金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

プロポーズ小作戦75

2009-05-25 22:31:25 | コードギアス
プロポーズ小作戦75


君側の奸に従わず。
天子様を邪からお救いする。

新たな革命家達の息吹







2021年1月初旬

「不安なの」
さぞかし幸福であろうと訪ねた朱禁城の、天子のいる内宮。
たくさんののろけを期待していた神楽耶に渡された言葉は不安。

「星刻はいつも私に優しかったわ。どんな苦しいときも。私にだけは何の心配もさせてくれなかった。
でも、違う。今は優しくしてくれるわ。皆が驚くくらいに。こんな事は初めてなの。
それに星刻の目が、まるであの時ダモクレスに向かっていく時に似ていて。
怖いの。星刻がどこかに行ってしまいそうで」





神楽耶の狙いはある程度成功していた。天子は星刻を時に異性として意識し始めている。
だから、不安になる。
出会った頃の自分が幼い子供であった事を天子は知っている。星刻が愛してくれたのはいつの自分なのだろう。
何もできないままの自分。
今は必死でお勉強中だが、それでも対応できない分野も多い。
無力を嘆く天子に、星刻は優しく言う。
天子様が全てに責任を持つ必要はないと。
中華は大きい、広い、世界一の人口を抱えている。専門分野は専門家に任せるのがいい。その専門家を選ぶのもそれなりの専門家がいる。天子様は微笑んで、中華の華でいてくださればいいのです。

『天子は中華の華飾り』とはどこかでインタビューされたときの星刻の答えである。
記者は個人的感情を訊きたかったようだが、それに対して返された答えはこれ。
静かではあるが圧倒する星刻の威に記者はそれ以上の追及をできなかった。






皇帝の自室で、ナナリーは個人的な映像データを見ていた。アッシュフォードのアルバム。兄が自分の髪を漉く姿。
猫祭り。男女逆転祭り。世界一のピザ。
どの1枚でも自分は幸福そうに微笑んでいた。いつも自分の傍には兄がいた。アッシュフォードの小さな箱庭。
それがどれほど優しい世界であったか。失ってようやくわかる。自分のいた世界は優しい人ばかりだった。
このアルバムはミレイから贈られたもの。いつか、ナナリーの目が見えるようになったときに、思い出に映像が加えられるようにと。
ミレイは兄や自分を恨んでも良い立場。保護していた皇子によってアッシュフォードは貴族の位を失い、多くの親族も首都とともに死んだ。それなのにミレイは今も、自分を大事な妹のように想っていてくれる。
ミレイだけではない。ニーナも、リヴァルも。
ナナリーは映像を切り替えた。直径1メートルもある大きなホールケーキ。7月生まれののプレート。
リヴァルがアップした映像。

最初から嘘をついていた。リヴァルにも。本当のことは今も言っていない。ある程度察しているかもしれない。それでも今でもこうして兄の誕生日も祝ってくれる。兄が世界を壊して、戦いを巻き起こしたのは知っているのに。
(お兄様、私たちは本当に優しい人たちに守られていました。だから、お兄様も守ろうとしたのですね。優しい世界を造って)
兄の造った優しい世界。世界が戦い以外の方向を模索する世界。超合衆国連合はそのための機関。
しかし、それは2年足らずで壊れてしまった。
再び将官になったジノは国境紛争を指揮するため戦場にいる。あるいは、スザク・・・ゼロも今そこにいるかもしれない。
いくら皇帝とはいえ、軍事の機密もあるし、神出鬼没と言われるゼロ・スザクの行動は読めない。
(お兄様、あなたは優しい。私達の周りには優しい人ばかりでした。でも、世界は、優しくない人のほうが多いのです)
兄は優しい世界を造る道筋の破れ目を塞ぐためにギアスを使った。
しかし、兄が優しい世界を託したスザクにギアスは無い。
ナナリーの目に映る世界は今も戦っている。今のところ、紛争というレベルだが、それもいつまでなのか。



『不安なの』。
この天子の声を聞いたのがもしもナナリーなら、男が女には秘密で、女の為に何かをしようとしていると気が付いたはずである。それは兄ルルーシュがゼロになるとき、ナナリーにいつもより優しくしたから。
それに、幾度も会っているうちに気が付いた。星刻は兄に似ている。考え方や、時には行動まで。兄は、ルルーシュは、自分がどんなにつらいときでもナナリーにはそれを分け与えてくれなかった。
「私もお兄様を守りたい」
甘えに隠してそう伝えても、ナナリーは幸福でいてくれればいいんだよと微笑むだけ。
兄が本心からそう言っているのがわかるから、ナナリーはそれ以上わがままを言えなくなる。
兄が全てを与えてくれたのは、敵として。そして、死を受け入れるわずかの時間だけ。
できるなら、天子には同じ想いをさせたくない。
せめて、一人でも幸福でいてほしい。
だが、悪意はもうこのときには存在していた。



神楽耶の見立てと、ナナリーの想い。それはどちらも正しかった。
自覚された恋心。君主として立つ気持ち。
天子の中で急速に育っていくいくつもの想い。
体の2次成長とあいまって、天子はすばらしくきれいになった。
それは傍で見つめている星刻が、一瞬も目を離したくないと思うほどに。


ただ、天子の成長よりも、悪意の熟成が早かっただけ

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2009-05-22 19:58:27 | Weblog
中華連邦星刻中心サイトです。平行して鋼のサイトでもあります。下の子(弟・妹)のために、一生懸命なのにどこかでずれている御兄さんが昔から好みです。天子様は妹兼女神兼愛しい人という認識です。

上のが宣伝文です。

プロポーズ小作戦74

2009-05-20 09:44:24 | コードギアス
プロポーズ小作戦74

2020年12月29日夕刻以降から、2021年1月初旬まで




2020年12月29日夕刻から、中華には大きな変化が起きた。
今まで、天子を避けているかのように公館にこもりがちだった大司馬が態度を一転し、内宮に入り浸るようになった。
命令を下すときには必ず天子とともに。食事も御召代えもご入浴もいつも一緒。
もちろん公的なお仕事タイムも。見慣れている女官さえも赤くなるほどの密着振りである。




