金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

プロポーズ小作戦44 政策変更

2009-04-20 19:16:14 | コードギアス
プロポーズ小作戦44

「キルギスを経済特区モデル地区にだと。あんな何も無い土地をか」
洪古の声には怒りがある。怒りはキルギスを特区に指定する事ではなく、星刻自身に向いていた。

2ヶ月ほど前、星刻は会議の後倒れた。貧血という事だが本当の理由はむしろストレスだ。
もう一年以上星刻はまともな食事を摂っていない。正確に言うと天子の政略結婚の数ヶ月前当たりからだ。星刻は生まれつき消化器官が、一般人よりほんの少しずれていた。その影響はじわじわ、そして急激に出た。
最初は動物性食品が食べられなくなり、やがて固形物がのどを通らなくなる。その頃の星刻はあきらめていた。生きている間に天子様のために世界を整えるだけだと決めていた。ところがあの悪逆皇帝が何を思ってか、星刻の命を助けた。
だが、すでにあちこち痛んでいた身体が元に戻る事は無い。また、移植された内臓は一卵性の双子ででもない限り、拒絶反応が付き物だ。
いきなり変わった自分の体。異常なほど落ちた抵抗力。空白の記憶。
国を背負う事の意味。
何かするたびに亡き尊父様の薫陶云々を言われる。
そういったもろもろが星刻を苛んだ。彼はまだ23歳の若造にすぎなかった。

星刻が倒れたとき洪古は洛陽にいなかった。ひそかに報告されて慌てて極秘回線で通信を送ると、星刻は倒れた事など無かった事のように執務にいそしんでいる。
だが、さすがに顔色の悪さはごまかせない。そのとき洪古は星刻に無理やり約束させた。「いいか、俺が帰るまで軍務は出るな。なんとか引き伸ばせ」
洪古はもう星刻を戦場に出す気は無かった。自分や蒼天講のメンバーがいる。星刻一人が無理をすることは無い。できれば神虎からも降ろしたかったが、それは不可能だ。ならば星刻には神虎ともども守護神になっていてもらおう。そうすれば軽々しく動けまい。

ところがようやく北の元大宦官派閥を倒して洛陽に戻って見れば、星刻は《ひといくさ》終えていた。
さらに、『しばらく地方の政策は急には変えないで置こう。それなりの人材が育つまで強力な中央集権体制で行く』。そう決めた原則をあっさり覆すかのように、キルギスを独断で特区に指定した。
かくして、洪古の冒頭の一声と成る。

プロポーズ小作戦43 オレンジ便

2009-04-19 15:19:17 | コードギアス
プロポーズ小作戦43

ちなみにこの通信内容を、久しぶりに星刻の声を聞きたいとせがんだ天子は傍受していたりした。
可愛い女の子と聞いて即出てくる名前。どきどきした。星刻の声が自分の名を言うと。
そして聞こえた声に、危うく通信機を落っことすところだった。
そんな天子の心を知らず、戦場にそぐわない会話は続く。
「うん、アーニャもかわいいだろ。このごろは結構色っぽくなってるらしいし」
「はぁ」
「背も少し伸びたし、胸も多少増えたと書いてたぜ。ま、私の好みからすれば不足だけどな」
あぁそういえば、ジノはカレンにちょっかいかけていたと星刻は思い出す。
あの状況で恋愛もするなんて、若い者には余裕があったのか。
そういえば藤堂も結婚したそうだし。
星刻は新婚の寝屋をじゃましたのに気が付いていない。
第一、星刻は藤堂が誰と結婚したのか聞いてすらいない。
そういう方面に頭がまわりつかない、これが義父となった高亥なら確実に相手を感動させる贈り物を届けていただろう。そういう部分が星刻は基本的に軍人だった。

