金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

氷樹9

2009-02-28 16:49:51 | 鋼の錬金術師
氷樹9
「鋼の!」
聞き慣れた怒鳴り声が聞こえた。

この展開になればもう賢明なる読者方にはネタバレだろう。ロイが外から建物全体を燃やし飛び込んで来たのだ。

棺以外何も無い冷凍倉庫でも、柱や外壁は可燃性であった。酸素濃度を自在にする焔の術師にかかれば氷さえも燃えるというものだ。
氷はしばらくの間、焔に対抗した。しかし、すぐに火の裁きに道を譲り渡した。

「どうしてじゃまが入るんだろ」
フレッチャーは憮然とした口調でつぶやく。
「マスタング准将、僕は軍の規則を破っていないし、あなたの利益を侵してもいませんよ」
フレッチャーの手が棺から離れた。
「鋼の!」
再びの怒鳴り声にエドははじかれたように壁から離れた。
「来い」
エドはフレッチャーの手首を乱暴に掴むと外へと走り出した。
考えてみれば妙な行動である。ロイはフレッチャーからエドを救うために、焔で攻撃した。だが、当のエドが敵であるはずのフレッチャーを助けようとしている。
「鋼の?!」
「ロイ、火を消してくれ。あいつがまだ」
中にいるといいかけ、エドの声は止まる。
錬成は成功していない・・・筈だ。ラッセルは生き返ってなどいない、筈だ。
改めてフレッチャーを見るがリバウンドを起こした様子はない。
ただ、不機嫌なだけだ。


ロイの術ですぐ火は消された。
「どうしてここに?」
エドの問いにロイは答えない。
答えの代わりのようにその手には銃があった。
「フレッチャー・トリンガム、国家錬金術師エドワード・エルリックへの殺人未遂およびラッセル・トリンガムへの殺人容疑、人体錬成の罪で拘束する」
「なに言い出すんだよ!」
抗議するエドの言葉を無視して、マスタングは後ろで控えていた憲兵達に命じる。
「連れて行け」
エドは両手を打ち鳴らそうとした。
が、ロイの手が乱暴にエドの両手を掴んだ。

エドがマスタングに捕まっている間にフレッチャーは護送車に放り込まれた。
扉が閉まる前、フレッチャーはエドを振り返った。
「さよなら」
護送車が走り去る。

車のたてた埃がおさまるとロイはエドの手首を離した。
「来い。鋼の、お前は確認する義務がある」
連れて行かれたのは棺の前。
何故錬成がうまくいかなかったのか、それなのに何故リバウンドが起きなかったのか。棺を見てエドワードは納得した。棺のふたが数ミリずれ、錬成陣は切れていた。つまり最初から発動していなかったことになる。
「開けるぞ」
ロイの手が棺にかかる。
デスクワークが増えているとはいえ、ロイは武闘派筆頭の軍人である。棺のふたを開けるくらい訳もない。
棺の中は、なにもなかった。

エドとロイは電気系のショートが原因のぼやという事で警察や消防をごまかし、ロイの運転する車でセントラルに戻ろうとした。
「どうして」つぶやくエドにマスタングはよどみなく答える。

「考えられるのは、兄の死を目前にした弟はそれを受け止められなかった。そこで自分の手で兄を殺し、死体を保存した。さらに兄を再生、蘇生させようとした」
「だけど、あの中は」
「そうだ、死体はなかった。あるいはショックを受けた弟の妄想かもしれない」
「・・・ロイ、俺はそう思わない。ラッセルはいたんだ。あの棺のなかに。だから、フレッチャーが人体錬成をするのを止めるために棺のふたをずらして、錬成陣を壊した」
「そう思ってもかまわない」
マスタングもエドも錬金術師だ。人は肉体と精神と魂でできている。それが基本の考えである。
棺が最初から空だったのか、ラッセルの精神か魂かが入っていたのかはもはや証明できない。

