金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

デートアフターフォローマニュアル実践

2009-03-09 16:10:56 | 鋼の錬金術師
翌日デートアフターフォローマニュアルを叩き込まれて、ラッセルはまたバラを抱えてアームストロング家を訪れた。


昨日と違って使用人達の視線が冷たい。
使用人に言わせれば当然である。ご主人様の手中の宝玉たるキャスリン様を泣かせた悪い男なのだから。
「お嬢様はお会いしたくないとおっしゃられております」
執事が伝える。
「そうですか、では伝言だけでもお願いしたい。昨日練習したので今日は自信を持ってあなたを誘いに来ましたが、ご不快でしたらまた改めましょう」
「は、」
執事の言葉が止まる。
それではもともと本命はお嬢様だという事なのか。ただ、少し言葉に行き違いがあっただけで。
執事はすぐさっきの伝言を持ってお嬢様の部屋にメイドを走らせる。
実のところお嬢様にはラッセルが来た事を伝えていない。当然会いたくないというのは作り事である。
15分後、桜色に染まったキャスリンが階段を下りてきた。

デートアフターフォローマニュアル

2009-03-09 15:55:25 | 鋼の錬金術師
デートアフターフォローマニュアル

翌日、ラッセルは大きなバラの花束を抱えてアームストロング家を訪れた。
開口一言、「キャスリン姫にデートを申し込みに来ました」
これはデートのマニュアルから行けば逸脱している。まず、女性にデートを申し込み、許可を得てから家を訪ねるのが正統である。それなのに、いきなりやってくるとは。
普通ならあきれられるところだが、この申し出は諸手をあげて歓迎された。ことにキャスリンの兄は自分が申し込まれたかのように感涙の涙を滝のように流した。
さらには寝室をしばしばともにしている男女が、まだデートをしたことがない事にむしろ家人達は驚いた。
デートの場所は遊園地。スタンダードであるが王道である。心配のあまりこっそり付いていかせた幾人もの使用人によると、周りの視線が釘付けの最高のカップルであったらしい。兄たるアレックスは電話で報告を受け、妹の始めてのデートが楽しいものであったことに安堵した。
しかし、幸福そうに帰ってくるはずの妹は何故か不機嫌を隠せない様子で帰ってきた。
兄たるアレックスはラッセルが何かしたのかと心配し、むしろ何かしたほうがいいのかと、これまた父親のようなことを考えた。
一方ラッセルの弟であるフレッチャーも大きな疑問を抱えた。兄がキャスリンをデートに誘った事も、結構うまくいったこともアームストロング家の執事さんからの連絡で知っている。
それなのになぜか兄はほほに平手の跡をつけて帰ってきた。
つまりキャスリンにひっぱたかれたらしい、
妹の兄と、兄の弟はひそかに連絡を取り合った。
「いつもお世話になっているのに、今回は兄がなにかとんでもないことをしたようで申し訳ございません」
「いや、うーむ、それがな報告では最高に良いデートであったそうだが」
それなのになぜ妹がラッセルをひっぱたいたのか、見当が付かないらしい。
「僕も兄さんに聞いてみます」
兄には素で人の神経を逆なでするところがある。セントラルに来てからはすっかりおりこうさんになっているが、ふと女性を傷つけるような事を言ったのかも知れない。
弟は兄に根掘り葉掘りデートの様子を聞いた。しかし、多少王道過ぎるようだがデートは完璧だ。
そこにひょこりとハボックが咥えタバコで、火はついていないが、入ってきた。
「よお、ラッセルデートしたんだと」
「どうも、うまくいかなかったようです」
ラッセルは打たれたほほをさする。まだ痛むらしい。
まぁ、それでも加減はしたんだなとハボックは思う。ピアノを持ち上げるお姫様にひっぱたかれて赤くなる程度で済んでいるのだから。
「デートは難しいですね。ハボックさんの言うとおり最初は気を使わなくていい相手を選んだんですが」
その言葉にフレッチャーは引っかかる。
「兄さん、キャスリンさんのこと好きだからデートしたんじゃないの」
「好きだよ」
兄はあっさり答える。
「彼女はルイの妹だから」
なにそれ、フレッチャーは頭がごちゃ付いてきた。兄は今なんて言ったんだ。
「おい、ラッセル、お前気を使わなくていい相手とか言ってないだろうな」
ハボックはタバコを噛み潰した。
こいつは頭がいい。そのはずだ。違っていてくれよと祈るようにラッセルを見た。
「あぁ、言ってますよ。彼女が『どうして兄さまではなくて、私を誘ったの』と聞いてきたから」
「にいさん」「ラッセル」
「「もう2,3回引っぱたかれて来い」」
弟と兄のように思っているハボックに同時に言われて、ラッセルは自分が悪かったことを認識した。
しかし、何故悪かったのか解らない。
その夜、マスタングを中心に事態の解決のための会合が開かれた。
出席者はマスタングとフレッチャー、ハボック。
翌日デートアフターフォローマニュアルを叩き込まれて、ラッセルはまたバラを抱えてアームストロング家を訪れた。

