(一応、責任者に許可取得済み)
3.11の朝、仙台の地で、ひとりの人が亡くなった。
*************
彼は、盲目だったが、しっかりとした方だった。
一度だけ、彼のお宅に遊びに行ったことがある。
自転車で、坂を上り下りしてたどり着いたとき、ちりひとつないすっきりとしたお家に招かれた。
目は見えないけれど、何歩歩けば何がある、と身体に覚えさせたそうで、
転ぶことなく、室内を歩かれていた。
包丁を手にして、りんごをむいてくださった。
しゅるしゅるしゅる。
目が見えないなんて、うそではないかと思う程、手慣れた手つきだった。
彼は、「いつ召されてもいいように」と、極端な程、荷物を減らしていた。
そのとき、70代後半だったろうか、80代だったろうか。
落ち着いた物腰の方だった。
もうかれこれ10数年前のことだ。
*************
そして、3.11といえば、2011年3月11日のあの日のことだが、仙台の集会(教会)では、
あの大地震と大津波で亡くなる方はいなかった。
彼は、それが起こる前に、それに直面することなく、静かに天に召されたのだった。
*************
私は、いつから彼が目が見えないのか、わからない。聞いたかもしれないが、忘れてしまった。
だが、今でも、彼の力強い祈りは覚えている。
聖餐式(パン裂き)のとき、彼は、みことば(聖書のことば)とことばと思いとが一致したような、とても力強い、朗々とした祈りをする人だった。
何度も何度も何度も、何十回もご一緒したあるとき、私は思い切って、彼に尋ねた。
「どうしたら、そんなふうに、力強い祈りができるんですか?」
すると、彼は、非常に驚いた顔と、驚きの声をあげて、私に言った。
「どうして、あなたが知らないんです??
あなたのおじいさんに、教えてもらったことなのに!」
そのことに、私も驚いた。
(正直なところ、私と祖父は違うし、祖父が知っていることを私がすべて知っていたり、彼の知恵や知識がそのまま私にあるわけではない。まだまだ未熟である。
それにしても、ここで、じさまが出て来るとは思わなんだ。)
**************
彼は、やさしく教えてくれた。
「『1か月に2節』、です」
「みことばを『1か月に2節』ずつ、覚えただけです。それを続けなさい、と教えてもらったんですよ」
それは、積み重ねてきた証し、だった。
「『1か月に2節』だけって、少ないように感じるでしょう?
ですが、どんなに調子が良い時でも、どんなに悪い時でも、とにかく2節は覚えるよう、努力しただけなんです。」
「調子の良いときは2節だけというのは楽なんです。
悪い時は、たった2節だけと言っても、厳しいものです。ですが、それをとにかく続けました。
教えてもらってから、それを何十年と続けてきただけです。それだけですよ。」
3.11の朝、仙台の地で、ひとりの人が亡くなった。
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彼は、盲目だったが、しっかりとした方だった。
一度だけ、彼のお宅に遊びに行ったことがある。
自転車で、坂を上り下りしてたどり着いたとき、ちりひとつないすっきりとしたお家に招かれた。
目は見えないけれど、何歩歩けば何がある、と身体に覚えさせたそうで、
転ぶことなく、室内を歩かれていた。
包丁を手にして、りんごをむいてくださった。
しゅるしゅるしゅる。
目が見えないなんて、うそではないかと思う程、手慣れた手つきだった。
彼は、「いつ召されてもいいように」と、極端な程、荷物を減らしていた。
そのとき、70代後半だったろうか、80代だったろうか。
落ち着いた物腰の方だった。
もうかれこれ10数年前のことだ。
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そして、3.11といえば、2011年3月11日のあの日のことだが、仙台の集会(教会)では、
あの大地震と大津波で亡くなる方はいなかった。
彼は、それが起こる前に、それに直面することなく、静かに天に召されたのだった。
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私は、いつから彼が目が見えないのか、わからない。聞いたかもしれないが、忘れてしまった。
だが、今でも、彼の力強い祈りは覚えている。
聖餐式(パン裂き)のとき、彼は、みことば(聖書のことば)とことばと思いとが一致したような、とても力強い、朗々とした祈りをする人だった。
何度も何度も何度も、何十回もご一緒したあるとき、私は思い切って、彼に尋ねた。
「どうしたら、そんなふうに、力強い祈りができるんですか?」
すると、彼は、非常に驚いた顔と、驚きの声をあげて、私に言った。
「どうして、あなたが知らないんです??
あなたのおじいさんに、教えてもらったことなのに!」
そのことに、私も驚いた。
(正直なところ、私と祖父は違うし、祖父が知っていることを私がすべて知っていたり、彼の知恵や知識がそのまま私にあるわけではない。まだまだ未熟である。
それにしても、ここで、じさまが出て来るとは思わなんだ。)
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彼は、やさしく教えてくれた。
「『1か月に2節』、です」
「みことばを『1か月に2節』ずつ、覚えただけです。それを続けなさい、と教えてもらったんですよ」
それは、積み重ねてきた証し、だった。
「『1か月に2節』だけって、少ないように感じるでしょう?
ですが、どんなに調子が良い時でも、どんなに悪い時でも、とにかく2節は覚えるよう、努力しただけなんです。」
「調子の良いときは2節だけというのは楽なんです。
悪い時は、たった2節だけと言っても、厳しいものです。ですが、それをとにかく続けました。
教えてもらってから、それを何十年と続けてきただけです。それだけですよ。」