プロポーズ小作戦42

2009-04-19 10:17:43 | コードギアス
プロポーズ小作戦42
ヤルカンドの街で一番幸福なのは誰か。
実は影武者だと知らない人は、大司馬と答える。
あの妓館は最上の女をそろえ、望めば世界の珍味美味全てが手に入る。あそこで満たされない欲があろうか。

それなら影武者を務めている枢青竜は、さぞかし幸福だろうと思えるが実はそうではない。20キロのダイエットを強制され、乗った事もないモンスターマシンに乗せられ、その上街の有力者達にはいかにも大司馬らしく取り付くらねばならない。顔こそ見せないが、いつ見破られるかひやひやで、楽しみを味わう余裕は無い。

おまけに星刻との連絡が砂塵あらしのため途切れがちだ。
早く戻って来いと叫ぶも、もう少し持ちこたえてくれとつれない返事である。


星刻には星刻の事情があった。
当初は軍事力で一気に打ち倒すつもりが、現地の調べではそれではうまくいかないとわかった。キルギスの反政府グループと連絡を取り、今後の政策をすり合わせる。
キルギス完全独立戦線なんて過激な名を名乗っているが、本当はむしろ占領政策のほうが望ましいと思っている者達。そこの連中を使い、とにかく光明信仰だけは叩くと決めた。そんなときに砂塵あらしが起こり基地から出られなくなった。
この嵐はダモクレス戦でのどを傷めた星刻にはかなりつらかった。
繰り返す痛みとせきで動けなる。
基地司令は一番安全な自分の部屋に隠してくれたが、ミクロン以下の砂塵はどんな隙間にも入ってくる。

神虎を呼んで帰ろうとしたが、それも不可能だった。電波が飛ばない。

2日後砂塵あらしが収まるとともに進撃。光明信仰の過激派閥を一気につぶす。ただし軍装ではなく、盗賊団を装って。
星刻自身も目立つ髪をターバンに隠して大刀片手に飛び出した。指揮官の責務として先陣を切るつもりだった。
ぼて、
普段聞かない音がして、星刻の視界は30センチ下がった。
原始的トラップつまり落とし穴に落ちた。
何故そんなものが基地の正面出入り口にあるのか、キルギス人たちは平気で進んでいく。足運びからしてキルギス兵は知っているようだ。どこに落とし穴があるかを。
まぁ、30センチ程度の落とし穴などどうという事もない。
少し驚きはしたが、星刻は身軽に穴を出た。
そこにタイミングを見計らったように出てきたのは支部の基地司令。
「落ちたやつは訓練のやり直しだ。基地にもどれ!」
星刻は鋭い視線で基地司令を見た。何をする気だと視線で問う。
左右を見れば同じように落っこちたのは漢人ばかり。
つまり(これはキルギスの戦いだ)という事か。
この時代、今は中華に擦り寄ると決めた。
決めたのはキルギスであり、中華に蹂躙されたからではない。扱いが悪ければ、いつでも牙を向けるぜ。
キルギス完全独立戦線の指導者からの意思表示。どうやら司令官も最初からぐるだったようだ。

ひとつことがすんだ後、今度は盗賊退治を始める。これは中華軍5個大隊が正式に動いた。星刻は呼び声ひとつで飛んできた神虎で飛び、上空から正確な指示を与えた。ちなみに基地の屋上でラクシャータの指示通りの角度に左手を挙げて「しぇんふー!」と呼ぶ姿は、日本人の目で見ればほとんどマグマ大使だった。
この攻撃に7日かけた。

キルギスの掃除を済ましたあと、今度は戦いのために被害を受けた国民の救済を実行した。キルギス民族の中華国境の自由出入りを認め、また通婚を奨励した。細かいところはキルギス完全独立戦線の指導者にして、支部基地の副指令!!(つまりもとよりこの基地全部が中華の指揮下にはなかったという事だ)にゆだねた。
もしキルギス完全独立戦線がその気なら、単独で乗り込んだ星刻を人質にするのはたやすかったのだ。それを選ばず、正当にしたたかに中華軍を利用した。その思考に敬意を評し、星刻は彼にこの土地をゆだねた。
さらに中央政府の判断として、産業開発のため調査団の派遣を決め、国境警備のため、早期に白虎部隊が配置される予定になった。