「ラッセルはいやみたっぷりのひねくれ者だったから、素直に頼むとは言わないよなぁ」
セントラルの明かりがちらちら見え始めてから、エドは不意に明るい声で言った。
「弟を頼む」
そう言いたくて、意地をはって言えない、銀の瞳がみえるようだ。
「頼まれたら、絶対ことわるな。けど、頼まれてないしな。
ロイ、俺フレッチャーを連れてアルを迎えに行く」
「報告があった。アルフォンスの記憶退行が止まった。人体錬成の前の日だ。肉体の記憶と魂の記憶が一致するまで後退したようだな。そこからは正常に記憶している。鋼の、当然お前のことも覚えている」
「あちゃー、アル怒ってるだろうな」
一人でほったらかしていたのだから。
「今はリゼンブールにいる。盛大に怒鳴られて来い」
にやりとマスタングは人の悪い笑みをうかべる。

マスタングの宝玉たち、黄金のエドワード、琥珀金のアルフォンス、銀のフレッチャーが手元に揃うまであと2年という年であった。

氷樹8

2009-02-27 11:42:44 | 鋼の錬金術師
氷樹8
すでに棺の上の錬成陣は完成形に近い。
生体系の陣とエネルギー系の陣の複雑な複合体。
発動すれば、おそらく一瞬で解凍し再生する。
うまくいけばである。
ラッセルの死因は内臓系の異常だったのだろう。それを修正する錬成も含まれている。
もしうまくいけば、同様の異常を生まれ持ってきた全ての患者に大きな希望を与えるだろう。
しかし、不可能だ。とエドは感じた。
生体系、エネルギー系、どちらかの陣だけでも完全に発動させるのは銀時計クラスの術師がかなりのリスクを覚悟せねばならない。
「やめろ」
この錬成を完全発動することは誰にもできない。まして赤い石すらない。
「なぜだ、なぜ俺をここに入れた」
何とかして止めようとエドはフレッチャーに話しかける。気を逸らして殴ってでもここから出さなければ。もう『弟』を不幸にはしない。

「兄さんはずっとエドワードさんに会いたがっていました。だから、目を覚ましたら一番に会わせてあげたいんです」
エドに答える間だけフレッチャーの手は止まった。しかし、殴れるような隙がない。




「ラッセルは最後までエドワード・エルリックに会いたがった。たぶん、フレッチャーの将来を託したかったのだろう」
「ラッセルは後数日しか持たないと言われていた。もし、フレッチャーが連れ出したことで死が早まったとしてもあいつは弟を恨まないだろう」
2通目の報告書には参考人の意見が添えられていた。ゼノタイム市民のベルシオである。ナッシュ・トリンガムの友人でトリンガム兄弟の保護者でもあった。マスタングは『ラッセルの死を確認していない』点にこだわった。意識すらあいまいになった兄を弟は連れ出し、そのまま消息を絶った。以後は銀時計を手にするまで記録はない。




「兄さんは僕を守って幸せでいるようにしてくれた。でも、僕は兄さんに喜んで欲しかった。僕を笑わせる前に、兄さんに笑って欲しかった。兄さんはエドワードさんに一番会いたがっていた。目を覚ましてあなたを見たら絶対に喜んでくれます。僕が兄さんを幸せにできる。だから、少しでいいからじゃましちゃいやですよ」
にこっと笑ってフレッチャーは何かを言った。
冷たく冷え切ったエドワードの手首に何か熱いものが這った。

「すでに滅んだ系統の錬金術です。言葉をキーワードにして自動発動する。軍でも使えますよ」
エドワードの両手は氷の壁に拘束された。
「大丈夫ですよ。すぐ終わります。そこにいてください。そこが一番安全ですから」

蒼い錬成光が倉庫全体に広がった。
外から見ればきれいだろうな、とエドは埒もないことを思った。もう止められない。弟がモッテイカレルノヲ俺は見ているしかできない。
棺が揺れたのをエドは見た。それが何故なのかは確認できなかった。
蒼い光が紫色に変わった。
拘束されていた両手が自由になった。
「鋼の!」
聞き慣れた怒鳴り声が聞こえた。


