金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

天女の羽衣

2020-10-07 15:59:20 | 刀剣
天女の羽衣


 紅の本丸は美しい。空はいつも淡い紅に染まり、花は時を忘れ咲き、水はどこまでも澄み切っている。政府役員はここに来るのを楽しみにしている。

 この本丸は他の本丸とはまるで異なっている。うす紅の空にそびえるのは大理石の柱、この本丸はギリシア神殿風である。

 庭園のオリーブの木には握りこぶしほどもある実がたわわに実り、その隣接区画にはオレンジ・レモンなどかんきつ類が実る。いずれも高さは1メートルの位置に実っている。短刀が簡単に収穫できる高さである。

 色とりどりのバラの小道を歩き本丸の入り口に近づく。ここの花はいつ来ても美しく咲いている。ただの一度も枯れた花びら一枚すら見たことがない。花々は散ると地に落ちる寸前に消える。文字通り消える。花だけでなく葉も同様である。だからここの短刀達は庭掃除を知らない。必要が無いのだ。


 本丸の中庭に池がある。この辺りは本丸の定型部分でどこの本丸も同じである。

だが、おや、声に出さずに役人はつぶやいた。

何か違う。なにか足りない。

役人は足を止めて首をひねった。

「あ、蓮が」

池には何もなかった。


「ようこそ、お待ちしておりました。」

迎えてくれたのは金の髪、青緑色の瞳の初期刀、山姥切国広、この本丸の管理者。

だが、もしどこかの街中でこの初期刀を見て、山姥切国広と即断するのは難しい。切国と呼ばれるこの初期刀はその最大の特徴である襤褸布をかぶっていない。

金髪碧眼、北欧系美形だな。役人は声にせずつぶやく。山姥切国広一般に対する最大の注意点。容姿をほめてはならない!もっともここの山姥切には、きれいは禁句ではない。


 「あれ、どうしたんだい」

役人は池を指す。

とたんにやわらかに微笑んでいた山姥切の表情が消える。

あ、なんか悪いこと訊いたかもと役人は思う。先代の役人によると、たいていのことは笑って流しているが意外なところに落とし穴があるという。さっぱり参考にならない説明を思い出す。


 「たとえ、元居たところだろうと俺たちを捨てていくことはもう許さない」

いきなりの強い口調だ。

役人は思う。自分に対する返答というより、思っていたことがうっかり出てしまったという印象だ。

それを証拠立てるように色白のほほが紅潮する。

声にするならばしまったという表情だ。

「、姫宮は中の院にいます」

言い残すと山姥切はすごいスピードに走り去った。

どうも恥ずかしかったらしい。



審神者にそのことを聞くと、楽しそうに答えた。

「昨日天女の羽衣を読んだの」

昔話にはいろいろな派生があるが、昨日読んだ話は羽衣を奪われ猟師の妻になった天女は蓮の精霊の助けを得、蓮の糸をつむいだ布で天に帰るお話であった。

 昨夜はいつものようにお話を読んで「お休みなさい」と挨拶して寝たのだが、夜中に短刀たちが泣き出した。

「あるじさまがどこかにいってしまいます」



 そして今朝、審神者が気がつくと、池はからっぽになっていた。


 あぁそういうことかと、役人は納得した。

しかしまぁ、昔話を真に受けて蓮を根こそぎしてしまうとは、意外にこの本丸の刀達は子供っぽい。

かわいらしいことだ。


 役人は紅の本丸の景観変更(物理)を悪意なしと判断し、了承した


全刀剣集結20170618

2017-06-18 21:52:10 | 刀剣
20170522三日月難民を自認した
大和国で入国して、当時、実装されていた刀剣ほとんど、と博多をはじめとする新契約刀剣、これは博多以外は意図的に集めたわけではない。
残りは一期と三日月のみになったころから、初期刀とその脳筋兄弟とその縁者というカンスト6振り、極短刀6振りで交互にお山をぐるぐる。
うっかり20170522に一期がきて、この時から三日月難民を自称した。
そして、今回、悲報の里、いや変換ミスなんだけど、最初のこの里の挑戦でことごとく敗退。
最初の練習戦線をちょこちょこ回るだけだった小生には悲報のほうが似合った。

しかし、あの時と比べ、当本丸の刀剣は強くなっていた。さらに里は人里コースとでも言うべきか、攻略できた。
もはや、悩む暇は無い。あるだけの小判を積み上げ、かたっぱしから戦闘戦闘。
レベル1だった後藤が31になり、まったく育てる意識のなかった包丁が特付になり、201706182255三日月光臨。
実のところ当初は、三日月をというより、大和国に初期メンバーを集め終えた時点で、半引退するつもりだった。
しかし、三日月を手にする少し前、今回の里の易画面をクリアした後現れた画面にその考えはたたき出された。
まう桜、笑うこども。
無意識に使っていた包丁が特になった。
ただそれだけのことだった。これまで40回以上見てきた。同じような画面。
たったひとつ違いがあった。
私は笑った。
ただ、愛らしくいとしく、だから笑った。
そして思った。もうどのくらいビジネス用以外の笑いを失っていたのか。

