チェット・ベイカーの歌い方

チェット・ベイカー、ジャズ・トランペット奏者、ボーカリスト。クールで甘い歌声が今でも多くの女性とゲイを惹きつけてやまない。

僕の彼女もチェット・ベイカーの歌声が好きだ。

彼の曲をよく聴いているというよりも、彼のスタイルを真似た歌手の曲をよく聴いている。

僕はそれほど好きではない。しかし、セクシーだとは思う。

声は人に顔を想像させる。声と顔が一致しないということはよくあるが、チェット・ベイカーに関してはほぼ完全に一致していると僕は思う。

声だけでなく顔もまた僕の彼女の趣味であるところのチェット・ベイカー。

こういう顔でこういう声の男が好きなのだ。

言っておくが、こういう声でこういう顔の男はチェット・ベイカーがそうであったように、おそらく女癖に関しては最低だと思う。

彼女もそのことを知っている（だから僕と付き合っているんだと思うけど）。



彼女はよく僕の歌を批判する。下手だのなんだの言ってくる。この評価は非常に正しい。僕は決して歌がうまくない。

僕の歌をうまいという人もいるが、うまい風に歌っているだけでちっともうまくない。

しかし、そんな彼女も声は良いと褒めてくれる。

このように厳しく客観的な僕の彼女だが、僕の歌を褒めてくれるときが数少ないながらもある。

チェット・ベイカー風に歌うときだ。

もちろん、チェット・ベイカー風に歌っていますよ、なんてことは言わない。けれど、褒めてくれるときは確かにチェット・ベイカー風に歌うとき。

でも、僕は滅多にそんな風には歌わない。

趣味じゃないから。

自分の声にはチェット・ベイカー的な歌唱が合うということも薄々気がついている。

けれど、僕の趣味はソウル音楽のなかでもシャウト唱法。

なんたることか、一番自分に合っていないものが自分の趣味だなんて。

こういうことはよくある話で、服装も自分がなりたい自分が似合うものを人間は着がちだ。

でも、そういうものに限って似合っていない。

服装に関して僕は幻の自分を捨てた。着たいものは似合っていないということを受け入れた。

一般論として言えば、異性の趣味もそういうところがある。好きなタイプと付き合ってうまくいくとは限らない。

僕はそのことも良く知っている。

だが、歌い方だけはまだ幻を追ったままだ。

と言いつつも、本当に求められれば、いつでも歌い方を変える用意はあるけどね。