氷樹7

2009-02-25 17:42:56 | 鋼の錬金術師
氷樹7

弟に手を引かれていったのは大きな冷凍倉庫。
「ここは?」
「起こしに来たんだ。兄さんを」
フレッチャーが兄をラッセルのことを口にしたのは、再会してから初めてのことだった。
フレッチャーはアルのことを訊かない。
エドはラッセルのことを訊かない。
約束も相談もしていないが,どちらも今ここにいない兄弟の話題を口にしなかった。

だが、そのバランスはフレッチャーが崩した。
「ここに兄さんがいます」
エドはよどみなく歩き続けるフレッチャーに引かれ、冷凍倉庫の奥へと踏み込んでいく。
もう外の光は見えない。青白い天井灯が足元をおぼつかなく照らす。
水のそこへ落ちていくような錯覚をエドは感じた。

そこに在ったのは棺。
「ラッセル、死んで」
エドの声が凍りつく。恐怖からではなく極上の笑みを浮かべる『弟』に。
フレッチャーの両手が棺に触れた。次に何が起こるのかエドは知っていた。自分がやった事だから。エドの手がフレッチャーの手を押さえた。止めなければいけない。この弟を。
「どうしてですか?エドワードさんもアルフォンスさんを取り戻したでしょう。僕が兄さんを取り戻してはいけませんか」
死者は取り戻せない。
そう答えようとしたエドに、先にフレッチャーが答えた。
「兄さんは生きています。眠っているだけで。
ただ、凍結しただけです。僕が」
「それで、氷樹か」
この弟が低温の術を極めたのは兄をとどめておくため。それがどういう事か、エドにはわかる。
同じだ。あの日の自分の選択と。弟を失いたくない。独りになりたくない。弟の魂を鎧に閉じ込めた自分と。
しかし、ひとつ違う事がある。アルは生きている。鎧の姿であっても。
世界中が弟の存在を否定しても、エドには弟が生きている事がわかる。だが、ラッセルはどうか。凍結された棺。それは死体だ。
「エドワードさん。そんな顔をして、僕が人体錬成をするとでも思っているんですか。残念だけど、僕にはそこまでの腕はありませんよ」
フレッチャーは楽しそうだ。これから最愛の兄を取り戻せると信じている。
「俺を使うのか」
この時点で、エドは気が付いた。フレッチャーは知っている。エドが赤い石を使って弟を取り戻した事を。その石は父のナッシュがラッセルのために残したもの。
だとしたら、自分をこの冷凍倉庫まで連れてきた目的は赤い石の代わりに触媒として使うためなのか。
最初エドワードはそれでもいいと思った。復讐する権利はフレッチャーにある。
しかし、きょとんとしたフレッチャーの顔がその可能性を否定した。
「つかう・・・?あぁ、そういうやり方もありますね」
やっぱり兄さんはすごいや。高い木に登って果物をとってやったときと同じ瞳で、フレッチャーはエドを見上げる。
「そういう計算がすぐ出るなんて、さすがに最年少合格者ですね」
「でも、わかっていませんね。ぼくは兄さんと同じくらいエドワードさんが好きです」
そのあなたを失うような事ができるわけ無いでしょう。フレッチャーは楽しげに微笑む。


氷樹6

2009-02-23 11:35:36 | 鋼の錬金術師
氷樹6

弟に手を引かれていったのは大きな冷凍倉庫。
「ここは?」
「起こしに来たんだ。兄さんを」


マスタングは2度目の報告書を読んでいた。今回は特に亡くなった兄ラッセル・トリンガムの事を詳しく調べるよう指示していた。
ラッセル。どうやらゼノタイムで手を貸してくれた地元の術師とはフレッチャーではなくこの兄のほうだ。兄は火に油をかけまくるタイプだったようだ。つまりその兄を抑えるため弟がおりこうさんになった・・・エルリック兄弟と同じパターンという事だ。


