金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

プロポーズ小作戦15

2009-03-31 16:30:03 | コードギアス
プロポーズ小作戦15
さて、時間はまた少しさかのぼる。真に計画性のない入力者である。反省。

ジノ君の家庭教師編 語学の講座
ジノが天子に教えたのはまずはブリタリア古語。単に言葉だけを教えるのではなく、ダンスパーティや詩の朗読会、お茶会などの実際に使う場面を疑似体験させた。大画面の通信を使ってジェレミアやアーニャにも手伝わせている。話しているのは95パーセントまで天子だが、あのアーニャに返答させるだけでもたいしたものである。
ちなみに話題は恋愛である。星刻と出会った頃から、最近電話を止めてみた事まで、それにアーニャは「ふ―ん」とか「そう」とか答える。
そんなおしゃべりの途中でふと天子は訊いた。
「アーニャはジェレミアさんと一緒に暮らしているの?」
「そう」
「二人は運命の相手なの?」
「知らない」
「えっと運命の相手は好きな人のことよ」
「好き、それならそうなる」
「ジェレミアさんとアーニャは年が離れているの?」
「14」
アーニャの言葉は事実だけを淡々と答える。
この場合、その無機質さが天子を喜ばせた。
「私と星刻も11違うわ」
「そう」
「私が子供だからわからないと星刻は思っているのかしら。何も言ってくれないの」
「知らない」
「アーニャはジェレミアさんのことわかるの?」
「知らない」
アーニャが知っているのはジェレミアのわずかな部分だけだ。
「アーニャはジェレミアさんを好きでしょう。知りたくない?」
「記憶はあてにならない。ただ、好き」
アーニャのこの言葉は天子には難しかった。もっともそもそも天子とアーニャの会話は、好きの意味が確定していない時点で成立していない。
天子は考えた。自分は星刻を好きだ。そして星刻が自分に隠し事をしているのを悲しいと思う。でもアーニャはそう思わない?それでも好きと思えるの。アーニャは強いから?私も強くなれば星刻が何かを隠していても好きって言えるの?
そこへ野菜を籠に入れてジェレミアが入ってきた。
「アーニャはジェレミアさんに好きって言ったの?」
「言ってない」
「言うの?」
「言う」
アーニャは通信機の方をむいていたが、いきなり振り返った。
そこにはちょうど野菜を山盛りの籠を抱えたジェレミアがいた。
「ジェレミア、好き」

通信機の画面を野菜が踊った。ジェレミアが籠を落っことしたからだ。後ろで会話を聞いていたジノは叫びたくなった。
策士神楽耶のツンデレ作戦は、意外なところで恋愛フラグを立ち上げた。
中華とブリタニアには時差がある。あちらはもう夜だった。あの二人がオレンジの香りの中でどんな夜を迎えたのか。それはジノの視界の及ぶ範囲ではなかった。


プロポーズ小作戦14

2009-03-30 16:41:18 | コードギアス
プロポーズ小作戦14
ここで話は少し戻る。計画性の無い奴とお笑いいただきたい。

2代目ゼロとの同盟を組んで国賊たる大宦官一派を打ち倒した星刻だが、彼はその前にエリア11で大宦官の中核たる高亥を殺している。高亥はその時点でゼロのギアスにかかっており正気ではなかった。だが、当時の星刻にそれはわからない。いきなり狂乱したかのようにゼロに入れ込む高亥にどのような思いを抱いたのか、文書には何の記録も無い。
事実はともかくとして当初高亥は、黒の騎士団の下っ端に殺された事にされた。後にゼロと同盟するに当たり都合が悪くなったので死因は《乱入した賊による殺害。黒の騎士団はそれを防ごうとした》と変えられた。その後他の大宦官を勅命により処刑した後、さらに変更され《天子の忠臣であった高亥を殺害したのは国賊の大宦官達。上司のあだ討ちをした星刻は忠臣の鏡とされた。さらに士官学生の頃から後見人であり、副官をかねた護衛という公私共に身近に置いていた事が強く宣伝され、高亥と星刻は尊父と等子であったとされた。これは中華特有の養子制度の1つであり、その結果高亥の表裏の資産を星刻はそっくりそのまま受け継いだ》
これについて星刻には感情面での不満があったようだが、それ以上に高亥の裏の資産である人脈は貴重だった。結局金銭資産を天子の住まう内宮に寄付する事で感情面を納得させた。その後、天子の指示で戦災孤児の施設のために使われている。
結論として、高亥は宦官の中でただ一人の忠臣であり、さらに養子の星刻も中華随一の忠臣となった。真に名誉な存在に祭り上げられたのだ。もしあの世でそんな世界の様子を見ることができたなら、高亥は秀麗な顔をゆがめもせず哂うだろう。
 星刻の中で高亥に対する感情はいまだに整理されていない。それゆえにおそらくは真実を知っているらしい、シュナイゼルの言葉は星刻にとって痛いのだ。