デートマニュアル

2009-03-09 14:09:05 | 鋼の錬金術師
フレッチャーが帰宅したとき、兄はハボックとお茶にしていた。
「だから、最初のデートは気心の知れた相手、幼馴染が気を使わなくて一番いい。そうすりゃどじっても平気だろ」
「幼馴染か、俺にはそういうのはいないから」
「何言ってやがる。お前なら選び放題だろ」
ハボックは軍の秘書課の女性達や、ラッセルのことをかわいがっているご婦人方を考えていた。
フレッチャーは自分のカップにお茶を注ぎながらハボックに聞いてみる。
「ハボックさんは初めてのデート、誰としたの?幼馴染?」
右のほほにえくぼをうかべてフレッチャーは話を振る。
後で思えばそんなどーでもよいことなんか訊かずに、何か考えているらしい兄に訊くべきだった?誰を考えているの?エドワードさん?それとも?
「へへ、俺はな村1番のでか胸のマリーと」
「デートして30分でひっぱたかれて振られたと。フレッチャー、ハボックの話を聞いても女は口説けないぞ。聞くのなら私に聞きなさい。手取り足取り実践で教えてやろう」
「えーっと、僕はそういうのあまり興味がないから」
「女の子をダース単位で数えるようなお付き合いは、本当の好きじゃないと思う」
「おぁ、少年いい事言うな」
ハボックがフレッチャーの背中をたたく。この頃まだ小柄だったフレッチャーは、ソファーから落っこちそうなほど飛び上がる。
「ハボックは東方時代ふられのジャンと言われていてな、付き合う女どれも1月もたなかった」
「俺のデートの相手にちょっかいかけてじゃましたのは、大佐あんたでしょうが」
「ふふん、私の魅力は太陽のようにに全ての女性に平等に与えられるのだ」
「あ、だから雨の日は」
邪気の無い顔で毒を吐くフレッチャーの口に、ロイが大型のカップケーキを押し込む。
「どうせ、俺はがさつで女心を解しませんよ」
「お前は女の選び方が悪いんだ。Dカップ以上しか見ていないだろう」
「大佐、男と生まれたからにはあの柔らかな谷間で窒息したいと」
「思わないな。成長過程の愛らしい乙女を好みの女に育てる醍醐味を知らないとは。そもそも女性の魅力とは」
ロイが言いかけたときエドワードが入ってきた。
とたんに女談義は消滅した。かわいいお子様のエドの前でアダルトな話題はふさわしくない。
この館の住人にとってエドワードは穢れなき黄金の光の天使だ。
そして誰も気にしていないが、ラッセルはエドワードより1歳下、フレッチャーに至っては3歳も下なのだが。

氷樹9

2009-02-28 16:49:51 | 鋼の錬金術師
氷樹9
「鋼の!」
聞き慣れた怒鳴り声が聞こえた。

この展開になればもう賢明なる読者方にはネタバレだろう。ロイが外から建物全体を燃やし飛び込んで来たのだ。

棺以外何も無い冷凍倉庫でも、柱や外壁は可燃性であった。酸素濃度を自在にする焔の術師にかかれば氷さえも燃えるというものだ。
氷はしばらくの間、焔に対抗した。しかし、すぐに火の裁きに道を譲り渡した。