エルリック兄弟が旅立ってからトリンガム兄弟は街の再建に努めた。しかし、兄が体調を崩した。もともと先天的な異常があったようだ。
そして父親、ナッシュ・トリンガム。マルコーの脳の一部といわれた男。マルコーの超理論について理解・解説できるのはナッシュだけだったらしい。通訳とあだ名されてもいた。
その父が赤い石を子供に、おそらくラッセルのために遺した。その石こそは「エドが弟のために使った石」だ。
 すでにフレッチャーは知っている。エドが兄のための赤い石を使ってしまったことを。フレッチャーからすれば、エドのせいで兄を助けられなかったと思うだろう。だとしたら、「エドが危ない」。

パイロットスーツ

2009-02-23 10:41:48 | コードギアス
パイロットスーツの着替えは大変手間がかかる。
透けるほどに薄い生地を何枚も張り合わせ、脆い人体を守る。
筋肉を理想体型に補正するため、身体を極限まで締め付ける。
なれないうちは着用に30分もかかり、それも5人がかりで身体を押し込む。
着るというより、鎧兜に圧縮した人体を押し入れる感じがある。
中には腸捻転を起こすパイロットもいる。

それでもパイロットスーツが採用されるのは、パイロットの生存率を上げること。
筋肉補正で反射が向上し、操縦性能が上がるためである。

「人の体温は涙に効く」

2009-02-23 10:34:25 | コードギアス
ナナリーに教えたのは在りし日の母マリアンヌ。
アーニャに伝えたのは潜むマリアンヌ。

幼い頃、スザクに伝えたのは父の玄武。
ルルーシュに伝えたのは、忍んで来たスザク。「ナナリーの湯たんぽはお前だろ。だったらお前にはオレが湯たんぽになってやる」

16歳のマリアンヌに伝えたのは、傭兵として中華にいた玄武。


たんぽぽの若葉の色

2009-02-23 10:26:17 | コードギアス
ジノ・ヴァインベルグと最初に会ったとき、ナナリーは隣に立つスザクに聞いた。
どんな方ですか。
スザクの説明は形式的な階級や武勲に始まり、彼の外見に及んだ。
「鮮やかな緑色の騎士服を」
「どんな色ですか?緑柱石のような」
「いや、明るい、春一番に芽生えるたんぽぽの若葉のみどりだよ。やわらかく優しい」
その答えはナナリーにジノの内面や、ジノがスザクに向ける視線の色も伝えた。


推測。プライドを倒すのは名も知られず奪われた命達

2009-02-23 09:55:11 | 鋼の錬金術師
ガンガン3月号の鋼の錬金術師(第92話「皆の力」)
1ページ2ページで、赤い石を使って戦えと語るハインケル。
「どんな外見になっても魂だけの石にされても戦いたい。一緒に戦わせてやってくれ」
そしてアルが決意する。赤い石を使うことをでは無くて、一緒に戦う事を。


さてここで古い話だが、ラストの死後グラトニーとエンヴィーは、マルコーをつかまえに行った。そこでグラトニーは小さなビンに入った赤い液体を手にしている。

「ラスト、ラストの臭いがする」そう言いながら。あのビンはどうなったか?グラトニーの事だ。ビンごと食べちゃった可能性が高い。
あれはイシュヴァール人の赤い石?殺された研究者の赤い石?
いずれにしてももし正気を保っている魂があれば、ホムンクルスをうらんでいるだろう。

プライドはグラトニーを食った。腹の中のごちゃごちゃごと。

もしもアルのハインケルのマルコーの声が聞こえたなら、赤い石の魂たちがプライドを内側から攻撃する可能性が出てくる。
それは今回の戦いではなくて最終決戦かも知れない。

