金属中毒

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プロポーズ小作戦76

2009-06-22 22:44:18 | コードギアス
プロポーズ小作戦76
君側の奸に従わず。
天子様を邪からお救いする。
新たな革命家達の息吹


もともと星刻は蒼天講の中核ではあったが、トップではなかった。
それは星刻が正式な漢族ではないことに由来する。

洪古や香凛を含めた数人の同士は天子と星刻のロマンス未満を知っているからとくにあれこれ言わないが、知らない同士の中には妹の婿に来ないかと熱心に口説く者もいた。

確かに正当な漢族の婿、それも正式な婿になれば星刻も正式な漢族になる。そうすれば立場が強化されるし、いつまでも宦官の部下というあいまいな地位でいる必要も無かったはずなのに。
このことについては入力者に私見がある。星刻が私的感情から高亥付きを望んでいた場合と、天子の安全を守るためもっとも厄介な敵に張り付いていた場合。あるいは両方の感情が入り混じっていて、星刻本人にも判断できていなかったのか。

中華の中だけではない。星刻を欲しがる国や王家、団体は多かった。
例えば、ゼロ革命のどさくさに改革派の先頭に立って今やロシア軍の最高位にあるサーシャ・ミハイロフ。彼は学生時代から星刻を弟と呼んでいる。ロシアで星刻の名を表記するときにスターシャと書かれるのは、ミーシャがつけた愛称に拠っている。

ヨーロッパでも現存する最も古い王家が彼を望んでいる。もっとも、ここの独身の姫はすでに54歳。いささか無理のある話である。

複数の多国籍企業がらも引き合いがある。中には契約条件を公開している企業もある。その年間契約金額は今の星刻の年収より5倍も多い。
多国籍企業は言う。あのタイプの男には国すら狭い。うちに来てくれるなら、最高の便宜を図ろう。
そんな引き合いの全てに星刻は「私は天子様の一臣下でございます」と礼儀こそ守るが全て断っている。

生前のナイトオブワンが認めた中華の麒麟児の株価は、ゼロ革命後も上昇する一方である。
中華には伝説や格言が多い。そのひとつに「昇竜悔いあり」がある。天に昇りつめた竜は後悔するという意味だ。やりすぎや行き過ぎをいさめる言葉だが、ある種の青年にとってはこの言葉さえも、悔いすら残らない人生を生きる気は無いと思わせ、むしろ背中を押す結果を呼ぶ。


もし星刻がたとえ形ばかりでも、漢族の婿に納まっていたら次の件は起きなかった。
後に赤い石と呼ばれる新種のサクラダイトが、国境線の入り乱れた緩衝地帯で発見されなければ、星刻が複数の多国籍企業に籍を置く必要は無かった。後で考えれば偶然のタイミング、悪意の偶然だった。



新年祭の一環として、天子はいくつもの災害被害地への慰問を行った。どの地区を訪問するかの予定は早めに公表されていたので、予定地区に名を上げられた知事達は大至急公軍私軍を総動員して除雪作業を行なった。
これを外見だけ見れば、大司馬の命令には従えなくても、天子の命令には従うと見える。
しかし、内実は違う。動いたのは漢族の私有軍およびその影響下にある公軍。
星刻は予測していながら、公式ルートからだけ除雪命令を出した。全ては計画のうちである。
結果、命令は予測どおり無視された。
直後洛陽に戻ってきた洪古を公式に外宮に呼び、天子に命令させた。命令受諾と同時に洪の一族が漢族ネットワークを通じて同族に呼びかけた。
結果、結束の固い一族である漢族、それも今最高の出世頭の洪家の依頼とあっては動かぬものなどいない。こうして国際的に天子の権威は大司馬より高いと見せかけることができた。さらに忠臣筆頭は洪家の当主であるという形が整った。
こうして下準備は着々と進行した。
星刻は自分がいついなくなってもいいように、予定通りに権力・権威・立場を振り分けていく。

