金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

たんぽぽ

2009-01-31 21:34:44 | コードギアス
洛陽の病院にて


「こんなところにいると自分の体以外への興味を失いそうだな」
外部との連絡や情報から完全に遮断されたことに対しての不満を星刻はそんなふうに皮肉る。
「たまにはお体のことも考えてください。いままでほったらかしていたんですから」
香凜は天子から託されたたんぽぽの花束を花瓶に挿すと、星刻から本を取り上げる。
「おい、まだ途中」
「だめです。お休みにならないと」
星刻の手が本を追うが、香凜はすばやく鍵つきの棚にしまう。

「やっぱりだめね」
香凜は何度も挿しなおしてみるが、たんぽぽは下を向いている。やはり、消毒に耐えられなかったようだ。
「たんぽぽ?」
お見舞いの花としてはあまりふさわしくない選び方である。
一体誰からなのか?
「天子様が、星刻様の一番好きな花だからとご自身で摘まれたのですよ。でも」
消毒に耐えられなかった花はしおれかけている。
星刻自身はまだ知らないが彼は肝臓を移植されている。免疫抑制剤の投与を受けているため、完全消毒されていないものは病室に入れられない。
香凜はたんぽぽを花瓶から抜こうとした。
「待て、そのまま」
星刻が慌てて止める。
「そのまま置いていてくれ」
星刻の視線がたんぽぽに注がれる。
瞳に映るのはしおれたたんぽぽだが、心に映るのは白い綿毛。
たんぽぽは初めてあの方に捧げた花。
あの方の髪と同じ色の綿毛。
あの方のようにやわらかくふわふわした
いとおしい、愛らしい
私の大切な天子様

星刻の心が天子様で満たされてしまったのを確認して香凜は病室を出た。これであの男も数時間はおとなしいだろう。

第9話系のメモ

2009-01-31 10:45:42 | コードギアス

第9話で星刻は蒼天講のメンバーと地下アジトで話しておりました。
「天子様をお救いすべきか、平和のための同盟か」
胃が痛む思いでしょうね。星刻は。でも、独断専行はしないんですね。
そこで、こんなシーンがあの後あったのでは・・・と思いました。


「いずれブリタニアとは共存できなくなるとしても革命の準備ができていない今は早すぎる」
「幸い人質ではなく正婦人としての婚姻だし、天子様の御身に危険はあるまい」
「いや、あのブリタニアのことだ。過去の政略結婚の結果を見ろ」
過去の政略結婚の例は152、そのうちの7割が不可解な死を遂げている。
ひどい例では結婚相手のブリタニア皇子もろとも教会を崩して殺害している。(これは公式には事故扱いだが)

議論百出、けんけんがくがく、地下アジトの温度が上がるほど議論は続いた。皆、他者の意見が正しいとは思えず、さりとて自分の考えが正しいと言い切れない。これでは結論が出るはずが無い。
星刻は口を挟むことなく仲間達の声を聞いていたが、ふと立ち上がると 風に当たってくる そう言い置いて庭に出た。

星刻が居なくなると皆急に黙り込んだ。結局のところ星刻の決断ひとつなのだ。政略、軍略などあらゆることがこの蒼天講は星刻一人にかかっている。規模こそ違えど、黒の騎士団と同じ強みと欠陥を抱えていた。

星刻は庭に出たきり戻ってこない。

「意見は出尽くしたな」
さほど大きい声ではないのに良く通る低音で洪古が言う。
「星刻はどうするつもりだろう」
生まれはいいが軍人としてはいまいちの若者がおずおずと述べる。
「いま必要なのは私情でなく、判断だ」
誰かの声が答えた。
星刻が現状の少女天子を命がけで守ると誓っているのは、当人は隠しているつもりだが、けっこう有名な話だ。
星刻が口を開かないのは、私情で軍略をゆがめてはならないという理性的判断だ。星刻のそういう面を蒼天講のメンバーは高く評価している。
 しかし、仮にここで天子をブリタニアに売ったとして、中華の未来はあるかというと、無いに等しい。
「ふん、八方塞がりとはこういうことか」
皮肉屋がいつもの口調でつぶやく。