キルギスは中華の1地方として、重要な国境の拠点として優遇される。それがいつまでかはどちらもわからないが、とにかく星刻は中央政府の代表としてキルギスの代表の挨拶を受けた。
その代表がほんの数年前まで、ロシア軍で正式の将校だったのが、この土地の複雑さをより強く示している。

さて、屋上で「マグマたいしー!!」
ではなくて「しぇんふー!」と呼ばれて飛んできた神虎の中には20キロのダイエットに成功した影武者さんの枢青竜がいた。
言いたい文句は大量にあるとふるふるしている枢青竜の肩をぽんと叩く星刻。
「よかったな。これで腰痛は良くなるだろ」

さっと入れ替わる。これでこの基地にはもとからこの枢青竜少尉がいた事になる。
さて、星刻が空中から指揮を執り、ほぼ戦場が片付いた頃、オレンジの使者が飛んできた。ブリタニア製の垂直上昇機の試作機。この時点で名は決まっていなかったが、後にトリスターと呼ばれるようになる。

「ヴァインべルグ卿、このようなところにいらっしやられては」
星刻は武装状態の神虎に、ジノはトリスタン並みのスピードを誇る試作機に乗っている。足元は戦場。そんな背景をまったく気にせず、ジノは明るくのたまう。
「可愛い女の子の依頼でオレンジの宅急便だ♪」
「は、オレンジ?」
星刻の反応が鈍いのも無理は無い。今の世界情勢でオレンジとはあの悪逆皇帝に最後まで仕えていたゴッドバルド卿のことだからだ。
そういえば、ナイトオブシックスのアーニャがゴッドバルドと同居していたなと星刻は思い出す。
「アールストレイム卿ですか」
それなら可愛い女の子とはアーニャの事だろうと星刻は思った。

プロポーズ小作戦41

2009-04-19 10:16:44 | コードギアス
プロポーズ小作戦41

なかなか面白いところを突いていたジノの推測だが、今回は外れていた。
星刻を連れ帰るように望み命令したのはゼロ・スザク。
正確に言えばスザクはただ「星刻に会いたい」といっただけでジノを使えといったわけではない。

ことの起こりはゼロレクイエムの後たちまち混乱にもどってしまった世界。
スザクは必死で世界を平和にしようとしたが、いくら戦場に出て敵を倒してもそこの戦場が一時的に収まるだけ。
押さえても押さえても戦いは増えるばかり。そんなある日シュナイゼルに世界を平和にする方法を考えろと命じた。シュナイゼルは答えた。フレイアで、全てを押さえましょう。そうすれば平和になります。
もう世界を救うにはフレイアによる脅ししか無いのかと苦悩したスザクのところに現れたCC。「ゼロレクイエムには保険がかかっていた。保険の内容は自分で確かめろ」
そう言った。保険の対象は中華の星刻。

スザクはすぐに内密に星刻に会いたいとシュナイゼルに命じた。

プロポーズ小作戦40

2009-04-17 21:40:43 | コードギアス
プロポーズ小作戦40

垂直上昇機を手配したのはナナリーだが実質的には、白の宰相シュナイゼルである。
なんとなくナナリーに乗せられて飛び出してみたが、さて、落ちついて考えると無意味ではないかと思う。
星刻は天子とのラブラブ電話(専用電話)には出ないが、公的な報告は毎日定時にされている。
連絡したければ簡単にできるはずだ。

