金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

プロポーズ小作戦78 

2009-06-26 10:38:10 | コードギアス
プロポーズ小作戦78 
2021/1/28深夜
3年越しの人魚姫

天子が誕生日の贈り物にと望んだのは、星刻がエリア11に行く前の夜に話し始めた人魚姫のお話の続き。

ちょこなんと大きなベッドの隅に座って、天子は星刻を待っていた。
天子の誕生祭ましてや成人を祝うともなれば、祝典だけでもえんえん7日間続く。その間、政治、軍事、経済、全てのトップである星刻に休む暇などない。この10日間ほど自室に戻る事さえできない。この時期の星刻が麻薬分類される薬を使っていたとしても、批判できる者はいない。それでも彼は約束どおり天子の寝室にやってきた。
2021年1月28日深夜のことである。

「天子様」
小さな、でも良く通る声は窓から聞こえた。
先代の老女官長と違い、軍人上がりの今の女官長は規律に厳しい。そういう人物を選んで指名したのは星刻だが、まさか自分自身も内宮への出入り禁止にされるとは思っていなかった。
いつもの通りに内宮に足を運ぶといきなり女官兵に捕まり拘束された。もちろん、星刻が本気なら女官兵ごときに捕まるはずはない。星刻は内宮のことは女官長の管轄という規律を重んじたのである。それにしてもいきなり捕まえた挙句、『ここに来たければ、モノを切り取って来い!』と啖呵を切られるとは予測していなかった。さすがに香凛のいとこで陽家の名を受け継ぐ女性である。
以来、星刻は天子の部屋を訪れるときは神虎の飛行浮遊機能を使い、窓から来る。


『星刻は窓から来るの』
天子のメールに、『すてきですわ。恋愛の王道ですわ。ロミオとジュリエットですわ』
とハートマークが大量に付いたメールを返したのは恋愛ナビゲーターを自称する神楽耶である。
確かにロマンチックなシーンである。国を背負う少女天子と、彼女を愛しく思う、ただそれだけで下層から実質的な支配者になりあがった青年。
ただ、後でメールでこのロマンチックなシーンを聞いたナナリーはふと思った。
ロミオとジュリエットは行き違って、思いを抱えたまま自死したのだと。

プロポーズ小作戦77

2009-06-23 10:40:21 | コードギアス
プロポーズ小作戦77

2021年1月28日。
この日は中華にとって特別な日。ただ一人の天子の16歳の誕生日。
成人年齢は国によって異なる。それでも16歳ともなれば正式の婚姻も認められるし、親政を開始する事もできる。
天子は大人になったのだ。


天子の成人を祝い中華は今年一年多くの式典やイベントを行なう。また庶民達もさまざまな形でイベントや祭りに参加できる。
例えば洛陽、北京、上海の動物園で各国と交流して得た多くの珍獣が公開された。洛陽の動物園のお披露目には、天子自らが臨席しテープカットもした。
さぁ、まずはどの国の贈り物からご覧になるのだろうと、護衛たちの後ろから世界各国の記者がぞろぞろ付いていく。
こんなふうにメディアと交流する事も昔は考えられなかった。
この時代の天子が、後に開国の天子と呼ばれるゆえんである。
天子は100名以上の護衛や記者団を引き連れて早足で歩く。
この行動力も伝統的な天子のイメージを覆した。
せっせと歩く事15分。

たどり着いたのは鳥のコーナー。
そこのコウノトリのスペース。
どこの国の贈り物を最初に見るのかな?と付いてきた記者達はあれあれと疑問符を浮かべる。
コウノトリは珍獣だったかねぇ。んなわけねーだろ。
ひそひそと私語が交わされる。

天子は柵から身を乗り出すように、・・・良い子はまねしてはいけません・・・そのうちの1羽を指した。
「私が連れてきた子です」
その1羽の鳥はちょっと変わった帽子を被っていた。とうもろこしの繊維で作った麦藁帽子。後ろに3本のしっぽ付き。
「トリスタンの名前をもらいました」
そりゃ、コウノトリの身でなんとも豪勢な名前だなぁ。記者達は思う。トリスタンは国際機体の名。すでに稼動していないが、その名はめったに使えるものではない。
「ヴァインベルグ卿があの帽子をプレゼントしてくれました」
「トリスタンは必ず、一番速く中華に赤ちゃんを連れて来てくれます」
にっこり微笑む天子。たちどころにフラッシュのあらしが起こる。