洪古は仲間をぐるりと眺めた後、通信機に細工してから外へ出た。
下弦の月を見上げる星刻を見つけた。
「星刻お前はどうする」
「私は、私がおつかえするのは天子様お一人。もしも、あのお方に何かあったら私は彼女を追う」
つまり天子が殺されたら、星刻も自殺するという事。
「中華を捨てるか」
「私にとって国とは天子様のいらっしゃる場所だ。それ以外の意味など」
こんなふうに言うからといって星刻が人民の苦しみを無視しているわけではない。星刻にとって天子様の国の民の苦しみを救うのは当然のことなのだ。
さて、星刻は普段感情を抑制しめったに本音を漏らすことは無かったが、この友人に対しては本心を語った。まさかこの会話が通信機を通じて蒼天講の仲間に筒抜けとまでは気がつかない。


通信機ごしに会話を聞いていた蒼天講のメンバーはいささか微妙な表情だった。まったくなぁとか、オイオイとか、そういう言葉が交わされる。そのものずばりの「ロリコン!」という声が無かったのは遠慮なのか、哀れみなのか。
蒼天講のメンバーには女性もいる。彼女らはため息混じりに「いい男なのに」とつぶやく。
蒼天講の女性メンバーには星刻にあこがれて入った者も多い。この日何人の女性が失恋したか公式記録には無い。

「まぁ、いいか」
ぽそりと誰かの声。
趣味が少しぐらい変わっていても、能力に問題はないし。むしろ趣味や嗜好がやる気の基ならいいことだし。
「かわいいしな、無害だし、あれでいいだろ」
どうせ、誰かを中心に据えるなら、今の天子で問題ない。
いつ決起するとしても完全なタイミングはありえないだろうし。それが今でも問題ないだろ。

「どうせならうんとドラマチックにやりたいわねぇ」
「映画みたいにさ」
一箇所に集まって喋っていた女性たちがなにやら楽しげな歓声をあげた。
星刻が全国放送に見せたキメ台詞。
『我は問う! 天の声、地の叫び、人の心! 何をもってこの婚姻を中華連邦の意思とするか!』
脚本は蒼天講の女性メンバーである。



星刻が部屋に戻ったとき蒼天講のメンバーの意見は、確定していた。即決起しかわゆい天子様を救い正統と正義の旗印とする。人民を搾取する悪しき大宦官を打ち倒す。官軍を人民解放軍としての本来あるべき姿に戻す。


先に部屋に戻っていた洪古に星刻は視線を投げる。
『どうやって説得した?』
『さて、何のことだ』
洪古は知らぬ振りを決め込む。

まさか説得材料に己の個人的感情を暴露されたとは知らず、星刻は地方の同士に指示を飛ばした。
こうして国を憂うる青年達は、私的感情を抱きしめる指揮官の下、革命の朝へと走り出した。





星刻は抜け目が無いようでも、ひょいと洪古さんあたりに引っ掛けられて、本心を漏らしているといいです。蒼天講のメンバーがこの純愛をあったかく見守ってくれていたら嬉しいです。ついでに天子様が16に成ったころに誰かがこの通信の録音を聞かせてくれたらなお嬉しいです。

自覚の無いくせ

2009-01-30 20:20:05 | コードギアス
斑鳩から帰ってきたとき、星刻には以前には無かったくせができていた。時折のどに触れるのだ。どうやら星刻当人は気が付いていないらしく、天子が「痛いの?」と愛らしい顔を心配に染めてたずねたときすぐには反応できなかった。

「天子のかわりなどいくらでもいる」メモより

2009-01-28 20:55:48 | コードギアス
そもそも天子様は本当に天子の血筋なのか?もしや、天子そのものも大宦官の作ったものでは。すでに天子の血筋は絶えてるけど適当な白い髪、紅い瞳の子供を天子に仕立てた。だから「天子のかわりなどいくらでもいる」

