【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

安定と不安定

2019-07-11 06:50:48 | Weblog

 選挙での候補者や党首の主張を聞いていると「政治の安定」を主張する人がいたのですが、そういった人は「身を切る改革」は望まない、ということになるのでしょうか。だって「改革」は「不安定」をもたらすものでしょ? それともそういった人は「自分の地位の安定」を望んでいるのかな?

【ただいま読書中】『死の鳥』ハーラン・エリスン 著、 伊藤典夫 訳、 早川書房(ハヤカワ文庫SF2085)、2016年、1200円(税別)

目次:「「悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった」「竜打つものにまぼろしを」「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」「プリティ・マギー・マネーアイズ」「世界の縁にたつ都市をさまよう者」「死の鳥」「鞭打たれた犬たちのうめき」「北緯38度54分、西経77度0分13秒 ランゲルハンス島沖を漂流中」「ジェフティは五つ」「ソフト・モンキー」

 短編の名手として知られる著者なのに、なんとこれまで日本で出版された彼の短編集は『世界の中心で愛を叫んだけもの』(1979年)だけ。本書が第二短編集なのだそうです。『世界SF大賞傑作選』『ワールド・ベスト』『エドガー賞全集』『危険なヴィジョン』などにばらばらに収載された短編はあるので、私も本書の短編の内でいくつかはすでに既読です。だけど未読のものがいくつもあるわけで、これだけのものが放置されていたとは、ああ、もったいない。
 言葉によって紡がれる世界、というよりも、言葉そのものがそれぞれきらきらと発光しながら読者の目の前を乱舞しつつなだれ落ちていきます。そして、そのめくるめく光に照らされるのは、ハーラン・エリスンにしか語りえない異形の世界。さらによく見ると、光る言葉自体が万華鏡のように刹那的なパターンを形成しては次々消えさっていきます。
 言葉は意味を伝えることにその存在意義がありますが、本書を読んでいると、イメージを伝える機能も持っていることがよくわかります。中学〜高校のころ、「SFというジャンル」に出くわしてどっぷり浸かってしまった時代のことを思い出しました。今でもあの時感じた「ジャンルの魅力」は色あせていないようです。
 ただ、著者は「ただのSF作家」ではありません。「すぐれた短編作家」でもあります。たとえば本書最後の作品「ソフト・モンキー」は、現代のニューヨークを舞台にしたSF味は皆無の短編ですが、これまたすごい出来なのです。読んでいて、体の中が痒くなるような奇妙な感触を私はずっと感じていました。この人、もっと盛大に評価されても良いんじゃないかなあ。