金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

プロポーズ小作戦58 2020年8月

2009-04-30 22:03:41 | コードギアス
プロポーズ小作戦58
2020年8月

太陽は望まぬものにも光を与える。
月は望むものにしか顔を見せない。

その夜師弟は月を望んだのか。
無いはずの道場が魔法の時間を許したのか。

剣の伝授が済んだ後、師弟は汗だくの身で風呂に向かう。
いつもと一緒。こうして一緒に風呂に入って背中を流すのがここのやり方。
風呂場のドアを開いてそこが空っぽである事に気が付く。
師弟は改めて視線を交わす。
相手が幻でない事を確認するように。
よくよく見れば、道場はまったく違和感を感じなかったが風呂場のドアは違う。
「スザク君ここは?」
「すいません、勝手に入って」
スザクは藤堂が道場を再建したと思った。それでつい人の気配が無いので入ってしまった。
藤堂の方は帰郷すると、いきなり無いはずの道場があった。そこにスザクがいたのでスザクが造らせたのかと勘違いしかけた。
そこにもう一人隠していた気配をはっきり示す男がいる。
「良いものを見せていただいた。藤堂さん。枢木スザク。」
漆黒の髪と瞳、黒豹の名を持つ男。中華の支配者。ゼロの同盟者。
「スザク、ここでならゼロの共犯者であるお前と会えると信じていた。」
「あなたは誰です」
「ゼロの同盟者にして、今は契約者でもある」
契約という言葉にスザクの視線が鋭くなる。
ギアスなのか?
「生憎、君の判断力の及ぶ範囲ではない。これは私とゼロの契約だ。
受取人はスザクお前だ。」
おや、と藤堂は思った。星刻の声や口調が少し違う。まるでゼロが一部うつったかのような。
「契約内容は?」
「シュナイゼルにかけたギアスが解けている場合、必要なら対立する。
ギアスの効力に疑念がある場合、世界を取り押さえる方向に向ける。」
そこまではもともとの星刻の考えと同じである。
「俺との関係は」
「ゼロとしての演技指導と相互データ交流。同一目的である場合、共同作戦も可能」
星刻の言葉はよどみない。
だからこそ、スザクは疑問に思う。あのルルーシュがこの程度の内容で保険なんていうだろうか。
何か大きなことが隠されているのではないか。ルルーシュはたくさんの嘘をついた。でも彼の嘘は優しかった。今回も優しい嘘に守られている気がする。
星刻のほうはそれ以上口にする気はないようだ。
星刻は実は一番厄介な部分を口にしていない。それは「スザクはお前の弟だ」というルルーシュの伝えた事実。


もしルルーシュが弟だから助けろなどと甘い事を言うようなら、星刻はここには来ていない。ルルーシュは完全にビジネスと計算に徹し、スザクと手を組みあいつをうまく導く事が中華の安全に、天子の利益につながると証明した。無論それは、ルルーシュが生きている頃の未来予測であり、ずれている部分もある。その程度は、どうとでもなる。


こうして新しい道場で、藤堂の立会いのもとで、新しい同盟が結ばれた。

プロポーズ小作戦57 2020年8月

2009-04-30 12:03:45 | コードギアス
プロポーズ小作戦57
2020年8月

藤堂は今更驚くことも心が動く事も無いと思っていた。自分の心はもう4人が持っていった。後はただ、残されたからだが朽ちるまでとどまるだけだと。
ところが、その思いはあっという間にひっくり返された。



月の光。淡く光る池。人の足音に跳ぶ鯉。
そこには木っ端微塵に無くなったはずの道場があった。昔と変わらぬ姿で。


藤堂先生、お帰りなさい。
すぐ稽古だろ。オレ達待ってたんだ。

記憶の底から聞こえる声。子供達の声。それに混じって聞こえる朝比奈の声。
こらー、お前ら、藤堂先生は帰ったばかりだろ。稽古は俺がしてやる。

えー!
おれ、藤堂先生が好きだぞ。
大声で怒鳴り返すスザク。

それに対して、朝比奈も声が高くなって、
藤堂先生を一番好きなのはオレ達だ!

まぁ、いいではないか。朝比奈。大体お前こそ子供と張り合ってどうする。
千葉さん、だってあいつかわいくないし

私から見ればお前もかわいくない。
千葉がぼそりとつぶやく。


そう言えばスザク、おまえ昇段試験だろ。
他の少年より少し年上の少年がとりなすように口を挟む。

藤堂の道場は軍務と兼務なので昇段試験は他の道場に出向かねばならない。
昇段できる人数は決まっていて、どこの道場主も自分の弟子を優先したい。
だから昇段試験の前には、藤堂は時間の許す限りその子供の稽古を見た。

そうかそれならスザク君は奥で私が見よう。千葉、朝比奈と一緒に道場を頼む。

はい、中佐。


千葉はときどき軍の外でも階級で呼ぶ。


少し早いかもしれないが、そう思いながらも藤堂はこの才能あふれる弟子に自分の必殺剣三段突きを教えるつもりだった。
しかし、結局それは教える事ができなかった。奥に入って剣を構えたとたんに、軍から緊急呼び出しがあった。

その後いろいろあり、次にスザクに会えたのは、父殺しの現場だった。



藤堂の足は奥へと向かう。
スザクを純粋に弟子として見れた最後の場所。

そこに人がいるとは思えなかった。
気配は感じられない。
だが、いた。
スザクが。
いつもの袴姿で。
背はすっきり伸びて。

「スザク君」
「藤堂先生」
あるはずの無い道場が、時間をさかのぼらせてくれたかのように、呼び合う声は昔のままだった。
「三段突きを伝授する」
あのときの言葉の続きが自然に出てくる。

その夜、道場には師弟がいた。