「どうしてじゃまが入るんだろ」
フレッチャーは憮然とした口調でつぶやく。
「マスタング准将、僕は軍の規則を破っていないし、あなたの利益を侵してもいませんよ」
フレッチャーの手が棺から離れた。
「鋼の!」
再びの怒鳴り声にエドははじかれたように壁から離れた。
「来い」
エドはフレッチャーの手首を乱暴に掴むと外へと走り出した。
考えてみれば妙な行動である。ロイはフレッチャーからエドを救うために、焔で攻撃した。だが、当のエドが敵であるはずのフレッチャーを助けようとしている。
「鋼の?!」
「ロイ、火を消してくれ。あいつがまだ」
中にいるといいかけ、エドの声は止まる。
錬成は成功していない・・・筈だ。ラッセルは生き返ってなどいない、筈だ。
改めてフレッチャーを見るがリバウンドを起こした様子はない。
ただ、不機嫌なだけだ。


ロイの術ですぐ火は消された。
「どうしてここに?」
エドの問いにロイは答えない。
答えの代わりのようにその手には銃があった。
「フレッチャー・トリンガム、国家錬金術師エドワード・エルリックへの殺人未遂およびラッセル・トリンガムへの殺人容疑、人体錬成の罪で拘束する」
「なに言い出すんだよ!」
抗議するエドの言葉を無視して、マスタングは後ろで控えていた憲兵達に命じる。
「連れて行け」
エドは両手を打ち鳴らそうとした。
が、ロイの手が乱暴にエドの両手を掴んだ。

エドがマスタングに捕まっている間にフレッチャーは護送車に放り込まれた。
扉が閉まる前、フレッチャーはエドを振り返った。
「さよなら」
護送車が走り去る。

車のたてた埃がおさまるとロイはエドの手首を離した。
「来い。鋼の、お前は確認する義務がある」
連れて行かれたのは棺の前。
何故錬成がうまくいかなかったのか、それなのに何故リバウンドが起きなかったのか。棺を見てエドワードは納得した。棺のふたが数ミリずれ、錬成陣は切れていた。つまり最初から発動していなかったことになる。
「開けるぞ」
ロイの手が棺にかかる。
デスクワークが増えているとはいえ、ロイは武闘派筆頭の軍人である。棺のふたを開けるくらい訳もない。
棺の中は、なにもなかった。

エドとロイは電気系のショートが原因のぼやという事で警察や消防をごまかし、ロイの運転する車でセントラルに戻ろうとした。
「どうして」つぶやくエドにマスタングはよどみなく答える。

「考えられるのは、兄の死を目前にした弟はそれを受け止められなかった。そこで自分の手で兄を殺し、死体を保存した。さらに兄を再生、蘇生させようとした」
「だけど、あの中は」
「そうだ、死体はなかった。あるいはショックを受けた弟の妄想かもしれない」
「・・・ロイ、俺はそう思わない。ラッセルはいたんだ。あの棺のなかに。だから、フレッチャーが人体錬成をするのを止めるために棺のふたをずらして、錬成陣を壊した」
「そう思ってもかまわない」
マスタングもエドも錬金術師だ。人は肉体と精神と魂でできている。それが基本の考えである。
棺が最初から空だったのか、ラッセルの精神か魂かが入っていたのかはもはや証明できない。

「ラッセルはいやみたっぷりのひねくれ者だったから、素直に頼むとは言わないよなぁ」
セントラルの明かりがちらちら見え始めてから、エドは不意に明るい声で言った。
「弟を頼む」
そう言いたくて、意地をはって言えない、銀の瞳がみえるようだ。
「頼まれたら、絶対ことわるな。けど、頼まれてないしな。
ロイ、俺フレッチャーを連れてアルを迎えに行く」
「報告があった。アルフォンスの記憶退行が止まった。人体錬成の前の日だ。肉体の記憶と魂の記憶が一致するまで後退したようだな。そこからは正常に記憶している。鋼の、当然お前のことも覚えている」
「あちゃー、アル怒ってるだろうな」
一人でほったらかしていたのだから。
「今はリゼンブールにいる。盛大に怒鳴られて来い」
にやりとマスタングは人の悪い笑みをうかべる。