報告するために洛陽入りした某地方の有力役人は迷うことなく、大司馬公館に来た。本来なら朱禁城の外宮に行くべきだが、このところ、大宦官を倒した革命将軍とやらが権力を一手に握り、政治軍事外交経済あらゆる中核が大司馬公館になっているのは今の中華の常識である。
ところが、有力役人は大司馬公館の受付で外宮に行くように指示された。大司馬は天子様とともにいるというのだ。
ともにいるというのがどういう意味か、地方役人はあまり気にせず外宮に向かった。
そこで地方役人はイエローメディアが言うところの大甘新婚さんを見ることになる。


中華連邦、甘あまの新婚です♪♪♪ とイエローメディアに書かれたほどに年末から新年にかけての二人の密着振りは誰の目にも明らかだった。ことに年末年始は公式行事が多い。そのたびにマスメディアによって、他の誰も近づく事もできないほど密着した二人が写される。ことに人気のある動画に天子の靴を履き替えさせる大司馬のワンシーンがある。小さな足先が恥らうようにピクリと下がる。それを受け止める大きな力強い手。ためらい無く天子のおみ足を受け止める。
そして、いとおしむように唇を・・・押し当てるかと思われた。しかし、誰の謀略か、丁度後数ミリのところで緊急の携帯が鳴った。
この電話の主が誰かは明らかでないが、世界中のファンにため息をつかせたことは間違いない。
すっかりいいムードの二人に大喜びしたのが日本の皇の長。自分のやきもち作戦が成功したと満足の笑みを浮かべる。
2代目ゼロの公式の墓は蓬莱島にある。神楽耶は亡き夫の墓参りと称して、蓬莱島を訪れた。もちろん、ゼロ・ルルーシュは実際にはこの島に葬られてはいない。
神楽耶の目的はラクシャータを訪ね、今はすっかり中華専属になっている彼女の研究チームと契約する事。そして帰り道に洛陽を訪ね天子様の恋路を祝す事。

ところが、蓬莱で神楽耶は思っていない人物に会った。
それはここで会っても不思議の無い人物であったが、以前と雰囲気が違う。
「鏡志郎」
「!神楽耶様」
驚いたのは相手も同じである。
軍務総監を引いたのは知っていたが、何故ここに?あるいは扇の考えなのか。
ふと気が付く。藤堂の傍に千葉の気配が無い。
「鏡志郎、千葉はどうしました」
「凪佐はあの太陽風の日に」
太陽風の日といえばもう半年近くも前の事だ。
何かあったのだろうか。




藤堂は公務を止める前に、扇に頼んだ。
「千葉は私の妻だ。生きている間、夫らしいことは何もできなかった。可能なら、千葉の死を公的なものにしないでほしい」
最後だけは妻として死なせてやりたい。そう願った藤堂。それにできるだけ答えた扇の手で、千葉の死は隠された。いずれは公表せねばならないかもしれないが、せめて藤堂の心の整理が付いてからにしたい。



だから、今のところ千葉の死を知っているのは扇と医療がらみで知った数人だけである。
ラクシャータは藤堂の様子から、何かを察しているようだが口にしたことは無い。



「私は妻を先年亡くしました」
千葉が亡くなったのではなく、私が妻を亡くした。ほんのわずかな言葉の違いであるが、それは藤堂の中で整理が付いた事を示した。







中華の新年祭は普通は伝統と格式に沿って行なわれるが、今年2021年は格式を離れた。まずはこの異常気象を乗り越えるのが優先である。
さらに大掛かりな政治体制の変革と、それに伴う人事を発表せねばならない。大宦官時代の悪政の後始末を完全につけるのが、今年の大きな目標である。


新年祭に公布された政治体制の主な変更に、

五大老制度
十長官制

この2つがある。

そして最も重大な発表と受け取られたこととして、大司馬は軍籍を解かれる。


様々な変革の嵐の中、それでも不足と見る者はいる。
その者達は、ある殺された男の元部下と接触した。
大きな善意と無意識の重なりは、近いうちに大きな悪意を生み出す事になる。







君側の奸に従わず。
天子様を邪からお救いする。

新たな革命家達の息吹

プロポーズ小作戦73

2009-05-16 22:27:45 | コードギアス
プロポーズ小作戦73
さよなら

『いつか、私が天子様を外にお連れしましょう』
その誓いは果たされた。
外は天子が幼い頃思っていたような、優しい世界ではなかったけど、黒の騎士団を始め優しい人はいた。もちろん、怖い人もいるのだろうけど、今のところ天子は恐怖感を覚えるほど怖い人に会った事は無い。それは自分が守られているからだと思う。星刻に。中華に。
2代目ゼロにさらわれて、銃を突きつけられたときは確かに怖かった。でもそのあとでゼロにあったときには少ししか怖くなかった。きっと神楽耶がいてくれたからだろう。

一番怖かったときを考えてみれば、戦争中の斑鳩の甲板に飛び出したときかもしれない。あの時、星刻が来てくれなければ、自分は命も肉体も失っていただろう。
あの時、何故飛び出せたのかいまだにはっきりわからない。星刻は無理に考えない方がいいと言っているから、それでいいのだろう。
それにいつでも星刻は来てくれる。
それなら、自分には何も怖いものなど無い。

あの戦争が終わった後、星刻は誓ってくれた。
『お守りします。とこしえに』
すっと自分の傍にいると約束してくれたのだ。
だから、天子には怖いものは無い。
少なくとも、天子はそう信じていた。


2020年12月29日夕刻、天子は女官に夕食を2人分にするように命じた。
もちろん、星刻との夕食である。

本来ならいるはずの給仕人や女官、護衛さえも遠ざけて、天子は星刻と2人だけの夕食を楽しんだ。


それは星刻が幼い天子と過ごせた幸福な時間の終わり。


プロポーズ小作戦72

2009-05-12 11:07:28 | コードギアス
プロポーズ小作戦72
初めての贈り物

ナナリーから贈られた本に載っていた、誕生日プレゼントはラブラブへの大きな道筋であると。ラブラブというのが天子にはよくわからないが、神楽耶に訊いてみると特別に仲良しという意味らしい。