さて天子のこの言葉だが、この時点では次のパンダコーナーに移動したため追及されなかったが、後に大騒ぎを呼んだ。


プロポーズ小作戦76

2009-06-22 22:44:18 | コードギアス
プロポーズ小作戦76
君側の奸に従わず。
天子様を邪からお救いする。
新たな革命家達の息吹


もともと星刻は蒼天講の中核ではあったが、トップではなかった。
それは星刻が正式な漢族ではないことに由来する。

洪古や香凛を含めた数人の同士は天子と星刻のロマンス未満を知っているからとくにあれこれ言わないが、知らない同士の中には妹の婿に来ないかと熱心に口説く者もいた。

確かに正当な漢族の婿、それも正式な婿になれば星刻も正式な漢族になる。そうすれば立場が強化されるし、いつまでも宦官の部下というあいまいな地位でいる必要も無かったはずなのに。
このことについては入力者に私見がある。星刻が私的感情から高亥付きを望んでいた場合と、天子の安全を守るためもっとも厄介な敵に張り付いていた場合。あるいは両方の感情が入り混じっていて、星刻本人にも判断できていなかったのか。

中華の中だけではない。星刻を欲しがる国や王家、団体は多かった。
例えば、ゼロ革命のどさくさに改革派の先頭に立って今やロシア軍の最高位にあるサーシャ・ミハイロフ。彼は学生時代から星刻を弟と呼んでいる。ロシアで星刻の名を表記するときにスターシャと書かれるのは、ミーシャがつけた愛称に拠っている。

ヨーロッパでも現存する最も古い王家が彼を望んでいる。もっとも、ここの独身の姫はすでに54歳。いささか無理のある話である。

複数の多国籍企業がらも引き合いがある。中には契約条件を公開している企業もある。その年間契約金額は今の星刻の年収より5倍も多い。
多国籍企業は言う。あのタイプの男には国すら狭い。うちに来てくれるなら、最高の便宜を図ろう。
そんな引き合いの全てに星刻は「私は天子様の一臣下でございます」と礼儀こそ守るが全て断っている。

生前のナイトオブワンが認めた中華の麒麟児の株価は、ゼロ革命後も上昇する一方である。
中華には伝説や格言が多い。そのひとつに「昇竜悔いあり」がある。天に昇りつめた竜は後悔するという意味だ。やりすぎや行き過ぎをいさめる言葉だが、ある種の青年にとってはこの言葉さえも、悔いすら残らない人生を生きる気は無いと思わせ、むしろ背中を押す結果を呼ぶ。


もし星刻がたとえ形ばかりでも、漢族の婿に納まっていたら次の件は起きなかった。
後に赤い石と呼ばれる新種のサクラダイトが、国境線の入り乱れた緩衝地帯で発見されなければ、星刻が複数の多国籍企業に籍を置く必要は無かった。後で考えれば偶然のタイミング、悪意の偶然だった。



新年祭の一環として、天子はいくつもの災害被害地への慰問を行った。どの地区を訪問するかの予定は早めに公表されていたので、予定地区に名を上げられた知事達は大至急公軍私軍を総動員して除雪作業を行なった。
これを外見だけ見れば、大司馬の命令には従えなくても、天子の命令には従うと見える。
しかし、内実は違う。動いたのは漢族の私有軍およびその影響下にある公軍。
星刻は予測していながら、公式ルートからだけ除雪命令を出した。全ては計画のうちである。
結果、命令は予測どおり無視された。
直後洛陽に戻ってきた洪古を公式に外宮に呼び、天子に命令させた。命令受諾と同時に洪の一族が漢族ネットワークを通じて同族に呼びかけた。
結果、結束の固い一族である漢族、それも今最高の出世頭の洪家の依頼とあっては動かぬものなどいない。こうして国際的に天子の権威は大司馬より高いと見せかけることができた。さらに忠臣筆頭は洪家の当主であるという形が整った。
こうして下準備は着々と進行した。
星刻は自分がいついなくなってもいいように、予定通りに権力・権威・立場を振り分けていく。

