読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

アレクサンドル・デュマ『モンテ・クリスト伯(七)』

2021年11月04日 | 読書

◇『モンテ・クリスト伯(七)』(MONTE DE CRISTO)

 著者:アレクサンドル・デュマ(Alexandre Duma)

 訳者:山内 義雄  1956.8 岩波書店 刊

   
  最終巻である。
    ヴィルフォールの娘ヴァランテーヌは結局継母から毒入りの水を盛られる。
直前に司祭に身を変えて隣に住むことになったクリスト伯が現れて、
なぜかヴァランティーヌ
に妙な丸薬を与え
る。「大丈夫だ」と言いながら。(これは二人の関係と状況からして全く解
せない所業であるが=後述)

 恋人を失ったマクシミリアンは半狂乱である。
 ヴィルフォールはこれまでの家内における変死事件の犯人は妻しか考えられないと確信し、家
名の為にも妻を断頭台に送るわけにはいかないと自裁を迫る。 

 一方
父を失ったアルベールは母を故郷のマルセーユに送り出した後志願したアルジェリア騎兵
隊に向けて旅
立つ。

 偽のカヴァルカンティ侯爵、実は前科者の殺人者ベネディットの裁判が始まった。
ベネディットは裁判長の人定尋問で「私に名前はない。捨て子だったから。だが父の名は知って
いる」と言って、「そ
の名はヴィルフォール検事総長だ。彼は生まれたばかりの自分を庭に生き
埋めにした。そして復讐のために邸に忍び込んでいた男
が掘り起こしてくれ、育てて貰ったのだ」
と素性を明かす。満場は検事総長の犯罪を知り唖然と声もない。ヴィルフォ
ールは顔面蒼白、裁
判長には全て本当の
ことだと認める。

 ヴィルフォールは罪深い自分が妻を責め自裁を迫ったことを悔いて、止めさせようと自宅に急
いだが、妻は息子を殺し自分も毒を呑んで死んでいた。
 そこに現れたのは隣家に住むプゾーニ司祭。仮面を剝いで自分こそヴィルフォールによって牢
獄に送られたエドモン・ダンテスだと正体を明かす。
 しかし、ヴィルフォールを復讐の為に窮地に追い込んだものの、その妻子迄死なせた結果とな
ったことには「もう十分だ」と後悔する。結局ヴィルフォールは気が狂ってしまった。

 クリスト伯は恩人であるモレル氏の忘れ形見マクシミリアンを連れてローマへ向けてパリを後
にする。
 マルセーユのダンテスの家でメルセデスとクリスト伯は再会する。二人は胸が張り裂けるよう
な過去のつらい思い出を回顧する。「かつて人の良い、信じやすい何でも忘れてしまえる私だっ
たが、今では、執念深い、本心を隠した、底意地の悪い、非情な人間に変わりました」とダンテ
スは心情を吐露する。「ただ一人あなたを見抜くことができた女こそ、あなたの気持ちを分かっ
ているたった一人の女だということを信じてください。二人はお別れしましょう」、「いずれま
たと言ってください」とダンテス。「いいでしょう。私がまだ希望を失わずにいるいることをお
分りいただくために」とメルセデス。

    クリスト伯はかつてアルベールを誘拐したルイジ・ヴァンパを使ってダングラールを誘拐し、
ローマの地下洞窟に幽閉、餓死寸前まで追い込むが、犯した悪事を後悔し神に救いを求める姿を
見てこれを許し、解放した。

 そしてクリスト伯の、今は亡き恩人の息子マクシミリアンはアルジェリア騎兵隊から帰ってき
て、クリスト伯との約束通りモンテクリスト島に伯爵を訪ねる。息子のようにかわいがっていた
彼がいまだ亡くなったヴァランティーヌを想い苦しみにふさいでいる彼の前にヴァランティーヌ
を登場させる。死んだと思っていた彼女が現われ、マクシミリアンは驚く。どうやら特殊な薬で
一旦彼女を仮死状態にさせ、モンテクリスト島に運んで来ていたらしい。

 クリスト伯は島やパリにある自身の財産を全て二人に与えるという、手紙を残してエデと共に
島を去っていく。手紙には、「この世には、幸福もあり、不幸もある。ただ或るものは一つの状
態と他の状態の比較に過ぎないということ。主が、人間に将来の事がわかるようにさせてくださ
るであろうその日まで、人間の慧智はすべて次の言葉に尽きることをお忘れにならずに」
「待て、しかして希望せよ!」とあった。

かくして日本では「巌窟王」として知られたアレクサンドル・デュマの一大叙事詩は終わった。
積年の深い恨みを復讐によってはらしていく痛快さはあるが、最後には復讐によって罪もない人
も共連れにしたことへの反省もあって救われる。
                               (以上この項終わり)
 

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