プロポーズ小作戦13

2009-03-30 15:57:39 | コードギアス
プロポーズ小作戦13
(いつもなら、私室に来てくれるのに)
公式の間では天子と星刻の距離は10メートル。これでも他の臣下に比べれば格段に近い位置である。
また、天子の肉声を直接臣下が聞くことは無い。形式だけでも宦官あるいは高級女官が取り次ぐ。現状天子の傍から宦官は遠ざけられている。若すぎる大司馬の『天子様の学問の指南役としてふさわしくない』の一言で全員内宮を出された。
女官達の噂では政治的配慮よりも個人的嫉妬が動いた結果と結論付けている。

天子に対する星刻の要請は簡単だった。天子様とナナリー皇帝と神楽耶様におそろいの室内履きを作らせたので電話をしてほしいという事。
大好きな《海の瞳のお姉さま》に電話できるのは天子には嬉しい事である。さっそくナナリーに直通電話を回す。
鈴を転がすような声で「おそろいなの」とにっこり微笑む天子。ナナリーも楽しそうな笑顔を返す。
さりげなく後ろに控えた星刻が声を添える。
「リハビリ用のシューズと同じ仕様で作らせました。そのままお使いいただけます」
にこやかにお礼の言葉を返すナナリー。
そのナナリーの後方からこれもさりげなくシュナイゼルがお礼を述べる。
「常に変わらぬ中華のご好意感謝いたします」
この時点で男達は視線を交わしていない。
(シュナイゼル、この勝負は私の勝ちだ)
(ふむ、まぁナナリーが喜んでいるから認めよう。ところで、星刻これは君の実力のみでの勝利かな)
「ご尊父様にもいろいろお気遣いいただきましたが、さすがに良き薫陶を受けておられる」
シュナイゼルの言葉に一瞬星刻の視線が強くなる。
つまりはお前の実力ではなくて、殺した男のルートで得た情報だろうと図星されたのだ。
勝負は1勝1敗だが精神的には星刻が不利だった。


プロポーズ小作戦12

2009-03-30 15:21:57 | コードギアス
プロポーズ小作戦12
「星刻が来ているの」
天子の声が3オクターブも跳ね上がる。普段ならそんな声を出したら「天子らしくしなさい」と怒る女官も、あの青年に対する天子のかわいい思いを知っているから怒る気にならない。
「良かったですね。天子様」
若い女官が皆の気持ちを代表するかのように言う。

天子は大急ぎで部屋に駆け戻る。星刻と話したいこと、見てもらいたいことがたくさんある。ばたばたと足音をたてる天子をさすがに古株の女官がいさめたがその口調も優しい。実のところ、女官達にとってもあの若すぎる大司馬は眼福ものなのだ。特に天子を見つめるときの彼の表情は、初孫を抱いたじいさまでもあれほど優しい表情はしないと年配の女官の間でよく茶飲み話の種にされる。若い女官の中には一瞬でもあの瞳で見てもらえるなら切り殺されてもいいと過激な発言をする者もある。あの大司馬は下人時代を含め、女だらけの内宮に出入りしながらも浮いた噂一つ無い、超堅物であることも茶飲み話が過激になる理由のひとつである。あの青年が内宮で女に手を出す事は無い。安全が保障されているから、ジェットコースターは怖いほどおもしろい。その心理が噂話をより大げさにさせ、より面白くさせる。
女官達はその辺の遊び心をわかっているが、天子はまるっきりわかっていない。噂を聞きつけるたび、(私が子供だからなの)と小さい胸を痛めている。
相談相手にされる《お姉さん役》のジノにはそんな天子がかわいくてたまらない。同時に自分ひとりをを配置する事で、星刻と天子両方に相手を異性として意識させた神楽耶の腕前に感心する。