結論として、私は明日もログインする。今一番の新入りの三日月が特になるときもまた笑えるように。

寝苦しい夜 国境要塞の幽霊

2017-03-17 17:59:33 | 刀剣
寝苦しい夜 国境要塞の幽霊
 短刀達は冷たいものが欲しいとまた言い出したが、あまり冷たいものばかり食べさせるとおなかを壊す。他の短刀はともかく、異常に低体温で顕現してしまった博多もいる。
唯一の打刀で短刀達の「兄」でもある山姥切国広はそれならばと涼しくなる話を始めた。
 「その大きな国はいつも戦争をしていた。大きな大陸の真ん中あたりにできた国で国境線は長く回りは敵だらけだった。」
 短刀達は唐や宋を想像した。
五虎退だけは(あ、昔いたとこの話)と思った。
 この本丸の初期刀は帰国子女だ。遠いどこかの国で軍人だったころの記憶がある。
「刀剣男士のように戦闘に特化した魔法使いも軍で働いていた。国の中で内紛が起きた後、減少した軍事力を補うため国境の守りはある魔法使いに任された。 要塞は大きな蔓植物の固まりだ。遠くから見ると緑の大きなビルに見える。」
切国の手にいつの間にか30センチほどの蔓が握られている。
「敵が来るとこの蔓が動いて敵の首をとる。とった首は蔓に縛られてぶら下がる。死体はやがて腐って落ちるが、頭は残る。遠くから見ると蔓に白い花が咲いているように見える。夜になって風が出ると頭がぶつかり合って音が鳴る。要塞の中で聞くと死体が話をしているように」
ここで「きゃー」と声が聞こえた。
声の方を見ると審神者の少女がお茶のボトルを取り落としていた。
切国は困った顔をした。前の時と比べて姫様はこういうことに対して耐久力が低い。話を始めたときはいなかったので油断していた。
 切国は話をやめて、短刀達を寝室に促した。
 ベッドに入らせお休みを言って子供部屋を出ようとした切国に短刀の一人が聞いた。
「その本丸、要塞には何人くらい集まっているのですか」
短刀達にとっては自分達のいる本丸が一番わかりやすい。
「そこには一人しかいない。一人で十分だから。」
切国の答えは平坦だ。
「え、ひとり」
「あぁ、一人でいるのがあの時には良かったからな。」
(一人ならもう大事な存在を失わなくてすむ)
声にならなかった言葉が切国の脳裏に浮かんだ。
(俺は以前大切な存在を失くした)
それが誰だったのかは思い出せない。審神者によると前世の記憶とはそういうあいまいな記憶でおることが多いらしい。
(俺が写しだから、その時も守れなかった)
「そんなのかわいそうです」
短刀の声に切国は、前世の記憶に向けていた意識を切り替える。
「殺されるほうにも言い分はあったのだろうが」
殺された者に同情しているのかと切国は思った。
確かにあの時はどのくらい殺したかもわからないほど殺した。効率を考えれば今よりずっと強かった。
「違います。ひとりではさみしいです」
秋田は前の主君が幽閉されひとりで生き続けるのを見ていた。
だから、たとえお話でもひとりはさみしいとうったえた。
しかし、その思いは切国にはわからなかった。
(そうだ、粟田口には兄がいた)
今、この本丸には短刀達と一振りの打刀しかいない。だから短刀達は自分のような写しを兄と慕ってくれる。だがやはり本当の兄がいないとさみしいのだなと切国は思った。
(どうにかして兄をよんでやろう)
秋田をなだめて子守唄を歌いながら、初期刀はレア太刀を手に入れる算段を考えた。
この紅の本丸の切国は自分に向けられた好意には疎かった。そういう点、彼は記憶が無くても間違いなく、山姥切国広だった。

