナイトメア零(れい)の整備のため、蓬莱島に来たゼロは、星刻も神虎のプログラム変更のため蓬莱島にいると知った。
ロイドさんなら星刻がどこにいるか知っているかもとロイドの研究室を訪ねると、隣のラクシャータの部屋で盛大な怒鳴り声がした。
「よくも、私のかわいい神虎を固定砲台扱いしたわね。覚悟はいい」
仮面越し、窓越しに覗くと、星刻がしょんぼりうなだれている。
ラクシャータはいつものキセルを振り回していたが、それが鞭に見えるのは気のせいか。スザクの心象映像か。

セシルがちょいちょいとスザクを呼ぶ。付いていってみるとロイドも居た。
どうしたのか訊くと、簡単に教えてくれた。
星刻が自分以外のパイロットを影武者として神虎に乗せるため、プログラムをいじったのだ。ラクシャータの許可なしで。
影武者は身長が星刻とほぼ同じで声の質も似ている。しかし、飛行型のナイトメアに乗ったことなど無い。本来の専門は大型基地の防衛、つまり固定砲台である。そこで星刻はラクシャータのパスワードを破ってチョコチョコとプログラムを変更した。ちゃんと元に戻したのだが、ラクシャータにばれたらしい。

「ラクシャータにとって神虎は本当に特別にかわいい子だから」
セシルがお茶を入れながら言う。仮面を理由にスザクはそれを飲まない。不幸な犠牲はロイドになる。

ぴしゃりと大きな音がして窓と防音装置付のブラインドが閉じられた。
それから3時間、スザクはドアを開くのを待った。もちろんその間に専用ナイトメアの零はロイド達が整備している。

ドアが開く。スザクは道を塞ぐ形で待っていた。
『ゼロ・レクイエムの保険』
その意味をスザクは知らない。

プロポーズ小作戦50

2009-04-26 11:08:56 | コードギアス
ゼロ・レクイエムによってスザクはゼロになった。
ゼロ・革命によって、ゼロは3代目のゼロになった。

それをとっさに決めたのは藤堂。どう考えてもスザクが「ゼロ」と同一人物であるとするのは無理である。1センチの段差にけつまずくルルーシュ・ゼロとマシンガンの弾をも平然と走り避けるスザク・ゼロ、絶対に別人とばれる。
そこで、かってのゼロの言葉「ゼロは中身ではなく行動によって真贋が諮られる」を引用し、3代目と呼んだ。

それなら1代目と2代目は誰だという疑問が当然起きる。
過去の映像が繰り返し検索された。1代目と2代目。
ブリタニアに処刑された1代目、戦死して蓬莱島に眠る2代目。公式にはそうなっている。しかし、マスコミはうるさい。
過去の映像から1代目は女性と言う説もある。あの柳腰。細い骨格。間違いなく女性である。それも美人だと言う説がネット界を中心に語られている。
CCが代役を務めていたときもあるから、女性説も無理ないわね。カレンはネットを斜め見しながら鮭のおにぎりをかじる。ただし、女性説の証拠として挙げられた数々の映像を見て、自分が女に分類されている事に嫌気がした。女性説の映像の全て、ルルーシュ本人の映像だったから。


プロポーズ小作戦49

2009-04-24 22:38:09 | コードギアス
プロポーズ小作戦49

星刻はもう数日ヤルカンドにとどまるつもりだった。予定を変えて、洛陽に戻ったのはジノの件が大きい。神虎とブリタニアの最新機が仲良く併走する。両国の友情を示すいい看板である。パイロットの気持ちはともかくとして。

 ジノは内宮と中宮の間にあるしゃれた離宮に試作機を止めた。星刻は政治の中核である外宮に降りた。そこで部下に指示を出し、すぐ大司馬公館に戻るつもりが、運悪く洪古に捕まった。
 運命とか宿命とかいう言葉を星刻は好まないが、どうも洪古とのタイミングだけはそういう言葉でしか言えない気がする。そういえば出会いのときからしても俺は洪古に捕まったんだな。睡眠不足のせいか少しぼんやりした目で星刻は洪古を見上げた。