学業も政務もちゃんとしているのよ。
そう言いたくて天子はあれもこれもと引っ張り出す。
それが出てくる前に取次ぎの女官が公式の間で黎大司馬がお待ちですと告げる。
天子は用意しかけた物を放り出して大急ぎで走った。

プロポーズ小作戦11

2009-03-29 17:47:40 | コードギアス
プロポーズ小作戦11
星刻はこの1ヶ月ほどは地下のルートを使って公館を出入りしていた。体調不調を理由に朱禁城に出仕しない身が、堂々と街中をうろついているのはまずいという配慮である。星刻は体調不調という理由を世界に対して隠さなかった。下手に隠すよりむしろ「何か目的があって朱禁城から消えているのでは?」そう思わすほうがいいからだ。
つまりは天子だけがそういう推測からも無縁で《私は星刻に嫌われたの?》とかわいい心配をしているわけである。

一応目立つ長髪を隠して変装しているが、やはり尾行されている。
いま星刻が着ているのはごく普通のビジネススーツで、官庁街ではどこにでもいる役人の一人にしか見えないはずだが。いかんせん星刻は役人にしては姿勢がよすぎ、また何よりも美形過ぎた。すれ違うほとんどの女が吸い寄せられたかのように振り返る。中には大司馬であることに気が付いたらしく口をぱくつかせる者もいる。それに星刻はいたずらを見つかった子供のような邪気の無い微笑を見せて、唇に指を当てる。ないしょだよと瞳が語る。
この微笑に頷かない女はいない。
星刻が訪ねたのは天子の室内履きを作る高級工房。あらかじめ注文しておいたナナリー皇帝の室内履きを受け取りに来たのだ。仕様はリハビリ用シューズで有名なイタリアのデル工房に合わせてある。
宝玉を磨いて作られたビーズの花飾りが靴を彩る。
同じデザインで天子と日本の神楽耶のも作らせている。
天子に電話で「おそろいを履きたいの」と言わせるためである。

プロポーズ小作戦10

2009-03-29 12:05:44 | コードギアス
プロポーズ小作戦10
リフレインを覚えておられるだろうか。エリア11と呼ばれていた日本で、はびこっていた麻薬である。
悪逆皇帝が倒された後、世界はまた混迷と混乱の時代に逆戻りした。しかし、ことリフレインに関してだけは世界中が足並みをそろえ撲滅を誓った。というのもリフレインはおもに日本をターゲットにしていたが、調査によると汚染は世界各国に広がっていた。地域により名を変え、販売ルートを変え、世界的な麻薬組織が生産から販売まで関わっている事はほぼ間違いない。
どこの国も自国がリフレインの本拠地と言われたくは無い。軍隊を使い売人や流通ルートを厳しく取り締まった。なお、リフレイン中毒者に対しては各国で対応が違った。

そんな中で唯一リフレイン撲滅条約に調印していない国、それが中華である。
と言っても、野放しにしているとか認めているという事ではない。むしろ、エリア11時代も含め、どこの国よりも厳しく規制している。売人は有無を言わさず即処刑。そして、リフレイン中毒者は、これも即処刑である。
参考までに日本では売人は逮捕、中毒者は専門の病院送りである。
扇総理の言葉を借りると、「リフレインの中毒者は国のゆがみの犠牲者であり、国が保護是正する義務がある」。
扇の言葉に一番ほっとしたのはカレンかもしれない。母は退院したとはいえリフレイン中毒だった。国によっては中毒者も罪人になる。なお中華における中毒者の罪状は《国家に損害を与えた罪》である。

大宦官の中核であった高亥が生きていた頃、星刻はこの《国家に損害を与えた罪》を、法律から失くそうと努力していた。生前の高亥は、いまだ少年の面を強く残した星刻を哂った。
『星刻。いずれお前にもわかる。国家にとってこれこそは最高の法文だとのぉ』
当時、何の力も無かった《同世代に比べれば出世は早いが、星刻の目的のためには権力が不足していた》星刻はただ、「おそれいります」と意味の無い返答をした。

