金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

プロポーズ小作戦40

2009-04-17 21:40:43 | コードギアス
プロポーズ小作戦40

垂直上昇機を手配したのはナナリーだが実質的には、白の宰相シュナイゼルである。
なんとなくナナリーに乗せられて飛び出してみたが、さて、落ちついて考えると無意味ではないかと思う。
星刻は天子とのラブラブ電話(専用電話)には出ないが、公的な報告は毎日定時にされている。
連絡したければ簡単にできるはずだ。

ただし、女官に聞いたところではいつも御簾越しの報告で顔を見せないという。
それでは星刻本人がどうか確認できまい。
ジノはそう思ったが、教えてくれた女官をはじめ朱禁城の者達は疑っていない。
神虎に乗れるのは大司馬だけですから。
それについてジノは何も言わなかった。シュミレーションではあったがジノは神虎に乗っている。シュミレーションマシンを作ったのはラクシャータだから本物の神虎と変わらないはずだ。
それに少なくとも5人は、神虎に乗れるパイロットの名をジノは上げることができる。性能を生かして戦えるかを無視すれば候補はさらに増える。

もし、星刻が神虎に乗っていないなら彼はどこにいるのか?
あるいは自分をわざわざ新型機まで手配して飛ばすのは、星刻に何か異変があり、それを中華には知らせたくないからではないか。教えたくないのは星刻の都合よりシュナイゼルの思惑ではないか。
そこまで考えて、ジノは機体を加速した。副パイロット席で太陽を写し取った色のオレンジが少し揺れた。

プロポーズ小作戦39

2009-04-17 15:17:18 | コードギアス
プロポーズ小作戦39

毒見した女官からそのおいしさを聞いた天子は1個食べてみた。
スマイルオレンジは食べた人にもその笑顔を分け与える。
天子にも笑顔が届けられた。

両頬にオレンジからもらったえくぼを浮かべ、天子は両手にオレンジを持ってジノのいる離宮に走った。
後ろから女官が追いかけるが、すっかり機敏になった天子に追いつけない。
(おいしいからジノにも食べさせてあげたい)
昨日、ジノは少し元気が無かった。それはナナリーと通信で話してからなのだが、天子は知らない。

(どうも、ナナリー殿下、いや陛下にうまいこと乗せられた気がするな)
垂直上昇機のエンジンを温めながらジノは心中につぶやく。
結果的にはあの白の宰相の言うとおり、腹黒狸を迎えに行く事になっている。

ジノがエンジンを温めさぁ乗り込もうかとしたとき、天子が庭に飛び込んできた。
慌ててジノはエンジンを切る。
「どうしたんだい。天子ちゃん」
「ジノ、食べて」
アーニャから贈られたオレンジを食べたからでもあるまいが、天子の口調はアーニャそっくりになった。
ジノは差し出されたオレンジをそのまま口にする。この大らかさがジノの持ち味だ。これが星刻なら押し頂いて御礼を申し上げた後、お一人でこのような場所にいらっしゃるのは危ないとかの、ご注意申し上げがしばらく続く。
かぶり、白い歯がオレンジの果皮を破る。
ほとばしる果汁。さわやかな香り。
「スマイルオレンジか」
「アーニャさんから届いたの。おいしいからジノも食べて。絶対元気になれるのよ」
「うん、元気になった。ありがとう天子ちゃん」
「良かった」
にっこり笑う天子。
その笑顔がジノの深いところを揺さぶる。
言葉にするなら母性本能を刺激される。

「天子ちゃんは星刻を好きかい」
「大好き」
こんなにかわいい子にそう言ってもらえる、幸せ者めとジノは思う。

プロポーズ小作戦38 トリスターオレンジ

2009-04-17 14:41:55 | コードギアス
プロポーズ小作戦38

陰謀を企む者は自分以外が陰謀を仕掛けてくる事をわすれる。
革命家は自分が覆される事を忘れたい。

第一次世界大戦の少し前、トリスター・オレンジの作り手が書いた言葉。トリスター・オレンジは今ではスマイルオレンジと名を変え少しずつ市場に出るようになった。
スマイルオレンジは果汁が豊富で大変美味だが、木がひ弱で温室でしか育たない。また、手間のかかる品種で、一日でも目を離すとしわがれる。過保護なぐらいに大事にしてやっと実をつける。そのため栽培農家は今のところゴッドバルド農園だけである。

