読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

ヘニング・マンケル『五番目の女』

2018年10月13日 | 読書

◇『五番目の女』(原題:Den fmte kvinman)
       著者:ヘニング・マンケル(Henning Mankell)
       訳者:柳沢由実子     2010.8 東京創元社 刊 (創元推理文庫)

    
  
 スウェーデンの作家H・マンケルによる警察小説。サスペンスでもある。
 プロローグは、アルジェリアの首都アルジェで4人の修道女がイスラムの暗殺団
に殺され、ひとりのスウェーデン女性が巻き添えになった。(アンナ・アンデル、
つまり5番目の女である)という場面。
 事態の政治問題化を恐れた当局は巻き添え女性の痕跡を抹消しようとする。しか
し隠蔽を指示された女性警官は、その女性の娘に宛てた書きかけの手紙を発見し、
指示に従わずその起きた事件の真実を告げて手紙を送った。
 これが重要な伏線で1993年8月のこと。

 一方翌年の9月、スウェーデン南部のイースタで殺人事件が発生する。被害者は
頑固者のバードウォッチャー、ホルグ・エリクソン。2メートルもの壕に埋めた竹
槍に串刺しにされるという残虐な殺害。

 捜査に当たるのはクルト・ヴァランダー。父親と1週間のイタリア観光旅行から
帰ったら事件発生を告げられ爾来、事件解明に奔走する。捜査陣は主任のヴァラン
ダーを初め女性刑事を含め5人。いずれも個性豊かに描かれ、連携プレーが見事で
ある。鑑識のスヴェン・ニーベリも然り。女性の署長、検事も主要な登場人物で
ある。
 
 被害者の過去歴、身辺調査、交友関係等々調べを進めるが犯人像は皆目見当がつ
かない。
 そんな中、花屋の主人ユスタ・ルーンフェルトが行方不明となった。そして1か
月後、彼は裸で木に縛られ扼殺されて発見された。この二つの事件は関連があるの
か。被害者の共通点は、いずれも女の影がない、ひどく残酷な性格で暴力的である
ところ。これを手掛かりに、ヴァランダーらは地を這うような捜査に追われる。
 調べていくうちに犯人は女性ではないかという線が濃厚となる。しかしなかなか
決め手となる証拠が手に入らない。
 そして麻袋に生きたまま押し込め湖に沈めるという第三の殺人事件が発生しヴァ
ランダーらは頭を抱える。

 この本の魅力といえば、捜査手法も大雑把で(床に残された血痕の分析もやって
いない!)、たいして有能とも思われない捜査陣が幾度も討論を重ね、疑問点をつ
ぶしながら小さな接点を見出し、地道に犯人像に迫っていく姿を克明に描いている
ことだろう。当初残虐な殺戮手法から男性の犯行とみて追っていたが、次第に女性
の視点でとらえることによって事件の関連性が明確になってくる。犯人の女性が、
「男と同じように考えなければ失敗しない」を基本に犯行を続けるところが面白い。

 容疑者の家を訪ね不在と知った時、バールでドアをこじ開ける。捜索令状もなし
にである。公判に持ち込んでも審理無効になるのではないかと心配するが、彼の国
ではこんな無茶が通用するのだろうか。
 また驚いたことに彼の国では病院の面会では訪問者の名前も・訪問先も記す必要
がないという。捜査に苦労するわけである。

 
 ヴァランダーらは
ようやくこの事件の核心は女を虐げた男らに対する復讐である
ことに気付く。

 主人公のヴァランダーは優秀な熱心な刑事であるが、生真面目で始終自分の捜査
指揮が間違った方向を示しているのではないかと悩む。健康に無頓着で、よく眠れ
ず、
頭痛持ちである。きわめて人間的で、例えば、付き合っている女性バイバに会
いたくなって「いつこっちに来られる?」と聞いて、バリバ
に「ほんとに来てほし
いの?」と言われ、突然送受話器を勢いよく電話台にたたきつけたりする。もちろ
ん翌日電話して謝るのだが、これほど感情的な刑事も珍しい。

 スウェーデンでは絵本の中でしか知らなかった木靴をいまだに履いていることを
り驚いた。
                           (以上この項終わり)



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