灯台の形をした蝋燭は、最初は「上に火がある」状態でよいのですが、途中まで燃えてしまったら「火事になった灯台」みたいで面白くないので、灯台型の蝋燭立てはどうだ、と思いついてネット検索をしてみたら、あることはあるのですが、美しい、と思えるものはすぐには出てきませんでした。「照明」としてではなくて薄暗い部屋の雰囲気作りのためのアイテムとして、ちょっと面白いとは思うのですが、さて、我が家でもどこにおいてどんな状況で使うか、と言えばちょっと思いつきません。だけど、あったら面白いとは思うんですけどね。
【ただいま読書中】『シャーロック・ホームズ 大人の楽しみ方』諸兄邦香 著、 アーク出版、2006年、1500円(税別)
「シャーロック・ホームズ」そのものを読み解いて楽しもう、という本です。
彼は明らかに育ちが良く、しかし仕事をしないと生きていけない、生家(大地主)が没落したという話はない、ということから、上流階級の出身だが長男ではないから家の相続はできない立場、ということが導き出されます。中流階級の末席、というポジションです。
作品に職業を持つ女性が登場しますが、実はロンドンに一番多かったのは売春婦(16人に1人)でした。さすがにコナン・ドイルは売春婦は登場させていません。
貴族は「働かなくてよい人」ですが、「国家のために無償で尽くす」義務を負っていました。貴族院議員は無報酬ですし、第一次世界大戦では貴族の子弟は率先して志願、イギリス軍で平民の死亡率は8〜9%でしたが、貴族はその2倍でした。「御国の為」と平民に「義務」を押しつけて特権階級は安全なところに、のどこぞの国とはずいぶん違っていたようです。そういえばかつての日本では「将軍の子息が戦死」は大ニュースになってましたが、イギリスだとそれは「ニュースにもならないふつうのこと」だったわけです。
労働者人口は当時のイギリス社会の80%。生活はピンキリでしたが、中流との決定的な差は「家庭内に使用人がいないこと」でした。ということは、かつて日本で「一億総中流」と言われていたのは厳密には「一億総下流」だったわけです。当時のイギリスでは「貧困は個人の責任」とされ、救貧院はありましたが「頼られたら困る」と貧民以下のサービスしか提供されませんでした。「救われる側」ではなくて「救う側」の自己満足(自分は慈善を施している)のための施設だったのかもしれません。
「階級意識」は当時のイギリス人には「常識」でした(というか、もしかしたら現在のイギリスでも健在かもしれません)。だからホームズが住み込みのメイドを批判するときに原著では「奴隷」と言っているそうです。
ホームズはイギリス人なのに紅茶ではなくてコーヒー党でした。他の好物は、パイプ・ワイン・コカイン。昨日読書した『麻薬とは何か ──「禁断の果実」五千年史』にあったものが続々と。ちなみに当時はコカインはまだ合法薬物(安価な万能薬)でした。ただ、ワトソンの説得が効果を示したのか、コカインとは最終的に手を切っています。
ヴィクトリア時代、ロンドンでは「浴室」と「トイレ」が進歩しました。自宅で入浴と水洗トイレの使用ができるようになってきたのです。『四人の署名』ではベーカー街の下宿でも建物内に浴室ができているようです。またホームズとワトソンは連れだってノーザンバランド街のトルコ風呂によく出かけていますが、これはもちろんソープランドではなくて、トルコ風のサウナ風呂です。
市内の移動にホームズは主にハンサムと呼ばれる辻馬車(二輪の一頭立て、二人乗り)を利用していました。大型四輪(2〜3頭立て、バス並みの人数が乗車可能)のオムニバスは、安価ですが座席に等級がなく庶民と同席を強いられるためか、ホームズはこちらは使ったことがありません。もっとも、平民に変装して移動するときには使ったでしょうけれど。
「探偵小説」としてだけではなくて、ホームズそのものを読解する、というのは、シャーロキアンだったら当然の嗜みなのでしょう。ヴィクトリア時代って日本だったら明治の頃と思えばいいのかな、その頃の時代と人を生き生きと感じさせてくれる作品は、やはり傑作と呼ぶのがふさわしいのでしょう。謎解きとしてではなくてまた別の視点からシリーズを読みなおしたくなりました。