金属中毒

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102-7勝利

2007-09-22 11:00:57 | 鋼の錬金術師
102の7 勝利
勝利。
まさかそんなことがあろうとはこの街の誰も思わなかった。この街でまともに戦える者は10名にも満たなかったのに。
だが、現実に街を襲った馬賊は全員(と思われた)捕らえられ縛り上げられ、彼らの足元に転がされている。
「助かったのか」
疑問の形の確認を誰かが口にした。
誰も返答しない。
まだだれも勝利を信じられないでいる。
馬がいなないた。
「勝ったのは俺達・・・だよな」
「始めての勝利か」
この街は戦いに勝ったことは無い。いつも《平和的》に征服者を迎え入れてきた。その時代なりの供物を用意して。初めての勝利に対して沸き返るよりとまどいが強い。
「馬、どうする?」
食うか、売るか。
自分達の好きにしていいのだ。
そう思うとようやく勝利の実感が湧いた。
記録をつきあわせると砂漠の戦いは以下のような推移をたどったらしい。

白水への連絡からシャオガイが大急ぎで戻ってくると、ラッセルはまだ窓辺でぼーっとしていた。
(・・・この人、あれから服を脱いだだけ!!この非常時に何考えているんだァ!)
シャオガイは荒く足音を立てた。
その音にラッセルがゆっくりと振り向く。
「なんだちいさいの。まだいたのか」
(!!!!この人、このペースで今までやってきたのかなー)
「あんた、敵多いだろ」
「 あぁ世の中には馬鹿が多いからな」
(その最たる者はあんただよ)
シャオガイは怒鳴りつけてやろうと大きく息を吸ったがそれこそそんなことどころではないと深呼吸に変える。
折からの月の光が窓から差し込む。
(ふーん、昼間も細腰とこの髪、それにこの顔でそのまま役者になれると思ったけど)
青白い光の元で見るラッセルは昼の3割り増しにきれいだ。
(漢国初代皇帝でもタラシコメルヨ。これならいける)
黙って立っているだけでさえ、(というより黙っていたら)ラッセルは特上の美形だ。それも性別を無視したタイプの美形。女なら傾国の名を独占するだろう。
透けるような銀の髪、完全に無色透明の瞳。今宵その瞳は月を写しとり銀の輝きを見せる。
〈天下に一人の男が月の瞳に己の姿のみを焼き付ける〉
漢国初代皇帝は月の精霊を妃としたという。精霊の妃を激しく愛した皇帝はその瞳に他の者が映ることを許さず、即位式の夜に彼女の瞳を切り裂いたと伝わる。
その崇りかどうかは不明だが漢国は短命に終わった。
・・・とにかく服を着せないと。
10年後にシャオガイはあの時の自分がお子様で良かったと語っている。
『もし、あの時の僕が今の年齢なら・・・あの人を・・・、まぁ僕はそっちの趣味はないけど、あの人だけは・・・あれは、人の持つ成分を昇華してきれいさだけを残したような』
さて、10年後はともかく今夜のシャオガイはラッセルの全裸にも不埒な思いを抱かなかった。どうやら服の着方がまるでわかってないらしいラッセルを人形のように立たせて1枚ずつ薄布を身につけさせる。
 女神の服であり巫女の服でもあるそれは服というより掛けられた布である。まず腰の一番細い位置にベルトを巻く。巫女の人形の腰はかなり細く作られていた。そのベルトをそのまま巻いてそれが数センチも余ってしまったのにシャオガイは驚いた。(細いとは思ったけど。こんなのでもちゃんと内臓は入っているのかな?)
お子様の好奇心100パーセントでシャオガイの手はラッセルの腰をくるりとなぜた。
それについてラッセルの反応は、  無かった。
シャオガイは知らないが、ラッセルはしばらく前から自分ひとりで着替えたことが無い。ブロッシュは時々ラッセルのサイズを手測りしていたので腰回りを触られることには違和感が無かった。
 (怒られるかな)とちょっとどきどきしていたシャオガイだが無反応なのでどんどん着替えさせることにした。腰のベルトはあきらめて代わりに細い銀の組みひもを巻いた。その紐に薄く透ける布をかける。ボタンも無い。留め金も無い。ただかけるだけ。ここでシャオガイは外見がどう見えようとラッセルも雄であることを確認した。別に確認したかったわけではないが。見えてしまうのだから仕方が無い。
布は幅が35センチ。長さが40センチの三角形。幅の広いところをベルトにかけるので逆三角形になる。それを前後左右に微妙にずらしてかける。
次に片方の肩を出す形で胸にも細いベルトを巻く。これはサイズ調整ができるので人形のを使えた。このベルトにやはり透けそうな薄布をかける。
かけおわって見てみると胸のラインがさみしい。まぁ、これは仕方が無い。ラッセルには乳房などないのだから。そこで薄いレースのショールをかけた。これで胸のラインの多少のごまかしは効くだろうし、ラッセルの顔立ちとあいまってますます貴族の姫君に見えてくる。
これで巫女の服は完成。昔はこれに豪勢な金の装飾品だの、宝玉だのを飾ったのだが、もうそんな金に成りそうな物はこの街のどこにも無い。それでも探してみると真鍮の腕輪やアルグレットがみっかった。
幼児体型の自分でさえもう少しで握りこめそうな手首にシャラシャラと音を立てる舞姫の腕輪をはめる。小さな天然石が細い鎖で繋がれているそれは当たる石の角度によって微妙に異なる音を立てる。ラッセルが上半身を曲げて腕輪を揺らした。しゃらりしゃらさら。
どうやらこの音が気に入ったらしく薄い笑みをラッセルは浮かべた。わずかに傾けた上半身は薄い白いうなじが見えた。
ラッセルの様に痩せた者の場合ちょつと動いただけで肋骨が見えたりするが、それはそれで肋骨のラインが色っぽかったりするが、ラッセルにはそれは無かった。
(骨格のつくりが細くて華奢なんだ)
ラッセルのような骨格のつくりでここまでの身長があるのは珍しい。
(たぶんこの人子供の頃に一気に伸びたんだ。もうこれ以上は止まるんじゃないかな)
シャオガイはそんなことを考えながらラッセルの靴を脱がせ腕輪と同じタイプのシャラシャラ鳴るアルグレットを巻いた。
(うわー、爪の形までととのってる。この人王族のお姫様みたいだ)
シャオガイは王族の姫を見たことがあるわけではない。彼の知識はおとぎ話レベルである。しかしながらその浮世離れしたイメージにラッセルはぴったりと納まった。
これで飾りつけは終わり。本当の巫女ならもっといろいろな宝石で飾られるのだがシャオガイにはそこまでの知識は無い。それに金になりそうな宝石や貴金属はとっくに売り払われていた。
昇りつつある月の光が窓から差し込む。いつも留めている銀の組み紐が無いから腰まである髪はオーラのようにこのゼランドール製の工芸品を飾った。

さて、おいしい疑似餌はできた。
あとは釣り上げるタイミング。