そもそもゼロの行動が無くても,星刻は蒼天講を率いて革命を起こす予定だった。その予定では星刻が一旦権力を掌握したあと、宦官達の後始末をつけて、つまりは関係者を全員処刑し終えて、本来の漢族の主流である洪や他の同士に全てを渡す事まで計画されていた。要するに汚れ仕事を係累の無い星刻がやり終えて、大掃除の済んだ中華を漢族に戻す。その後は天子を掲げた漢族が統一された中華を支配する。
このスケジュールは蒼天講の成立とともにに星刻が立てたもので、ゼロの行動によって変更や加速を余儀なくされたが、今も着々と進行している。
数年前の事だ。スケジュールを皆に示した後、洪古の遠縁の若い同士がふと疑問を口にした。『それで辞めた後星刻は何をするんだい?』
一番若いこの同士はマスコットみたいな存在で、皆からかわいがられていた。だから、いささか失礼なこの質問も幼さゆえの素直さとして許された。
星刻も穏やかに笑って返答した。

人の脳で嗅覚を管理する部位は、記憶の部位の近くにある。それゆえに香りには普段意識していない記憶をいきなり呼び起こす力がある。
杏の香りはアーモンドに似ている。天子がデザートに所望した杏仁豆腐の香りが星刻の記憶を呼び起こす。『しんくー、旅に出るなら、僕も連れて行ってね』
そうだ、あの時私は旅でもすると答えたのだ。
あの頃、すでに星刻は自分の命が長くない事を予感していた。だから、答えた旅とは死出の旅であった。

アーモンドチョコが大好きだった少年はもういない。ルルーシュにフレイアで焼かれた。
死ぬ予定だった私が生き残り、覚悟の無かった子供が死んだ。
『撃っていいのは撃たれる覚悟の在る奴だけだ』
ルルーシュの声が思い出される。では、撃たれる覚悟はあっても、撃つ覚悟の無い者はどう生きればいいのだろう。
大好きなアーモンドチョコを育てたくて、種と信じてアーモンドを埋めたあの子供、どう生きれば良いのだろう。
天子は完全に止まってしまった星刻の手を見た。いつもと変わりなく見えるのに、なぜだか天子は不安になる。
『恋をして不安になるのは、恋の成長の証拠ですわ』
運命の人と教えてくれた友達は、ハートマークがいくつも付いている声で答えをくれた。
これが恋の味なの?
ついこの間まで、天子にとって恋とはふわふわの砂糖菓子だった。
でも、違う。
天子は思う。いま感じているのは苦くて、眠れなくなるような濃厚なコーヒーの味。


宮廷料理人が腕を振るった料理の数々は、実際には胃炎とのどの傷を抱えた病人用のメニューだが決してそれを感じさせなかった。それでも、星刻の食事量は日々おちていく。料理人は中華にこだわらず日本食からブリタニア料理まで考え付く限り試したが努力もむなしく、6日目にはスプーンを一度動かしただけでその後は、天子に最近の国際情勢を解説している。天子も必死に理解しようと努めている。日々、量を減らして供される食事は話中に冷めてしまう。結局ほとんど食べないまま、食事時間はお勉強の時間になっている。


ただ、今日はいつものお勉強のお話が始まらない。星刻は凍りついたかの用に動かない。
天子は杏仁豆腐に差し込んだスプーンを止めた。
(しんくー?)
赤い瞳が見上げる。
天子はとんと椅子から降りると、星刻の正面に回った。

天子の赤い瞳に黒い影が写る。
星刻の黒い瞳に赤い影が写る。


「天子様、もうすぐご誕生祭ですね」
ふいに星刻は言う。
凍り付いていた時間などなかったかのように。
「私からも何かお祝いを差し上げたいのです」


天子の答えはあの夜のお話の続きを聞かせてであった。

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1 コメント

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シリウスが雲間に隠れ、 ()
2009-06-22 23:02:01
カレンダーを見ると久しぶりの更新です。
やはり、あのニュースの衝撃は大きかった。
源氏物語には雲隠れの章、題名だけで中身の無い章があることは知られています。
平安時代の人も、Cの世界に居を移した高貴な人を同じような思いで見送ったのでしょうか。



さて、ずいぶんご挨拶が遅れてしまってすいません。黒鮫様、コメントありがとうございます。声を聞けるのは、嬉しいです。
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