マスタングの宝玉たち、黄金のエドワード、琥珀金のアルフォンス、銀のフレッチャーが手元に揃うまであと2年という年であった。

氷樹8

2009-02-27 11:42:44 | 鋼の錬金術師
氷樹8
すでに棺の上の錬成陣は完成形に近い。
生体系の陣とエネルギー系の陣の複雑な複合体。
発動すれば、おそらく一瞬で解凍し再生する。
うまくいけばである。
ラッセルの死因は内臓系の異常だったのだろう。それを修正する錬成も含まれている。
もしうまくいけば、同様の異常を生まれ持ってきた全ての患者に大きな希望を与えるだろう。
しかし、不可能だ。とエドは感じた。
生体系、エネルギー系、どちらかの陣だけでも完全に発動させるのは銀時計クラスの術師がかなりのリスクを覚悟せねばならない。
「やめろ」
この錬成を完全発動することは誰にもできない。まして赤い石すらない。
「なぜだ、なぜ俺をここに入れた」
何とかして止めようとエドはフレッチャーに話しかける。気を逸らして殴ってでもここから出さなければ。もう『弟』を不幸にはしない。

「兄さんはずっとエドワードさんに会いたがっていました。だから、目を覚ましたら一番に会わせてあげたいんです」
エドに答える間だけフレッチャーの手は止まった。しかし、殴れるような隙がない。




「ラッセルは最後までエドワード・エルリックに会いたがった。たぶん、フレッチャーの将来を託したかったのだろう」
「ラッセルは後数日しか持たないと言われていた。もし、フレッチャーが連れ出したことで死が早まったとしてもあいつは弟を恨まないだろう」
2通目の報告書には参考人の意見が添えられていた。ゼノタイム市民のベルシオである。ナッシュ・トリンガムの友人でトリンガム兄弟の保護者でもあった。マスタングは『ラッセルの死を確認していない』点にこだわった。意識すらあいまいになった兄を弟は連れ出し、そのまま消息を絶った。以後は銀時計を手にするまで記録はない。




「兄さんは僕を守って幸せでいるようにしてくれた。でも、僕は兄さんに喜んで欲しかった。僕を笑わせる前に、兄さんに笑って欲しかった。兄さんはエドワードさんに一番会いたがっていた。目を覚ましてあなたを見たら絶対に喜んでくれます。僕が兄さんを幸せにできる。だから、少しでいいからじゃましちゃいやですよ」
にこっと笑ってフレッチャーは何かを言った。
冷たく冷え切ったエドワードの手首に何か熱いものが這った。

「すでに滅んだ系統の錬金術です。言葉をキーワードにして自動発動する。軍でも使えますよ」
エドワードの両手は氷の壁に拘束された。
「大丈夫ですよ。すぐ終わります。そこにいてください。そこが一番安全ですから」

蒼い錬成光が倉庫全体に広がった。
外から見ればきれいだろうな、とエドは埒もないことを思った。もう止められない。弟がモッテイカレルノヲ俺は見ているしかできない。
棺が揺れたのをエドは見た。それが何故なのかは確認できなかった。
蒼い光が紫色に変わった。
拘束されていた両手が自由になった。
「鋼の!」
聞き慣れた怒鳴り声が聞こえた。


氷樹7

2009-02-25 17:42:56 | 鋼の錬金術師
氷樹7

弟に手を引かれていったのは大きな冷凍倉庫。
「ここは?」
「起こしに来たんだ。兄さんを」
フレッチャーが兄をラッセルのことを口にしたのは、再会してから初めてのことだった。
フレッチャーはアルのことを訊かない。
エドはラッセルのことを訊かない。
約束も相談もしていないが,どちらも今ここにいない兄弟の話題を口にしなかった。