少なくともこれだけは認めざるを居ない。
星刻は大司馬の公館となったインテリジェンスビルの専用エレベーターで一人思う。
高亥は建築にかけては天才だった。
そして、建築とは国家を造ることに似ている。歴史を見てもピラミッドやベルサイユ宮など、優れた指導者が残した名建築は多い。
高亥が生きていれば、このビルは宦官王とも呼ぶべき彼の王宮と呼ばれただろう。
地上部文は3階、地下は5階、つまり地下のほうが広い。世間に知られているのは地上1階部分だけである。
今は大司馬公館となったこのビルには24時間、世界中の情報が集まってくる。
情報とは単に優れた情報機器を備えればいいというものではない。むしろ古典的ではあるが、人、それも性に関わるものが最も有効だ。高亥はそういう点でも天才と言えた。世界中の要人の3割近くに、高亥のハニートラップが仕掛けられている。
そこからもたらされる情報は小さいところでは飼い猫の恋愛から、大きいところではあのEU割譲まで。
最近では皇帝ナナリーの靴のメーカーが変わった事まで星刻は報告されていた。
(歩行訓練を始めのか)
亡くなったナナリーの兄が聞くことができたなら、どれほど喜ぶか。
そう考えて星刻は自分も甘くなったと自戒する。
天子様を通じてご回復の祝意を伝えてもいいと星刻は思う。それは中華が情報戦において優れていることをさりげなく示す事にもなる。

優しい

2009-03-28 00:16:19 | コードギアス
『優しい世界でありますように』『世界が優しくなるように』『優しさが弱さとされない世界に』
平和の女神と呼ばれた少女君主達が残した言葉。誰がどれを言ったのかは記録されていない。あるいは声にされる事の無い彼女達の言葉を受け止めた人々が、無意識に作った言葉かもしれない。


プロポーズ小作戦9

2009-03-26 19:27:52 | コードギアス
プロポーズ小作戦9
ジノ 食べすぎ
アーニャからのメールは、以前の口調の通りでそっけない。
中華に入ってから、美味珍味の写真が増えているのでそう言われても仕方ない。
全部私が食べているわけでもないんだが
そう思いながらジノはまたメールを送る。おそらくこのメールもあの黒髪長毛のストーカーに見られているだろう。
心配性と言うか嫉妬深いというか、ジノはどちらも正解だと思っている。
メールの内容を見られているのがわかっているから、ジノは料理と美術品しか写真を送っていない。誰が見ても問題のない内容である。それは火種を大量に抱えた大国を刺激しないという気遣いでもある。たとえ、今は公的な役についていなくても、ジノはブリタニアの公人として見られている。実際、アーニャのブログを通じてさりげなく外交上の橋渡しをしたこともなんどもある。ナナリーにとっては、とてもありがたいフリーの外交官のような存在になっている。

ジノがメールを送った頃、ツンデレのツンを仕掛けられた長髪の男は久しぶりに朱禁城に出仕した。



数日前、例の人身売買業者のルートを使い、アール・2と呼ばれる薬が手に入った。効力は鎮痛である。実は禁止されている麻薬扱いの品だが、星刻はもはやそんなことにはかまっていられなかった。
天子様の傍に自分ではない男がいる。
《天子様はすっかり明るくおなりです。
ヴァインベルグ卿は毎日ダンスのお稽古をしたり、詩を暗唱したり、教師の役もうまくこなしています》
毎日のように聞かされた報告。
そのたびに感じた蛇が体内をはいずるような感覚。間欠的に起こる痛みの発作。一度起こると呼吸すらできなくなる。このところ公館に閉じこもっていたのはいつ発作が起きるか見当が付かないからであった。
アール・2が手に入るまでそんな日々を耐えていた。もうほとんどの鎮痛薬は耐性ができてしまった。多少入手ルートに問題はあるが、アール・2に効果がある間はあのブリタニア人医師の組織をつぶさないでおこう。


プロポーズ小作戦8

2009-03-26 01:23:09 | コードギアス
プロポーズ小作戦8

日本に帰る前にプロポーズさせると言ったが、相手があることなので簡単にはいかない。実際には神楽耶はプロポーズを見届けないまま帰国した。毎日のようにメールをやり取りしているから問題はないだろう。
天子からは朝の電話を止めてみましたとメールが入った。
ツンデレのツンの開始である。