荒川先生は無駄な伏線を張らない気がする。あの伏線こそは最後の勝利をもたらすのではないだろうか。



上海事変13

2009-02-21 13:44:17 | コードギアス
上海事変13

星刻が残月に連れて行かれてから1日後の洛陽である。洪古准将率いる軍団が凱旋した。

「中央軍所属准将洪古が、報告に参っております。」
取次ぎの宦官が特有のかん高い声で伝える。
《星刻は確かに大宦官たちを処分したが、すべての宦官を処分したわけではない。そんな事をしたら、たちどころに政治が滞り中華連邦が崩壊してしまう》
「洪が、」(洪なら、何があったのか全部知っているはず)
彼は星刻と一緒に上海戦に行ったのだから。


事情がわかるはずという香凜の期待はあっさりはずれた。洪古は星刻と共に進軍したが途中で渓谷の橋が落ちていた。重要な街道の橋が落ちたまま、しかも中央政府に報告さえされていないのは、中華の政治的弱体化や、経済的混乱を示すものだった。
ガンルゥは空を飛べない。しかし、上海の暴動はすぐに取り押さえねば全土に飛び火しかねない。やむを得ず星刻ひとりが神虎で飛んだ。黒の騎士団に応援を頼めないかとの洪古の言葉に星刻は首を振る。今回のことは純粋に中華のお家の事情だ。「うかつに借りをつくるのは得策ではない」
もちろん洪古も単にそのまま帰るような無能な男ではない。上海と呼応するならここが一番先に動くだろう自治都市を山賊退治の名目で締め上げた。このおかげで上海は孤立し、ただ、1戦のみで鎮圧できた。

洪古は形式的な報告を終え、いったん洛陽市内の館に戻った。すると珍しい事に南部の高級保養地でのんびりしているはずの父が館に帰っていた。父は帰ってきたばかりの息子に軍装を解く暇も与えず奥の部屋に引っ張り込んだ。人払いをし、回りを警戒し、ようやく父は話した。「星刻が軍法予備会議にかけられ抹殺されかけている」
軍法予備会議とは本来なら軍法会議の前の証拠探しのための委員会にすぎない。しかし、政治腐敗のなか、それは公認されたリンチになっていた。どんな軍人も一度これにかけられれば将来は無い。それどころか生命すら事故を装って奪われかねない。下級役人の息子に過ぎなかった星刻には政治的な後見がいない。(高亥が生きていた間は実質的に後見であった)
そのために陰謀への対処が遅れた。不幸中の幸い、予備会議が公式に召集される前に洪古の父の所に密告があった。




天子は高級官僚たちからの報告を玉座で聞いていた。人形のようにただうなずくだけ。香凜は左側に立ち幼い主君を見守っている。
(まるで、あの日以前に戻ってしまわれたように・・・いいえ、あのころよりずっと悪い。)
天子の表情からは感情が抜け落ちていた。純白の髪とあいまって彼女はますますアンティークドールめいて見える。

香凜は政務の合間に「少し、外の風にあたられませんか」と天子を誘ってみた。
「いや、いやよ。お外は嫌い。怖い。ぜったいいや。」
いままで一滴も落ちなかった涙が堰を切ったように流れ落ちる。
「お外はいや、もう行かない。いやいや。」
泣き始めると止まらなかった。桃華園から、いや政略結婚の1件からずっとがまんしてきたものが、限度を超した。
(本当ならもっと早く、誰かが安心して泣かせてあげるべきだったのに。誰かが、それは星刻さま以外いなかったはずなのに。)
星刻様、あなたはひどい方です。こんなにかわいい人をひとりで泣かせるなんて。
私なら、絶対にこの方を一人にはしない。お約束します。だから、裏切らせてください。あなたの副官であった私を。

