読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

堂場瞬一書き下ろし新作『警察(サツ)回りの夏』を読む

2015年03月08日 | 読書

◇ 『警察(サツ)回りの夏』 著者:堂場瞬一  2014.9 集英社 刊

   

  最新書き下ろしの単行本。堂場瞬一はほとんど警察ものしか読んでいなかったので、
 今回のサツ回り新聞記者の目線からの作品は新鮮だった。経歴を見ると、かつて読売新聞
 社に社会部記者として勤務したことがあり在職中に新人賞をとって作家デビューしているの
 で、新聞社や記者の動きなどは地に足が付いた描写であり安心して読める。
 2015年吉川英治文学新人賞候補作品。

  主人公の南康祐は記者生活6年の中堅社会部記者であるが、地方支局(甲府)勤務がす
 でに6年目。同期の連中はすでに半数近くが本社に戻っているのに未だにサツ回りという新
 人記者がやるような仕事に明け暮れており不満が鬱積している。何とか特ダネをつかみ一
 気に本社復帰することを渇望している。 

  夏休みのさなか、幼児2人が殺されて、若い母親が行方不明という事件が発生。マスコミ
 が殺到するなかで取材活動が過熱、事件現場周辺住民・ネットなどから抗議が警察に寄せ
 られ、記者クラブに警告が出る騒ぎに。さらに幼児の祖父が自殺を図るという事態に発展。
  そんな中、南が割りと懇意にしている県警本部刑事部参事官の石澤から電話が来た。
 デリケートな問答の末、母親の身元確保・事情聴取と逮捕間近かの感触を得た。締め切り
 が迫まっており複数の関係者から裏をとる時間がない。南は功を焦り見切りで原稿を出す。
 デスクも、本社社会部も「裏はとったのか」と聞く。「取れてます」と嘘をついてしまった。

  さて特ダネ間違いなしの記事が朝刊トップを飾った。しかし、警察広報は「そのような事実
 はない」と否定。南は誤報記事を書いたことになった。事を確かめようにも肝心の石澤はそ
 の後行方不明になって連絡が取れない。記者として屈辱的なお詫び記事を書く羽目になっ
 た南はそれでも取財源を頑として明かさない。
  南は行方をくらまし、真相を探ろうと駆けまわる。誰かに嵌められたのではないか?なぜか。
 事件の裏に大きな絵柄があって、南も石澤も単なるピースだったとすれば、その頂点にい
 るのは誰なのか。  
  
  ネットでの無責任な情報拡散、新聞・週刊誌・TVによるメディアスクラムが巻き起こすプラ
 イバシーの侵害や地域の安寧の侵害などが目に余ると受け止め、これを規制しようとする
 動きがある。マスメディア規制を実現するために警察庁まで巻き込んで誤報事件を画策し
 た某政治家には意外な過去があった。
  新聞社が設置した外部調査委員会のメンバーはこうした裏事情にまで迫り、関係者を威
 迫する。南の誤報を招いた石澤は、罪滅ぼしに特ダネ級の内部情報を漏らし南の名誉回
 復をもたらす。
  ほんとはあってはならないはずであるが、この種の貸し借りの応酬はあの世界では日常
 的にあるのではないだろうか。
 昔の新聞記者はこうだったが、今は・・・。記者出身で調査委員会のメンバー大学教授が
 著者に替わって回想する場面があって面白い。 

                                           (以上この項終わり) 

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