ただし、女官に聞いたところではいつも御簾越しの報告で顔を見せないという。
それでは星刻本人がどうか確認できまい。
ジノはそう思ったが、教えてくれた女官をはじめ朱禁城の者達は疑っていない。
神虎に乗れるのは大司馬だけですから。
それについてジノは何も言わなかった。シュミレーションではあったがジノは神虎に乗っている。シュミレーションマシンを作ったのはラクシャータだから本物の神虎と変わらないはずだ。
それに少なくとも5人は、神虎に乗れるパイロットの名をジノは上げることができる。性能を生かして戦えるかを無視すれば候補はさらに増える。

もし、星刻が神虎に乗っていないなら彼はどこにいるのか?
あるいは自分をわざわざ新型機まで手配して飛ばすのは、星刻に何か異変があり、それを中華には知らせたくないからではないか。教えたくないのは星刻の都合よりシュナイゼルの思惑ではないか。
そこまで考えて、ジノは機体を加速した。副パイロット席で太陽を写し取った色のオレンジが少し揺れた。

プロポーズ小作戦39

2009-04-17 15:17:18 | コードギアス
プロポーズ小作戦39

毒見した女官からそのおいしさを聞いた天子は1個食べてみた。
スマイルオレンジは食べた人にもその笑顔を分け与える。
天子にも笑顔が届けられた。

両頬にオレンジからもらったえくぼを浮かべ、天子は両手にオレンジを持ってジノのいる離宮に走った。
後ろから女官が追いかけるが、すっかり機敏になった天子に追いつけない。
(おいしいからジノにも食べさせてあげたい)
昨日、ジノは少し元気が無かった。それはナナリーと通信で話してからなのだが、天子は知らない。

(どうも、ナナリー殿下、いや陛下にうまいこと乗せられた気がするな)
垂直上昇機のエンジンを温めながらジノは心中につぶやく。
結果的にはあの白の宰相の言うとおり、腹黒狸を迎えに行く事になっている。

ジノがエンジンを温めさぁ乗り込もうかとしたとき、天子が庭に飛び込んできた。
慌ててジノはエンジンを切る。
「どうしたんだい。天子ちゃん」
「ジノ、食べて」
アーニャから贈られたオレンジを食べたからでもあるまいが、天子の口調はアーニャそっくりになった。
ジノは差し出されたオレンジをそのまま口にする。この大らかさがジノの持ち味だ。これが星刻なら押し頂いて御礼を申し上げた後、お一人でこのような場所にいらっしゃるのは危ないとかの、ご注意申し上げがしばらく続く。
かぶり、白い歯がオレンジの果皮を破る。
ほとばしる果汁。さわやかな香り。
「スマイルオレンジか」
「アーニャさんから届いたの。おいしいからジノも食べて。絶対元気になれるのよ」
「うん、元気になった。ありがとう天子ちゃん」
「良かった」
にっこり笑う天子。
その笑顔がジノの深いところを揺さぶる。
言葉にするなら母性本能を刺激される。

「天子ちゃんは星刻を好きかい」
「大好き」
こんなにかわいい子にそう言ってもらえる、幸せ者めとジノは思う。

プロポーズ小作戦38 トリスターオレンジ

2009-04-17 14:41:55 | コードギアス
プロポーズ小作戦38

陰謀を企む者は自分以外が陰謀を仕掛けてくる事をわすれる。
革命家は自分が覆される事を忘れたい。

第一次世界大戦の少し前、トリスター・オレンジの作り手が書いた言葉。トリスター・オレンジは今ではスマイルオレンジと名を変え少しずつ市場に出るようになった。
スマイルオレンジは果汁が豊富で大変美味だが、木がひ弱で温室でしか育たない。また、手間のかかる品種で、一日でも目を離すとしわがれる。過保護なぐらいに大事にしてやっと実をつける。そのため栽培農家は今のところゴッドバルド農園だけである。

温室育ちのデメリットはうまく育てれば、通年で取り立てのオレンジを楽しめるメリットとなる。

その日、中華の天子に、元ナイトオブシックスのアーニャからスマイルオレンジが届いた。
ジェレミアの名を出さないのは悪逆皇帝に仕えていた罪人であるから。対外的にはアーニャはジェレミアを監視している事になっている。

