消防士 兼 旅人の日記

消防署での出来事、ダラダラした日常生活を綴ります。

AEDのお話

2010-05-14 22:12:31 | 消防・救急
昨日の当番は2件の出場、相変わらず夜中の出場は無く仮眠は長く取れた方ですが、帰ってきてからもやたらと眠たく、3時間ぐらいお昼寝をしてしまいました。

本当はやりたいことがあったのですが、結局できずじまい。明日にでもやることにします


さてたまには仕事のお話。

我々救急隊も使うものですが、平成16年に一般の人でも使えるようになったAEDについてのお話です。

どんな機械?と言う話から、よく勘違いされていることも解説したいと思います。


AED(Automated External Defibrillator)、日本語では自動体外式除細動器と言います。

呼吸も脈拍も感じられない心肺停止状態の人に対して、スイッチを入れてパッドを貼ると機械が自動的に電気ショック(以下除細動、じょさいどう)が必要かどうかを判断してくれ、必要ならば自動的に充電を開始し、ショックボタンを押せば除細動ができると言う物です。

救急救命や応急手当の知識の無い一般の人でもできると言うぐらいですので、使い方はとっても簡単。

1.スイッチを入れる

2.音声メッセージに従い、パッドを貼りコネクターを接続して待つ。

3.機械が除細動が必要かどうかを判断、必要な場合は充電を開始しますので充電完了後に除細動。必要なければ心肺蘇生法を実施。

と、この3点だけです。


スイッチ入れてみたはいいけど、次は何をやるんだっけ?と言う心配をする必要はなく、手順は全てAEDが教えてくれます。

パッドを貼る位置も図で示してありますし、コネクターを差すところもランプと音声で教えてくれます。

除細動の必要が無ければ充電はしませんので間違って押してしまうと言うこともありません。また、その際の手順も教えてくれます。


ここで心肺停止の人でも除細動の適応となる人、ならない人がいます。

その分かれ目は心肺停止状態にある人の『心臓の状態』によります。

心肺停止と言うことですので、心臓が血液を全身に送り出すポンプの機能を果たしていない状態。これを心停止と言います。


ここからはちょっと専門的な話になってしまうかもしれませんが…心臓がポンプとしての機能を果たしていない『心停止』には4種類あります。

1.心室細動(しんしつさいどう、vf) ※心臓が無造作に細かく震えている状態で、心臓のポンプ機能は果たしていない。

2.無脈性心室頻拍(むみゃくせいしんしつひんぱく、pulseless VT) ※心電図上では頻拍だが、心臓が血液を送り出さないために脈が触れない。

3.無脈性電気活動(PEA) ※心電図では何かしらの波形を示すが、脈が触れない。

4.心静止(asystole) ※心臓が全く動いていない状態。よくドラマ等でみるピーと言う一直線の波形。


『心停止』と『心静止』、一字違うだけで意味合いは変わるのです。


AEDの話に戻りますが、上記4つの心停止の中で除細動の適応となるのは『心室細動』と『無脈性心室頻拍』です。

AEDを作動させてパッドを貼ってコネクターを接続すると、自動的に心電図を解析して心室細動か心室頻拍かを判断。機械が除細動適応だと判断すれば自動的に充電を開始して、いざ除細動と言うことになります。(心室細動の場合は意識を失いますが、心室頻拍の場合脈が触れ、意識がある場合があります。この場合は意識がありますのでAEDパッドは貼らない。脈が触れない場合のみ、除細動)

ちなみに他の無脈性電気活動、心静止の場合は除細動の適応外。充電は行われず、心肺蘇生法をすることになります。

『細』かく『動』くのを取り『除』くので、『除細動』と言うわけですね。


除細動の目的は、心臓が無造作に、小刻みに震えている状態を電気を流して一旦リセットし、自己の自律機能によって元の動きに戻そうとするための物です。

私が今までに読んだテキストの中の表現で分かりやすかったのは、教室で授業中先生の話を聞かずに勝手に騒いでいる生徒(無造作に震えている状態)を先生が一喝(除細動)。一瞬シーンとなるが、やがて元通りに授業が始まると言うイメージです。(よく分からなかったらゴメンナサイ)

『元に戻そうとする』ための機械ですので、元に戻らずに繰り返す場合もありますし、効果が無い場合もあります。


長々と書いてしまいましたが、ここまでに書いたことの中によく勘違いされる部分があります。

救命講習会や事業所の訓練等でよく質問される、あるいは説明して驚かれるのが、心肺停止状態の人に必ずしもAEDは有効では無いこと。

AEDがあれば(除細動をかければ)必ず助かると思っている方がいます。

AEDはあくまでも、『細かく震えてしまい、本来の動き、働きをしない心臓を元に戻そうとするための機械』と言うことを理解して頂きたいと思います。

そしてAEDの使い方が分かるのも大切ですが、それ以上に心肺蘇生法の方がとっても大切です。

AEDがあって初めて心肺蘇生法をやるのではなく、心肺蘇生法を行って、その流れの中でAEDを使用。


心肺蘇生法>AED


と言うことですね。


心肺停止状態の人に対し、除細動の適応で無ければ心肺蘇生法をするしか助かる道はない。

AEDは公共の施設、駅やデパートなど人の出入りが多数あるところであれば置いてあるかもしれませんが、必ずしもそう行った場所で、AEDのある場所で倒れるとは限りません。

AEDの無いところで倒れた場合には心肺蘇生法をするしか、助かる道はないのです。


これからだんだん暑くなり、プールの季節になってきます。

プールの清掃のために水を抜くため、消防水利として使用できなくなりますとの連絡が多くなる時期でして、それに伴って講習依頼が多くなる時期でもあります。それで多いのが、

『プール開放の季節になり、万が一の事故に備えたいので30分~1時間程度でAEDの使い方だけ教えて下さい。』と。

教えること、普及啓発は私達の仕事でもありますので申し出があれば引き受けます。やらないよりやった方が当然良いのですが、果たしてそんな短い時間で今後もずっと完璧にできますか?

胸を押す位置とか確実に分かっていますか?この記事に書いたように、AEDがあれば必ず…と言うわけでは無いんですよ。と、毎年思います。

その都度AEDだけでなく、救命講習であれば心肺蘇生法とAEDの使い方もやりますので、そちらを受講されてみてはいかがですか?と勧めてみるも、時間が無いからとの理由で拒否されるのです。


私達は職業柄、心肺停止状態の人に接する機会が多々あります。

しかし、それ以外の方であればそういった機会に遭遇することなんて一生に一度あるかないかだと思います。

だからこそ定期的に講習を受けて、万が一の時にでも落ちついて心肺蘇生法を行ってくれたら…と言うのが私の願いです。



最近よく見かける、耳にする機会の多くなったAEDの知っておいて欲しいことと、ちょっとした本音と私の願いを書いて、本日の記事を終わります。

長くなってしまいましたが、最後までお読み頂きましてありがとうございました。




明日は休み。

嫁の妊婦健診に一緒に行ってきます