もっと悪意を持って考えると、赤い瞳白い髪の純粋なアルビノの生まれやすい家系を大宦官グループが飼っていて生まれた子供を天子として飼育している。で、自分の意思を持つような年頃になったら取り替える。
そんな大宦官から見れば天子に身命を捧げている星刻など愚かにしか見えないのだろう。

両王手15

2009-01-20 00:14:53 | コードギアス
両王手15

手抜きのようだが、この先の歴史の大嵐に星刻は直接かかわれなかった。神虎のなかでブリタニアを脅す事に手一杯だったからだ。もちろんそれは歴史を動かす大きなコロであったが、現場を離れていた事は否定できない。

第2皇子が宰相として参戦したことにより、オデッセウスの革命は一気に進んだ。それは廃嫡された異母弟ルルーシュの理想とは少しずれていたが、皇帝の侵略主義を否定するものであることは事実である。
独立を目指すエリアはこぞって新王即位と宰相に祝意を述べた。また、皇帝のブリタニアに不満を持つ勢力も新王体制に接触してきた。その中に黒の騎士団もあった。

宰相の部屋を兄である王は自ら先触れすら連れず訪れた。
「陛下、ご連絡を下されば私が参りますが」
「うん、いやシュナイゼルは忙しいだろう」
兄は人のいい顔で弟をねぎらう。

そしてふと弟の部屋の奥の壁に掛けられた絵に気が付く。
「あれは、ルルーシュだね」
それは死んだクロビィスの作品。マリアンヌとルルーシュとナナリー、幸福な時間の結晶。

「ルルーシュは賢い子だった。ルルーシュが生きていれば世界は今のようではなかっただろうね。」
凡庸な兄は何も知らないままなのに、的を得たことを言う。
天才政治家である弟は表情に出さず思う。
ルルーシュが世界をここまで変えたのですよう。だが、もう、世界は変わらない。
ルルーシュには世界を変える理由が無くなったからです。
空っぽになった世界をそれでもシュナイゼルは操る。シュナイゼルにはそれが可能だから。




世界はブリタニアが2つに分かれることで大きく揺れた。皮肉だが、勢力が2分されたことで逆にブリタニアは影響力を強めた。
今、世界の主役はシュナイゼルであった。世界はそう思っていた。だが、シュナイゼルの思う主役達はまだ動いていた。その主役達とは世界を壊した魔王、その剣。
少年2人。

皇帝はシュナイゼルの動きを無視していた。当然、オデッセウスなど視界にすら入っていない。
皇帝はただ一つのことを成し遂げようとしていた。人類を永遠に幸福であらすために。
少年達はその皇帝を追って、海を渡った。皇帝の望みを絶ち、全ての過去を終わらせるために。

神根島で皇帝はゼロに守られた息子と対峙した。当然、そのゼロはスザクである。
1個大隊の重装備兵士を剣1振りで倒すゼロ。それは新しい英雄の誕生。
その様子は全世界に向けて放送されていた。そのとき世界の全ての戦いは止まった。神のごときゼロの戦い。黒髪の少年の姿にに世界が注目した。ただ、惜しい事に音声が入っていない。
少年が何かを言う。皇帝が演説調にそれに返す。そしてさらに少年が何かを言った後、ゼロが少年に向かって走る。
少年がゼロを振り向く。微笑む。
「ルルーシュ」
オデッセウスはつぶやいた。
父皇帝と戦っているのは死んだはずの弟。

不意に少年と皇帝の姿が画面から消えた。
現地にいた兵士によると皇帝と少年は急に崩れた足元に飲み込まれたという。
これを以て98代皇帝は死亡とされた。

黒の騎士団は新王派との協調路線に転じ、天子、神楽耶、藤堂、扇らが各国代表と共にブリタニアを訪問。一応の条約がかわされた。もちろんいつでも戦えるように必要な軍備は各国が維持する。天子は1分でも早く条約を締結したかった。もう3日も前から星刻との連絡ができなくなった。ラクシャータの言葉によると、神虎のエナジーには限度がある。もう切れているだろう。あの高度では凍死しかねないのだ。
だから、天子はどの国よりも早く条約に調印した。もちろん事務レベルで十分詰めての上だが。









