今回の南九州の大雨で「8・6豪雨」の話が出ていました。私はさすがにこのことは覚えていますが、ではたとえばこの20年間で日本でどのくらいの豪雨被害が出たか、とあらためて考えてみたら、10個くらいしか言えませんでした。なんで忘れちゃいますかねえ。我が身に起きたことなら、絶対に忘れないでしょうに。
【ただいま読書中】『動乱星系』アン・レッキー 著、 赤尾秀子 訳、 東京創元社(創元SF文庫)、2018年、1200円(税別)
『叛逆航路』『亡星星域』『星群艦隊』のシリーズの舞台とは遠く離れた星系、ラドチに皇帝アナーンダ・ミアナーイが分裂してお互いに戦っている、という噂は流れてきていますが、人々はそんなことよりも自分たちの生活と異星人との交渉に忙しい思いをしています。
人生に行き詰まってしまったと感じたイングレイ・オースコルドは、養母をあっと言わせる一発逆転を狙って流刑地からある男を連れ出します。しかしカプセルから登場したのはよく似てはいるけれどまったくの別人。さらに、流刑地のある星からやっと自分の惑星にたどり着いた彼女は、不可解な異星人殺人事件に巻き込まれてしまいます。
前のシリーズは、まったくの異文化で馴染むのに時間がかかりましたが、今回は、女は女・男は男・殺人事件は殺人事件で、地球型の文化にやや近くて私はほっとします。ただ「遺物」に異常に価値を置くところはやはり異文化です。
最初は家庭内のゴタゴタが続いているように見えたストーリーですが、殺人事件に続いて、次々想定外の事件が勃発、さらにイングレイは自分の恋愛感情にも気づいてしまい、彼女は公私ともに実に多忙となってしまいます。しかし「自分はいらない子」という自覚から動き始めたイングレイが、実は客観的にはそうは見られていない場合もある、ということを自覚させられ、でもそれを認めたくなくて(だって認めたら、何のために流刑地まで行ったのか、その根っこが揺らいでしまいますもの)、でも事態は次々動き、とうとう異星人の軍隊の襲来まであって、イングレイは死を覚悟することになってしまいます。
はらはらドキドキの陰謀が満ちた冒険譚ですが、読後感は爽やかです。どちらかと言えば世間知らずで甘ったれのイングレイのめくるめく成長ぶりが、他人の私にも嬉しく感じられます。イングレイがちょっと女っぽすぎるのが気になると言えば気になりますが、それは「そんな文化」だからなのでしょう。
しかし「遺物」が自分たち惑星の“アイデンティティ"というのはちょっと歪んだ価値観にも思えますが、もともとアイデンティティというのは、何らかの「根拠」と強い思い込みで成立しているものなのかもしれません。その「根拠」に対する疑いを持つことができたら、そこで人は成長をできるのかもしれない、という読み方を私はしてしまいました。う〜む、深い作品だなあ。