読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

雫井脩介の『霧をはらう』

2024年09月08日 | 読書

◇ 『霧をはらう

      著者:  雫井脩介            2021.7 幻冬舎 刊

   

    読み初めた当初は単純な法廷ものかと思ったが、事件が複数殺人のため裁判員裁判
なり、国選弁護士の一員となった伊豆原柊平が状況証拠を丹念に拾い集めてい く内に
事件の冤罪性を 確信して行く。そして真犯人の姿がおぼろに見え始め、終盤で一挙

犯人
さがしの結論と犯行の真相が明かされミステリーとして完成する。
 刑
事事件で無罪を勝ちとることが如何に困難なことか。検察の勝率9割9分という日
本の司法制度の中で物証なしの立証で無罪を勝ち取るという奇跡的結果は小説の世界
とはいえかなり甘いのではと言わざるを得ない。

 被告人小南野々花は娘2人の母である。下の娘中3の紗奈が腎炎で入院しているが
同室の小児科患者2名が死亡し、点滴内にインスリンを注入されたのが死因とされた。
付き添いの家族間でちょっとしたトラブルがあってその当事者小南が有力な容疑者と
され逮捕・起訴された。長女の高3の由惟は母ならやるかもしれないと思っていると
ころが厄介である。

 中段、被告の二人の娘と伊豆原ののやりとりは、結論とも深く係わってくるので理
解できるが、度々二人の食事を作ってやるとか、中3の沙奈の勉強を見てやるとか、
国選の弁護士がそこまでやるかという不自然さが残る。また真犯人の犯行動機がいま
いち弱い気がしてこれが気になる点である。
                          (以上この項終わり)

 


 

 

 

 

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J・F・フリードマ ンの『第一級謀殺容疑』<上>

2024年06月26日 | 読書

◇『第一級謀殺容疑』 (原題:AGAINST THE WIND)<上>

   著者:J・F・フリードマ ン(J・F・FREEDMAN)

   訳者:二宮 磬    1991.11 新潮社 刊 (新潮文庫)

    本作はタイトルにある通りいわゆるリーガル・サスペンス(法廷もの)
である。法廷ものと言えばジョン・グリシャム、スコット・トゥローな
どが有名である
が、彼らの作品に決して引けを取らない面白さがある。
それは対象事件の異常さ、法廷での丁々発止のやりとりの面白さもさる
ことながら、主人公の弁護士ウィル・
アレクサンダーのキャラクターが
醸し出す空気がハードボイルド的で、マッチョでありながら時折自虐的
な内心の吐露があったりして
読者を惹きつける。
 作品中段では問題死刑囚が入っている刑務所で暴動が起き、受刑者側
から州側の交渉役にはウィルが付くよう要求された。その事件現場の詳
細が実に迫力満点で語られるやや異色なリーガルサスペンスである。


 物語の舞台はアメリカ中西部ニューメキシコ州サンタ・フェ。ハーレ
ーで旅を続けるあるライーダー集団の4人がテキサス州境近くで州警に
停止を命じられ武装強盗容疑で逮捕された。
 ライダー集団の頭ローン・ウルフは辣腕刑事弁護士として知られたウ
ィルに弁護を依頼する。ウィルは飲酒がらみの素行に問題が多く、弁護
士事務所のパートナーから外されかかっている。金も欲しい。ウィルは
弁護を引き受けた。

 ところが事は一転重大事件に関わってきた。サンタ・
フェの近郊林の
中で男性の惨殺死体が発見された。男性器が切り取られ口の中に押し込
められているという猟奇的事件だった。数日前に市内の酒場でその男に
会っていたと思われる4人組ライダーが第一容疑者として浮上、再逮捕
された。
 世間ではライダーは狂暴で無法者で恐ろしい人間と思われている。ラ
イダーらから状況をつぶさに聞いて、殺しはやっていないという彼等の
言は信用できると感じとったウィルはこの事件の弁護を17万5千ドル
で引き受けた。
 
 ところが細かく状況を聞いていくと4人は酒場である尻軽女と知り合
い、丘の上に連れて行ってかわるがわる性行為を重ねた。合意の上でレ
イプではないという。

 警察は酒場の閉店後バイカーが女を連れて丘の方に出て行った事実を
重視、徹底的に女を探し回り、リタ・ゴメスという女を拘束した。リタ
は丘の上でバイカーらが男を刺し殺したのち頭を撃ったと証言する。州
検事はこの証言をもとに第一級謀殺容疑で大陪審を開く。

 ウィルは3人の優秀な弁護士を選びそれぞれの被疑者を割り当て、弁護
に臨む。ウィルは親玉のローンウルフを担当し、久々の大舞台で被疑者た
ちの無実を証明
すべく奮闘するが、リタはライダー連中に手ひどいレイプ
を受けたという主張が陪審員を強く掴み、詳細な現場目撃証言と検視医の
剖検所見とが正確に符合する検tおの察側主張が壁となって、リタの証言が
ライダー4人の行動と時間的に符合しないとの弁護側の指摘もあえなく、
異例の4日に及ぶ陪審員の協議を経て、結局4人は第一級謀殺で有罪の評
決だった。