それなら星刻はまた前のように私と話してくれるかしら。そうなってほしい。また、前のように星刻に抱かれたい。

まだ、小さい頃よくおひざに抱っこされてお話を聞いた。天子はその頃のように星刻と一緒にいたいと思う。
天子にはまだわからない。それはもう自分達の間には望めないのだと。もし同じことをしても、違う結果が出るのだと。
結果はわからないけど天子は知っている。どちらであっても自分は星刻と一緒にいることを望んでいると。

星刻は何を望んでいるのかしら。天子にはわからない。
でも、天子はいいことを知っていた。ジノが教えてくれた。わからないことは訊けばいい。まっすぐに問えばいい。
星刻から返った答えは、
「ぐんせきまっしょう」
それは星刻が軍人で無くなるという事。天子はそう思った。
それなら士官学校に行く前みたいに、ずっと傍にいてくれるの。
天子にとってそれは嬉しい事だった。だから、「いいわ」と答えた。
しかし、その意味は天子が考えているような事とは大きく違っていた。


それは星刻が公人で無くなり、天子の傍から去ることであった。

2020年12月29日夕刻である。

プロポーズ小作戦71

2009-05-11 23:25:17 | コードギアス
プロポーズ小作戦71
2020年12月中旬
お誕生日に何か贈りたいの

天子がブリタニアの皇帝のお茶会兼狩猟会に招かれたのを星刻が知ったのは天子が帰ってきてから。
ジノが帰国して、このごろ機嫌の良い大司馬だったがそれを聞いたとたん不機嫌になった。
確かに内宮のことは、星刻の管轄ではない。しかし、だからといって天子様のことを自分に言わないとは。
このことで内宮の女官の何十人かが所属を代えられた。



公私混同、嫉妬心丸出しの大人気ない大司馬であるが、彼の内宮での評判はいい。
口うるさい老女官長を引退させ、年齢的にもとっくに引退すべきだった。
また、多すぎる女官を整理し、各自に役目を与え規律を整えた。人数が減ったのに、天子の周りのガードは以前より堅固になったので、今までいかに無駄な人員が多かったのかがよくわかる。
整理された女官達はほとんどが大宦官の息のかかった者で、星刻としては危険な存在である彼女らを天子から離す機会を待っていたのだ。今回の天子の無断外遊は、いい理由になった。


無断外遊といっても知らなかったのは星刻一人で、これは公式行事である。
女官の人員整理を終えた後は、それ以上誰かに八つ当たりするわけにもいかない。
本来の不満を持つべき対象である、天子に対してまったく不満を持たないのは、彼が星刻だからである。


この頃、ゼロ・スザクは愛機零の整備のため中華に来ていた。
このところ、星刻の指示の通りに戦いの場を選んでいる。以前は激戦地区に優先的に行き、そこを平定し、また次を平定するを繰り返していた。
しかし、あの道場同盟成立以来、スザクはまず正義の騎士ゼロとして各国を訪問し、時にはメッセージを時には脅しを伝え、反応に応じて戦場に出る形をとっている。今までは単機での行動が多かったが、鞘を持つ国を中華に変えてから、漆黒の騎士団が同行し作戦を多元的に展開できるようになった。
その一方でナナリーの傍にいる時間を減らしていないのだから、効率的に戦闘をこなせるようになったという事だ。それには漆黒の騎士団の、人前に姿を見せない謎の指揮官の存在も大きかった。


見方によっては、今のゼロはずいぶんいい待遇である。世界の3大美少女のうち2人と身近に暮らし、残る一人ともしばしば連絡を取っている。
イエローメディアがいっときそのことを叩いたが、このときばかりはピッタリと息をそろえたシュナイゼルと星刻により、会社ごとたたきつぶされた。
普段は大国の横暴に対して、辛口の扇総理もこの件だけは全面的に両国を支持した。
「どんな親を持ち、どんな血筋に生まれたかは本人の責任ではない。特別な血筋であることだけを理由にプライバシーを侵されたり、好きな相手を否定されたりむりやり押し付けられたり、そんな時代は終わった。」

常に無い、扇の強い口調には幼い娘、勇希の存在が大きかった。
イエローメディアは勇希のことも叩いていた。それに対して、扇は自分が総理の座にある間は記者も出版者も処分しないと言い切った。たとえどんな形でも権力が言葉をつぶすことはしないと保障したのである。一方で扇は自分の任期が終わり、一人の父に戻れた後は保障しないとも発言した。温厚な調整役として知られた扇だが、彼も数える事もできないほどの死を生産してきたテロリストである。マスコミは穏やかに続けられた言葉にそのことを思い出した。



星刻の指導や漆黒の騎士団の活躍、特に謎の司令官のおかげで、ゼロ・スザクにはほんの少しだが時間的に余裕ができた。それはスザクにとって楽しいことではなかった。
戦場で命を張り詰めているときは、自分がルルーシュの造った世界を守るという思いで満たされた。
時には追い詰められ、生きろギアスが発動したりした。
追い詰められたとき、間違いなくスザクの心は歓喜で満たされた。単純にたった一つの理由で。
(ルルーシュ、俺はまだ君の声を聞ける)



スザクは豪華な宮殿の狭い1室でトレーニングに明け暮れていた。
身体を鍛えて鍛え抜いて、心を空っぽにできるまで。



ところがそんなスザクをじゃまする存在がいた。
中華大司馬である。
すでにゼロの中身もゼロ・レクイエムの裏表も知り尽くしたこの男は、時折スザクの部屋にやってくる。
そして、一方的に話し続けてまた勝手に帰っていく。話の内容が世界情勢のときはスザクも理解が及ぶかどうかはともかく熱心に聴く。元来スザクは成績こそ悪いが頭はいい。ただし、頭の回転より、心の反応に体が常人にありえないほどの速さで反応するだけで。スザクの優秀さは星刻も認めた。ただしスザクの場合頭が考えに至る前に、直勘で正解にいたるのだ。
星刻は時々スザクの意見を訊いた。反射的に返る言葉が自分の思考と一致する。星刻は100パーセントの自信を持って、スザクを戦場に送れる。


