【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

世界通貨

2019-07-19 07:48:16 | Weblog

 facebookが「リブラ」という「世界通貨」を発行(主導)しようとすることに対して各国政府が猛反発をしています。「中央銀行が通貨を管理できなくなる」という理由だそうですが、そもそも各国の中央銀行はきちんと通貨を管理できていましたっけ? 「暗黒の○曜日」とかは、中央銀行がその国の経済をきちんと管理できていたら最初から起きないのでは?
 もちろんfacebookがきちんと通貨を管理できるか、と言えば私は疑問を持っています。混乱を招くだろう、という強い予感ならあるので大賛成をしたい気分ではありません。
 しかし「世界通貨」は必ず登場するでしょうし、その時自国の中央銀行に無理難題を押しつける政府(たとえば日本やアメリカや中国)が、世界通貨を発行するところも支配しようとして醜い争いが起きるだろうことも簡単に予想できます。となると、どうしても民間企業が嫌だったら、中央銀行の独立性をきちんと保証している国の政府関係者が集まってどの国からも独立した組織を作る、が現時点では取りあえず最善の策、かな?

【ただいま読書中】『宇宙倫理学』伊勢田哲治・神崎宣次・呉羽真 編、 昭和堂、2018年、4000円(税別)

 ふざけたタイトルに思えますが、中身はたぶんまともだろう、という自分の予感を信じて図書館から借りてきました。序章で水谷雅彦さんは「『宇宙倫理学』という言葉を初めて聞いたときの印象は『それは何かの冗談なのであろう』といったものであった」と書いていますから私が「ふざけたタイトル」と感じたのもあながち的外れの反応ではなかったわけです。なお、日本でのこの言葉の初出は、1967年「万国博ニュース」1月号に手塚治虫さんが寄せたエッセイ「二十一世紀の夢」だそうです。本書には付録としてこのエッセイが収められていますが、その先見の明には驚きます。
 宇宙は過酷な環境で、環境倫理が問われます。その環境に適応するために人体改造をする場合、そこにも倫理が登場します。SF的な話ですが、異星人との遭遇にも倫理問題がつきまといます。地球外コロニーで産まれた子どもの「国籍」はどうしましょう?(「機動戦士ガンダム」サイド7で戦災孤児となったカツ、レツ、キッカのトリオは自分たちを何国人だと感じているのでしょうねえ)
 序章で恐ろしい問いかけがあります。「宇宙開発の倫理面の検討の前に、そもそも宇宙開発はしてもよいのか」「人類の絶滅を避けるための行動を論じる前に、そもそも人類絶滅は避けるべきなのか」。えっとぉ……
 本書で特徴的なのは「エビデンス(根拠)」を重視することです。社会科学的な議論では(下手すると自然科学での議論でも)大きな声でエモーショナルな主張が展開されることがありますが、本書で求められているのは「エビデンス」と矛盾しない「主張の正当性」。何かを論じる場合、たとえば宇宙での原子力利用について論じるなら、そのメリットとデメリットに同じだけの科学的あるいは社会的なエビデンスを示す必要がある、と本書では主張されています。もちろん社会学では自然科学に比較して因果関係を明確に示すのが困難な場合が多いのですが、最近進歩した「統計的因果推論」の手法を用いれば、以前よりは真っ当な議論が可能になってきているそうです。
 倫理学にも統計を活用できる時代になったんですね。そのうちAIも活用できるようになったら、面白そうです。
 さらに、各科学領域の専門家との協働も強く提案されています。その具体例でしょう、本書には「天文学者と倫理学者の対話」が一章を割いて収載されています。
 宇宙開発、宇宙事故、宇宙医学、宇宙動物実験、スペースデブリ……話題は尽きません。将来の話ですが、有人火星探査が始まったら、そこでも「帰還を前提としない派遣」「火星の惑星改造の是非」などが倫理的な問題として浮上してくることでしょう。宇宙の軍事的開発や資源開発も、国のエゴむき出しの動きが生じるはず。そのとき「国民」としてではなくて「人類」として考える人間の数が増えていたら、悲劇的なことは起きにくくなるのではないか、と私は考えています。