バレンタイン7

2009-02-20 11:25:12 | コードギアス
7
天子をお部屋に戻して、星刻は自分も執務室に戻った。
戻ってみると。
「星刻様!」
香凛が待ち構えていた。
「どういうおつもりです。天子様を一人で外に出すなんて」
一応中華の再統一はできたが、まだまだ敵は多い。親衛隊も連れずに外に出るなんて。
両手を腰に当て、眦を上げ香凛は迫る。
「お一人ではない。私がお連れした」
わかっていない返事を星刻は返す。
香凛に言わせれば、それだから問題なのだが。
星刻だから、信頼できて、信用できない。

天子が星刻に小さい頃から懐いているのは知っている。星刻が天子をどう思っているかもいやというほど知っている。応援して祝福したい気持ちはある。しかし、天子はまだ14歳。2人きりは早すぎる。

怒りながらも香凛は「何かされましたか」と探りを入れる。
星刻は答えた。「ゆきうさぎを作って差し上げた」

いつものさらりとした調子で雪ウサギをと答えられ、香凛は思いっきり脱力した。

氷樹5

2009-02-18 20:36:24 | 鋼の錬金術師
さて、フレッチャーにとっては初めての、エドにとっては当たり前のように慣れた旅の日々。
地方の小さい宿に泊まり、電気がないことにびっくりするフレッチャー。
エドにランプを手渡されて、何をしていいかわからない。
「磨くんだ」
そう言われてせっせとランプの〈外側〉だけを磨く。フレッチャーにとってランプはアンティークの一種だ。
「兄さん、きれいになったよ」
フレッチャーはぴかぴかになったランプをエドに自慢げに手渡す。
火をつけようとしてエドは芯が短いままなのと、ほろの内側がすすだらけなのに気がつく。これでは使えない。
「フレッチャー、ランプを使ったこと無いのか」
エドは手早くランプを分解してきれいにして油を入れ火をつけた。
「えぇ、使えるの?!」
目を丸くするフレッチャー。
そういう表情をするとフレッチャーは実に可愛い。


汽車が3日後にしかないと聞いてあぜんとしたり、野宿するのにたきぎに火をつけようとしてマッチを1箱無駄遣いしたり、フレッチャーは街育ちの不器用さをあらわにした。
悔しがって意地になって何でもやってみようとするが、もともと田舎モノで野育ちのエドにかなうはずも無い。
一日に何度も「兄さんはすごいや」と目をきらきらさせてエドを見る。もともと弟要素の多いフレッチャーと兄要素の強いエドである。擬似兄弟はますます仲良くなっていき、エドはフレッチャーに知っている事はどんどん教え始めた。それはサバイバル生活術に始まり次第に錬金術それも生体系に及んだ。

野宿のある日、エドが罠でウサギを捕らえた。真っ白でふわふわの仔ウサギ。真っ白でぴくぴくふるえる仔ウサギ。「かわいい!」フレッチャーはウサギを抱っこした。
足をしばって逃げないようにした後、エドは焚き火を用意している。
フレッチャーは湿った鼻面を押し付けるウサギにたんぽぽの花を食べさせる。
「ぬいぐるみよりかわいいね。兄さん」
弟はニコニコ笑う。
「ころころしてうまそうだろ。あぶっとけば明日まで食えるし」
エドもニコニコしている。これで朝飯の心配は要らないからだ。
数分後、ナイフを研いでさぁ料理と、振りかざしたエドに弟が聞く。
「逃がすの?まだ遊びたいな」

今までの育ち方が違うせいで時には行き違いもあったが、そのたびに兄と弟は距離を近づけた。

そんなある日弟は兄に言った。
行きたいところがあるんだ。兄さんと。

バレンタイン6

2009-02-17 13:43:50 | コードギアス
6 バレンタイン
お散歩は行き帰りも入れて2時間。星刻のスケジュールではそれで限度だった。
まだ、心残りがありそうな天子に星刻は赤い実を目にした雪ウサギを差し出した。
「わぁかわいい」
天子様もとてもかわいいです。そう言いたくなった星刻だが、臣下として無礼があってはならないと言葉を飲み込む。
「うさぎを連れて洛陽に戻りましょう」
代わりにそう言って帰りを促す。天子は素直に頷く。
帰り道、星刻のひざの上にちょこんと天子、天子のひざの上にちょこんと雪ウサギ。