だが、そのバランスはフレッチャーが崩した。
「ここに兄さんがいます」
エドはよどみなく歩き続けるフレッチャーに引かれ、冷凍倉庫の奥へと踏み込んでいく。
もう外の光は見えない。青白い天井灯が足元をおぼつかなく照らす。
水のそこへ落ちていくような錯覚をエドは感じた。

そこに在ったのは棺。
「ラッセル、死んで」
エドの声が凍りつく。恐怖からではなく極上の笑みを浮かべる『弟』に。
フレッチャーの両手が棺に触れた。次に何が起こるのかエドは知っていた。自分がやった事だから。エドの手がフレッチャーの手を押さえた。止めなければいけない。この弟を。
「どうしてですか?エドワードさんもアルフォンスさんを取り戻したでしょう。僕が兄さんを取り戻してはいけませんか」
死者は取り戻せない。
そう答えようとしたエドに、先にフレッチャーが答えた。
「兄さんは生きています。眠っているだけで。
ただ、凍結しただけです。僕が」
「それで、氷樹か」
この弟が低温の術を極めたのは兄をとどめておくため。それがどういう事か、エドにはわかる。
同じだ。あの日の自分の選択と。弟を失いたくない。独りになりたくない。弟の魂を鎧に閉じ込めた自分と。
しかし、ひとつ違う事がある。アルは生きている。鎧の姿であっても。
世界中が弟の存在を否定しても、エドには弟が生きている事がわかる。だが、ラッセルはどうか。凍結された棺。それは死体だ。
「エドワードさん。そんな顔をして、僕が人体錬成をするとでも思っているんですか。残念だけど、僕にはそこまでの腕はありませんよ」
フレッチャーは楽しそうだ。これから最愛の兄を取り戻せると信じている。
「俺を使うのか」
この時点で、エドは気が付いた。フレッチャーは知っている。エドが赤い石を使って弟を取り戻した事を。その石は父のナッシュがラッセルのために残したもの。
だとしたら、自分をこの冷凍倉庫まで連れてきた目的は赤い石の代わりに触媒として使うためなのか。
最初エドワードはそれでもいいと思った。復讐する権利はフレッチャーにある。
しかし、きょとんとしたフレッチャーの顔がその可能性を否定した。
「つかう・・・?あぁ、そういうやり方もありますね」
やっぱり兄さんはすごいや。高い木に登って果物をとってやったときと同じ瞳で、フレッチャーはエドを見上げる。
「そういう計算がすぐ出るなんて、さすがに最年少合格者ですね」
「でも、わかっていませんね。ぼくは兄さんと同じくらいエドワードさんが好きです」
そのあなたを失うような事ができるわけ無いでしょう。フレッチャーは楽しげに微笑む。


氷樹6

2009-02-23 11:35:36 | 鋼の錬金術師
氷樹6

弟に手を引かれていったのは大きな冷凍倉庫。
「ここは?」
「起こしに来たんだ。兄さんを」


マスタングは2度目の報告書を読んでいた。今回は特に亡くなった兄ラッセル・トリンガムの事を詳しく調べるよう指示していた。
ラッセル。どうやらゼノタイムで手を貸してくれた地元の術師とはフレッチャーではなくこの兄のほうだ。兄は火に油をかけまくるタイプだったようだ。つまりその兄を抑えるため弟がおりこうさんになった・・・エルリック兄弟と同じパターンという事だ。


エルリック兄弟が旅立ってからトリンガム兄弟は街の再建に努めた。しかし、兄が体調を崩した。もともと先天的な異常があったようだ。
そして父親、ナッシュ・トリンガム。マルコーの脳の一部といわれた男。マルコーの超理論について理解・解説できるのはナッシュだけだったらしい。通訳とあだ名されてもいた。
その父が赤い石を子供に、おそらくラッセルのために遺した。その石こそは「エドが弟のために使った石」だ。
 すでにフレッチャーは知っている。エドが兄のための赤い石を使ってしまったことを。フレッチャーからすれば、エドのせいで兄を助けられなかったと思うだろう。だとしたら、「エドが危ない」。

