息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

ユリゴコロ

2014-02-14 10:06:47 | 著者名 な行
沼田まほかる 著

「ユリゴコロ」と題された一冊のノート。
その古ぼけたページには、恐ろしい殺人とそこに至る心理が書かれていた。

実家の父の部屋でそのノートを見つけた亮介は動揺する。
そして幼い頃の思い出がよみがえるとともに違和感が募っていく。

そのノートはまったく共感できない内容だ。
そして、それに振り回される家族たちの行動にも理解できない部分が多い。
それなのに、なぜかトンデモ感がない。
心の揺れや波がうまく表現されているからだろうか。
お互いを想いあっているということが根っこにあるからだろうか。

父は余命いくばくもない。
母といわれた人はもういない。
妻にしたいと願った人は行方が知れない。
亮介は自分の営む店だけしか居場所がない。

考えなくてはいけないことも、やらなくてはいけないことも
亮介を取り囲んでいる。
それなのに「ユリゴコロ」は亮介をとらえて離さない。

今まで読んだどんなものとも違う印象が残った。
結末も予想と全く違っていた。
殺人もあったし陰謀もあった。
それなのに残るのは切なさと悲しみとそしておだやかな日々。
静かな音楽のような、水彩画のような読後感だった。

もののけの正体―怪談はこうして生まれた

2014-02-13 10:07:56 | 著者名 は行
原田実 著

もののけの始まりはなんだったのか。
いつの時代からもののけは存在したのか。
よく知られた鬼、河童、天狗、幽霊などを取り上げ、
その誕生と変化、定着を語る。

言い伝えとか昔話はそのウラがあるものが多い。
許されない恋やよそものと通じての妊娠を、神や動物との間にできた
子どもと称したり、突然もたらされた富に後付で善行の褒美という
理由づけをしたり、村人総意で消した人物にひとばしらという名をつけたり。

もののけにもそんな背景があるようだ。
そしてその存在が知れ渡るにつれて、キャラクターが確立していく。
やがてはそのデザインが統一され、周知のものとなる。

きれいに整理されて読みやすいし、面白くもあるのだが、
いかんせんどこかで見た情報ばかりで目新しさに欠ける。
新たな“正体”を期待していた人には不満が残りそう。
私自身は大好きなネタであり、図版つきだしでまずまず楽しめた。

人形館の殺人

2014-02-12 12:19:48 | 著者名 あ行
綾辻行人 著

「館シリーズ」である。
京都を舞台に、過去の記憶と現在の殺戮者に追い詰められる主人公を描く。
古い館であるが、主人公の住まいと隣接した洋館アパートと土蔵があり、
町中でもあるので、あまりおどろおどろしさはない。

館の主は飛龍想一。画家であるがその絵を売ったことはなく、鬱傾向がある。
養母とともに父が残したこの館に転居してきたが、それから不審な出来事が起こる。
一癖あるアパートの住人達。実直な管理人夫婦。
暮らしには困らないものの絵を描くこと以外になにもない想一を時折襲う
幼い日の記憶は、かけらしかないのに悲しみと恐怖に満ちている。
差出人のわからない手紙、嫌がらせが続いたあと、不審火によって母屋は全焼し、
養母は亡くなる。
アパートに引き移った想一は見えない敵にさらに追い詰められていた。

これはシリーズ中でも異色の作品らしい。
つまり評価も好みも分かれるということだろう。
著者の作品はかなり好きなのだが、私にとってはこれはちょっと残念な部類だった。
というのがオチ。
はりめぐらせる伏線と登場人物たちに期待いっぱいでワクワクしていたのに、
これは反則だ~!
意外性がいいとか、たったひとつのトリックにまとめたのがスゴイとか、
そういう意見も分かるけど、でもやっぱりちが~う!

ということで個人的な感想はこんなものなのだが、著者の力量は素晴らしい。
読みごたえはある。

奈落

2014-02-11 10:54:22 | 著者名 か行
加納 朋子 山上 龍彦 貫井 徳郎 佐藤哲也 藤田 宜永 
桐野 夏生 かんべ むさし 佐々木 譲
というそうそうたるメンバーのホラー・アンソロジー。

1995年とちょっと古めなのだが、そのぶん若さがあっていい。
それぞれの個性があふれていてとても面白かった。

吸い込まれ、落ち込み、出られなくなる闇。
奈落というタイトルもいい。
そしてこの漠然としたテーマをどう料理するか、力量が問われる。
SFもあればミステリーっぽいものもあって飽きない。
その反面好みがしっかりしている人にはつまらないのかも。
わざわざ一冊読むほどではないが、この名前気になるなあ、と
いう程度なら、果てしなく満足できる。

しっかりした内容なのに、さらりと読める短編なのもいい。
ぐいぐい引き込まれてあっという間に読破した。

悲しみの子どもたち ―罪と病を背負って

2014-02-10 10:25:13 | 著者名 あ行
岡田尊司 著

少年犯罪はやりきれないものが残る。
それは被害者のプライバシーのみが公開されてしまう理不尽さであったり、
少年保護の法の名のもとに罰がくだされない悔しさであったりするわけだ。
ここにその少年の罪を償おうとする保護者の意思がない場合、被害者は
何も報われることがない。

著者は精神科医であり、医療少年院勤務である。
犯罪を犯す少年たちには、少なからず病を抱えているものがいる、という
視点から本書は書かれている。

多数のケースとその分析は、冷静でありとても読みやすい。
犯罪という結果に至るまでに、彼らが受けてきた苦しみはもちろんであるが、
受けていないものの多さに驚かされる。

つまり、適切な世話、愛情、躾、教育など、子どもの成長に不可欠でありながら、
本人にはどうしようもない数々のことが極度に不足しているのだ。
あるいはとんでもなくアンバランスで、それぞれの役割を果たしていない。
確かに、かつて学生時代に経験したわずかな施設研修でもそうだった。

本書では罪を犯した少年たちをいくつかに分類している。そのうちのひとつ、
発達障害は最近まで名前すら知られていなかったのだから、本人の生きづらさ、
親の育てづらさはひときわであったろうと思う。
しかし、もって生まれた性質がそのまま非行につながるのでは、もちろんない。
性質と養育環境の双方が悪い方向に作用して初めて、非行が成立すると著者はいう。
医療少年院までたどり着く子どもたちは、不幸にしてさまざまな要因が絡みあって
しまったのだ。

ただ罰を与えるだけ、保護期間が終わって親元へ返すだけではどうしようもない。
生まれたときから適切に保護され、導かれるように。
結局犯罪を絶つにはそれしかないのだとしみじみ思った。

ところで、著者が“小笠原慧”と同一人物であることを初めて知った。
すごい世界をもっている人だなあ。