優雅にお茶を点てながら、神楽耶はパソコンをチェックする。
今使っている機種は亡き夫の使っていたのと同じもの。

(さぁ星刻あなたはどうします。天子様はもう幼い子供ではありませんよ。彼女を抱いて幸福にする覚悟はおありかしら。
あなたに覚悟が無いなら、私が天子様をいただいてしまいますよ)
そんなことを考えながら神楽耶は皇の系列会社の中華進出計画を練る。
個人的付き合いとビジネスは別というのが神楽耶の考えだから、これは天子には言っていない。
(この計画が実行できる頃、結婚式の相談でも聞かせていただけるかしら)
全ては星刻しだいである。
実のところ、神楽耶は天子の相手として星刻以外考えた事は無い。
天子の恋心がただひとえに星刻にだけ向いているのが理由のひとつ。
あの男が世界を取り押さえられるほどの力を持っているのがひとつ。
あの男の想いが全て天子にだけ向けられているのがひとつ。
多少、男の性格に難がある気もするが、(天子様を好きなことだけは疑えませんものね)。
隠し事の多い男だが、天子に関する感情だけはあまりにもわかりやすい。
(天子様にだけは幸福になってほしいのです。裏切らないでください)

茶筅を持つ手の感覚が不意になくなる。
神楽耶は驚かない。子供の頃から時々あった。あれをまた見るだけだ。
純白の竜、5本爪のそれは竜王。その手には本来なら宝玉があるはずだ。
しかし、竜の手は何も持っていない。
竜が何か叫ぶ。音は聞こえないが悲しんでいる。
ここまでは神楽耶は子供の頃から何度も見た。そして、この日は続きがあった。
黒い虎、まるで翼があるかのように天を駆けてくる。
その口には純白の宝玉。一目見て神楽耶はわかった。その宝玉は竜の手にあったもの。
虎と竜が視線を交わす。
何か言葉が交わされた。
虎が宝玉を口から降ろす。
ゆっくりと愛しげに宝玉を見つめる。竜が手を伸ばす。
宝玉に手を触れかける。だが、直前で止まる。
いいのか?竜の目がそう問いかける。
虎が答える。後はお前が彼女を守って
よく見れば虎は全身がひどく傷ついている。あるいは致命傷かと思えるほど深い傷もある。
「だめ!天子様を離してはいけない」
神楽耶は大声で叫んだ。同時に茶筅の感覚が戻る。
ピーピーと機械の音がする。パソコンはエラー表示になっていた。


上海事変19

2009-03-25 14:13:57 | コードギアス
上海事変19

打ち鳴らされる銅鑼。
純白の髪の天子の唇から始めての言葉が発される。
「洛陽の支配者の名において、黎武官を謹慎処分と処す」

星刻が見たのはここまでだが、儀式はまだまだ続く。文官筆頭、武官筆頭が天子からの勅令を受け取る。これを持って中華の官使はずべて天子の正式な家臣となる。星刻のために始めた事だが、本当に重要なのは文官武官への勅令の方だった。これでたとえ実質はどうであれ、天子の親政が始まったのだから。これからは全ての文武官の生殺与奪を天子が定める。同時に国に対する全ての責任が彼女にかかる。何かあったとき一番に処刑される身と成った。

裏方の指揮を執っていた女官長が、両手を握る。彼女の夢は果たされた。後宮に生まれ、天子に仕える事だけを教えられ生きてきた。しかし、その生涯のほとんどにおいて天子は傀儡に過ぎなかった。ようやく天子が本当の天子になった。
この日の最大の功労者は女官長で、最大の幸福感を得たのも女官長であった。

放送された映像は数分であったが、儀式は延々6時間に及んだ。体力の無い文官がばたばた倒れるハプニングこそあったが、おおむね順調に進んだ。というのも星刻と対立している派閥にしても、天子の公認を受ける事は箔をつけることになり損にはならない。
6時間天子は黄金の椅子で微笑んでいた。その名役者ぶりは、香凜も舌を巻いた。これが皇帝家の血というものなのかとなにやら空恐ろしくなるほどだ。昨夜、パンダのぬいぐるみを抱っこして眠った少女とは思えない。



さて、すっかりお尻が痛くなった天子がようやく自室に戻った。
部屋に戻って最初にすることはしんくーを抱っこして今日のことを報告する事。
「ねぇしんくー。私うまくできた?」

