金属中毒

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プロポーズ小作戦29

2009-04-14 22:59:46 | コードギアス
プロポーズ小作戦29

「楽しそうですね、教官」
「う、いや、失礼いたしました。大司馬」
思い出し笑いをしていた司令官は、慌てて椅子から立ち上がる。パンダの着ぐるみの下はパンツ1枚だった最高司令官殿はとにかく予備の兵士の服に着替えた。生足が出ているのは中華の平均的男性に比べ星刻の足が長いためである。

星刻が基地司令を教官と呼ぶのは、士官学校時代にこの教官に教わっていたことによる。
教師の中では一番面白かったと星刻は記憶している。
士官学校では伝統的に教官にいたずらをしかける。星刻が学生だった頃、一番大掛かりだったのは教官たちの宿舎に牛10頭を押し込んだ件、他にも学生寮全員が一斉に下痢をした件など、そのどれにも星刻は深く関わっていたりする。
本来の中華の伝統からいけば、師弟が再会したときや上司が来たときなどは、盛大な宴が数日間おこなわれる。だが、朱天革命以降そういう悪しき習慣は廃されている。
星刻はすぐ現状の報告を聞き、司令官も信じがたい出世をした数年前の教え子に隠すことなく全容を示した。
すでに難民は全員死亡している事。しばらく息があった者がいたので一応ビデオに証言はとってあること。
敵の兵力についてはむしろ星刻のほうが良く掴んでいた。ナイトメア10機。航空戦力5機まで絞れた。しかし、これ以上絞るのは無理だろう。それは残ったパイロットは信仰者であるから。
そして、信仰団の本拠地の一部が隣国キルギスにあること。
「キルギスですか」
星刻の声は重い。キルギスは中華から見れば小国だが、超合衆国に初期から加入した国である。
あの時点では国境を押さえるため星刻もそれを了承した。しかし、元来中華はキルギスを独立国と認めていない。中華的にはキルギスは中華の一部で、山賊が根城にしているだけである。
キルギスは超合衆国の加盟国である事を唯一の根拠に、中華に対して独立国としての国交を迫っている。現状、中華はそれを無視している。盗賊団との話し合いなどあり得ないというのが中華の態度である。
もし、超合衆国が正常に機能していれば、キルギスは会議に国境問題を出しただろう。現状すでに超合衆国は名を残すのみである。
そして、問題はまだある。戦いでは、おそらくこの基地が最前線となるだろう。だが、この基地の兵士はほぼ9割近くがキルギス人である。

 中華は歴史的に見ても、多くの他民族を内包してきた。だが、それにも一定の限度がある。政治軍事の中核は中華人、それも漢民族でなくてはならない。なぜなら漢族こそ、中華の正統な中核であるから。
明文化こそされていないが、今日でも中華の支配層には漢族しかいない。その中で星刻は異色の存在だった。養父は間違いなく漢族だが、星刻自身のことは本人にもわからない。星刻の外見的特長や拾われたのが北方だったことから、その地方の少数民族の血が多少入っているのではと見られていた。

さらに軍にも不文律があり、ひとつの基地の兵士は半数以上が漢族でなければならない。
これは反乱を防ぐ意味が強い。
その点ですでにこの基地は命令違反である。
だが、星刻はここを罰しようとは思わない。
漢族の兵士がいないのは、彼らがここの環境の悪さに逃げてしまったからだ。
先ほど、着ぐるみをぬいで従卒に付いた兵士にシャワーを浴びたいと言うと、兵士は申し訳なさそうにシャワーは使えないと答えた。水が生命維持に必要なぎりぎりしかないというのだ。兵士は気の毒がって、塗らしたタオルを渡してくれたがそれすらもぜいたくだった。
また、本来完備されているはずの空調も無い。聞けば空調機は40年前に故障したのでそれ以来使えない。
沙漠の中の基地で、空調は命綱とも言える。砂塵あらしのときはどうしているのかと聞くと、みんなで毛布を被っていると答える。基地の外壁や内壁に多数の亀裂がある。これでは雨が降ったときに浸水するだろうと聞くと、雨は降っても地上までは落ちないので大丈夫と答えられた。
砂塵のせいでろくに通信も使えない。
兵士の装備も貧弱で、本来全員に装備させている軽量型の機関銃が基地全体で10丁しかない。