ところで、星刻は時々世界情勢とは何の関係も無い事でスザクに話をしにくる。例えば今回のように。
天子が外遊するのは別に不思議は無い。行き先がナナリーのところでも不思議は無い。
しかし、星刻は不満を訴える。いやはっきり言わないが不満を抱えている。
(そんなこと僕に言われても困るよ)
そのうちにスザクは気が付いた。要するに自分は星刻のストレス解消に使われているらしい。



そんなある日星刻は言った。
世間はクリスマス。よければナナリー陛下といとこ姫に何か贈られてはと。
季節の事など忘れていたスザクはこの申し出にしばらく返答できなかった。


世間はクリスマス。各国がさまざまな行事でにぎやかになる。まだ、イベントどころではない国も多いがとにかくブリタニアと日本、そして中華の洛陽はクリスマスカラーに染まった。
天が祝意を伝えるかのように、純白の雪を降らせた。
庭ではしゃぐ天子。愛らしい光景だが、一方では、大司馬公館では牧畜民の耐寒対策に追われていた。
天子を楽しませたホワイトクリスマスを演出した雪は、それに続いて寒波をもたらした。猛暑の後は厳寒ということわざの通りに季節は巡る。多くの遊牧民が雪盲や凍傷の被害を受けた。政府は早い時期から厳冬や大雪の情報を流していたがそれを受け止める民には、取れる対策が無い。本来なら地方長官が動くべきだが、いまだに大宦官時代の体質のままの地方は、ただひたすらに己の利益を守るだけである。


星刻自身は全体の指揮を執るため洛陽を動けない。洛陽に戻しておいた漆黒の騎士団を使おうにも、外国人である彼らでは遊牧民は受け入れない。
備蓄した食糧が盗賊に奪われ、餓死者凍死死者が出ても地方の遊牧民は救援に差し出された食料を受け取ろうとしない。外国人というより、部族以外の人間を信用しない。まるで死を待ち望んでいるかのような遊牧民達に、救援に行った漆黒の騎士団の青年達は戸惑い恐れた。中には軍を離れるものも出た。


スザクも一人でも多く助けられればと、愛機で飛んだ。積雪で道路が寸断され、凍結で鉄道が止まる。
星刻は各地の軍に除雪のために出勤せよと命じた。物流ルートを確保せねば被害は広がるばかりである。
しかし、地方長官たちは平然と大司馬の命令を無視した。
これが星刻の決断を早めた。

いまだ、自国の被害を知らず、穏やかな年末を迎えようとしている天子。
その天子が星刻を呼んで訊いた。

「本で読んだの。お誕生日は贈り物をする日だと。星刻、私は最初の贈り物をあなたに贈りたいの」
望むものはありますかと天子は問う。
それに対して大司馬が答える。

わたしの軍籍を抹消してください。
2020年12月29日である。

プロポーズ小作戦70

2009-05-11 21:31:41 | コードギアス
プロポーズ小作戦70
2020年12月上旬
コウノトリは赤ちゃんを運べないの?


さて、時はご都合主義で狩猟会の当日である。
「コウノトリは赤ちゃんを運べないの?」
赤い瞳をぱちくりさせる天子。
「天子様、コウノトリの話は星刻様から聞かれましたね」
「星刻が教えてくれたわ」
にっこり微笑む天子。
「天子様、私も昔はそう信じていましたのよ」
ナナリーはそこから話を始めた。
学校でお花にはめしべとおしべがあって、それで種ができることを教えられた事。生き物は多くの場合雄と雌で子孫を作ること。
そこまでは天子もすぐ理解した。
問題はその先だ。
「天子様、コウノトリは赤ちゃんを連れてはきません」
「えぇ?!」
「人も他の生き物と同じです。雄と雌がいて子供を作るのです。」
思い切ってナナリーははっきり言ってみた。
「でも、しんくーが」
「それはうそです。子供が小さい間の」
「でもどうしてしんくーが私に嘘を言うの」
「天子様、それを聞いたとき天子様はおいくつでした?」
「・・・、わからない、でも星刻はあの頃私を肩に乗せてくれたわ。遠くが見えて大好きだった」
「まだ、幼い天子様におとなのこういう話は早すぎたのです。ですから嘘というわけでもないのですわ」
「だって、でも、それなら今は、どうして教えてくれないの。わたし、星刻の赤ちゃんが欲しいの」
「それは、殿方が口にするには少し難しいのです。星刻様がもっと年上で、そうですね60歳くらいなら平気でしょうけど」
「どうして」
「若い殿方ではそういう事を説明すると、ついそれをしたくなるときがあるのです。とくに好きな女の子を相手に説明して我慢するのはつらいでしょうね、そうですね、ジノ」
いきなり話を振られて、ジノはイエスと返答するしかない。
天子にはそういう男の事情を理解するのは難しい。生身の男としては、星刻や洪ぐらいしか知らない。そのうちの星刻は天子にだけは美しいものしか見せようとしないし、洪はそもそも天子を子供としか思ってない。ジノもいたけど、ジノは立場も気持ちもお姉さんだった。
一度に理解させるのは無理だとわかっていた。そのためにナナリーは参考になりそうな本や映画をプレゼントした。また、表向きはコウノトリを信じている振りをしていなさいねと教えた。そのうちに星刻様のほうが絶対に実地で説明されるようになりますから。
さらりと、結構きわどい教えを与えるナナリーである。