 久々の世間の注目を集める裁判で大敗北を喫したウィルは弁護団の女性
弁護士メアリー・ルーとの関係深化を望むも気もそぞろになって、大いに
落ち込む。
 ウィルは自他ともに認める大酒飲み(好みはジョニ黒)で女たらし。謙
虚さに欠け、大げさな感情表現を好むタイプ(本人自認)。
目下妻のパトリシアと離婚協議中で、父親っ子のクローディアと会える時
間を最優先する中年男(40歳)である。
ここまでが上巻。
                       (以上この項終わり)

 

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ロバート・クレイスの『天使の護衛』

2024年02月10日 | 読書

◇『天使の護衛』(原題:The Wotchman)

   著者:ロバート・クレイス(Robert Crais)

  
 
    この作品の主人公ジョー・パイクは大富豪コナン・バークリーの娘ラ
ーキンの警護を依頼された。
 パィクはロサンゼルス市警の警官だったが、辞めて私立探偵をしてい
る。パイクを推薦したのはバッド・フリンだが彼はパッドが新米警官だ
った時教育警官だった。今は企業調査会社をやっている。二人はLA市警
以来強い絆で結ばれている。

 パイクはバッドから得難い教訓を受けた。”我々の仕事は人を殺すこと
ではない。人を生かし続けることだ”はバッドの理念。
 だがパイクは最初の仕事で二人に抵抗した銃器犯罪者ともみ合ううち
にバットをナイフで狙った被疑者を射殺してしまった。パイクはバッド
の命の恩人である。
そんなことで二人に絆は一層強くなった。

 警護対象の女性ラーキン・バークレイは連邦犯罪裁判で証言する予定
で、証人保護制度で保護されていたが事件関係者(南米麻薬カルテル)
に狙われたため父親とFBIによって特別に警護を許されることとなって
パイクの登場である。

 パイクが警官を辞めたのは、その後パイクと相棒と被疑者の三者がもみ
合ううちに銃が暴発して相棒が死んだ事件があってパイクは警官を辞め傭
兵の一員になった経緯がある。

 ラーキンが証言を決意したのは、自身が起こした衝突事故で相手の車の
運転者が資金洗浄を疑われている不動産業者で、同乗者が国際手配中の殺
人犯ミーシュだと明らかになったからである。
 パイクはあらゆる戦術を駆使してラーキンと身を隠すが、すぐに殺し屋
の襲撃を受けたりするので、警察やFBI、ラーキンの父親の会社の弁護士ク
ラウン士など誰かが内通しているのではと疑いを持つ。

 パイクの調べでラーキンの命を狙っているというミーシュはすでに死ん
でいることが分かった。ラーキンの父親の弁護士やFBI特別捜査官ピット
マンなどはパイクやラーキンに嘘をついていたことになる。

 法定で証言の対象となる犯罪容疑者が死んでいるのになぜラーキンは未
だに襲われるのか。ミーシュと言われていた男はじつは国際手配テロリス
トチェコ人のヴァハニハだった。

 結局のバークリーの会社の顧問弁護士クラインが企んだ横領が原因だっ
た。
 パイクはこの事件で10人以上の殺し屋を殺害した。 シリーズものの作品
であるが、ともかくサスペンスフルで楽しめる。

                      (以上この項終わり)
 

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堂場 俊一の『敗者の嘘(アナザーフェイス2)』

2023年07月26日 | 読書

◇ 『敗者の嘘(アナザーフェイス2)

   著者:堂場 俊一      2011.3 文芸春秋社 刊(文春文庫)




 子持ちでバツイチの刑事、巡査部長大友鉄33歳。バツイチとは言うが10年前に
妻奈緒を交通事故で亡くし10歳の息子優斗と暮らしている。奈緒の母聖子に育児
の一部を依存しいる。聖子はしきりと再婚を勧めてくる。
 今は捜査一課の刑事から外れ、定時で帰れる刑事部刑事総務課で研修などの事
務中心の部署についているが、刑事部特別指導官の福原から時折特捜の応援を指
示される。  

 神田神保町で強盗殺人事件が発生。容疑者渋谷が重要参考人で取り調べ中であ
ったが、自殺。ところが自分が犯人だという女性弁護士(柴崎優)が出頭し特捜
本部は混迷に陥る。柴崎は訊問においても状況説明、証拠物件などに不可解な点
が多くその意図がつかめない


 例によって大友は福原指導官から特捜の遊軍として捜査参加を指示される。大
友の手にかかると不思議となんでもしゃべってしまうという特異な才能が重宝さ
れるのだが、現場では煙たがられることもある。