そもそもゼロの行動が無くても,星刻は蒼天講を率いて革命を起こす予定だった。その予定では星刻が一旦権力を掌握したあと、宦官達の後始末をつけて、つまりは関係者を全員処刑し終えて、本来の漢族の主流である洪や他の同士に全てを渡す事まで計画されていた。要するに汚れ仕事を係累の無い星刻がやり終えて、大掃除の済んだ中華を漢族に戻す。その後は天子を掲げた漢族が統一された中華を支配する。
このスケジュールは蒼天講の成立とともにに星刻が立てたもので、ゼロの行動によって変更や加速を余儀なくされたが、今も着々と進行している。
数年前の事だ。スケジュールを皆に示した後、洪古の遠縁の若い同士がふと疑問を口にした。『それで辞めた後星刻は何をするんだい?』
一番若いこの同士はマスコットみたいな存在で、皆からかわいがられていた。だから、いささか失礼なこの質問も幼さゆえの素直さとして許された。
星刻も穏やかに笑って返答した。

人の脳で嗅覚を管理する部位は、記憶の部位の近くにある。それゆえに香りには普段意識していない記憶をいきなり呼び起こす力がある。
杏の香りはアーモンドに似ている。天子がデザートに所望した杏仁豆腐の香りが星刻の記憶を呼び起こす。『しんくー、旅に出るなら、僕も連れて行ってね』
そうだ、あの時私は旅でもすると答えたのだ。
あの頃、すでに星刻は自分の命が長くない事を予感していた。だから、答えた旅とは死出の旅であった。

アーモンドチョコが大好きだった少年はもういない。ルルーシュにフレイアで焼かれた。
死ぬ予定だった私が生き残り、覚悟の無かった子供が死んだ。
『撃っていいのは撃たれる覚悟の在る奴だけだ』
ルルーシュの声が思い出される。では、撃たれる覚悟はあっても、撃つ覚悟の無い者はどう生きればいいのだろう。
大好きなアーモンドチョコを育てたくて、種と信じてアーモンドを埋めたあの子供、どう生きれば良いのだろう。
天子は完全に止まってしまった星刻の手を見た。いつもと変わりなく見えるのに、なぜだか天子は不安になる。
『恋をして不安になるのは、恋の成長の証拠ですわ』
運命の人と教えてくれた友達は、ハートマークがいくつも付いている声で答えをくれた。
これが恋の味なの?
ついこの間まで、天子にとって恋とはふわふわの砂糖菓子だった。
でも、違う。
天子は思う。いま感じているのは苦くて、眠れなくなるような濃厚なコーヒーの味。


宮廷料理人が腕を振るった料理の数々は、実際には胃炎とのどの傷を抱えた病人用のメニューだが決してそれを感じさせなかった。それでも、星刻の食事量は日々おちていく。料理人は中華にこだわらず日本食からブリタニア料理まで考え付く限り試したが努力もむなしく、6日目にはスプーンを一度動かしただけでその後は、天子に最近の国際情勢を解説している。天子も必死に理解しようと努めている。日々、量を減らして供される食事は話中に冷めてしまう。結局ほとんど食べないまま、食事時間はお勉強の時間になっている。


ただ、今日はいつものお勉強のお話が始まらない。星刻は凍りついたかの用に動かない。
天子は杏仁豆腐に差し込んだスプーンを止めた。
(しんくー?)
赤い瞳が見上げる。
天子はとんと椅子から降りると、星刻の正面に回った。

天子の赤い瞳に黒い影が写る。
星刻の黒い瞳に赤い影が写る。


「天子様、もうすぐご誕生祭ですね」
ふいに星刻は言う。
凍り付いていた時間などなかったかのように。
「私からも何かお祝いを差し上げたいのです」


天子の答えはあの夜のお話の続きを聞かせてであった。