バレンタイン5

2009-02-17 12:54:22 | コードギアス
5 ホワイトデー
ホワイトデー当日、またしても香凜は星刻を朱禁城内での書類仕事や会議に終日あてさせた。幸いこの時期は大きな戦闘もなく内政的にも安定していた。ミレイ・アッシュフォードは自分の番組で世界が愛の日を祝福しているとコメントしている。
その祝福の日星刻は朝一番で天子の部屋を訪れ、ふわふわのマシュマロ(手作り)を贈った。喜んだ天子はお茶の時間に一緒に食べようとしたが、生憎会議が長引きそれはできなかった。その後もあれこれ用事が重なり天子は星刻と会えないままで、日は暮れようとしている。
(甘い)
天子はふわふわのマシュマロをひとつ口に入れる。なんとなく今日一日星刻に避けられている気がする。いつもなら城にいるときは10分くらいでもお茶に来てくれるのに。天子はちょっとふくれてまたひとつマシュマロを口に入れる。天子は知らない。いつものお茶の時間をひねり出すのに星刻がどんな苦労をしているかを。まして、今日は2時間を稼ごうとして星刻はいつもより多忙だった。
天子は何気なく国際放送の番組をつける。ちょうどミレイ・アッシュフォードの番組でホワイトデー特集。あなたは何を贈りますか?デートコースは?プロポーズは?と若手タレントにインタビューしている。
(プロポーズ・・・)
思っただけで天子は真っ赤になった。

急に部屋が暗くなった。あれ?と思った天子が窓を見るとテラスのすぐ傍に神虎が浮いていた。
「星刻」
ためらいもなく天子はテラスに出る。
「天子様。少し散歩はいかがですか」
コクピットを大きく開けて星刻が手をさしのべる。差し出された手に天子は小さな手を重ねる。

ナイトメアの操縦室は狭いと言われるが神虎はそうでもない。2人が乗っても息苦しさはない。しかし、単座式なので椅子はひとつしかない。何の迷いもなく天子は星刻のひざにすわった。天子が10歳にならない頃はよくお茶の時間もこうしてひざの上ですごしていた。
天子の感覚は10歳前の頃と変わらない。大好きな星刻と一緒。だから嬉しい。だから楽しい。
しかし、星刻のほうはそのころと同じだけでは無かった。天子から感じるかすかな甘い香り。実は彼が作ったマシュマロのシナモンの香りなのだが。
(近すぎる)
かすかなため息に天子が星刻を見上げる。その赤い瞳が柔らかな唇が、近い。
目的地に向けて星刻は神虎の速度を上げた。早く着かないと、何か、まずい。


目的地は純白の雪原。洛陽はすでに春だが高山地帯のこの平原はまだ純白のじゅうたんに覆われている。星刻に具体的な記憶は無いが、この地区は彼が幼少時代を過ごした土地でもある。
「これ、『雪景色』」
以前神楽耶に聞いた。純白で輝くような美しさ。
星刻はそっと天子を降ろす。1歩2歩3歩天子は歩く。見つめる限り純白の平原。後ろには自分の足跡。
星刻は神虎が低温に影響を受けないよういくつかの対策を施してから降りた。少し時間が掛かったのは彼の男性としての都合が理由だった。

プロポーズ

2009-02-16 15:18:39 | コードギアス
最終的にプロポーズは天子様からかも。
20歳くらいになったとき。女同士の話をするようになったナナリーと話してて、「いつまで待てばいいのかしら」とため息を付く天子。
そしたらナナリーが「愛をもらっているだけではいつか大事な人を失う日が来ます。求めるだけの愛は相手を滅ぼします」
それを聞いて「ではどうしたらいいの」「ご自分で考えないと、それにもうお分かりでしょう」とナナリーは年上の余裕で見抜いてる。