両王手14

2009-01-19 15:05:28 | コードギアス
両王手14

藤堂言うところの暴走青年はその頃何をしていたかというと、神舟の電池を通信システムにつないで交渉を続けようと四苦八苦していた。
神虎の通信システムのパネルを剣でこじ開けコードをむりやり引っ剥がす。ラクシャータに見られれば病死するより先に、打ち殺されそうな事を星刻はせっせとやっていた。

システム自体は理解できるとはいえ、神舟は3世代近く前の遺物だ。使われている言葉すら今とは異なる。当時は繁字体という筆文字から作られた字体が使われていた。文化革命の後略字体になり、さらに簡字体になり、さらに最近は発音体というアルファベットを利用した文字に変わっている。
 幸い星刻は古代文字に通じていたからなんとか解読できるがそれでもさらさらとはいかない。それに古代文字を読むことは星刻にとって引っかかりのある記憶に繋がる。
少年だった星刻に教養として語学や古代知識を叩き込んでくれたのはあの高亥であったから。それは文字通り、ムチで叩き込まれたのだ。


 いまだに納得がいかない。なぜあの高亥があんな形で裏切ったのか。あの男は権力を手にするため自らほんものの宦官となった。星刻を手元に置いたのも利用価値のある手ごまとしてだけだ。
少なくとも星刻はそう考えている。

(今はあの男のことどころではない)
軽く頭を振って星刻はまたシステムに意識を集中した。
だが、後になってみればこのとき星刻はあの男のことをもっと考えるべきだった。そうすれば天子が朱王朝の血をまったく引いていない可能性に彼ならばたどり着き、対策を立てる暇もあったのだから。





スザクホルモン

2009-01-19 14:38:13 | コードギアス
スザクホルモン

雄猫発情時攻撃ホルモンの通称。
ニーナ・アインシュタインの生物学に対する初の発表。
「同級生で猫にかみつかれてばかりいる子の汗から見つけました。嫌われていたわけではなくてメスをめぐる同等のライバルとして認められていたんです。」
にこやかに明るくあっけらかんとニーナは発表する。
発情中の雄猫が他の発情中の雄に出会ったとき発する体臭に極めて近い分子構造をもつそれは、その後の分子生物学の発展の基礎となった。

ニーナの名は本来ならあのフレイアの作成者として残るはずだった。もちろん科学年間にはその名が記載されている。また、スザクの名は、これこそは裏切りの代名詞、悪逆皇帝の走狗として知られているので、後の世で気軽に言える名ではないはずだが、どうにもこうにもこの発情ホルモンの名が広がりすぎてしまい、すっかりギャグになってしまった。


両王手13

2009-01-19 02:08:25 | コードギアス
両王手13

天子の赤い瞳は泣いたあとを隠すのに役に立った。
鏡の前で神楽耶は天子の髪を漉いてきれいに結った。

「むかし、私は私の髪と瞳がきらいだったの」
気を落ち着けるためか、天子は唐突にそんなことを言い始めた。
「私だけがこの姿でみんな違うの。天子のしるしだって言われたけどそんなこと信じられなかったの」
「でもね、星刻が好きって言ってくれたの」
天子の髪は一筋の乱れも無くきれいに結えた。

女官の手を借りて一番華やかに見える衣装をまとう。これが自分達の軍服で、多くの人の前が自分達の戦場。天子はすぐにそれを理解し体得することになる。

両王手12

2009-01-19 01:48:01 | コードギアス
両王手12

ゼロ様、あなたのキセキが今必要です。

声にすることなくそう言い置いて、神楽耶は藤堂の下を離れた。忙しい彼をこれ以上煩わしてはいけないし、天子の動揺を抑え中華軍の前ににこやかに出てもらわなければ成らない。星刻が指揮の現場を離れた事はもう隠せない。この上はそれが作戦上のことと押し切るしかない。そのために天子は必要だ。何の権力は無くても、天子は中華の中心なのだから。