プロポーズ小作戦7

2009-03-25 01:58:25 | コードギアス
プロポーズ小作戦7

「愛は自然に育つときもありますが、恋は勝ち得るものです。時には引く事も恋を育てるのには必要ですわ」
「少し距離を置いて御覧なさい。きっとあせって飛んで帰ってきます」
「帰ってきてもすぐ優しくしては駄目ですよ。チョツトすねて見せてそれから甘えて見せなさい。単なる甘えより、つんでれのほうが男は喜びます」
日本に帰る前に神楽耶は、天子にそういい残した。
天子には神楽耶の言葉は完全にはわからなかった。
いろいろ考えて、それからジノに訊いて、ようやく毎朝かけている電話を止める事にした。
かけてもすぐに切られてしまうし、それに星刻はいつもとても忙しそうだし少しでもゆっくりしてほしい。
天子はそう考えて自分を納得させた。

ちなみに相談相手にされたジノは大いに苦笑した。天子の中での自分の分類が神楽耶と同じ分類、つまり『お姉さん』である事に気が付いたからだ。
(これでも『世界のいい男ランキング』のトップなんだけどなぁ)
参考までに『抱かれたい男』トップは藤堂、『くどかれたい男』のトップは星刻である。

プロポーズ小作戦6

2009-03-24 09:59:20 | コードギアス
プロポーズ小作戦6

天子に付けられた教育官は世界中から星刻がよりすぐった超一流の教師である。その教師達は毎日星刻に天子の御学業の報告をする。
ここ数日教師達からは、天子の努力や能力を賛辞する報告が続いている。。
女官や文官達も、このところすっかり落ちつかれ天子様らしくご成長ですわと報告してくる。
「ここ数日大変明るくおなりで、食欲もでていますし、そうそう、お召し物のサイズが変わられました。天子様もお年頃ですから」。お付の高級女官が報告する。
本来ならそれらの報告は星刻を喜ばせるはずだ。だが、彼はここ数日荒れていた。

医師は点滴を取り替えようと、ノックしようとした。
ガッシャーン
突然の大きな音に医師の動きが止まる。
(やれやれまたか)
何の音か、見なくてもわかる。病室の高貴な患者が点滴台を叩き割った音だ。
初めてのときは驚いたが、何事にも慣れてくるものだ。

数分後、医師がそっとドアを開けると、高貴な患者は青白い顔で横たわっていた。
気を荒げすぎて吐血したらしく、床やシーツに鮮血の色がある。
医師は無言で点滴台を新しいものに代え、新しい輸液をつけた。
血圧も脈拍も体温も自動的に計測されるため、この部屋でやることは少ない。
医師は無言のまま部屋を去った。

医師は思う。
正直なところ、英雄だかなんだか知らないが、あの意固地な青年を扱うのはもう疲れた。
医師はブリタニア人である。大司馬だろうと、異国人の医師には青年に仕える理由は無い。
しかも一度もまともに診察させない。薬を交換し出血が多い場合には輸血する。熱が出れば解熱剤を打つ。ただ単に医療行為をする道具として使われている。
人身売買目当てで密入国した身ではあまり公然と文句も言えないが、そろそ一ヶ月である。本国の組織とも連絡がとれず、ストレスも溜まってきた。館の女を適当につまみ食いしてウサ晴らししているが、早く本業に戻りたいものだ。

星刻は天子付の高級女官からの報告書を破り捨てた。床に落ちた紙が血溜まりで赤黒く染まる。
『ここ数日とてもおきれいに』
『天子様もお年頃』
そんなことは報告されなくてもわかっている。
天子様のように愛らしく美しい方が他にいるわけが無い。
彼女がもう小さい子供ではない事ぐらい知っている。

ジノが来てから、天子からの電話が無くなっていた。

プロポーズ小作戦5

2009-03-24 00:00:43 | コードギアス
プロポーズ小作戦5

涙は共鳴する。
笑顔は感染する。

誰が言ったのか知らないが、この日の天子はその典型だった。朝、またすぐ切られちゃうかもとびくびくしながら星刻に電話をかけた。
やっぱりすぐ切られてしまった。くすんと泣いていたら古株の女官に怒られた。
「天子らしくしなさい」
天子らしくと言われても、天子には何が天子らしい事なのか分からない。
しょんぼりしていると星刻が選び抜いた教師に発音が悪いと怒られた。ブリタニア語、とくに古語は難しい。ブリタニア人でさえも禄に話せない人も多い。でも政治に携われるなら、必須の言語である。気持ちが落ち込んでいるせいかこのところ帝王学の講義もなかなか進まない。