温室育ちのデメリットはうまく育てれば、通年で取り立てのオレンジを楽しめるメリットとなる。

その日、中華の天子に、元ナイトオブシックスのアーニャからスマイルオレンジが届いた。
ジェレミアの名を出さないのは悪逆皇帝に仕えていた罪人であるから。対外的にはアーニャはジェレミアを監視している事になっている。

スマイルオレンジの語源は皮に2個の凹みがあり、それがえくぼに見えるからである。
ゴッドバルト家では別名を花嫁のオレンジとも言う。それはいくつもの改革や革命が重なった後、滅んだ国の女がゴッドバルドの先祖と結婚するとき、花嫁の財産として苗を持ってきたことによる。
ゴッドバルド家の所領では結婚の祝いにこのオレンジが送られる。花嫁から次に結婚する予定の女に手渡される。それを考えれば結構意味深な贈り物である。

プロポーズ小作戦37

2009-04-17 02:28:11 | コードギアス
プロポーズ小作戦37

さて、天子に赤ちゃんの手に入れ方を教えた男はどうしているのか。少し時間を巻き戻して覗いてみよう。

いい意味でも悪い意味でも目立つ存在だった元教え子の顔を見た支部基地の司令官は、すぐ星刻の名を思い出した。
星刻は自分がここにいることは極秘にしてほしいと依頼し、基地司令は部下に星刻のことを以下のように説明した。洛陽から来た新任の少尉だ。名前は枢青竜。キルギス語はわからないから、しばらくは言葉を覚えてもらうために私の側付きにする。
ここで基地司令は言葉をキルギス語に変えた。こいつは洛陽で問題を起こして、島流し中の身だ。
この一言で兵士達は枢青竜を好意的に迎えた。

キルギスはもともと40以上の部族民族が集まって作った国である。公用語だけで7種類もある。
地理的にロシアと中華に挟まれていて、常にどちらかの支配や干渉を受けている。
キルギス自治政府もしたたかに、中華に支配されているときはロシアに擦り寄り、ロシアに支配されているときは中華に擦り寄って、実質的な独立と利益を守ってきた。
ところがそのバランスをシャルル皇帝支配化のブリタニアが崩した。未だにロシアは往年の勢いを取り戻せない。
伝統的とも言うべき政策が取れなくなったキルギスは、分裂と内戦を繰り返している。その絶望のなか、新仏教を名乗る光明信仰が根を張った。
ロシアが弱っている今は中華が支配力を強めている。つい先日までの大宦官達による支配体制で、キルギスも収奪に苦しんだ。特に支配層である漢族に対する恨みは強い。
洛陽で問題を起こして失脚した少尉は、外見が漢族でない点も含めて暖かく受け入れられ、すぐ兵士達と打ち解けた。
今朝も早くから若い兵士達と剣の打ち合いをしている。挨拶とばかりにこの基地の腕自慢が5人がかりをしたが、15分きっかりで全員のされた。

「せーりゅーつよい」「たくさんつよい」「つよい、よい」
キルギス人の兵士は中華語が不自由だ。対する星刻もたいていの言葉はわかるがキルギス語のようなローカル語まではわからない。

この基地で星刻は数年ぶりに気楽な身に成った。ここでの自分は総司令官ではない。大声で笑ってもいいし、若い連中と一緒に訓練を抜け出してロバ狩りに行ってもいい。権威や威厳を取り繕う必要がない。
伝統的な礼装に身を包み、本心を押し隠していた身体が不意に軽くなった。また、単純に物理的にも伝統的な礼装は重い。数時間も続けて着ていると、筋肉痛を起こすほどだ。
もちろん今の状況は作り事だ。国境の緊張状態を解決するための偽りの身分。
それをわきまえてなお、精神的に楽になっている。
黒の騎士団時代にラクシャータに訊かれた。「あんたの仮面は何枚重ね?」
そのときにはゼロに引っ掛けたジョークと思った。だが、今になってあの言葉の意味が実感できる。

この基地で星刻は数年ぶりに動物性淡白を口にした。
硬くて筋だらけのロバの肉。けだもの臭い肉を口にして、数年ぶりに味を感じた。うまいと。
結果的には数時間後吐いてしまった。長い間固形物を食べていないため、萎縮した胃には野育ちの肉は刺激が強すぎたらしい。