推測。プライドを倒すのは名も知られず奪われた命達

2009-02-23 09:55:11 | 鋼の錬金術師
ガンガン3月号の鋼の錬金術師(第92話「皆の力」)
1ページ2ページで、赤い石を使って戦えと語るハインケル。
「どんな外見になっても魂だけの石にされても戦いたい。一緒に戦わせてやってくれ」
そしてアルが決意する。赤い石を使うことをでは無くて、一緒に戦う事を。


さてここで古い話だが、ラストの死後グラトニーとエンヴィーは、マルコーをつかまえに行った。そこでグラトニーは小さなビンに入った赤い液体を手にしている。

「ラスト、ラストの臭いがする」そう言いながら。あのビンはどうなったか?グラトニーの事だ。ビンごと食べちゃった可能性が高い。
あれはイシュヴァール人の赤い石?殺された研究者の赤い石?
いずれにしてももし正気を保っている魂があれば、ホムンクルスをうらんでいるだろう。

プライドはグラトニーを食った。腹の中のごちゃごちゃごと。

もしもアルのハインケルのマルコーの声が聞こえたなら、赤い石の魂たちがプライドを内側から攻撃する可能性が出てくる。
それは今回の戦いではなくて最終決戦かも知れない。

荒川先生は無駄な伏線を張らない気がする。あの伏線こそは最後の勝利をもたらすのではないだろうか。



氷樹5

2009-02-18 20:36:24 | 鋼の錬金術師
さて、フレッチャーにとっては初めての、エドにとっては当たり前のように慣れた旅の日々。
地方の小さい宿に泊まり、電気がないことにびっくりするフレッチャー。
エドにランプを手渡されて、何をしていいかわからない。
「磨くんだ」
そう言われてせっせとランプの〈外側〉だけを磨く。フレッチャーにとってランプはアンティークの一種だ。
「兄さん、きれいになったよ」
フレッチャーはぴかぴかになったランプをエドに自慢げに手渡す。
火をつけようとしてエドは芯が短いままなのと、ほろの内側がすすだらけなのに気がつく。これでは使えない。
「フレッチャー、ランプを使ったこと無いのか」
エドは手早くランプを分解してきれいにして油を入れ火をつけた。
「えぇ、使えるの?!」
目を丸くするフレッチャー。
そういう表情をするとフレッチャーは実に可愛い。


汽車が3日後にしかないと聞いてあぜんとしたり、野宿するのにたきぎに火をつけようとしてマッチを1箱無駄遣いしたり、フレッチャーは街育ちの不器用さをあらわにした。
悔しがって意地になって何でもやってみようとするが、もともと田舎モノで野育ちのエドにかなうはずも無い。
一日に何度も「兄さんはすごいや」と目をきらきらさせてエドを見る。もともと弟要素の多いフレッチャーと兄要素の強いエドである。擬似兄弟はますます仲良くなっていき、エドはフレッチャーに知っている事はどんどん教え始めた。それはサバイバル生活術に始まり次第に錬金術それも生体系に及んだ。

野宿のある日、エドが罠でウサギを捕らえた。真っ白でふわふわの仔ウサギ。真っ白でぴくぴくふるえる仔ウサギ。「かわいい!」フレッチャーはウサギを抱っこした。
足をしばって逃げないようにした後、エドは焚き火を用意している。
フレッチャーは湿った鼻面を押し付けるウサギにたんぽぽの花を食べさせる。
「ぬいぐるみよりかわいいね。兄さん」
弟はニコニコ笑う。
「ころころしてうまそうだろ。あぶっとけば明日まで食えるし」
エドもニコニコしている。これで朝飯の心配は要らないからだ。
数分後、ナイフを研いでさぁ料理と、振りかざしたエドに弟が聞く。
「逃がすの?まだ遊びたいな」

今までの育ち方が違うせいで時には行き違いもあったが、そのたびに兄と弟は距離を近づけた。

そんなある日弟は兄に言った。
行きたいところがあるんだ。兄さんと。

氷樹4

2009-02-14 14:37:33 | 鋼の錬金術師

しばらくして、またマスタングは氷樹を呼び出した。しかし、医療・生体系の術の研究のため旅に出ているという。定期的に連絡が入っているので、軍の規則では問題は無い。問題があったのはマスタングの私情部分。エドが一緒に行っているのだ。
第2秘書はふと見上げた執務室の壁に、万年筆が深くめり込んでいるのを見た。