狩猟会はご婦人達の宝石自慢やざわめきのうちに終わった。ご婦人達は大人になっても手のひらに乗るミニ羊をお土産にそれぞれ戻っていった。
大人になっても手のひらサイズ。この羊ははるか昔のトリスター社の製品で極上の羊毛を得るために開発された。ただし、羊毛よりもペットとしての需要が多く、後にプチっ子ペットシリーズの主力商品となった。トリスター社の製品は今日ではほとんど残っていない。現在確認されているのはクオーターシルクとスマイルオレンジ、手のひら羊のみである。

小さな金の鳥かごに愛らしいぷっくらふわふわの羊を連れ帰る貴婦人達の中で、天子だけは威風堂々とコウノトリをつれて戻った。


プロポーズ小作戦69

2009-05-11 21:28:25 | コードギアス
プロポーズ小作戦69
2020年11月
「というわけですから、陛下、しばらく休暇をください」
携帯のスイッチを切ると、ジノは顔だけナナリーに向ける。
ガンガンに携帯画面を覗き込んでいたナナリーとギルフォードが額を打ちつけあう。
結構いい音がしたから痛かったはずである。
慌てて、妻の妹に平伏するギルフォード。

なにが「というわけ」なのかナナリーの頭の中は整理されていない。
家庭教師兼護衛兼外交官兼お姉さんとしてジノを天子に貸し出していたのだが、その間にラブレッスンまでしていたの!!私の大事な妹のようなかわいい天子によくも手を出したわね!でも、それならそれでそれなりの対応を、そもそもあれはこのことを知っているのかしら?と怒りと混乱のままジノを呼び出した。
ナナリーの頭の中ではデータはまったく増えていないし、情報も整理されていない。そういう点、ナナリーはルルーシュの同母妹であった。頭はいいのに、抜けている。特に恋愛方面に。
一方ギルフォードはさすがに妻帯者だけあり、今の電話でのやり取りの雰囲気が、男と女ではなく、お姉さんと妹であるの見て取った。
「ヴァインベルグ卿、卿は童貞か?」
ギルフォードは本当に天子に手を出していないのか?と聞くつもりだった。しかし、仮にも一国の天子を手篭めにしたかどうかなど、口にしてはいけないと、冷静に判断し聞き方を変えた。
しかし、変えた言い方もそうとう失礼である。
落ちついているようでも、ギルフォードもまだ頭が戻っていないようだ。


残念ながらジノは休暇をもらえなかった。代わりにナナリーが私的に開催する女性だけの狩猟会が予定された。
女性ばかりなので、獲物は小さいものに限る。蝶・子羊・子ヤギ・子猫・子犬・チビハムスターが用意された。他にも駒鳥やナイチンゲールも用意された。会場は皇宮の内庭、女性たちはドレスでの参加も可能である。狩に使うのは猫じゃらしや高級ペットフードを仕掛けた罠。止めを刺す代わりに気に入った獲物は連れて帰ることになる。
狩猟会とは名ばかりで、ご婦人のドレスや宝石の自慢会になりそうである。
国内外の多くの婦人が招待されたが、本当の目的は天子にコウノトリを捕まえさせる事にある。と同時に天子に赤ちゃんはコウノトリが連れてくるわけではないと教える事。これはナナリーが教師役として立候補した。
「お兄様は私にいろいろなことを教えてくださいました。でも、さすがにそういう事だけはあまり教えてくださいませんでした。ですから、私も学校で習うまで生き物は交配で生まれるけど、赤ちゃんはコウノトリが連れてくると思っていました。いまにしてみれば、お兄様は嘘を教えたわけではなくて、まだ幼い私にふさわしい説明をしただけです。ただ、そのあとの説明が年齢に応じて行なわれなかっただけです。きっと言えなかったのですね。
私の見るところ、星刻様もお兄様と同じです。問題は天子様にそれを教える人がいなかったことです」
テーブルを囲むのはナナリー、ジノ、周香凜。
狩猟会を理由に天子を招いて、年齢にふさわしい正しい保健体育教育をすること。それが今回の会の本当の目的である。もちろん、外交上の理由もあるが。

天子のスケジュールを捕まえるのは大変だった。
ブリタニアに滞在中の周香凜を仲介にし、天子の予定を何とか都合する。
中華本国の洪将軍はじめ高官たちの説得から、天子のスケジュール調整の指示まで、香凜は通信機を前に怒鳴る日々である。
一番の問題はこのコウノトリ捕獲作戦をあの大司馬に隠して実行せねばならないこと。
香凜は知っている。
ジノの帰国を星刻が本心から残念に思ったこと。それは軍事を語れる相手がいなくなったという意味で。
同時に体調まで良くなるほど安心した事。それはつまり、星刻がジノと天子の仲を妬いていたという事。香凜が懇意にしている女官によると、ジノが帰国してから胃の痛みが消えて、のどの調子もいいらしい。

あの心配性で嫉妬深く過干渉で溺愛で、とにかく天子に関してだけは理性も冷静な判断も停止してしまうあの男が、天子を一人で国外に出すなど認めるはずがない。まして会の警備担当がジノでは。

香凜の目から見て、公平に見て、天子にはジノのほうが向いている。
星刻が悪いというわけではない。良い男だと思う。顔はいいし、頭も切れる。女のあしらいも心得ているし、ただ、それが天子相手には出せないだけで。
星刻はもてるし、相手の女を利用できるとなれば手が早いし、やることはやっている。それなのに好きな女の子にだけは奥手でうぶという、殴りたくなるような男。
香凜としては天子が星刻を好きでなければ、よほどジノのほうをお勧めしたい。

香凜も男の好みに関しては偉そうな事はいえない。自分でも変わった趣味だと思う。でも好きだ。例え彼にすでに子供や第4婦人がいても関係ない。
政治的な問題が落ちついて自分が洛陽に戻れたら、絶対口説き落としてやると決めている。香凜は周家の女だが、同時に血の中には陽家の血が流れる。陽家女将軍の血は彼女のあらゆる部分に現れていた。

