金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

プロポーズ小作戦32

2009-04-15 23:10:10 | コードギアス
プロポーズ小作戦32

「え、ジノさん。そこにいるのですか?」
「ご無沙汰いたしております。ナナリー  皇帝陛下」
ジノはナナリーと皇帝陛下の間に少し間を置いた。
いるのがばれているなら仕方ないから挨拶はするけど、自分はもう軍人でもラウンズでもない。宰相の命令を効く理由は無い。そういう意思をその間に込めた。
「久しいね。ヴァインべルグ卿、元気そうでなりよりだよ」
宰相殿はそんなことには気が付かない、いや、気が付いているがそれを悟らせない、穏やかな雰囲気で親しげに話しかける。
「これはシュナイゼル殿下、最後にお会いしたのはフレイアのときでしたね」
ジノがシュナイゼルと直に会ったのは、あの第2次トウキョウ決戦のフレイアの爆発直後。もう一年以上前になる。2019年の5月。空っぽになったトウキョウにさわやかな初夏の風が吹き込んだ。
あの時ジノは実質的に捕虜として扱われた。
お互いに懐かしがるような相手では無い。
殺気とまではいかないが、シュナイゼルを見るジノの目には隠しきれない敵意がある。
ピクリ。天子が震えた。
幼い頃から理由無き悪意にさらされてきた天子は、そういう感情に敏感だ。
あわてて、ジノは雰囲気を和らげる。
「ジノさん」
ナナリーは手元の操作盤で画面を切り替え、自分の姿だけを写した。
「後で少しお話していただけますか」
こくりとジノは頷く。軍人としての答えは返したくないが、さりとてあの宰相のいるところであまり親しげな返答もできない。
さりげなく、ナナリーは話題を転じた。
それからは一緒にパレードした時の話や、そのときデザートに食べたイチゴムースの話が出て、笑顔で辞去の挨拶となった。

プロポーズ小作戦31

2009-04-15 23:03:00 | コードギアス
プロポーズ小作戦31

一度は星刻への電話を止めてみた天子だが、やっぱり寂しいので星刻がどこかに行ってしまってから、また電話を手に取った。その電話は天子と星刻の専用品で、鳴らせば必ず出てくれた。ところが、その電話に星刻が出ないのだ。形式的な公式報告は毎日届いているから、電波が通じていない訳ではないはずだ。

「星刻は、もう、私を嫌いなの」
この言葉に一番驚いたのは後ろで聞いていたジノか、通信相手のナナリーか、ナナリーの後ろで聞いていたシュナイゼルか。
一番驚いたのは天子だった。自分でも意識していない事をはっきり口にしてしまった。
驚いて、誰も声を出せない何秒間かが過ぎた。
(ラジオなら放送事故だな)
緊迫感の無い事をジノは考えた。海の天使、クリオネが翼を10回パタパタさせるだけの間があった後、声を出したのは宰相殿。
「ジノ、これは重大な国際問題になる危険がある。必ず大司馬に直接お目にかかりお心を確かめてきなさい」
ちょっとお使いに行ってきてというレベルの口調で、シュナイゼルは画面に一度も姿を見せていないジノに命じた。


プロポーズ小作戦30

2009-04-15 09:50:54 | コードギアス
プロポーズ小作戦30
おてんばな子リスたち

ブリタニアの皇帝陛下から私用回線で、通信が入っております。
そう聞いた途端に天子は寝台から飛び出した。
星刻が行ってしまってから、どうしても食が進まなくなり、今朝は微熱があって公務もお休みしている。
天子本人は特に疲れているわけでもなく、寝台で退屈していた。
後になってみれば、この微熱も遅すぎる二次成長の一部だったとわかる。

天子はパタパタとパジャマのまま駆け出していく。通信室はすぐそこだが、少しでも早く海の瞳のお姉さまと話したい。
あわてて、ケープを抱えた女官が天子を追いかける。
いくらなんでもパジャマだけで異国の皇帝と話させてはいけない。
しかし、女官は追いつけない。ジノが滞在するようになってから天子はよく外で遊ぶようになった。もともと小柄で機敏だった天子はジノと戯れるうちに体力も付いて、このごろはずいぶん足も速くなった。
屋内でゆっくり歩くだけの女官が追いつけるわけが無い。
「ジノ様」
ひょいと顔を出した金色に、息切れした女官はケープを渡す。
お願いしますの言葉さえ出ない女官に笑顔を残して、ジノは天子を追いかける。
つくづくジノは思う。この時代を支える愛と平和の三女神と呼ばれる少女達は、実は大変なおてんば揃いじゃないかと。

通信室に入った天子をタイミングよくジノは捕まえた。
が、するりと逃げられた。ジノはスザクを捕まえる要領で軽く抱え込んだのだが、天子はスザクより小さい。子リスが逃げるみたいにてててと抜けられた。
「ゴール」
にこりと振り向いて天子は通信機のスイッチを入れる。
通信機の画面が開く前に、ジノは天子にケープをかけた。

ジノは通信の画面から写らない場所に下がった。ナナリーだけならいいが、あの宰相殿がいると何かとうるさい。
ジノは四男坊だったが、今では名門ヴァインべルグ家の唯一の生き残りで当主だ。世界中をふらふら旅しているようでも、当主の義務は果たしている。しかし、あのうるさい宰相はナイトオブスリーの役を再び押し付けようとしてくる。
冗談じゃない。ナナリーのことは個人的に好きだが、ジノの気持ちとしてはもう誰にも仕える気は無いのだ。

画面に映るのはナナリー一人である。
しばらくは天子の体調を気遣う言葉や、ナナリーのリハビリの進みを気遣う言葉が交わされる。
あぁ、平和だなとジノは思う。もちろん今の世界が平和とは程遠い事は知っている。それでもこの空間だけでも、平和がある。
もっともナナリーがある人物の名を出してから部屋の中は平和ではなくなった。
「星刻様はお元気ですか。このごろブリタニアにはお顔を見せてくださらないようですが」
現在、ブリタニアには周香凜が天子直属の文官兼武官として、外交官として常駐している。その香凜のところに以前はしばしば星刻が顔を出していたが、この2ヶ月ほどはまったく姿を見せない。
ナナリーとしても亡き兄とよく似た思考をする長髪の軍人に会うのは好きだ。それは単純な好きで、ミレイやりヴァルに対する感情と同質である。天子もナナリーの『好き』がどういうものか理解している。だから、ナナリーから星刻の名が出ても普段はなんとも思わない。
だが、今回はタイミングが悪かった。