プロポーズ小作戦48

2009-04-24 14:34:13 | コードギアス
プロポーズ小作戦48


中華におけるホモ達の扱いだが、歴史的に見てもむしろ奨励されている。女性の地位の低い社会では、男同士の結びつきが重要視される。それは精神面も含めての事だ。
とくに軍は男だらけの世界。今まで星刻に特定の相手がいないのが不思議がられていたが、やはり洪古と付き合っていたのかと皆納得した。批判もからかいも無い。文化の差と言うべきだろうか。
同時に特定の相手になれなくても、チョット手を出してみようというやつが複数でた。そいつらがどうなったか、記録は無い。


プロポーズ小作戦47

2009-04-23 15:59:04 | コードギアス

プロポーズ小作戦47
脱ぎたい脱ぎたくない?


「星刻、おい大丈夫か」
声をかけると「大丈夫だ」と返答はあるが、どうも反射的に答えているだけのようだ。
今のところパイロットスーツの両肩を下ろし、胸を大きく広げ息をしやすいようにしている。夏の事だし上着をかけているから寒くはないはずだ。(この時点で
2020年 7月中頃である)
さて、洪古は飛行型のナイトメアに乗ったことはない。白虎のシュミレーションはしているが、シュミレーションのためにいちいちパイロットスーツを着る事はない。本当は着たほうがいいのだが、中華ではまだ生産していない。
だから、パイロットスーツの下には何も着ないなんて知らなかった。
単純に知らなかった。

もともと星刻は筋肉が積み重なっていくタイプではなく、鍛えるほど引き締まるタイプだ。作年末で25歳になったはずだが、どことなく少年の気配が残る。
中華の古い時代の基準では30前ぐらいまでを少年と言う。李白や杜甫が居た時代である。だから古典に言う「少年の春を惜しむ」とは人生の始まりの輝く時期を惜しむという事だ。
さて、このとき洪古はどの時代の基準で少年と感じたのだろう。
初めて会ったとき星刻はまだ本当の少年でそれが軍を志してから、大きく強くなっていくのを見てきた。弟のようなというのが一番近い。
だから洪古に他意は無い。誰がなんと言おうと悪意も他意も無い。

ようやく片足を脱がせたところで洪古は気が付く。
こいつパンツはいてないのか。

締め付けのきついパイロットスーツを脱がすのは大変で、それでうっかり洪古は見落とした。着替えが無いという事実を。

ここで星刻は目を開いた。
「おい、」
「起きたか」
「この状況はなんだ」
星刻の声は低い。
「中途半端だな。脱ぎたいか脱ぐか?」

ところで朱禁城はもともとの名を紫禁城という。つまり150年前の建造物だ。もちろん改築や修理はしているが、中華と言う国が老成しているように、建物も老化している。掃除に来た女官が何気なくドアを開けた。鍵は簡単に開いてしまった。
女官は見た。大司馬を襲う右将軍の姿を。

もともと仲のよさを知られていた両者だが、ここに来てホモ達疑惑が加わった。






入力者のつぶやき。
おかしい、予定と違う。こんなペースでは天子様が成人して星刻を押し倒すまでプロポーズはできない。不安だ。

メモ

2009-04-23 12:29:20 | コードギアス

「とうどう、らくようはつらい」
意識があいまいなまま、星刻は口にした。自分が何を言ったのか目を覚ました後は覚えていない。



その漆黒の髪と瞳に想起されてか星刻には黒豹の異名があった。ロシアに行ったとき現地の兵士がつけた呼び名だ。
姿だけではなく、風が流れるような動きも豹を思わせた。盛り上がらず鍛えるほどに引き締まる筋肉。筋肉隆々のボディビルタイプが多い中華軍ではひどくか細くすら見える。だから一見星刻は文官に見られることもある。また、軍に付属して動く娼婦と見られたことすらある。
参考までに、星刻をそういう対象として扱った男達の消息は誰も知らない。
ただ、そういう事があったあと、星刻はしばしば愛剣の手入れをしている。





