プロポーズ小作戦27

プロポーズ小作戦27



天子は誰にも教えてもらえなかったが、星刻が行ったのは難所として名高い瞿塘よりさらに厳しい土地。
砂礫と白骨を名物とするタクラマカン沙漠の西端の市ヤルカント。
タクラマカン砂漠の語源は、「死の場所」「死の世界」。「生きては戻れぬ死の砂漠」という意味が有る。
非常に乾燥しており、降水量は年に数ミリ程度。標高は非常に低い。周辺にはタリム河、ホータン河などの河川がある。いずれも海に達することなく消える死滅河川である。
利用価値の無い沙漠ゆえに開発とは無縁だったが、1980年代後半にタリム油田の探査が本格化すると当時の中国政府は西部大開発、西気東輸プロジェクトなどにより開発に乗り出した。しかしその後、サクラダイトの普及に伴い、開発は中止。現状は不毛地帯に戻っている。
そんな土地に市があるのは不思議なようだが、実は世界の人口の6分の1に相当する10億人以上が、砂漠地帯に住んでいる。沙漠に適応した動植物が豊かな生態系を形成している。この場合の生態系には政府や権力に見捨てられた人間も含まれる。

星刻は現地に近いある軍基地で神虎から降りた。
神虎は国際機体と呼ばれ、世界中フリーパスとなっている。
だが、それは同時に神虎がどこにいるか常に世界中に知られていることになる。

世界各国が神虎を国際機体にした大きな理由。それは悪逆皇帝を倒した英雄達に対するお礼や尊敬の意味もあるが、超絶ハイスペックマシンである神虎の戦力を牽制するためでもある。今、起動しているハイスペックマシンは神虎と、そしてゼロに贈られた機体の零のみ。ゼロは存在そのものが象徴であるとされているが、星刻は中華の軍人である。中華だけが突出した戦力を持つことに脅威を感じる国は多い。
　名誉な存在として神虎を祭り上げる事で、各国は実質的に神虎の戦力を封じたのだ。
星刻が動き神虎が動く。それは世界の注目のもとで行なわれるイベントと化す。隠密行動など望めなかった。