四百万の

2016-08-14 09:03:54 | 刀剣
むんむん蒸し蒸し暑い夏
つんつん国にやってきた
400万本の槍の大群

遠征もめちゃくちゃ
畑当番も逃げ出す
政府高官の禿げ頭まで
かんかんわんわんつんつんちく

そこでみんなは集まった
よろずやホールに集まった

いったいこの槍どうすりゃいいのさ
だけど誰にもわからない

菓子屋のおじさんすっくと立った
槍が一番好きなのなんだ
あんこのもちだ
だとしたら超でっかいあんこの餅つくってわなにしたら

みんなやんやの大賛成
元土建屋もすっくと立った
うちのクレーンをつかってくだせぇ

菓子屋のおじさんマイクでさけぶ
もち米は上から薪は下から、
ついてこねてまぜあわせ

元土建屋もマイクでさけぶ
餅は下に餡は上に

こうしてみんなでぺったんぺったん
そうしておおきなおおきな餅が1枚

クレーンのバケットに餡を入れ、いっきにたたんで完成だ。

超でっかいだいふくもち


この時 地が揺らぎ 槍の大軍がつっこんでくる

ずぶずぶずぶ
餅が粘ってもう動けない

贋作の責任

2016-04-10 04:43:47 | 刀剣
普通のまんば
「俺は偽者なんかじゃない」
切国
「俺は偽者だからな。偽者の責任は果たした」

切国の言う偽者の責任とは
「利用しようとしたらどうも本物の評判が悪くてね、俺が責任もって評判をあげてやったんだ」

前世の記憶かもしれないものが、言わせた言葉である。




覚えていること思い出したことを年上に相談してみる

2015-08-03 10:52:48 | 刀剣
むかしばなしだし、きにしなくていいですよ。

白くて身軽な子どもはそう言って笑った。

ぼくらだってむかしのことはおぼえてるだけがただしいんです。
きりくにはなんでもきにしすぎるからおなかいたいんです

白い子供は枝からもぎとったクルミのはちみつ漬けを、手に3個乗せる。
どうするのかと思えば3個まとめて口に彫りこんだ。

こりす 声に出さずに切国はつぶやく。
ぷっくら膨れた両頬、舌の上で転がされている3個目の胡桃。ちらりと見える舌先。それにあふれるように蜜が絡む。

蜜付けの胡桃のなる木は早い時期に造った。姫宮(さにわ)がごこたいに食べさせたケーキ。その上に鎮座していたのが蜜付けのクルミ。

おいしいということを始めて理解したごこたいは畑の脇にクルミを植えた。きっと来るだろう、兄弟達にも食べさせたくて。

普通なら畑の肥料になっておしまいだが、この本丸には切国がいた。
かわいい弟の行動を姫宮(さにわ)から聞いたこの兄は迷うことなく円陣を描き紅の光を散らせた。

以来おやつ系果物は増え続け、今では50種類を超えている。

そのおやつ畑の脇の白いテーブルセットで短刀と打刀はお茶にしている。グラスの中でゆれているのはミントの葉。グラスだけでなくすべてが洋風だ。


先日、ふとした会話から今剣が昔付き合っていた相手との思い出話になった。
と言うと短刀のことだから、ふわふわうふふきゃきゃ的な内容だと思われるだろう。
しかし、現実の話は大違い。実質的なやるやられるの赤裸々な話だった。

 切国、山姥切国広は以前重症を負った。切国本人はそれを覚えていないがさにわが教えてくれた。以来、時々記憶が混乱する。知らないことを思い出す。
その記憶が今回問題だった。
大切な弟に壁どんされて口説かれて押し倒される記憶。
そんな記憶知らない、それは俺じゃない、そう叫んで逃げようとして、・・・崖から落ちかけたところをごこたいに助けられた。以前にも似たことがあった。昼も夜も無く、いきなり記憶が戻る。そのときの記憶はごくふんわりしたものだった。ごこたいとさにわに話すと落ち着いて思いだすこともなくなった。

さにわの推測では「誰かに話すことで、新しい記憶として安定する」らしい。
だが、今回の記憶は話したくなかった。内容が悪い。

 しかし、話さないといつまでも記憶に支配される。不安、あせり、嘆き、そんな感情に叩き込まれてこのところ不眠状態だ。

 もともと切国は同種の他の個体に比べて食が細い。体格も華奢だ。さにわはそれを自分の霊力が少ないせいだと言う。だが、他の刀剣にはそういう欠陥はない。
 「俺が写しだから、できが悪いんだ」
以前、記憶に悩まされたとき、そう口にして、さにわに大泣きされた。

今回、またあんなことを口にしてさにわを泣かすようなことがあってはならない。
しかし、内容が内容だけに言う相手は慎重に選ばないと、そう思っていた折、今剣のおしゃべりを聞いた。
 これぞ救いの神とありがたく今剣に聞いてもらうことにした。そういえば今剣は見た目は子供でも中身はものすごくじいさまだ。


 「つまりおとうとにほられて、そのおとうとがふくかんにほられてるのをたすけなかったからなやんでるんですか」
それなりに長い切国の話を今剣は8秒で要約した。
 
うーと音にせず切国はうめいた。
確かにそういうことだけど。
「そんならいいことおしえてあげます」
そう言って今剣は清らかに笑った。
「ほっていいのはほられるかくごのあるやつだけだ」