「中華は誰の国だ
漢族の国か?」
洪の一族は純血の漢族である。それは一族のみならず仕える部下やその親族まで完全に漢族のみ。その血統は古代国家漢の設立以前にさかのぼる。
対して星刻は一切の係累を持たない。
本人さえも自分の生まれすら知らない。
実のところ、革命集団である蒼天講の中でさえも漢族と否漢族の対立は合った。それが表面化せずうまく機能していたのは、星刻と洪古が完全に一体といえるほど心気を合わせていたからだ。



「ただお一人、天子様の国」



「星刻、お前最近ゼロに似てきたぞ」
それは悪意の無いからかいだった。まぁ、少しばかり星刻の秘密主義に腹が立ったというのはあったが。
だからその言葉が星刻に与えた影響がどれほどだったのか洪古は知らないままだった。


悪逆皇帝の拷問のために星刻の身体はあちこちに障害が残っている。医師の意見では「普通の生活をするだけでも、負担はかかるだろう。ましてや軍部など」。



ウラドの串刺し公
吸血鬼 不死者 
マリアンヌの家系


大司馬と右将軍。この2人は
ホモ立ちを疑われるほど仲が良かった。それが急激に対立した。先日も二人の直属の部下が闘技場で顔を合わせ、あわや流血騒ぎになりかけた。
対立は朱禁城の奥までもおよび、天子の耳にも入った。

いろいろなところから噂を集めてくる女官達。そんな噂を聞いて天子は小さな胸を痛めた。
どうして?今まで星刻と洪古は仲良しだったのに。
「政治にはいろいろな面があるから」
ジノに聞いたらそう答えた。
でもそれだけでは天子にはわからない。
実のところ、ジノは中華の政治への意見は慎重に避けていた。うかつに何か口にすると大きな問題になる。自分の立場をジノは十分に心得ていた。


何とか仲直りしてほしいと天子は夕食に大司馬と右将軍を招いた。しかし、多忙を理由に星刻に断られた。
実はいまだに固形物を食べると、反射的に嘔吐の発作をおこすので


プロポーズ小作戦46

2009-04-23 12:14:13 | コードギアス
プロポーズ小作戦46

人気の無い小部屋に入り、鍵を掛け、寝台に下ろし身体を締め付けるパイロットスーツを脱がす。洪古の手に星刻の背が触れる。はっきりとわかる異物感。でこぼこの手触り。星刻の背には皮膚移植以外では直せないほどの傷跡がある。鞭、やけど、刺し傷、つまりは拷問の痕。
拷問したのは悪逆皇帝。
世間ではそう思われている。
事実は。
星刻は何も言わない。
ただ、ゼロ革命(ゼロ・レクイエム)の日、星刻の背を応急処置した医師は「あの傷跡は2ヶ月程度ではない。何年も続けてやられていたはずだ」とコメントしている。

星刻の呼吸は浅い。瞳は閉じられている。5分ほど酸素ボンベを宛てているとゆっくり目を開いた。

「大古」
声にされたのはまだ正式の軍人になる前に交わされた呼び名。
「天子様を頼む」
言い終えるとまた目を閉じた。

パイロットスーツを脱いだ後はいつもだが少し肌寒い。圧縮されていた筋肉が元に戻ろうと動いている感覚。星刻はこの感覚が苦手で、だから、パイロットスーツを着るのは好きだが、脱ぐのは嫌いだ。それでつい神虎を降りた後もパイロットスーツのままで、上から軍服を羽織るだけで過ごす事も多い。

ラクシャータは神(わがまま)虎(息子)の相棒を怒らない。怒っても無駄と知っているからだ。星刻のようなタイプは自分の思うままに駆けて走りぬいて、命が終わるまで生きるだけ。誰かが止めて、止まるようなら最初から走り出さない。
そういう点が本人すら知らなくても、間違いなく星刻はルルーシュの兄弟だった。