言い訳

2009-05-05 14:09:24 | コードギアス
言い訳

中華の真ん中の沙漠に地下から大穴を開けて、巨大な塩水の海を作り、それにより地球温暖化防止の最大の対抗手段にするとか、ちなみに穴を開ける方法はフレイア、実行するのはスザク。指揮は星刻、各国に協調を呼びかけるのはシュナイゼルとういうエンディングも考えていたんですが、それでは、天子が30になってもプロポーズなんてできそうに無い。
他にも中華を沿岸派と内陸派で別の国にしようとする上海独立派に裏のボスとして星刻が就くとか、それを天子の勅命で討ち果たさせるとかのラストもありえるのですが、うーん、題名のかわいらしさとつりあわないので、これも使えない。

やっぱりうちの星天はコウノトリさんで止まるんですね。イメージが。良くてキスまで。それもうちのへタレでは手かうまくいっても額まで。唇なんて無理。

あれだけ好きなんだからほんのちょっと手を貸してやればとの、神楽耶の目算は大はずれ。神楽耶の考え以上に星刻の思いは深いです。


16歳のエピソード先に上げてしまったけど、まだプロポーズしてない・・・・。たどり着けるだろうか。

プロポーズ小作戦69より先のナンバーのどれか

2009-05-05 13:47:17 | コードギアス
プロポーズ小作戦69より先のナンバーの予定

2021年1月28日。
この日は中華にとって特別な日。ただ一人の天子の16歳の誕生日。
成人年齢は国によって異なる。それでも16歳ともなれば正式の婚姻も認められるし、親政を開始する事もできる。
天子は大人になったのだ。


天子の成人を祝い中華は今年一年多くの式典やイベントを行なう。また庶民達もさまざまな形でイベントや祭りに参加できる。
例えば洛陽、北京、上海の動物園でに各国と交流して得た多くの珍獣が公開された。洛陽の動物園のお披露目には、天子自らが臨席しテープカットもした。
さぁ、まずはどの国の贈り物からご覧になるのだろうと、護衛たちの後ろから世界各国の記者がぞろぞろ付いていく。
こんなふうにメディアと交流する事も昔は考えられなかった。
この時代の天子が、後に開国の天子と呼ばれるゆえんである。
天子は100名以上の護衛や記者団を引き連れて早足で歩く。
この行動力も伝統的な天子のイメージを覆した。
せっせと歩く事15分。

たどり着いたのは鳥のコーナー。
そこのコウノトリのスペース。
どこの国の贈り物を最初に見るのかな?と付いてきた記者達はあれあれと疑問符を浮かべる。
コウノトリは珍獣だったかねぇ。んなわけねーだろ。
ひそひそと私語が交わされる。

天子は柵から身を乗り出すように、・・・良い子はまねしてはいけません・・・そのうちの1羽を指した。
「私が連れてきた子です」
その1羽の鳥はちょっと変わった帽子を被っていた。とうもろこしの繊維で作った麦藁帽子。後ろに3本のしっぽ付き。
「トリスタンの名前をもらいました」
そりゃ、コウノトリの身でなんとも豪勢な名前だなぁ。記者達は思う。トリスタンは国際機体の名。すでに稼動していないが、その名はめったに使えるものではない。
「ヴァインベルグ卿があの帽子をプレゼントしてくれました」
「トリスタンは必ず、一番速く中華に赤ちゃんを連れて来てくれます」
にっこり微笑む天子。たちどころにフラッシュのあらしが起こる。


さて天子のこの言葉だが、この時点では次のパンダコーナーに移動したため追及されなかったが、後に大騒ぎを呼んだ。

プロポーズ小作戦68

2009-05-04 23:08:02 | コードギアス
プロポーズ小作戦68
2020年11月

プライベート用の番号を使ったせいか、天子の口調は少女のそれになっている。
「そうなの。ジノおにいちゃんは一番速いでしょう。だからコウノトリを捕まえに連れて行ってほしいの」
「星刻は何をしているんだい」
さりげなく尋ねる。
「星刻は、洛陽に帰っていないの。蓬莱にとても大切な人がいるから」
エぇえええええええええええ!!!
思わずジノもナナリーやギルフォードの同類になるところだった。あいつ公然と浮気しているのか!!!

折り良く入ってきたシュナイゼルがちらりとジノの携帯を見て、こう言ってくれなければ。
「蓬莱島の麗人の名を藤堂と申します。中華の支配者殿」
「と、とーどー」
「ヴァインベルグ卿、発音は正確にするように」
「は、あはい」






シュナイゼルはいちいち説明しなかったが真相はこうだ。
妻を失った男は夢の一夜がどういう現実かを知った後、己の愛剣を道場の飾りにと寄贈した。街は大騒ぎ。さっそくホームページを作り、奇跡祭りなるお祭りまで企画した。
その騒ぎに一日だけ付き合って藤堂はふらりと故郷を出た。
ここでも自分は奇跡の英雄であるのだ。今の姿を見せることはできない。
どこに行こうかと思い、行き先が無い事に気が付く。どこに行っても、自分の虚像はいる。
半日ぼんやり過ごした後、半ば夢遊状態で蓬莱島に来ていた。そこで急に腰に激痛を覚え動けなくなった。
偶然か必然か、ゼロに見つけられそのままラクシャータ・ロイド・セシルの預かりとなった。
トイレにも行けず、うめくばかりの藤堂だが、診断は簡単だった。40腰である。
精神的な疲れと、虚脱が腰に来たというわけである。この年齢で妻を亡くした男には時折あることだ。
世に言うところの魔女の一突きに襲われたわけだ。


星刻は精神の痛みを肉体に代行させた。
藤堂は肉体の痛みが精神の痛みを食いつぶした。
誇り高い軍人の藤堂が赤ん坊さながらにオムツを当てられ、寝台に転がされている。

ラクシャータからの極秘連絡で藤堂が病中にあると知ったとき、星刻は会議後の疲れた身体を休めることもせず、蓬莱島にとんぼ返りした。
そして蓬莱島で藤堂の状態を聞き、敢えて会わずに帰ろうとした。
藤堂がどういう男か星刻は知っている。そんな藤堂がオムツを当てられ、転がされている。ラクシャータによると40腰は無理に動くと癖になるから、とにかく動かずに我慢するしかないという。