 今回も同期刑事の芝、高畑などの助けを借りながら柴崎弁護士の周辺捜査など
を進めていくうちに背後の黒い人物の存在、捜査陣幹部の不可解な動きなどが次
第に浮かび上がって来る。 柴崎弁護士の拉致騒動があったり新聞記者が噛んで
きたりし、事態はドラマチックな展開を見せる。
 結局警察組織の体面優先が生み出した悪質なでっちあげ事件処理の全貌が明ら
かにされるわけであるが、組織上上司にあたる管理官に悪事を問い詰める大友の
覚悟の懊悩が生々しい。

                         (以上この項終わり)

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カーリン・アルヴテーゲンの『喪失』

2023年07月05日 | 読書

◇『喪失』(原題:SAKNAD)

   著者:カーリン・アルヴテーゲン(Karin Alvtegren)
        
     
   
 作中主人公の女性シビラは社会のアウトサイダーである。社会システムの枠外にあって
社会から何の恩恵も受けていないし掣肘も受けない。神様に祈ったこともあるが助けても
らったことは一度もない。唯一の関心事は食べ物とその日の寝場所を得ること。過去を忘
れ、過去からも忘れられたい。

 ある日の朝、シビラは突如猟奇殺人事件容疑者として追われる身になった。
 シビラは裕福な資産家の一人娘だが、厳格な両親の元で自主性を持たずに育った。散歩
中に出会ったた若者との出来事のせいで成人前に妊娠する。
 シビラは精神的な病療養と称して自宅に引きこもり、病院で出産した。
(許可なしに私のお腹で育った子が、いま許可なしで私を離れる。なぜ何もかも私の許可
なしで進むのだろう)
 産んだ子は男の子だった。子供は無理やりシビアから引き離されて養子に出された。

 所有者が夏にしか使わない別荘の鍵の隠し場所を見つけ、5年ほど快適な居場所で過ごす
事が出来た。

 シビアは家を離れる決心をした。住む家も食べるものもない。その日からシビアは路上生
活者になった。それから6年。空腹と疲労困憊の末に母親に助けを求めた。許しを請い家に
帰りたいと言ったが、母は「お金を送るわ、住所を教えて」と言った。許しを請うたことは
耐え難い屈辱だった。
 母親は10年間月に1,500クローネを送ってくれた。金は主として酔っぱらうのに役立った。

シビラのこれまでの人生の足跡が断続的に語られる。
 ホテルのロビーで物欲しげな紳士を見つけ、食事をごちそうになり、財布を盗られたふり
をして部屋をとってもらう。そして気が向いたら彼の部屋を訪ねるかもといった甘言を残し
…。といった生活を続けていた。

 そんな一夜を過ごしたある朝、シビラは「警察ですが」とのドア越しの訪問に驚く。早く
もウソがばれたのか。辛くも非常階段から外に逃れたシビラは新聞の大見出しを見て驚く。
先ほどのホテルの一室で宿泊客の男性が殺された。見出しは「グランドホテルで猟奇殺人」
 翌日スタンドの新聞売り場では犯人は犠牲者を切り刻んでいて、内臓を取り出していたと
いう。そして警察は当日彼が部屋をとってやった女性の行方を追っているという。

 その日からシビラの逃避行が始まる。リュックと首に下げた小袋。そこには母親からの送
金を貯めた金29,358クローネが入っている。一人で平和に暮らす家の購入資金だった。

 当面の避難場所と狙い定めた中学校の時計台倉庫の屋根裏。しかしそこをかつて避難場所
としていた少年が現れる。仕方なく事情を話すと少年パトリックはシビラの話を信じてく
れた。その後同様な事件が連続しているという新聞記事が出ている。パトリックはこうなっ
たら逃亡を続けるのではなく二人で真犯人を探し出そうと提案する。

 かつて養子に出した息子はちょうどパトリックと同じ年ごろ。シビラは家の購入資金を使
いながら被害者やその遺族を探し話を聞く。そして意外な共通点を発見、真犯人に行き着く。

 シビラは常人と変わらず論理的で、まともに考え行動力も決断力もある。パトリックにこ
れまでの自分の人生と事件との係わりを告白したことで自分らしさを取り戻していく。

 終盤で一時シビラの身が危機にさらされるスリリングな展開を見せる。シビラは間一髪で
犯人の攻撃を躱し森の中に逃げ込む。そして警官隊に発見される。

 パトリックを通じて知ることとなったインターネットのハッカーというものの存在。最後
に彼に自分の養子に出された息子の追跡を依頼し答えを得るのだが…。どんな権利があって
14年経って、なぜ彼の生活に踏み込もうというのかとシビルは思い悩む。
 シビルは息子の所在を記した紙をごみ入れに捨て晴れ晴れとした気持ちになる。             

                             (以上この項終わり)

 

 

 

 

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