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寝苦しい夜 国境要塞の幽霊

2017-03-17 17:59:33 | 刀剣
寝苦しい夜 国境要塞の幽霊
 短刀達は冷たいものが欲しいとまた言い出したが、あまり冷たいものばかり食べさせるとおなかを壊す。他の短刀はともかく、異常に低体温で顕現してしまった博多もいる。
唯一の打刀で短刀達の「兄」でもある山姥切国広はそれならばと涼しくなる話を始めた。
 「その大きな国はいつも戦争をしていた。大きな大陸の真ん中あたりにできた国で国境線は長く回りは敵だらけだった。」
 短刀達は唐や宋を想像した。
五虎退だけは(あ、昔いたとこの話)と思った。
 この本丸の初期刀は帰国子女だ。遠いどこかの国で軍人だったころの記憶がある。
「刀剣男士のように戦闘に特化した魔法使いも軍で働いていた。国の中で内紛が起きた後、減少した軍事力を補うため国境の守りはある魔法使いに任された。 要塞は大きな蔓植物の固まりだ。遠くから見ると緑の大きなビルに見える。」
切国の手にいつの間にか30センチほどの蔓が握られている。
「敵が来るとこの蔓が動いて敵の首をとる。とった首は蔓に縛られてぶら下がる。死体はやがて腐って落ちるが、頭は残る。遠くから見ると蔓に白い花が咲いているように見える。夜になって風が出ると頭がぶつかり合って音が鳴る。要塞の中で聞くと死体が話をしているように」
ここで「きゃー」と声が聞こえた。
声の方を見ると審神者の少女がお茶のボトルを取り落としていた。
切国は困った顔をした。前の時と比べて姫様はこういうことに対して耐久力が低い。話を始めたときはいなかったので油断していた。
 切国は話をやめて、短刀達を寝室に促した。
 ベッドに入らせお休みを言って子供部屋を出ようとした切国に短刀の一人が聞いた。
「その本丸、要塞には何人くらい集まっているのですか」
短刀達にとっては自分達のいる本丸が一番わかりやすい。
「そこには一人しかいない。一人で十分だから。」
切国の答えは平坦だ。
「え、ひとり」
「あぁ、一人でいるのがあの時には良かったからな。」
(一人ならもう大事な存在を失わなくてすむ)
声にならなかった言葉が切国の脳裏に浮かんだ。
(俺は以前大切な存在を失くした)
それが誰だったのかは思い出せない。審神者によると前世の記憶とはそういうあいまいな記憶でおることが多いらしい。
(俺が写しだから、その時も守れなかった)
「そんなのかわいそうです」
短刀の声に切国は、前世の記憶に向けていた意識を切り替える。
「殺されるほうにも言い分はあったのだろうが」
殺された者に同情しているのかと切国は思った。
確かにあの時はどのくらい殺したかもわからないほど殺した。効率を考えれば今よりずっと強かった。
「違います。ひとりではさみしいです」
秋田は前の主君が幽閉されひとりで生き続けるのを見ていた。
だから、たとえお話でもひとりはさみしいとうったえた。
しかし、その思いは切国にはわからなかった。
(そうだ、粟田口には兄がいた)
今、この本丸には短刀達と一振りの打刀しかいない。だから短刀達は自分のような写しを兄と慕ってくれる。だがやはり本当の兄がいないとさみしいのだなと切国は思った。
(どうにかして兄をよんでやろう)
秋田をなだめて子守唄を歌いながら、初期刀はレア太刀を手に入れる算段を考えた。
この紅の本丸の切国は自分に向けられた好意には疎かった。そういう点、彼は記憶が無くても間違いなく、山姥切国広だった。