豪華絢爛きわまる朱禁城だが、中には自然に近い場所もある。
たんぽぽやスミレが咲く小さな庭。天子のお気に入りの場所である。
もっとも、ジノは気が付いた。一見自然のままに見せかけているが実は巧妙に管理されている。野性の野バラが1本のとげも無いなどありえない。空が見えてはいるが、ここは温室構造だ。
巨大な箱庭と言うわけだ。声に出さずジノはつぶやく。
あの男の天子に対する過保護振りがわかろうというものだ。ジノはさりげなく野バラの枝に上着をかけた。

中華連邦大司馬の公館で長い髪の男が舌打ちした。この館の主、黎星刻である。書類を裁いた後、それには捕虜の処刑や地方軍の粛清も含まれている、お気に入りの庭でお茶にしている天子を見ていたらいきなり画面が消えた。ジノのかけた上着のせいである。上着をかける直前のジノの顔、声にはしていないが唇の動きで分かる。「星刻、こういうのはストーカーだぜ」

上着をかけた後、ジノは天子の髪をなぜた。
とたんにポロリと落ちる涙。
(あー、我慢していたんだな)
ジノは天子を抱きこんだ。ジノはもうずいぶん以前、スザクにもこうした事がある。相手が女の子だという認識は薄かった。

「星刻は私が何もできないから怒っているのかしら」
泣くだけ泣いてようやく天子はそう言いはじめた。
「もう公務はしているでしょう」
何もできないわけじゃないとジノは言ってやる。
「星刻がいないとわからないの。わたしはこの国のことさえ知らないの」
それは天子の責任ではない。3歳になるかならないかの頃、天子にされ、以来10年間お人形だった。それからの運命の変転は彼女をお人形から国主にかえたが、いまだ自分の国を見てまわる暇も無い。本来なら各地を回りたいところだが、中華は荒れている。民族独立運動、分断統治派、盗賊、黒の団を名乗るテロリストグループ、天子が安全にいられるのは洛陽のそれも朱禁城近辺に限られた。
それでも彼女は国が乱れ、日々刻々大量の死者や被害者が出ていることに心を痛めている。
「あまり我慢していると痛いのがわからなくなる」
だから泣いていいとジノは彼女の髪をそっとなぜる。
「違うの」
激しく天子は首を振る」
「それも悲しいけど、それよりも、星刻が隠すの。戦場に行くことも誰かを殺す事も、私が何もできないから」
(あ、スザクと同じだ)
大切にしたいたった一人の人だから、もう僕にはナナリーしか守りたい人がいないから、そう言って俯いたスザク。もしあの時自分が無理やりにでも『お前が抱えているのはなんだ!』と問い詰めたら、アッシュフォードで出会った「先輩」と呼んだ人は生きていてくれただろうか。
考えても仕方がない。そう思って記憶の底に押し込めた後悔。ゼロ・レクイエムに関わった者はそれぞれに押し込めているものがある。
ジノのそれは、生きているのに死んでしまっている同僚への感情がからみより複雑だ。

「天子様、古語のご教授は進んでいますか」
天子の鳴き声で飛んで来た女官を適当に追い払い、お茶のおかわりだけ受け取って神楽耶が戻って来る。
「・・・怒られたの」
しょぼんと天子は答える。
「私も古語には苦労しました」
「神楽耶も」
天子にとって神楽耶は何でもわかっているお姉さんだ。その神楽耶が苦労したの?
「あぁ、古語はもう言葉じゃないからなぁ。私もずいぶん苦労した」
しみじみとジノが答える。
「まぁ、」
これには神楽耶も驚いた。
「私はみそっかすの4男で期待されてなかったからなぁ。兄達は子供の頃から普通に使って覚えていたけど」
軍人を選びナイトオブスリーになって、初めて覚える必要に迫られたジノは戦場よりも語学に苦労した。それゆえに、天子の苦労がわかる。
だから、次の言葉はすんなり出てきた。
「少し気分を変えて.私を家庭教師にしてみないか」
「お兄ちゃんが?」
「そうですね。ぜひそうなさいませ。天子様。ジノは深く考えるのはできませんが、頭はいいですよ。それに護衛の役にも立ちます。1台2役でお買い得ですわ」
「褒められている気がしないけどなぁ」
明るい笑い声は温室のガラスさえも軽々と超えて、空に消えた。