プロポーズ小作戦45

2009-04-23 12:10:08 | コードギアス
プロポーズ小作戦45

時間を早回しさせていただけるなら、星刻の今回の独断は人権問題でうるさく言ってくるヨーロッパ世界へのけん制だった。
中華は自分で変わりつつある。お前たちはわが国の事に口を出すな。
それを見せるのにこのキルギスほどふさわしい場所は無かった。
それまで、人身売買どころか、正規の輸出品として売られていたキルギス女性が解放された。キルギスには公式には女はいない。戸籍に載っているのは男のみである。女性の地位はアラブ世界並みに低い。キルギスが洛陽に反発している理由のひとつに今の天子が女だという事もある。
この女性地位の向上にはキルギス内の経済界からの反発が予想されたが、星刻が選んだ新しいキルギス代表は、ちゃっかり中華軍の攻撃部隊をそういう連中の本拠地にも送り込んでいた。
付け加えるならそういう場所に送り込まれた中華の兵士は出荷予定だった女性50人を戦利品として持ち帰った。
その女性達を偶然にも、星刻が目をつけていた人身売買組織に売った。それを知った星刻は自ら剣を片手に乗り込み、当の兵士を含めた小隊全員を斬首している。




さて、時間は44章の冒頭の台詞の少し後に戻る。
ずいぶん長く星刻と洪古は話していたがまるでかみ合わない。
星刻はこのとき意識下でシュナイゼルを対象に戦っていた。だが、それを声に出した事は無い。
一方洪古は星刻がまた一人で行動したこと。どうして他の将官を送るだけにしなかったのかを責めた。だが、「お前が無茶をするのが心配なんだ」とはっきり言う事はできない。お互いに立場もある。
何よりも、星刻の性格だ。そんな風に言われて素直に聞くタイプではない。
だから言葉はすれ違う。
「部下を信頼するのも上官の仕事だ」
洪古の言葉に星刻が言い返す。
「能力を把握しておくのも仕事だ」
今の中華軍には政治的な問題が絡んでいる場所をうまくこなせるやつはいないと、星刻は言う。
それも当然で、いままでそういう政治がらみの問題は宦官が執り行ってきた。朱天革命前、軍は宦官の後に付いて行って宦官と利益を分け合った。
今の中華軍で政治的配慮をできるのは星刻はじめ10名にも満たないだろう。
洪古自身も政治は苦手とは言わないが、なるべくなら剣で解決したい性質だ。
実のところ星刻自身もCCの言葉を借りれば「政治もできる軍人」だった。本質は剣にある。



ダモクレス戦で星刻はあの裏切り騎士スザクと戦った。そのとき、神虎の背を大きく断ち切られその衝撃でのどを痛めた。あの混乱の中、治療できなかったため後遺症が残り、長時間の会話には耐えられなくなっている。
それに他の将官も出入りする場所で、最高司令官と右将軍がいつまでも言い合っているのはまずい。星刻は決め付けるように言い切り立ち上がろうとした。
「とにかく、今回の事はすでに私の権限で決定した事だ。これ以上の抗議は」
聞かないとの言葉は星刻からでなかった。声がでない。息が吸えない。
自覚よりも身体は疲れていた。それに気が付いたときにはもう遅かった。
視界が急に暗くなる。
「星刻?」
急に言葉を切った星刻を洪古はじっと見る。
顔色が悪い。これでは前に貧血で倒れたときと変わらない。周りを歩いていく将官達が、まったく騒がず敬礼だけをして行ってしまうのを見ると、自分がいない間星刻はずっとこんな状態だったのだろう。
「星刻」
そっと呼んでみるが返答が無い。

(こいつ息を!)
星刻は呼吸していない。意図的なのか、できないのか。いずれであってもあまりいい状態ではない。
一秒で洪古は行動を決定した。将官服のコートを脱ぎ、まだパイロットスーツのままだった星刻をくるむとそのまま肩に担いだ。