スマイルオレンジの語源は皮に2個の凹みがあり、それがえくぼに見えるからである。
ゴッドバルト家では別名を花嫁のオレンジとも言う。それはいくつもの改革や革命が重なった後、滅んだ国の女がゴッドバルドの先祖と結婚するとき、花嫁の財産として苗を持ってきたことによる。
ゴッドバルド家の所領では結婚の祝いにこのオレンジが送られる。花嫁から次に結婚する予定の女に手渡される。それを考えれば結構意味深な贈り物である。

プロポーズ小作戦37

2009-04-17 02:28:11 | コードギアス
プロポーズ小作戦37

さて、天子に赤ちゃんの手に入れ方を教えた男はどうしているのか。少し時間を巻き戻して覗いてみよう。

いい意味でも悪い意味でも目立つ存在だった元教え子の顔を見た支部基地の司令官は、すぐ星刻の名を思い出した。
星刻は自分がここにいることは極秘にしてほしいと依頼し、基地司令は部下に星刻のことを以下のように説明した。洛陽から来た新任の少尉だ。名前は枢青竜。キルギス語はわからないから、しばらくは言葉を覚えてもらうために私の側付きにする。
ここで基地司令は言葉をキルギス語に変えた。こいつは洛陽で問題を起こして、島流し中の身だ。
この一言で兵士達は枢青竜を好意的に迎えた。

キルギスはもともと40以上の部族民族が集まって作った国である。公用語だけで7種類もある。
地理的にロシアと中華に挟まれていて、常にどちらかの支配や干渉を受けている。
キルギス自治政府もしたたかに、中華に支配されているときはロシアに擦り寄り、ロシアに支配されているときは中華に擦り寄って、実質的な独立と利益を守ってきた。
ところがそのバランスをシャルル皇帝支配化のブリタニアが崩した。未だにロシアは往年の勢いを取り戻せない。
伝統的とも言うべき政策が取れなくなったキルギスは、分裂と内戦を繰り返している。その絶望のなか、新仏教を名乗る光明信仰が根を張った。
ロシアが弱っている今は中華が支配力を強めている。つい先日までの大宦官達による支配体制で、キルギスも収奪に苦しんだ。特に支配層である漢族に対する恨みは強い。
洛陽で問題を起こして失脚した少尉は、外見が漢族でない点も含めて暖かく受け入れられ、すぐ兵士達と打ち解けた。
今朝も早くから若い兵士達と剣の打ち合いをしている。挨拶とばかりにこの基地の腕自慢が5人がかりをしたが、15分きっかりで全員のされた。

「せーりゅーつよい」「たくさんつよい」「つよい、よい」
キルギス人の兵士は中華語が不自由だ。対する星刻もたいていの言葉はわかるがキルギス語のようなローカル語まではわからない。

この基地で星刻は数年ぶりに気楽な身に成った。ここでの自分は総司令官ではない。大声で笑ってもいいし、若い連中と一緒に訓練を抜け出してロバ狩りに行ってもいい。権威や威厳を取り繕う必要がない。
伝統的な礼装に身を包み、本心を押し隠していた身体が不意に軽くなった。また、単純に物理的にも伝統的な礼装は重い。数時間も続けて着ていると、筋肉痛を起こすほどだ。
もちろん今の状況は作り事だ。国境の緊張状態を解決するための偽りの身分。
それをわきまえてなお、精神的に楽になっている。
黒の騎士団時代にラクシャータに訊かれた。「あんたの仮面は何枚重ね?」
そのときにはゼロに引っ掛けたジョークと思った。だが、今になってあの言葉の意味が実感できる。

この基地で星刻は数年ぶりに動物性淡白を口にした。
硬くて筋だらけのロバの肉。けだもの臭い肉を口にして、数年ぶりに味を感じた。うまいと。
結果的には数時間後吐いてしまった。長い間固形物を食べていないため、萎縮した胃には野育ちの肉は刺激が強すぎたらしい。

