「隠蔽指令」江上剛 徳間文庫を読みました。銀行内部を知るという意味でおもしろい。著者は旧第一勧業銀行(現みずほ銀行の本店勤務していた方で、小泉政権当時と思われる銀行と政界・暴力団をめぐるフィクションスキャンダルとして小説にしています。
急死した、元銀行頭取の愛人スキャンダルが銀行合併で不利になると判断した、上層部が主人公である頭取秘書に隠蔽を個人責任で行えと指示し、首相を狙う保守党内部の新党立ち上げと、貸金業の金利規制の流れの利害を背景に、この秘書が次々と深みにはまっていき、信じていた頭取から見捨てられて、復讐するという内容です。
著者は、この小説を書いた理由をあとがきとしていますが、合併前の第一勧業銀行本店に東京地検特捜部の強制捜査がはいり、「まじめに」仕事をしていた、上司が次々逮捕され、あるいは自殺におこ込まれ、指示したその上司は生き残った。「会社は、あなたを必ず裏切る」これは、すべてのサラリーマンに当てはまるという怒りのようです。
しかし、違和感が残ります。第一に、なぜ、「まじめに、サラリーマンとして働く」サラリーマンが、逮捕されるような仕事をせざるを得なかったのかという視点が全く欠けています。すでに、派遣労働者やブラック企業など、最初から無権利に近い常態に置かれている点にもふれていません。企業内での改革ではなく、社会的な規制という発想はないようです。日本人独特の護送船団方式だから、守るべきだという枠内での発想です。
第2に、半沢直樹の作家のような、中小企業への視点はなく、巨大企業内部の権力抗争の枠内での発想です。
第3に、事業者金融の高金利を、銀行が中小企業に貸さないから必要だと思える展開になっています。
そのため、半沢直樹もそうですが、個人的な復讐劇に終わってしまています。
労働組合の存在は全く無視です。現実に民間大企業の労組は本来の労働者の権利を守るという役割を果たしていないという大問題が反映しているのかもしれません。
都議選から、参議院選挙、今回の総選挙に見られる、日本共産党の躍進、派遣労働者を正規に・ブラック企業なくせや原発ゼロの市民運動・沖縄新基地建設反対のオール沖縄の結束など、国民的な団結と運動を反映した、スケールの大きな、おもしろい小説が生まれないかと思います。