戻ろうとした星刻をラクシャータが止めた。
「会いなさい。藤堂のためにもあんたのためにも今会うのが絶対に必要だから」
普段の口調とは異なるきっぱりとした断言。
その言葉に操られるように星刻は藤堂の部屋に入った。鼻に付くのは消毒液の臭い。
それに混じる隠せない排泄物の臭い。
「しんくー?」
気配で誰と悟ったのだろう。藤堂が視線だけを向ける。
惨めな姿である。
奇跡の男の現状は。
しかもシーツすらかけてもらっていない。
実は意図的にラクシャータが取り去ったのだ。

まっすぐな視線が星刻を射抜く。こんな状態でさえ、藤堂は美しい。
初めて藤堂を見たときから思った。この男をほしいと。
部下にとまでは望めない。友などとは呼べない。
立場が縛る。
だからただ同じ方向に歩く存在でいいと。
世間では星刻と藤堂は並び立つ存在とされている。
しかし、違う。
私は逃げている。自分の意識の深さから。底に制御できない感情があるから。
星刻の手は自分ののどに触れる。見た目ではわからないがでこぼこした触感がある。
ここに押し付けていた。正義の戦いで負った傷だからと、言い訳が効くから。

「藤堂さんはお変わりありませんね」
「あぁ」
会話はそれだけ。

ラクシャータの部屋に走った星刻は至急に血管および気管の再生のオペを受けると伝えた。




一旦洛陽に戻って部下達に必要な指示を出し、また蓬莱島にとんぼ返り。
天子の顔を見たのは公式の謁見の間で数分間。しかも天子が席を立ったことさえもこの男は気が付かなかった。


すれ違い。
星刻はこのオペが終わればもう逃げないと心を決め、天子は星刻が見えないし聞こえない。
だから決めた。私と星刻のコウノトリを探しに行こうと。








ジノは息を整えた。よくわからないが星刻は浮気していない。いや、男の方が女より厄介な場合もあるが、まさか、相手は藤堂だし、何かの話し合いだろうな。そう考えて納得する。



ではコウノトリの話はどういうことか。大きく分けて2つの意味が考えられる。
ひとつは男に対して懐妊を伝え責任を取らそうとするもの。この場合男とはジノである。
もうひとつは、普通なら考えられないが、ほんとうにコウノトリをほしい場合。

あれこれ考える必要はない。天子にまっすぐに聞けばいいのだ。
「天子ちゃんはコウノトリを捕まえてどうするのかな」
「私と星刻の赤ちゃんを早く連れてきてもらうの。赤ちゃんがいればきっと星刻も帰ってくるわ。本に書いてあったもの」
いつの間にかナナリーとギルフォードがジノの携帯をがん見している。
彼らの中でどんな情報の嵐が起きているのか、ジノは微笑んだ。
「天子ちゃんは本当に天使ちゃんだね」


プロポーズ小作戦67

2009-05-04 19:41:53 | コードギアス
プロポーズ小作戦67
2020年11月

ギルフォードがノックもあわただしく部屋に入ってきた。
「天子が言ってきたのだ」
ギルフォードも失調している。敬語が飛んでいるのがその証拠だ。
『ジノを貸してください。コウノトリを探しに行きたいから。これが最後のわがままになってもいいから』
天子の言葉は録音で流された。あまりのシヨックにギルフォードほどの男も内容を要約できないらしい。
足元がふらついているのは、フレイアに焼かれた目の後遺症か。あるいは天子の言葉の衝撃か。

「それで、何か」
ジノは話す対象をギルフォードに切り替える。
「貴殿、身に覚えがあるだろう。天子といえど女だ。その女からこんなふうに言わせるとは。騎士たる身で、恥を知るべきだ。若い者のことだしあまりそういう事にとやかく言いたくないが、しかし、相手が悪い。いや、考えようによってはいい話だが、それでもあれが」
駄目だこりゃとジノは思う。この人も頭が加熱している。
誰か、冷静に話せる人はいないものかとふと思い立ってジノは携帯をまわす。
最も冷静であるだろう相手に。
電話のコール音がなる合間にもギルフォードの言葉は続いている。
「私としても理解できないわけではない。木石ではないからな。その、姫様と、まさかこういう展開になるとは、いや、今は卿の話だ。安心しろ。私は理解できる。少し急ぎすぎたようだが、若いものだし、私ぐらいになれば、落ちついて楽しむことも、う、いや、今のは忘れろ、とにかく落ちついて」

ワンコールで相手は出た。
「もしもし天子ちゃん」
「ジノおにいちゃん」
予測どおり天子の声は冷静だった。

プロポーズ小作戦66

2009-05-04 16:13:27 | コードギアス
プロポーズ小作戦66
2020年11月

2020年11月ジノ・ヴァインベルグは20歳になり完全に家督を継いだ。
といっても特に今までと変わりは無い。今までも彼は当主であったのだから。
ところが大きな違いが出てきた。
公式の見合いが写真で寝台が作れるほどに山積みされた。
私的な見合い話は今までもあった。しかし、公式となると話は別だ。公式の見合いは皇帝の許可が要る。つまり、大量の花嫁候補はすべてヴァインベルグ家の当主夫人にふさわしいというお墨付きなのだ。
これからは簡単に断れない。
もちろん、ナナリーが自分でジノの花嫁候補を選んでいるわけではない。家の格により一定の基準があり、それに照らして機械的に判断されているに過ぎない。それでも公式は公式だ。

落ち込んでも仕方ないなと思いながらジノはベビーベッドを注文した。もちろん自分が使うためではない。アーニャへの贈り物だ。いろいろあったが、とうとうそういう事になって結果が出たらしい。
相変わらすそっけないアーニャのブログの文に、読者から見れば爆弾発言があった。
赤ん坊が生まれるから、しばらく休みます。
直接背中を押したのは天子だが、それをさせたのはジノだ。