愛しい天子を溺愛している星刻が聞けば、血相を変えて止めるだろう。荒くれ兵士の前に天子の玉体をさらすなど。
(星刻様はご自身こそが天子様を飾り人形にしていることに気付こうともしませんものね)
愛らしい 無垢 無邪気 可愛い
星刻が天子に付ける形容詞は愛情にあふれている。国の支配者として薄汚い現実に対処していただかねばという意思はまったく感じられない。
悪意ではなく愛情から星刻は天子を守っている。しかし考えようによっては利用するために外界から遮断した大宦官たちより、星刻のほうがよほど始末が悪い。

星刻の手が届かない今。天子にとっては成長するチャンスであった。

両王手11

2009-01-19 01:30:56 | コードギアス
両王手11


「鏡志郎、あなただけに苦労をかけますね」



皇の少女は自分のサムライをねぎらう。
天子には『軍事上に必要な行動ですから、ご心配には及びません。』
そう言って慰めたが、神楽耶は確信していた。これは暴走であると。
軍事の事は分からずとも神楽耶には政治の感覚があった。

もし、星刻の行動に意味があるとすれば、それはブリタニア内部の反抗組織と共同戦線を張っている場合のみ。
一方で皇族に対して首都を人質にし、その隙に反抗組織がブリタニアを変革する。
しかし、神楽耶の知る限りブリタニアにそれだけの組織は無い。
また、もしも神楽耶の気付かない組織が合って星刻がそれと内密の繋がりを持っていたとしたら、それは黒の騎士団に対する裏切りともなり得る。しかし、その可能性は無い。神楽耶は確信できる。何故か。
それは。
「私は天子様とお茶にした後、軍の鼓舞に参ります」
あの男が愛しい天子を危険な目に合わせることは有り得ない。
天子はここにいる。それがこの行動が暴走である事を証明している。


「彼はあせっています。理由は分かりませんが」
神楽耶は短い間に見た星刻の印象を己のサムライに告げる。付き合った時間なら藤堂の方が長いが、神楽耶には皇の巫女姫としての目がある。
おそらく、その焦りがこの行動を引き起こしたのだろう。もちろんゼロが廃人になったこともフレイアも引き金となっているだろうが。


その廃人化したゼロがどうしているかを藤堂は己の姫巫女に告げる。スザクと共に去ったと。
「スザクと。そうですか。ずいぶん回り道をしてようやく、いえ、スザクは真っすぐしか歩けない子ですから。」
年上のいとこを巫女は子と呼ぶ。
「歩く道はあの子の思いを裏切って曲がっていたのでしょうけど」
『地球が丸いから道はいつでも曲がっているのに』
小さい頃、真っすぐにこだわるいとこにカグヤはそんなふうに言ってからかった。
『それでも俺は真っすぐ行くぞ』
記憶の中のスザクは真っすぐ前だけを見据えている。
(世界を一周してようやく帰ってこられた。お兄様)
これから先、いとこと自分達の道は重なるのかぶつかるのか、それを知る力は神楽耶には無い

両王手10

2009-01-19 00:41:04 | コードギアス
両王手10


さて、背後解説が長くなりすぎたようだ。


第一皇子からの通信で星刻が何をしているか知った天子はどうしているかというと。
あの通信の時には何とか耐えたが、今はぼろぼろ泣くばかりである。



その頃星刻は、




貴女が泣く必要のない世界を手にされた、それを確信したい。
それまでは・・・生きたい。



私が望むのはあの方が自由に生きられる世界だけだ




自分の行動で天子が泣いているとも知らず、神虎の中で幼い頃の天子の写真を見つめ彼女のことだけを考えていた。
なんで写真を持っているかというと24時間持っているからである。

余談だが、周香凛が星刻に付いてしばらく経ってから、たまたま天子の写真を見つめている星刻を見て、哀れにも淡い恋愛感情を散らしている。

両王手9

2009-01-17 12:02:13 | コードギアス

両王手9

歴史に残る言葉は第一皇子が知らぬ間に全世界に報道されていた。
数分後、それを知ったオデッセウスはもはや戻る道が無い事を知った。
善良な凡人が追い詰められたとき火事場の馬鹿力を発揮する事がある。このときその典型パターンが現れた。
オデッセウスは皇室専用回線で次々と弟妹達に連絡を取った。彼らの手持ちの軍をまずは味方にしなければならない。
それが、ある一人の弟に繋がったとき核融合反応のように物事は走り出した。
第2皇子シュナイゼル。皇帝の宰相。