問題はこの基地の問題がこの基地だけではない事。その理由が歴史的慣行とも思えるほどの汚職や横流しにあることである。少なくとも本部基地の何人かを処刑しなければと星刻は緊急で命令書を書く。本部の基地司令に横領犯を見つけさせ処刑を命じる命令書である。
学生時代から変わらない流麗な文字で命令書にサインする元教え子、今は中華の実質的支配者である星刻を、支部基地の司令官は懐かしさ半分驚き半分で見ていた。一応ニュースや軍の公式書類で知ってはいたが、数年前のいたずら坊主が、今は一国を背負っている。

プロポーズ小作戦28

2009-04-14 19:44:32 | コードギアス
プロポーズ小作戦28


隠密行動が望めないなら、それを逆利用するまでだ。この発想は別に星刻のオリジナルではない。
オアシス都市で有名なカルカンドの街。そしてここには中華最西端の基地がある。例の現場の基地はこの基地の支局である。

一度軍基地に寄った後、星刻は現地の同士に頼んで、滞在先を確保してもらった。
この街で最も格式の高い妓館に。

妓館といっても何もそういう(18歳未満お断りの行為)事だけをする場所ではない。もちろん格の低い妓館は主にそういう客のみだが。
格の高い妓館は高級官僚の宿として、政治の取引の場として、表ざたにできないあらゆる取引の場として、文化や芸術の保護者として、地方政治の中心になっている。
中華の大司馬たる星刻が滞在する場所として当然の選択である。
そして物理的にもそこを選ぶ理由があった。神虎をパーキングする場所として、1000平方メートルもある庭を使える。この庭は軍基地の演習場より広かった。
ここで沙漠の街について説明を入れよう。
沙漠が不毛の地であるのは水が無い事が大きな理由だが、他にも常に風で移動し続ける砂に植物が根を張れないこともある。お気が向かれた方はいずれ書くはずの過去歴史物、砂礫の大地緑化計画『トリスタープロジェクト』をお読みください。
水源があっても砂に埋もれる場合が多い。それを防ぐため人間は水源の周りに壁を作り、木を植えた。
オアシスは人間が作っているのである。そしてどんなに大きなオアシス都市でも、壁で囲まれた限られた面積である事は同じ。つまりそういう場所では土地の価値が高い。沙漠の中で碧滴る庭を造る。これは最高の贅沢である。

この都市で一番高級な空間をパーキングスペースにする。大司馬でなければできない贅沢。
こんな目立つ事をしているのだから、当然地元の有力者達はこぞって挨拶に来た。しかし、誰一人星刻の前に出ることはできなかった。
妓館の主に断られたのだ。
静養にいらしているのですから、お心を妨げるような事はご遠慮いただきたい。
神虎で来ている時点でこの言い訳が嘘なのは明白である。同時にこうも伝えられた。
   神虎のプログラムのテストを兼ねて、少し遊ぶ程度はしてもいい。そういう相手がいれば連れてきてほしい。

地元の名士達が目を向けたのは、ちょうど大いにきな臭くなっている近くの町。そこに100人ほどの傭兵がいる。
一言に傭兵といってもフリーターのようなタイプや、組織に所属するタイプさまざまである。興味のある方は過去の名作エリア88をお読みください。
フリーの傭兵は金次第で簡単に動く。彼らはかって愛用の戦闘機とともに金で雇われた航空傭兵と同じである。航空機の代わりにナイトメアで世界の戦場を駆ける。そんな彼らにとってゼロ・レクイエム以後の世界は住み心地が悪い。雇い主が減り、儲からない。たまに激戦地で荒稼ぎしていると、正義の騎士ゼロとやらが来て、ぶちたおされる。ほとんど反則のモンスターマシンで。
傭兵失業時代である。それだから、仕方なく宗教団体の雇われ兵にもなる。
そんな時あの神虎が遊び相手をほしがっているという。それが言葉どおりの意味だけであるはずは無い。
中華は神虎の量産型白虎を製造しかけている。
しかし、中華軍にはパイロットになれるやつがいない。つまり、うまくいけば中華軍の正規傭兵になれるかもしれない。