マスタングは表向きフレッチャーに関する調査をやめたが、個人的には続けていた。その日ようやく報告書が届いた。その中に引っかかる部分があった。
偽名で冷凍倉庫を借り、その中に棺を保管しているという。法的には棺を冷凍しようが焼こうが問題は無い。問題があるのはマスタングの私情部分。
不完全とはいえ、人体錬成を成功させたエド、そのエドに懐くフレッチャー。
冷凍倉庫の中の棺。遺体は亡くなった兄だろう。
「何のために遺体を保管している?」
マスタングは疑問を声に出す。
そして答えを声にできない。
(兄を生き返らせる気か)
(鋼のを利用して)

氷樹3

2009-02-14 13:00:36 | 鋼の錬金術師
マスタングは時々部下である[氷樹]を呼び出した。すると何故かいつもエドも付いてくる。普段は呼んでも文句ばかりでなかなか来ないエドが当たり前のように付いてくる。
仲良くしっかりと手をつないで。
普通なら、15歳を越した兄弟が手を握って歩くのは・・・あまり美しい構図ではないだろうが、この『兄弟』は絵になった。中央軍の女性たちは彼らを見るのを楽しみにしている。しかし、マスタングはそれを見るたび額の縦皺を深くした。
「仲がいいことだな」
マスタングはたっぷりのいやみをまぶす。
マスタングの視線はまっすぐエドに向かう。
だが、すばやく立ち位置を変えたフレッチャーが正面から視線を受け止める。
「はい、だって僕エドワードにいさまが大好きですから」
気のせいかピンクのハートが執務室に飛び交っている。
無意識にマスタングの手に力がこもる。万年筆のペン先がじわじわ広がっていく。
「「「「「あ」」」」」
5人の声が重なる。
第1秘書が書類を救う。
第2秘書が万年筆を取り上げる。
「いけません。あなたの手が汚れてしまいます」
第2秘書のペンだこだらけの手をフレッチャーは優しく包む。インクの付いた彼女の手に少年の指がゆっくり円を描く。わずかな蒼い光の後、新品に戻った万年筆と白魚の手の秘書嬢がいた。
(金属系と生体系の錬成を同時にか)
「器用なものだな」
「小物直しと美容で生活していましたから」
フレッチャーはにっこり微笑む。
邪気の無い笑みなのだが、なぜかマスタングはまたざらざらした触感を感じる。
(何故だ?)
頭が良くて素直で礼儀正しい、先輩のエルリックに懐いている、軍の中でのフレッチャーの評価は良い。フレッチャーに疑念を抱いているのはマスタングただ一人。それも証拠は無い。

証拠も無くフレッチャーへの疑念を口にすれば「長い事手元で可愛がっていたエルリックをとられたようでさびしいんじゃありませんか」
そんなふうに言われるだけだとわかっている。
だからマスタングは表向きフレッチャーの調査を打ち切った。

氷樹2

2009-02-13 16:35:34 | 鋼の錬金術師

予定の時刻に氷樹は来た。推定15歳とあったがもう少し若いとマスタングは見た。声がまだ変声期前である。透明感の強いボーイソプラノの少年は礼儀正しく着任の挨拶をする。
そしてロイが問うまでもなくエルリック兄弟の知己と告げた。
「鋼のとはいつ」
「2年ほど前です。ゼノタイムの町で」
ゼノタイムという名は覚えがあった。地元の術師が事件解決に手を貸してくれたと報告書にはあった。
(事実は一緒になって事件をあおったのだろう)マスタングはそのときそう思ったが少年を見る限り火に油を注ぐタイプには見えない。では報告書どおりの単なる協力者だったのか?
柔らかな物腰。礼儀正しさ。皇子様の呼び名が似合いそうな端正な顔立ち。
一般枠試験で銀時計を手にしたのだから腕も良いだろう。
(理想的だ)
文句のつけようが無い少年にマスタングは銀時計を渡し、形式的な注意を与える。短時間に会見を終えようとしてロイは何かに引っかかった。単なる勘だった。何か、理想の少年の中にどろりとした闇が見えた気がした。