「兄上、兄上は世界をどうするおつもりですか」
ルルーシュならばシュナイゼルのこの言葉をいやみや皮肉としか取らなかっただろう。
だが、オデッセウスは真剣に答えた。
「民の幸福を守りたい。だが、私の手に負える範囲までで。世界は大きすぎる。私には父上のようにはなれない」
「よろしいでしょう。私を兄上の、国王陛下の宰相に命じてください」

シュナイゼルが皇帝を裏切り、兄王に付いた。これをどう解釈すべきかについては論議の分かれるところである。
シュナイゼルには皇帝を裏切る動機が無いのだから。シュナイゼルは権力も財力もすでに持っている。利益供与の約束で味方にできる相手ではない。といって兄オデッセウスの人格や才能に惚れて協力したとはまったく考えられない。後に凡庸王と呼ばれるオデッセウスが弟を説得できるとも思えない。唯一ありえるのは父皇帝への反抗だが、それならシュナイゼル自身がトップに立ったほうが良い。現に貴族や高級軍人達は味方に付くよう説得するオデッセウスに対して「シュナイゼル殿下が皇帝になるなら味方するが、あなたがトップでは」と平然と返答している。革命に成功してからオデッセウスは彼らを罰しなかった。
「彼らは本当のことを言っただけだからね。真実を口にしたから罰を受けるような国では誰も本当のことを言ってくれなくなるだろう」



後世の意見だが、シュナイゼルは父皇帝の軍事主義(植民地主義)に限界を見ていたのではないか。植民地政策はコスト的には引き合わないともいわれる。ましてブリタニア本国人が異常なほど生産に携わらず、軍事のみに人材をはじめ国力を傾ける事にはプロの軍人でさえも疑問を抱いていた。繰り返されるエリアの反乱に兵士の死亡率は急速に上がっている。前年統計では22パーセントであった。国を再生産するべき世代が、植民地政策というローラーにかけられつぶされ死んでいく。
皇帝の権力で今はまだ抑えられているが、あと5年もすれば押さえられなくなる。その読みがシュナイゼルにはあった。これは、公式文書から読み取れる。たとえ、父から皇帝位を譲られたとしても、ぼろぼろの国では受け取りたくも無い。そんなとき、凡庸としか形容詞の無い兄が計算外の行動を起こした。ならば火中の栗を兄に拾わせて自分は実質を握ろうか。
そうとでも解釈しなければ、シュナイゼルが兄に付く理由は説明できない。
あるいは悪魔か美しき魔性の者にでも操られたのか。

両王手8 では私が王に成ろう

2009-01-17 00:31:08 | コードギアス
両王手8

では私が王に成ろう




この時期、一番不幸な政治家は誰か?
この質問にはネオウェルズの市長と即答できる。
最強の国の首都のトップになって、忙しいながらも充実した日々を過ごしていた彼はいきなりのど元に剣を突きつけられた。
「ブリタニアは軍を引け。さもなければ、お前達の首都はトウキョウ疎開と同じ運命を辿る。神船を首都に落す。フレイアと神船とどちらが強いか、試してみる気はあるか?」
脅してきたのは中華の武人にして、黒の騎士団の総司令。
しかも、皇帝は首都を見捨てた。

さらに不幸だったのはそのことが一般市民に知られたこと。ディートハルトの触手はブリタニア本国にも及んでいた。恐怖と混乱を隠せないまま皇帝に直訴する市長の姿と、俗事と言い捨てる皇帝の姿が動画になって、世界中に配信された。
たちまちパニックを起こして逃げ惑う市民。この最初の混乱だけで1千人を超す死傷者が出た。
皇帝に見捨てられても、市長にとって頼れるのは皇族だけだった。これは市長が無能というより、ブリタニアのシステムが皇族中心に造られていたためである。このとき、宰相にして、権力者たる第2皇子は首都にいない。そこで市長は第1皇子に助けを求めた。