プロポーズ小作戦36

2009-04-16 22:38:24 | コードギアス
プロポーズ小作戦36

ジノの勘ではいざ顔を見れば天子のほうが動くと踏んでいた。
11も年下の女の子から逆プロされる・・・男としては幾分情けない光景だろうが、天子と星刻の公的な関係を考えに入れるとむしろその方が自然である。
それに、(姫天子ちゃんはもう子供じゃない)
つい、さっきのことだ。いつも庭の池に蓮の花を見に行く天子が今日はおとなしく本を読んでいる。星刻が置いていった本である。
「今日は花を見に行かないのかい」
「私ね、もう赤ちゃんを探さないの」
「(ヘッ)」
声にならないジノの反応。
「もう子供じゃないもの。赤ちゃんがお花にはいないってわかったの」
「・・・。(オイオイ、まさか今まで親指姫を信じていたのかい)」
「もう知っているもの。赤ちゃんがどうやってくるのか」
ここでジノが訊けば天子は答えただろう。自信を持って。
女の子が大きくなると、コウノトリが赤ちゃんを連れてくるのよ。
ここでジノは尋ねなかった。赤ちゃんがどうして生まれるのかを。これはジノのミスではない。男としてのデリカシーというものである。
天子の自信は揺るがない。だって、星刻が教えてくれたのだもの。

プロポーズ小作戦35

2009-04-16 21:31:08 | コードギアス
プロポーズ小作戦35

通信機の前で間抜け面をさらす男。それを見ている女。
かわいいクリオネが餌を食べるだけの時間が無音で過ぎた。

「なんですか、それ」
ようやく出たのは間抜けな質問。
それに対してナナリーはデータ送信に切り替えた。自分で確認してくださいという事らしい。
100を越すサイト名がそこにある。どれでもいいですから見てくださいとナナリーが即す。
適当に見てジノはあぜんとする。
 《中華連邦とブリタニア、正式なご成婚は未定》
 《世界をすべる両大国に新たな絆》
 《英雄ジノ・ヴァインべルグ卿。中華にてすでに同棲関係!!》
《英雄はロリコン!》
そんな見出しが飛び込んでくる。要するにジノが天子とそういう仲とされている。
さらに他のサイトを見ても似たような記事が続く。
《ブリタニア宰相は公式コメントを出す段階ではないと発言》
《ヴァインべルグ卿が正式な軍事活動を停止しているのは、中華への婿入りの準備か》
ほとんどは無責任な記事だが、ひとつだけジノの目を強烈にひきつけるコメントがある。
中華連邦大司馬黎星刻の発言。
《「天子様のお心しだいだが、わが国とブリタニアの間に友好関係が築かれるのは、望ましい事だ」》
まるで、認めているような発言である。
「あの、狸野郎!!」
思わず怒鳴ったジノにさりげなくナナリーが提案する。
「ジノさんには他のお考えが有って中華にいらっしゃるのでしょうけど」
この通信が盗聴されている危険もあるから、当て馬役との発言は控えた。
「放っておくと既定の事にされてしまいます。今ならまだ天子様のお言葉一つで」
要するに天子が「私は星刻と結婚するの」と言えばまだ間に合う。
それはそれで大きなスキャンダルになるだろうが、その場合の後見やフォローにナナリーは力を貸すつもりである。
(お兄様が造った優しい世界。もう崩れてしまった。でも、一人だけでもお兄様の望んだ優しい幸福を得てもらいたい)
声にされないナナリーの言葉。それをジノは聞いた。
「わかりました。あの腹黒狸を引きずってきてでも、天子ちゃんに会わせます」
そこから先はあの狸しだいだが、むしろ天子が動くのではとジノは考えた。