プロポーズ小作戦4

2009-03-22 11:53:23 | コードギアス
プロポーズ小作戦4

神楽耶の依頼は簡単だった。天子様をお慰めして楽しませてあげてほしい。
さっそく天子に会いに行くと、なにやら書類を抱えて難しい顔をしている。
まだ、本当に重要な用件や急を要する仕事はしていないが、政務になれるために少しずつ政策に携わっている。
以前ならこの時間帯には星刻が来て、書類の書き方から内容の説明まであの涼やかな声で語ってくれたのだが、もう1ヶ月もそれすら無い。天子は書類を抱きしめて右に見て左に見て、うーんと唸っている。
理解できないのだ。内容的にはそんなに難しくないが過去のデータを持っていない天子には判断基準がない。とうとう書類を裏返してすかして見始める。そのまじめな顔と行動のかわいらしさにジノは噴出した。
いきなり振ってきた明るい笑い声に天子はびっくりして書類を落っことした。
「ふゃ-」
子猫みたいな声を出してパチパチ瞬きする。
落っこちてきた書類をジノは受け止めた。
「やぁ、久しぶりだね。姫天子ちゃん」
黒の騎士団時代に覚えた愛称で呼びかける。
「三つ編みのお兄ちゃん」
天子の声がぴょんと飛び上がった。


プロポーズ小作戦3

2009-03-22 11:16:52 | コードギアス
プロポーズ小作戦3

公平に見て、神楽耶の目からも星刻はいい男だ。
100人1000人10000人の女がそれを認めるだろう。
運動機能は死んだ従弟のスザクと並び、頭脳は亡き夫2代目のゼロに匹敵する。
その上にあの涼やかな瞳、戦闘時の苛烈さをかけらも見せぬ穏やかな心遣い。
女ならあの男をいっときでも横に置けるなら、全てを捨ててもいいという気持ちを起こさせる。
それでいて、星刻は女に何も捨てさせない。ただ、捧げるのみだ。愛を保護を権力を安全を、星刻はただ一人の女に捧げる。
女としてこれほどの相手が他に望めようか。
しかし、その男ゆえに天子は泣く。その男を横に置けないたった一人の女。主従の鎖が彼女を縛る。しかもその鎖を天子にかけるのは、全てを捧げてくれる当の男。
天子は男のかけた鎖につながれて、男の横に立つことはできない。
それなら、男が動くべきと神楽耶は「目的 プロポーズ」と入力した。


ジノは世界中をふらふら飛び回っているが、捕まえるのは簡単である。1日おきぐらいに元同僚のアーニャにたくさんの写真や動画付のメールを送る。それをアーニャがアップする。あっという間に探検家ジノのファンが増え、いまやアクセスランキング上位である。そのブログを見た読者から、次はうちの街へ国へ来ませんかとコールがかかる。なにしろジノはあの悪逆皇帝の走狗、裏切りの代名詞スザクをカレンとともに倒した英雄である。あの目立つ容姿と明るさも併せてどこに行っても人気者だ。
英雄、平和の聖騎士、人気者、そういう言葉をジノは貴族の鷹揚と若さ明るさで受け止めている。
ゼロ・レクイエムの真実と仮面の真実を知る彼が心底楽しんでいるのか、あるいは道化に徹し世界に明るさを振りまく事が自分の役と思っているのか、神楽耶は呼び出したジノに答えを求めなかった。


「天子様の護衛?」
アーニャのブログを介して呼ばれたジノは、ずらりと並べられた中華の美味珍味を猛烈な勢いで平らげている。なにせ、数時間前までアフリカの奥地にいて、ろくなものを食べていない。
「いいけど、あれがいるだろ」
あれが何か問うまでもない。
「そのあれが天子様を泣かしておりますの」
「お、ようやくかぁ」
ジノは料理の飾りである朱雀にかぶりつく。
繊細なレースのように作られた鳥は、たちまちジノの腹に消えた。
「お好きですね、朱雀が。前にお会いしたときもお一人で食べていましたね」
それにジノは返答しない。口の中がデザートの菓子でいっぱいだったからだ。