電話しフレッチャーの名を教えると,エドはすぐ飛んできた。

「引き離されていた恋人同士みたいに見つめあった後、『兄さん』と呼んで、抱きしめたんです。あの子達兄弟だったんですね」
後に再会の様子を秘書にそう聞かされたとき、マスタングは自分が何か大きな失態を犯したことに気が付いた。しかし、もうどうしようもなかった。


エドワードは弟の肉体を取り戻そうとして成功した。それが理由で弟を失った。弟は生きている。しかし、もはや兄と一緒にはおれない。アル自身はそのことに気が付いていないが。

半年ほど前、不完全な赤い石を使いエドはアルを生身に戻した。狂喜する兄。喜びにあふれる弟。だが、エドの喜びは1日しか続かなかった。アルの記憶が一日ごとに失われていったからだ。記憶を一日ごとに失うアルは自分が記憶を失くしていくことを知らない。アルにとっては目が覚めたら生身に戻っていただけだ。そして毎朝喜びにあふれるアル。喜びの芝居を続けるエド。その間に必死に研究し記憶消去の原因をエドは探ろうとした。だが、解らなかった。そのうちにエドの様子にアルが疑念を抱き始めた。何ヶ月も宿の一室に閉じ込め外部と接触させないのも限度があった。ある日、アルは兄に聞いた。「ぼくは記憶を無くしているんじゃないか」
そしてその疑念すら翌日には忘れていた。
アルの笑顔に耐えられなくなったエドはマスタングに相談した。憔悴しきったエドを見て、とにかくアルを安全な場所、旧部下の農場に預けた。報告ではアルの記憶の退行は今も続いている。
エドからアルを離したのはやむを得ない処置だったが、失策だったとマスタングは今になって思う。

調査報告ではフレッチャーには兄がいた。少し前に死亡したらしい。
兄を亡くした弟は、弟を失った兄と出会い、「擬似兄弟か」マスタングは苦くつぶやく。なくした者を補い合う、それが悪いとは言わない。エドにとってフレッチャーの面倒を見るのは慰めになるはずだ。だが、何かが引っかかる。フレッチャーの兄の死は自然死だったのか?再調査を命じてロイは軍の仕事に戻る。子供のことだけにかまけてはいられない。マスタングは彼が守ると決めた全てのために上を目指すのだから。

『氷樹』

2009-02-12 14:46:27 | 鋼の錬金術師
宝探しの続編

『氷樹』

氷樹の2つ名を得た新人国家錬金術師がマスタング准将の下に配属されたのは本人の強い希望があったためだ。他の上司なら銀時計を返上すると強談判したという。
 しかし、マスタングにはフレッチャー・Tの名にさっぱり覚えが無い。
東方司令部時代の部下達なら隠し子じゃないかと言ってからかってくるだろうが・・・。あいにく、そういう覚えも無い。添付資料によると金の髪に銀の瞳。皇子様のイメージの美少年。(軍の報告書に使う表現ではないだろう)マスタングは報告書を書いた総務の女性士官の名を確認する。
技は「氷樹」の名が示すように極低温を造りだす。細胞レベルで生命を破壊するとある。範囲は数センチから100メートル四方まで。十分に即戦力となり得る。年齢は推定15歳。推定なのは無戸籍地区の生まれのため。
「子供の扱いは鋼の錬金術師で慣れているだろう」
大総統のコメントが付いているので拒否することは出来ない。
しかし、マスタングは多忙すぎた。わが身同然の部下達を奪われ、大量の仕事、それも慣れない政治的な仕事を押し付けられている。この上子守まで押し付けられては堪らない。
「鋼のに任せるか」
妥当というより適当な結論をマスタングは出す。
鋼の錬金術師は弟を事故で失った。それ以来精神面に安定を欠き、後見人であるマスタングの完全保護下にある。(世間的にはそういう事になっている)