プロポーズ小作戦34

2009-04-16 15:21:15 | コードギアス
プロポーズ小作戦34
天子の婿殿

1時間後ナナリーからジノに連絡が来た。
「ジノさん、大切な事だから良く考えてほしいの」
ナナリーは声の調子を変える。
「ヴァインべルグ卿は天子様の入り婿になるお考えが本当にありますか」

プロポーズ小作戦33

2009-04-16 05:15:12 | コードギアス
プロポーズ小作戦33
イチゴムース


イチゴムースの話をしているときの天子がとても幸せそうに見えたので、ジノは女官におやつをイチゴムースにするように頼んだ。
結果は正解だった。
それまでどんなご馳走を並べられても、「欲しくない」で終わってしまった天子が、喜んで平らげた。
女官達のデータバンクに天子様の特別にお好きな物。イチゴムースと入力された。
さて実際は、天子はイチゴムースを好きだが特別というほどではない。
ただ、イチゴムースは幸福な記憶につながる味であった。
あの処刑の日、ずっと姿を見ることができなかった星刻が隣にいた。
星刻の漆黒の瞳に自分の白い姿が写り、彼が微笑んだ。
それだけで天子は幸福だった。その後のパレードの途中で、休息したホテルで出たのがイチゴムース。
あの日のイチゴムースは、美味を味わいつくしているはずの天子さえも夢中にさせた。その一瞬だけ、星刻のことの心配さえ思考から消えるほどに。残念な事にあの日の菓子職人は不明でもう食べられない。

天子の知らない事実がある。
あの日のイチゴムース。それはナナリーがいつも食べていた味。
世界の敵。史上最悪の存在。かの悪逆皇帝の手作りだった。

ナナリーの食べたイチゴムース。慣れないパレードに疲れているだろうと兄が作ってくれていた優しい味。
兄のイチゴムースには、隠し味にほんの一粒の塩分がいつも入っていた。
パレードの日に食べたイチゴムースはいつもの兄の味よりほんの少し塩分が多いようだった。
あの日以来、ナナリーはイチゴムースを食べていない

プロポーズ小作戦32

2009-04-15 23:10:10 | コードギアス
プロポーズ小作戦32

「え、ジノさん。そこにいるのですか?」
「ご無沙汰いたしております。ナナリー  皇帝陛下」
ジノはナナリーと皇帝陛下の間に少し間を置いた。
いるのがばれているなら仕方ないから挨拶はするけど、自分はもう軍人でもラウンズでもない。宰相の命令を効く理由は無い。そういう意思をその間に込めた。
「久しいね。ヴァインべルグ卿、元気そうでなりよりだよ」
宰相殿はそんなことには気が付かない、いや、気が付いているがそれを悟らせない、穏やかな雰囲気で親しげに話しかける。
「これはシュナイゼル殿下、最後にお会いしたのはフレイアのときでしたね」
ジノがシュナイゼルと直に会ったのは、あの第2次トウキョウ決戦のフレイアの爆発直後。もう一年以上前になる。2019年の5月。空っぽになったトウキョウにさわやかな初夏の風が吹き込んだ。
あの時ジノは実質的に捕虜として扱われた。
お互いに懐かしがるような相手では無い。
殺気とまではいかないが、シュナイゼルを見るジノの目には隠しきれない敵意がある。
ピクリ。天子が震えた。
幼い頃から理由無き悪意にさらされてきた天子は、そういう感情に敏感だ。
あわてて、ジノは雰囲気を和らげる。
「ジノさん」
ナナリーは手元の操作盤で画面を切り替え、自分の姿だけを写した。
「後で少しお話していただけますか」
こくりとジノは頷く。軍人としての答えは返したくないが、さりとてあの宰相のいるところであまり親しげな返答もできない。
さりげなく、ナナリーは話題を転じた。
それからは一緒にパレードした時の話や、そのときデザートに食べたイチゴムースの話が出て、笑顔で辞去の挨拶となった。