無能、無策、無気力などと酷評される第一皇子だが、実のところ凡庸ではあったが無能ではなかった。世界の支配者としては不向きだが、国の象徴としては十分の資格を持っていた。その資格の理由とは「支配者は自分よりも民の幸福や安全を守る」それを体感している事だった。
第一皇子はすぐさま考えた。首都を救うためにどうすべきか。
ゼロとの交渉。あるいは中華との交渉。まずはそれが考えられた。
この時点では通信妨害を受けているためか、神虎との通信はできなかった。
そのため第一皇子は天子に連絡してきた。

「私の名において交渉に応じる。首都上空から神船を引き下げて欲しい」
第一皇子の言葉に答えたのは天子ではなく神楽耶であった。
「あら、お話になりませんわ。あなたには何の権利も力もありませんもの。
お話がそれだけなら、失礼いたしますわ。これから天子様とわが黒の騎士団の団員たちを鼓舞してまいりますの」
そう言うと神楽耶は通信を切るよう指示を出した。といってもその振りをしただけであるが。
「ま、待ってくれ。すでにネオウェルズでは市民達が混乱し死傷者が多数出ている。女性や子供も犠牲になっている」
慌てて、第一皇子が叫ぶ。
「そんなの、だめ。かわいそう」
なみだ目で答えたのは天子。
「まぁ、お気の毒です事。わが日本でも5千万人が犠牲になっておりますのよ。その中に子供がどのくらいいたかお考えになったことはございまして」
第一皇子を見返す黒い瞳には強い光がある。
自分よりはるかに若く、力も経験も無いはずの少女に第一皇子は圧された。しかし、ここは下がれなかった。
彼は、交渉対象を天子に切り替えた。
天子ならば簡単に切り崩せる。それを第一皇子の慢心と呼ぶのは酷だろう。現につい先日までの天子は操り人形に過ぎなかったのだから。
「天子様、どうぞお考えください。もしも神船を本当に落としたらどうなるか」
「そのときにはブリタニアは終わります。世界は救われますわ」神楽耶は答えた。
神楽耶は天子の手をしっかり握る。ここは正念場なのだ。
「中華の歴史に汚点となって残りましょう」
第一皇子が食い下がる。
「英断として伝えられますわ」
天子の手を強く握り神楽耶が言い放つ。

天子の手の震えがそのまま神楽耶に伝わる。
「オデッセウスさま。
わたしはずっと飾りでした。
何も言えなかった。誰も聞いてくれなかった。
でも、星刻がわたしをすくってくれました。
だから、」
だからで天子の言葉は一度止まった。
だから、どう続くのか。さすがの神楽耶も言葉の続きを予測できなかった。
天子は息を吸い込んだ。
「わたしはわたしを守ると言った星刻を信じます。
オデッセウスさまには信じる人はいますか」
この質問は艦橋にいるもの全てと、ブリタニアの全ての市民の意表をついた。
というのもディートハルトは抜け目無くこの会話をほんの少しのタイムラグで中継していたのだ。
タイムラグがあるのは黒の騎士団に不利な言葉を削除するためだが、今のところ全て流されていた。
天子の手の震えは止まっていた。

もし、ブリタニアで第一皇子を見ている者がいれば気が付いただろう。
白い髪の幼い天子の言葉に手を震えさせた第一皇子に。
(いない。わたしには。信じる者が)
(わたしは逃げていた。強い弟と争う事を。責任を取ることを。罪を手にしてなお立つ事を)
幼い天子は星刻を信じると言い切った。それはもし星刻がネオウェルズを壊滅させたとき、その罪を背負うという事。
(私には、いや、まだ遅くない。まだ、こんな私を信じて頼ってくる民がいる)

「では、私が王に成ろう。その上で中華連邦の天子に改めて交渉を申し入れる」
その声に震えも気負いも無かった。

歴史を変える一言はこうして発された。