自分達ももう子供ではないのだと、次の世代を考える年なのだとしみじみ思う。
そんなふうにしみじみしているジノを緊急回線でナナリーが呼び出した。
皇帝自ら緊急回線で呼ぶなど何事だと、ジノは文字通り音速で吹っ飛んだ。
「ジノ、来てしまいました。
まさかとは思いましたが、ジノ、あなたがそういう事をしていたとは」
ナナリーの言葉はさっぱりわからない。顔色が悪いし、何か大きなショックでも受けたのだろうか。
公式の会見の間で姓ではなく名を呼ぶとは、ナナリーの失調振りがわかろうというものだ。
「陛下、ナナリー様、何があったのです」
「天子様が、ジノとまさかそんないえありえないわけではないけどでも年からしてもだけどでも似合うと思うのですけどでもあれが」
「はぁ、天子様なら少し不調だとニュースを見ましたが」
「ご病気ではありません」
きっぱりとナナリーは言い切る。
失調を通り越してようやく少し頭が冷めてきたようだ。
「そうですか」
何がなんだかわからないが、天子が元気なのはいいことだとジノは思う。
あの少女は先天性のアルビノだ。そういう個体はおうおうにして身体が弱い。過去の朱王朝の天子が短命なのは毒殺や暗殺も多いが、先天的な弱さも大いに影響している。幸い今の天子の身体は正常だ。たぶん子供も生めるだろう。幸せになってくれるといいなとジノは思う。自分達はさんざん殺した。だからといって独身主義というわけでもないが、少なくともあの幼かった天子は直接には手を下してはいない。おそらく天子として仕事をするようになった今もそういう事はしていないだろう。あの男がいるから。
ようやく少し頭が冷めたらしいナナリーはジノに椅子を進め、お茶を持ってくるように命じた。
「ジノさん、落ちついてください。私は責めません。きっと幸せになれると思います。あれがどう言うかが問題ですが、私は味方と信じてください」
「あの、陛下、あれはあれのことですか」
「そうです。あれです」
お茶を運んできたメイドには絶対通じない会話である。

「それであれが何かしたのですか」
天子が絡んでいる話なら当然あれも絡むだろうとジノは話題をあれに転じた。
今のナナリーから天子に関する正確な話を聞くのは無理らしい。それなら先にあれの話をしてみよう。
「あれが、あぁ、なんてひどい事を天子様というかたがおりながら、お気持ちもわきまえずに」
駄目だなとジノは思った。あれの話も無理らしい。
ナナリーがこんな調子という事は国際的な危機ではない。皇帝としてのナナリーは《完全なる皇帝》であるから。この失調振りはどっちかというと女の子のお話だ。
あれが何かして、天子がナナリーに電話してきたという事だろう。
それで何故自分が絡むのか。どうもそこがわからない。
確かに天子はかわいいし、お姉さん役も楽しかったが。

お茶が冷めないうちにどうぞとナナリーに勧め、自分も飲みながら、天子の入れるお茶は練習の成果もあってうまかったなあぁと現実の危機をまだ知らないジノはのほほんと思い出した。

プロポーズ小作戦65 2020年10月

2009-05-04 15:13:51 | コードギアス
プロポーズ小作戦65
2020年10月


2020年10月はナナリー、アーニャ、ギルフォードの誕生日である。
このうちで国際的に特に重要なのはナナリーの誕生日である。

帰国とともにジノ、いやもうヴァインベルグ卿と呼ぶべきだ、卿は大佐として軍に戻った。
以前より階級が落ちているのは、長い間ふらふら遊んだいたことへのお小言代わりである。
そしてさっそく任されたのはナナリー皇帝の誕生日のパレードの総合管理。つまり、先日の国際会議で星刻がやっていたように裏方から警護体制まで全て取り仕切る。一通りのデータは昨年のものがあるし、部下は全員昨年の経験もある。ジノは総合指揮に徹して、細かい部分は部下に任せた。そういう点、トイレの配水管の角度にまで口を挟む星刻とはやり方が180度異なる。

それは生まれ育ちの個性もあるが、結局は国に人材があるかが影響している。
ブリタニアはこの皇帝誕生祭をきっかけに、外国人の旅行を原則認める方針をすでに出している。今までは特別な許可が必要だった。観光旅行者を受け入れるほどにブリタニアは復興したのだ。

一方中華はまだ外国人の自由旅行を認めていない。
もちろん、国防上の問題も大きいが、実は下水網がまるっきり機能しておらず、いまだにニーハオトイレ(しゃがむとお互いの排泄行為がモロ見えする)が主役でそれさえもあればましな方。結構大きな街でも、街の中にトイレが無い場合も多い。
ではどうするのか。土地により多少の差はあるが馬桶と呼ばれるおまるや完全な露天トイレ、屋根も壁も無い浅い穴だけのトイレ。こうなるとトイレというよりノグソである。
最大の問題は排泄物がそのまま環境に戻されている事。寄生虫の蔓延や水質汚染など、問題は山積みである。
ある街など、あまりの汚損のひどさにフレイアで焼き払いたいと星刻が心中つぶやいたとか。それがわりと大きな観光地だったりして、「早く海外からの自由旅行を許可してくれ」と何度も申請が来ている土地でさえ衛生観念がまるっきり無い。

「まずは教育が大切です」
いとおしい天子に公式の間で報告する。
さすがにノグソの問題を天子に言う事はできない。
「わが国は世界一の国土と国民を抱いております」
「その全てが天子様の足元にひざまずいて下ります」
星刻の声を天子は遠く聞いた。物理的にも遠い。10メートルの距離。
あの裏切り騎士枢木スザクとの戦いでのどを痛めた星刻は、ふだんはあまり大きな声を出さなくなった。
いくら天子が耳を澄ましても、星刻の声が聞こえない。
耳にも心にも。
天子は報告の途中で席を立った。そもそも聞こえていないのだから座っている意味など無い。

空っぽの玉座に聞こえない声が響く。
それは中華の現状と二人の思いのすれ違いをはっきりと表す構図であった。