かくして無人の砂漠地帯で神虎対傭兵グロースター隊、サザーランド隊、グラスゴー隊の戦闘ゲームが始まる。
それは見たところブリタニア伝統の御前試合の形式を借りていたが、より自由度が高かった。一応、ミサイルなど飛び道具は禁止。神虎も主砲を封じている。さらにハンデとして神虎は飛行しない。なおかつ10メートル範囲内にとどまる。いわば神虎だけが鎖に繋がれた形で戦う事になる。
そのハンデをものともせず、神虎は余裕で傭兵たちを叩きのめしていく。この様子はメディアの手で全国放送され、ぜひ現場で見たいと金と暇をもてあました貴族、もと貴族がヤルカントの街に押し寄せる。街としては久しぶりの大もうけである。


さて、神虎は世界にその蒼い姿を見せ付けているが、星刻は一度も顔を見せていない。
それでも、神虎に乗れるのは星刻だけという思い込みから、世界中が星刻はヤルカントにいると思っている。
実際は、単に起動するだけなら誰でもできる。単純に前進後退などの動きなら、普通のナイトメアに乗れるレベルのパイロットならたいていできる。
 そして、極秘の事であるが神虎には操縦補助プログラムがある。さらに、ある程度なら脳波でコントロールする事もできる。


一言で言うと星刻はとっくにヤルカントにいなかった。
空蝉というわけである。衣である神虎を残し、星刻は変装して、問題の支部基地に入った。
今、神虎を動かしているのは蒼天溝の同士と操縦補助プログラム。残っている敵の機体の性能は低いし、いざとなれば星刻が脳波による遠隔操作で補助できる。
「ま、がんばってくれ」
気楽に言うと星刻は「俺にお前の影武者ができるわけ無いだろうがー!」という同士の声を後ろにさっさといなくなった。
これは同士の言う言葉が正当だった。この同士と星刻の体重差は20キロ。星刻のパイロットスーツが着られるわけが無い。それに対して星刻はあっさりと「ダイエットしろ」。薄情な言葉を残して行ってしまった。


変装してひそかに基地入りした大司馬を、基地司令は必死に笑いをこらえて迎えた。
基地司令は読んでいた。なぜ、星刻があんな茶番とも言える試合をヤルカントで行ったか。
多勢に無勢を解消したかったのだ。いかにモンスターマシンの神虎でも航空戦力・ナイトメア合わせて70機を一度に相手にするのは無理である。まぁ、どうしてもとなったら星刻はやるだろうが、その場合、同時に動かされるだろう光明信仰の兵士達、その大半を占める難民が問題だ。おそらく光明信仰側は抵抗力の無い難民に神虎を囲ませる。その上で攻撃してくるだろう。攻撃をかわすだけでも難民に被害が出る。それを諸外国のマスメディアに流させるつもりなのだ。中華の守護神が自国の民を惨殺していると。
味方が少なく敵が多すぎる場合、味方を増やすか、敵を分裂させて減らすかは軍事の王道である。
今回星刻は敵を減らす方を選んだ。それも敵のほうからしっぽを振って寄ってこさせた。ついでにうまくすれば白虎のテストパイロットが多数手に入る。

司令官は、もと教え子の思考の柔軟さに感心する。
ただし、旅芸人の一座にまぎれて、パンダの着ぐるみで来る、そこまでの柔軟さは予測していなかった。